天下の悪税wwガソリン税 EV普及でどうなる EVは本当にガソリンより経済的か?

第6次エネルギー基本計画では、2035年までに乗用車の新車販売をすべてEV化することになっている。そうなれば、当然ガソリン販売量はどんどん少なくなっていく。ガソリンにはガソリン税(揮発油税)という高額の税金が掛けられているが、その税収がどんどん減って行くことになる。今回はその問題について考えてみた。

ガソリン税はどうして悪税なのか

揮発油税は戦前からあったが、一旦廃止され、戦後の1949年に復活した。ただし、そのころマイカーを持つ人は限られていたので、庶民の生活にはほとんどは影響なかっただろう。このときはガソリンの価格によって税額が上下する従価税であったが、1951年には、1リットル当たり11円の重量税になった。

その後、揮発油税は専ら道路の建設や修理をするために使用される目的税となり、1964年に税率は24.3円に引き上げられた。さらにその後、1974年から税率が少しずつ引き上げられていき、1993年から48.6円となってこの税率が現在まで続いている。

また、この揮発油税とは別に地方揮発油税という税が1リットルあたり5.2円上乗せされている。揮発油税と地方揮発油税を合わせてガソリン税といい、現在合計53.8円となっている。

では、なぜ筆者はガソリン税が悪税だというのか。理由は3つある。

悪税1:暫定税率
実は、法律で決められているガソリン税は揮発油税24.3円と地方揮発油税4.4円の合計28.7円だということ。そして、1974年から上乗せされた税率は全て暫定税率である。

つまり、この増税は道路を作ったりするために緊急に必要な税金で、これは一時的なもの。だからしばらくたったらまた元の税率に戻すから我慢してね。ということで国民の了解を得て課税されているものである。にも拘わらず、その暫定税率がまだもとに戻らず、そのままほぼ半世紀も続いている。これでは暫定税率ではないだろう。

悪税2:目的税
もうひとつの問題はこの税が、もともと道路整備を目的とした目的税として、これも国民の了解を得て創設されたものだということだ。確かに昔は、欧米先進国に比べて、日本の道路は圧倒的にお粗末であった。

筆者が子供のころ、道路は舗装されていないでこぼこ道ばかり。自転車で走っていると、とても走りづらい(もちろんマイカーなどない時代)。それが舗装道路に入るとスーと気持ちよく走る。ところが、そんな道路は100mも続かない。すぐにまたでこぼこ道に戻ってしまう。

聞くと、舗装されているのは町長さんの自宅前だけだったという話。(本当かどうか分からないが、何でここだけ舗装されているのかと思うくらい舗装道路が珍しかった)

しかし、その後、日本の道路整備は着々と進行し、遂には日本中が舗装道路で埋め尽くされていった。もう、道路整備はほとんど必要ない。ということで、ガソリン税を徴収しても使うところが無くなってしまった。

そうなら税率を下げろよと思う。そもそも暫定税率じゃないかと。ところが、実際にはこのガソリン税、道路だけじゃなくて、他の用途にも使われ始めた。おっと約束が違うじゃないかと思うのだが、暫定税率がそのまま延長されて、道路整備以外にも使われているというのが現状である。

そして、このガソリン税の総額は実に2兆4,398億円(2020年予算ベース)に達するのだ。

悪税3:消費税
さらに、揮発油税には消費税も課されることになった。「おまえ、ガソリンを買うときに揮発油税53.8円を払ったのだから、その揮発油税にも10%、つまり5.4円の消費税を払え」というのである。う~ん、ガソリン税は税金として支払ったのであって消費のための払ったのではないと思うのだが、どういうわけかそうなっている。まあ、税金は理屈ではない。お上がそう決めたのだと言われれば仕方がないのだが。

ガソリン税の取り立て

このガソリン税、消費者から直接取るのではなく、ガソリンが製油所から出た時にすでに課税されている。つまり取りっぱぐれがないのだ。

例えば、製油所のガソリン関係の流量計はガソリンの生産量が記録されており、定期的に税務署に報告しなければならない。しかもその流量計はちゃんと封印されていて、誤魔化せない。壊れても勝手に修理もできないようになっている。

製油所はとっても複雑だから、単純に1基のガソリン流量計があるわけではない。例えば精製過程で一時的にガソリンに相当する半製品が何種類も出てくるが、これにもちゃんとそれぞれ流量計がついている。

例えば、性状チェックのためにガソリンのサンプルを取り出して試験すると、これは脱税ということになってしまう。だから、サンプルを取るときでさえ、税務署に届け出ることになっている。毎日数千キロリットルのガソリンを生産している製油所にとって1リットルや2リットルのサンプルなどごみみたいなものなのだが…

またあるいは、ある種類のガソリンAと別の種類のガソリンBを混ぜて、ガソリンCを作った場合、つまり、ブレンドした場合、ガソリンAとガソリンBにもガソリン税、ガソリンCにもガソリン税がかかる。このときはガソリンAもガソリンBもガソリンCを作るために無くなってしまったので税金は払いませんと税務署に届ける必要がある。

そのくらい徹底してガソリン税は取っぱぐれがないようになっているのだ。

前置きが長くなったが、ここからが本題だ

今後、乗用車はEVにするというのなら、ガソリンが売れなくなる。ガソリンが売れなくなればガソリン税はどんどん減って行くことになる。ついに天下の悪税ガソリン税も年貢の納め時が来たようだ。

しかしながら、そのまま政府が指をくわえてみているとは思えない。きっとEVにも何らかの形で税金が課されることになる。多分、ガソリン税相当分の重い税金だ。

ここで大きな問題が出てくる。ガソリンの場合は製油所で作られるから、製油所で一括して課税すればいい。外国から輸入されたガソリンの場合は、輸入品タンクから出荷するときに流量計で測ってこれに課税すればいい。でも電気自動車で使われるのはガソリンではなくて電気だ。これにどう課税するんだ。

課税方法1:発電所で課税する
ガソリンが製油所や輸入タンクから出荷されるときに課税されるように、発電所から送電するときに課税すれば話は簡単である。税務署も手間がかからないだろう。問題は発電所から送電された電気がすべて電気自動車に使われるわけではないということだ。

ガソリンの場合、課税されたあとのガソリンでも自動車以外に使われることがあるが、量的にはわずかだし、自動車燃料以外に使うときには税務署に届け出れば免税となる場合もある。

しかし、発電所から送られた電力はEV以外にも大量に使われる。いちいち、これは自動車用ではないので免税にしてくださいと税務署に申告していたら、税務署の業務はパンクしてしまうだろう。

では、発電所から送られる電気に均一に課税するか?国としては、とにかく税金を納めてもらえばいいことなのだからこれがもっとも簡便だが、納税者の抵抗も大きかろう。

課税方法2:自動車に充電した分だけ課税する
例えば充電スタンドで充電した場合は電力メーターで測定出来る。しかし、家庭用電源で充電した場合は自動車用とその他の仕分けが難しい。さらに、今後予想されることであるが、自宅に設置された太陽光発電のような自家発電した電力を使った場合はどうするのか。

あるいは、一旦電気自動車に受電した電気を再び家庭用の電源として使うことも予想される。このとき税金は戻ってくるのか。など、これもいろいろ問題がある。


課税方法3:自動車税を引き上げる
現在も自動車は自動車税が課されている。だから、EVを購入するときにかかる自動車税にガソリン税相当の金額を上乗せするという方法がある。問題はこの自動車税、エンジンの排気量によって税率が変わり、排気量が大きいほど税率も高い。しかし、EVにはそもそも排気量という概念がないから、EVには今のところ最低税額の自動車税が課されている。

ガソリン税相当分を自動車税と言う形で課税する場合、それほど乗っていないライトユーザーとヘビーユーザーの差はどうするのかという問題がある。週末に近くのスーパーへの買い物だけに使うライトユーザーと、毎週何百キロも走るヘビーユーザーが同じ税率は不公平だという声も上がってくるかもしれない。

もともと、ガソリン税は道路の建設や補修のためとして導入されているものである。道路をよく使うヘビーユーザーは、つまり道路をたくさん破壊するユーザーであるから、こういう人からたくさん税金を取るべきだろう。

課税方法4:走行距離に応じて課税する(走行税)
走行距離に応じて課税する、つまり走行税はどうだろうか。問題は走行距離をどうやって把握するかということである。

車内にGPSによって位置が分かるデバイスを付けておいて、その走行距離に応じて課税する。ただし、いつどこに行ったかという行動記録がすべてお上に吸い上げられることになる。これは気持ちのいい物じゃない。

2年ごとの車検時に走行距離に応じて課税するという方法もある。じゃあ、廃車にするときはどうするのか。廃車するとき走行税も払うことになりそうだが、そうすると廃車手続きしないで勝手に廃棄するEVが増えるのじゃないか。

ガソリン税に代わる税金の取り立て方については、いろいろと考えてみたが、それぞれ問題がある。今後議論されていくことになるだろうが、ガソリン税のように暫定税率や目的税と言いながら、なし崩し的にやり方を変えてしまうような姑息な税金にだけはしてほしくない。

EVはガソリン車に比べて経済的か?

当然ながらEVはガソリンの代わりに電力を消費する。電力料金はガソリンに比べて安いのでEVは走行時の費用が少なく経済的であると言われることがある。しかし、ガソリン税という重税が課されているガソリンとそうではない電気とを単純に比較するのは不公平だろう。

最後に、本当にEVの方がガソリン車より経済的なのか考えてみたい。

例えば、東京電力エナジーパートナーが試算した結果が公開されている

現状の場合
1万㎞走行時、ガソリン車の場合はガソリンが666ℓ必要で、ガソリン代を130円/ℓとすると

666ℓ×130円/ℓ=86,580円

つまり、ガソリン車で1万㎞走行したときの費用は86,580円となる。
これに対してEVの場合は、1万㎞走行時の電力量は1,538kWhであり、電気代を25円/kWhとすると

  1538kWh×25円/kWh=38,450円 

となる。これはガソリン代の半分以下の44%だからEVはガソリン車よりずいぶんお得ということになる。
しかし、ガソリンにはガソリン税と消費税が加算されていることを考える必要がある。

税金抜きで考えた場合
ガソリン税 53.8円/ℓ、消費税 11.8円とすると 税抜きガソリン価格は64.4円になる。一方、電気代から消費税2.3円を除くと 22.7円/kWh。これで、1万㎞走行時の費用を計算してみた。

ガソリン車で1万㎞走行時のガソリン代は

   666ℓ×64.4円/ℓ=42,890円

これに対してEVで1万㎞走行時の電気代は

   1538kWh×22.7円/kWh=34,913円 

つまり、1万㎞走行時のガソリン車のガソリン代は42,890円。EVの電気代は34,913円。EVの電気代はガソリン代の8割程度(81%)となり、EVの方が安いけれど、だいぶお得感は小さくなる。

つまり、ガソリン代が電気代より大幅に高いように見えるのはガソリンに高率の税金が課せられているからであり、税抜きで考えるとEVがそれほど安く走れるというわけではない。

将来、どのような形になるか分からないけれど、EVにもガソリン税収入と同等の税金が課されるようになるだろう。そうなれば、EVの走行費用がガソリン車より安いとは単純に言えなくなる。

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天下の悪税wwガソリン税 EV普及でどうなる EVは本当にガソリンより経済的か?」への8件のフィードバック

  1. PHEV乗り

    BEV PHEV持ちで太陽光発電システム+V2Hを持っています。 電気自動車は旨く使うと電力の平準化ができます。我が家で2軒分の電力を系統に返しています。
    太陽光発電システムからの充電もV2Hを使えば可能です。つまりタダ。
    自動車単独で考えるから間違った方向へミスリードする。
    電気自動車は再生可能エネルギーの大欠点である発電の不安定さをカバーする蓄電池をとして機能する。
    社会全体で見たときに、発電のピーク負荷を下げられるなら、大きな貢献度。
    普及させるために安くするのは当然だろう。
    また、電気自動車への特定的な課税は、電気自動車先進国から非関税障壁だと圧力が掛かるから難しいだろう。
    走行距離税は法人から大反発を食らうだろう。営業者を抱えている企業は困るから。
    消費税を上げるしか無いだろう。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      PHEV乗りさん 記事を読んでいただいてありがとうございます。
      確かに電気自動車は社会的な貢献度があるので、税金を安くしろという話は納得できます。しかし、これからガソリン車がなくなり電気自動車ばかりになったときにガソリン税がなくなると道路財源が無くなってしまいます。電気自動車も税金で作った道路を走っているわけですから。消費税を上げろというと、自動車を持たない人まで負担が増えることになり、これはこれで不満がでるでしょう。
      このあたりは国でしっかり議論してほしいところです。少なくともガソリン税のように暫定税率と称して五月雨式に増税していくことは止めてほしいと思います。

      返信
    1. takarabe 投稿作成者

      匿名さん 記事を読んでいただいてありがとうございます。他の記事も読んでいただいて、よろしければ、またコメントお願いします。

      返信
  2. >これからガソリン車がなくなり電気自動車ばかりになったときにガソリン税がなくなると道路財源が無くなってしまいます。

    記事にあるように必要な道路の大半はできていて、暫定のはずのガソリン税を目的外に使っているなら財源不足は名目ほどではないですよね。
    道路メンテナンスのために税金を0にはできないにしろ、適正な負担になるのでは。充電設備の整備という名目が新たに加わるかもしれませんが。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      まさん 再びコメントありがとうございます。
      おっしゃる通りだと思います。道路は昔ほど建設する必要はなくなり、財源はそれほど必要ではありませんから、EVに課税するにしてもガソリン税ほどあげなくてもいいと思います。それはガソリン税も同じですが、ガソリン税は道路以外にも使われてきました。EVに課税するにしてもガソリン税のように勝手に他の費用にも使われるということがないよう、適正な負担になるようにちゃんと国民が監視すべきだと思います。アメリカのように道路はでこぼこでもいいので税金を下げろと主張してもいいと思います。

      返信
  3. 走行税は、プリペイドにして、走行予定距離をチャージしておけば、車の電源が入るようにすればいいんじゃないかな。

    交通系電子マネー、Suica方式。乗る前に払う。

    走行距離なのでGPSログは関係ないし、先払いだから、廃車時の問題もないし、クレカ持たない人にはチャージ時に、登録した口座から引き落としすれば、与信も関係ないし。

    EV化と同時に自動運転になってくると、ネットワークにも繋がることになるので、車からの決裁は問題なさそう。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      ゆさん コメントありがとうございます。
      先払い方式ですか。面白いアイデアだと思います。EVの課税については、これから色々と議論されると思いますが、この方式もありじゃないでしょうか。

      返信

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