高濃度アルコール燃料「ガイアックス」はどうなった?

20年ほど前、ガイアックスという自動車用燃料が売られていました。覚えている方もいらっしゃるでしょう。販売元のガイアエナジー社に言わせると、石油に代わる新燃料で、現在の自動車がそのまま使え、排ガスがきれいな低公害燃料。

といいことずくめの燃料でありながら、従来のガソリンより10円から20円ほど安く販売されていました。また、当時ガイアックスを画期的な低公害の新燃料と称賛するマスコミもありました。

でも、最近はまったく聞かなくなりました。先日、Quoraでガイアックスはどうなったのかという質問が寄せられていたので、疑問に思っている方もいらっしゃるようです。

もう、ずいぶん前のことなので、少し記憶もあいまいになっていますが、ガイアックスの顛末について、紹介してみたいと思います。

粗悪ガソリン

最近はほとんど聞かなくなりましたが、過去には粗悪ガソリン、不正ガソリンというものがガソリンスタンドで売られていることがありました。

粗悪ガソリンというのは、ガソリンに灯油や廃液、溶剤、アルコール類などの混ぜ物をしたもので、その主な目的は税金逃れ。ガソリンには1リットル53.8円という高額な揮発油税という税金がかかっています。灯油や溶剤など課税されてないものを混ぜれば、その分安く仕入れることができるというわけです。

もちろん、これは脱税行為で、違法です。
さらに、このような粗悪ガソリンを使うと車の調子が悪くなったり、故障したり、最悪の場合、燃料漏れで発火することもありました。ちなみに、私が石油会社の研究所にいたころ、ガイアックスではありませんが、このような粗悪ガソリンのサンプルが持ち込まれて分析したことがあります。

ガイアックスの組成

では、ガイアックスとはどんな燃料だったのでしょうか。その成分は一定しておらず、かなり振れるといわれていますが、環境省が分析したときのデータは以下のとおりでした。

ガソリン49.3%、イソブタノール21.2%、i―プロパノール12.0%、メタノール0.1%、MTBE17.4%(環境省HPより)

ガイアックスはガソリンにブタノールやプロパノールのようなアルコール類やエーテルの一種であるMTBEを混合したものです。ブタノールやプロパノールは溶剤としてよく使われているもの。

MTBEはガソリンのオクタン価向上剤として使われていましたが、米国でガソリン中のMTBEが地下水を汚染する事件があったため事実上使用が禁止となりました。日本ではMTBEは違法ではありませんが、実際はほとんど使われていない物質です。

つまりガイアックスは従来の粗悪ガソリンと何の変りもありません。
ところがガイアエナジー社の販売方法は違っていました。かれらはガイアックスを粗悪ガソリンとして、こそこそ売るのではなく、ガソリンとは違った全く新しい、低公害燃料として大々的に売り始めたのです。

ガソリンとは違う新しい自動車用燃料。今までの自動車がそのまま使え、環境にもやさしく、石油資源の枯渇にも対応する。アルコール燃料だから地球温暖化防止にもなる。しかも、従来のガソリンよりも安く提供できる、いいことずくめの燃料という触れ込みでした。

これをどういうわけか、在京のあるキーテレビ局が妙に肩入れして様々な番組で取り上げました。かれらはガイアエナジーの売り文句そのままに、画期的な燃料、環境にも優しいと持ち上げ、さらには利権の喪失を恐れた石油業界がこれを陰で妨害しているとまで報道しました。

ちなみに当時、ガイアックスについて報道するテレビ局はこのテレビ局だけで、それ以外のマスコミで取り上げられることは、ほとんどありませんでした。なぜこのテレビ局だけがガイアックスをこのように持ち上げた番組を放送したのか大変不思議です。

課税問題

従来の粗悪ガソリンは多くの場合、税務署から摘発されて、追徴課税されて消えていきました。ところが、ガイアエナジー社に言わせると、ガイアックスは新燃料であって、ガソリンではない。だから揮発油税の支払い義務はないというということになります。

国税庁の通達によると、揮発油税の対象となるのは「炭化水素油を概ね50%以上含むもの」とされています。先に掲げたガイアックスの成分を見ると分かるように、ガソリン(炭化水素油)分が49%に抑えられえています。残りの51%はアルコール類かエーテル類で、これらは炭素と水素以外に酸素を含むため炭化水素油ではありません。つまり、ガイアックスは見事に揮発油税の範疇から外れるように作られていたわけです。

ただし、これには石油業界(特にガソリンスタンドの業界)が猛反発しました。
ガイアックスは揮発油税がかからない分だけ市販のガソリンより10円から20円安く売ることができる。そのため、周辺ガソリンスタンドの売り上げが大幅に減ることになったからです。

企業努力によって売価をさげるのならともかく、税金を払わないことによって安値販売している。これは不公平ではないかというのがガソリンスタンド業界の主張でした。

結局、ガイアックスに揮発油税は課されませんでしたが、代わって軽油引取税(32.1円)が課税されることになりました。軽油引取税には炭化水素油を概ね50%以上とするという規定がないからです。
ただし、軽油引取税が課されなかったとしても、税の公平性の観点から、いずれは税法が改正されてガイアックスも課税されることになったと思われます。

安全性の問題

従来から粗悪ガソリンを使用した車が故障したり、最悪の場合、火災が発生したりするトラブルが頻発していました。そもそも、自動車はガソリンを使うことを前提に設計されているわけですから、アルコール類のような異質な物質を使うことは考えられていないわけです。

ガイアックスについても、当然のことながら、同様のトラブルが頻発していました。これはガイアエナジー社も認めていて、一時期不調となってもすぐに回復するとか、一部の車種についてはガイアックスの使用を勧めないとか表明していました。

しかし、ホンダのある車種ではガイアックスを使用したときに燃料が漏れて発火、火災に至る事例が複数発生する事態に至りました。
そのため自動車業界では、ガイアックスを使用した場合に発生したトラブルについては責任を持たないと宣言する事態となっていました。

ちなみに、ホンダの火災トラブルについて、ガイアエナジー社は、原因は燃料にあるのではなく、車両側の欠陥であると主張して訴訟にまで持ち込みましたが、その後、取り下げています。

そもそも、自動車の車検証には、燃料としてガソリンを使用することと指定されています。ガイアエナジー社がガイアックスはガソリンでないと主張するなら(だから揮発油税の支払い義務がないと主張しているわけですが)、ガソリンではないガイアックスを使って起こったトラブルは自動車側の責任とは言えないでしょう。

環境問題

ガイアエナジー社は、ガイアックスを使うと排ガス中の炭化水素と一酸化炭素の排出量が大幅に減り、大気汚染の防止になると主張していました。例のテレビ局も、この排ガス測定状況を取材。炭化水素と一酸化炭素の測定数値がどんどん下がっていく様子を放送していました。

しかしながら、環境省が測定した結果では、確かに炭化水素と一酸化炭素の排出量は減少しましたが、窒素酸化物は逆にガソリンの5倍も多く排出されるという結果が出ていました。

普通、自動車排ガスは炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物の3種をセットで測定するものです。ガイアエナジー社も排ガス測定をやったのなら、窒素酸化物だけ測定しないといことはないでしょうから、窒素酸化物が増加することは知っていたでしょう。彼らは窒素酸化物のデータをわざわざ外して、炭化水素と一酸化炭素のデータだけを公表していたのではないでしょうか。

なお、ガイアックスが使っているアルコール類は主に天然ガスから生産されるものですから、アメリカやブラジルが製造しているバイオ燃料ではありません。そのため地球温暖化防止にも貢献しないものでした。

法律による規制

このようないろいろな問題点が明るみに出たことから、政府は各界の代表者を集めた委員会を作ってガイアックスについての議論を行いました。また、ガイアエナジー社からの聞き取りも行っています。(この聞き取りの議事録はweb上で公開されています)

結局、この委員会での議論や聞き取り踏まえて、ガイアックスのような多量のアルコールを含む燃料については法律で規制することになりました。具体的には揮発油等の品質確保に関する法律(品確法)を改訂して、政府が決める規格に合致しないもの(つまり大量のアルコールを含むようなもの)は、自動車燃料としての市販を禁止とすることとしたのです。

この改訂案は、衆参両議会とも全会一致で可決されたあと、2003年に施行されました。その結果、ガイアックスは市場から消える去ることになったわけです。

ちなみに、このころ、いろいろな新燃料が提案されていました。例えばDMEやバイオエタノール、バイオディーゼル、GTLなどです。これらについても政府の委員会で議論され、国民にとって有用と判断されたものは販売が認められ、不要とみなされたものは禁止されています。ガイアックスは禁止された燃料の方に入ってしまったというわけです。

【関連記事】
ガソリンの品質はガソリンスタンドによって違う
自動車用バイオ燃料は終わった? そういえばバイオエタノールはどうなった
藻類で日本は産油国になる? 無理(オーランチオキトリウム)

高濃度アルコール燃料「ガイアックス」はどうなった?」への4件のフィードバック

  1. 小野大町

    確かにエンジンが故障しました、これを入れてから。踏切で故障したので、かなり焦りましたけど。その後、油圧系統も壊れ、車自体がいかれてしまいました。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      小町大町様 コメントありがとうございます。
      大きな事故にならなかったようでなによりです。やはり車へのダメージがあるようですね。
      貴重な体験ありがとうございます。

      返信
  2. アル中

    壊れたという方がいますが、因果関係不明ですよね。

    記事拝見しました。
    私は当時マツダ車に乗ってましたが、積極的にアルコール燃料入れてました。
    ガイアックス、エピオン、クリアス、ゴールドライズ、ジンガー全て入れた事あります。
    結果ですが、ほぼアルコール燃料だけで10万キロ走破しました。特に不具合はありません。販売禁止になった時は残念な思いでした。
    周りでも不具合の話は聞いた事無かったですけどね。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      アル中さん コメントありがとうございます。
      ガイアックス、エピオン、クリアス、ゴールドライズ、ジンガー全て入れた事ありますとのこと、貴重な経験談ありがとうございます。よく給油所をみつけましたね。
      アルコール類は、ゴムやプラスチックなどを膨潤させ、またアルミなどの金属を腐食させることが実験で分かっています。このため自動車の燃料パイプに使われているゴムパッキンが膨潤して燃料が漏れやすくなります。ただし、すべてのゴムパッキンが影響を受けるわけではありませんので、障害が出る車種とそうでない車種があるようです。
      また、自動車には排ガス浄化触媒が装着されていますが、高濃度アルコール燃料を使うと、この触媒がうまく作動せず、特に窒素酸化物の発生量が多くなる(アルコールに酸素が含まれているので当然)ので、これもガイアックスが禁止された理由のひとつとなっています。

      返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。