ブログ記事「アンモニア発電…マスコミが報道しない問題点」へのご批判について

ブログ記事「アンモニア発電…マスコミが報道しない問題点 このままではかえって温室効果ガスが増えてしまう」について、PoPeyeさんから以下のようなご批判のコメントをいただきました。貴重なご意見で、通常の回答欄では狭すぎるので、この記事の形で回答させていただきます。このようなご批判のコメントも誹謗中傷でなければ大いに歓迎です。

まずは、PoPeyeさんのコメントの全文から
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>「アンモニア発電が実はCO2排出増につながるという間違った認識を与える」と受け取られたのなら、申し訳ありません。
いやいや、間違った認識を与えるために一方を報道しない新聞のやり方そのものじゃありませんか。
>ブルーアンモニアを製造している工場は世界中どこにもありません。
とかね。
今アンモニア原料になるグリーン水素を作るプラントの開発、触媒の開発などいろんなプロジェクトが世界中で進んでいることに触れようともしない(タカギチさんが知らないとは思えないですが)。
アンモニア発電を否定的に書くよりはにEV EVと騒がせておきながら(日本の自動車産業にフェイントかけながら)グリーン水素に日本より遥かに巨額の研究開発投資しているEU、LNGのように扱える液化アンモニアにして世界のG水素供給基地になろうとしているオーストラリアの動向などを紹介することで、G水素の開発投資にまだまだ腰の入れ方の少ない日本政府の尻を叩く方向に持っていくほうがよほど一般の人にも啓蒙となると思いますよ。
化石賞では日本の火力発電にアンモニア混焼を導入したらそれだけで現在の世界中のアンモニア生産量を超えると言って揶揄したそうですが、当たり前です。今のアンモにはほとんどが肥料の原料ですからね。エネルギーとして消費される石油石炭LNGと比べれば微々たるものですから。日本人に技術的な主導権を取られたくない西洋人の底意地の悪さを感じます。
自工会の豊田会長が自動車業界のみに単にEVシフトさせたって500万人の自動車産業の雇用は守れないと発言したのをトヨタの社長が泣き言を言ったととらえた一般の人も多かったようですが、この辺もグリーン水素に向かってる世界動向の情報が少ないからだと思います。
ひょっとしてタカギチさんも日本人が希望を持つことが気に入らない側の人ですか?
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私がこのコメントを読ませてもらって、まず思ったのは私が事実を誤認しているとか、計算が間違っているというご批判ではないかと言うことですが、そうではなかったことに安堵しました。(汗々)

Popeyeさんの主張は、コメントの最後に書かれているように「日本人が希望を持つのが気に入らないのか」というご批判だと思います。なぜおまえはアンモニア発電を悪くいうのか。アンモニア発電の悪いことばかりあげつらって、今後の可能性を書かない。日本がグリーン水素に向かうという希望に水を差すものだ。もっとアンモニア発電について前向きの記事を書けよ。ということではないでしょうか。

いえいえ、そんなことはありません。私は希望を持つなとはいいません。逆です。私もこれからの水素やアンモニアに大いに期待しています。ただし、いいことばかりを言うつもりはありません。水素やアンモニア、その他の技術は厳しく育てたい。「愛のむち」そんなところです。

この記事を書いた経緯をちょっと書かせてもらいます。
私は、永らくバイオ燃料の調査の一環としてバイオ燃料の原料となる植物を探していました。そこで、農学部の先生やLCAの研究者から言われたのは、化学肥料を使ってはだめですよということでした。化学肥料の原料となるアンモニアは製造過程で大量のCO2を出すので、バイオ燃料のCO2削減効果を帳消しにしてしまうからです。

ところが、昨年10月、燃料アンモニア導入官民協議会が立ち上がり、アンモニアを燃料として普及させていこうということになりました。アンモニアを燃料として使うことは確かに興味ある発想です。しかし、すぐに頭をよぎったのが農学部やLCAの先生から言われたアンモニアは製造過程で大量のCO2を発生させるということでした。

そこで、アンモニア製造工程で出てくるCO2の量を計算してみたら、確かに大量のCO2が出てきます。この結果、石炭火力発電所でアンモニアを混焼することによるCO2削減効果を帳消しにしてしまい、さらに多くのCO2を発生させてしまいます。これではいけないと思ってブログ記事を書いたというわけです。

決して、アンモニア発電に恨みがあるわけでも、日本の夢を壊そうとしているわけでもありません。アンモニアを作るときに発生するCO2を忘れてはいけませんよ(特にマスコミ)という記事です。

もちろんCO2を発生させないアンモニアも作れますが、現在のところアンモニアは石炭や天然ガスから作られており、大量のCO2を排出します。

「アンモニア発電が実はCO2排出増につながるという間違った認識を与える」とご指摘ですが、間違った認識ではありません。このまま従来のアンモニアを発電に使えば確実にCO2排出増につながります。(ちゃんとブログの表題にも「このままでは」と書いているはずですww)

また、「CO2を発生させないアンモニア製造方法は現在どこにもない」とも書きました。これもウソではありません。どこにもありません。PoPeyeさんがおっしゃるように、オーストラリアなどで水素を作ろうという話はあります。しかし、実績があるのは褐炭を使った水素製造ですから、大量のCO2が出ます。

このCO2をCCSで地中に埋めてしまおうという話もありますが、現在のところまだ構想段階に過ぎません。さらには、このCO2を出さない水素からアンモニアを作るという段階になると、「一応、話題には上っている」程度でしかありません。

アンモニア発電とCO2を出さないアンモニアの作り方は車の両輪なのに、製造の方がおろそかになっていると私は感じています。アンモニア発電を推進している企業の技術者たちはアンモニアの調達までは自分の仕事ではない。だれかがやってくれるだろうと考えているのではないでしょうか。でも、それはいつ、どこで、だれなのでしょうか。

そして、私が一番心配しているのはアンモニアが石炭火力の延命の口実にされるのではないかということです。

例えば、電源開発は老朽化した松島石炭火力発電所を改修して新しい石炭火力発電所にすると言っています。この発電所はアンモニアなどを導入することでCO2発生を抑えると説明しています。
https://www.jpower.co.jp/news_release/2021/04/news210416_2.html

これに対して気候ネットワークが、現状ではアンモニアは化石燃料から作られているから製造時にCO2を発生させると抗議しています。
https://www.kikonet.org/info/press-release/2021-10-15/MatsushimaEIA1
https://www.asahi.com/articles/ASPCC6W57PCCUTIL04B.html

電源開発はアンモニアを頼りに石炭火力を延命したが、結局、石炭や天然ガスから作られたアンモニアしか使えないということになりかねない。そんなアンモニアを使うと日本国内では計算上CO2発生量が減ります。しかし、アンモニア輸出国でのCO2は増えてしまう。

つまり日本でCO2を削減しても、それはCO2発生を外国に押し付けているだけということになります。こんなことをやっていると日本はずるいと海外から非難される口実を作ってしまいます。

一方で、PoPeyeさんがおっしゃるように、オーストラリアでグリーン水素を作って日本に運ぶという考えについては私は大賛成です。オーストラリアだけでなく、サウジアラビアやカナダ(水力発電)なども可能性があります。これについてはデータを集めて、いずれ記事を書きたいと思っています。

ただし、ひにくれ者の私は、手放しのアンモニアよいしょ。水素よいしょ。の記事は絶対に書きません。そんな「よいしょ記事」はネット上に溢れていますし、そんな記事の多くがアンモニア発電推進会社からの発信記事です。都合の悪いことは一切表に出ません。

私のようなどの組織にも属さない人間だけが書ける記事を書きたいと思っています。アンモニア発電をやるならCO2を出さないアンモニア製造法を早く確立しろとかね。

PoPeyeさん。貴重なご意見ありがとうございました。ご批判、ご意見、いつでもウェルカムです。

2021年11月23日

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ブログ記事「アンモニア発電…マスコミが報道しない問題点」へのご批判について」への8件のフィードバック

  1. パウエロ

    面白い記事ありがとうございました。

    そもそもですが、PoPeyeさんの
    ”””
    自工会の豊田会長が自動車業界のみに単にEVシフトさせたって500万人の自動車産業の雇用は守れないと発言したのをトヨタの社長が泣き言を言ったととらえた一般の人も多かったようですが、
    ”””
    の発言に対してですが、私は泣き言にしか捉えることができません。逆にどう捉えたら泣き言以外の解釈ができるのでしょうか?またその場合どのような解釈になるのでしょうか?どなたか解説いただけますでしょうか。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      パウエロさん コメントありがとうございます。
      トヨタ社長の言い分には私も賛成できませんが、経営者は雇用を守るという使命があるわけですから、泣き言というのはちょっと言い過ぎのような気がします。ただ、雇用を守るというのは、自動車業界の身内の話ですから、それは人のせいにしないで自分たちで考えてくれ、我々に押し付けないでくれと思います。
      従業員の雇用を守るということは、従業員の給与が製品に上乗せされ、その結果、消費者が負担することになります。また、雇用を守るためにエンジン車に固執しているうちに、安価な電気自動車が世界的に普及していけば、日本の自動車業界自体がつぶれます。そうしたらもっと雇用は守れないことは会長も分かっているのじゃないでしょうか。
      エンジン車が必要無くなれば、新しい分野を開拓して、そちらに雇用を振り向けるのが経営者の仕事だと思います。

      返信
  2. カズ

    自工会の豊田会長が「自動車業界のみに単にEVシフトさせたって500万人の自動車産業の雇用は守れない」と発言したのは、政府に対してであって、我々に対してではないと受け取っています。
    資本主義社会、でも政府に守られてる資本社会なのですから。
    近い将来、中国から格安のEVがたくさん輸入される事になるだろうと思います。
    でも航続距離は短いし、電池の劣化も激しく、もしかすると火を噴いてしまうかも知れません。
    中国企業には、信頼に足る実績がありません。
    もうしばらくエンジン車は必要になるでしょう。
    トヨタには実績があり、HEVという現実回も持っています。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      カズさん。貴重なご意見ありがとうございます。あえて反論させていただきます。

      >政府に対してであって、我々に対してではないと受け取っています。
      といっても政府を支えているのは我々なんですけどね。
      >中国企業には、信頼に足る実績がありません。
      日本も昔は品質ではずいぶんひどい物を作っていました。メイドインジャパンだから壊れるのがあたりまえでした。それがあっという間にメイドインジャパンは最高品質を示すものになり、日本車がアメ車を駆逐してしまいました。日本人にできたことを中国人にはできないという証拠はありません。
      一方、アメリカは自動車では凋落しましたが、GAFAに代表されるITで世界を凌駕しています。日本もEVの出現で自動車産業は凋落するかもしれませんが、GAFAに相当するものが出てきてないのが心配です。
      >もうしばらくエンジン車は必要になるでしょう。
      乗用車についてはEVですが、バスやトラックはエンジン車が残ると思います。
      >トヨタには実績があり、HEVという現実解も持っています。
      むしろ、私はその様な成功体験がかえってトヨタを凋落に向かわせないか心配しています。

      あえてひとつずつ反論しました。面倒くさい性格ですみません。

      返信
  3. 匿名

    アンモニア関連のニュースを見つけたので

    水と窒素からアンモニア合成、
    触媒寿命15倍に 東京大学

    5月9日、日本経済新聞ほか

    新しい触媒により、触媒の寿命が15倍に
    他にも、アンモニアを合成する速度が7倍に
    と、いいことが書いてあるのですが

    ここに登場する大学教授の名前に見覚えがあって
    以前、常温常圧でアンモニア製造という話は
    その後、どうなったのでしょうか

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      コメントありがとうございます。
      現在、アンモニアはハーバーボッシュ法で作られています。これは人類を飢えから救ったと言わるほどの大発明ですが、製造には高温・高圧が必要なことが欠点でした。これを低温で行えるとか生産速度を大幅に向上させるという話は、大変意義のある話だと思います。これによってアンモニア製造コストを大幅に下げられるかもしれません。
      ただ、私が指摘しているアンモニア発電の問題はコストではなく、排出されるCO2がかえって増えてしまうということです。東京大学の研究は水素ではなく水を使うということですが、水は安定な物質ですから、これをアンモニアにするときに大量のエネルギーを必要とします。このエネルギーを石油や石炭から得るのならこのときCO2が出ます。太陽光や風力発電で賄うなら、アンモニアにせずにそのまま電気として使えばいいということで、問題の解決にはなりません。
      大量のグリーン水素をどこかで作ることができ、その運搬手段としてアンモニアを使うというのなら、この方法が活用できるかもしれません。
      触媒の開発にしろ、常温常圧合成の話にしろ、大学研究レベルですから、実用技術が研究室から出てくるにはまだ、10年単位の時間がかかる話だと思います。

      返信
  4. Shin

    今日、アメリカの知り合いと話をしている中でアンモニアの話になり、こちらのブログにたどり着きました。
    彼は、まだEnergy Transitionの手法の中では認知度は低いけど、グリーンエネルギーを電池で蓄電する方法や、水素の輸送コストの難しさ(既存のパイプラインは使えず、新設する必要がある)に比べて既存のインフラを使えるアンモニアのハードルは低いといっており、アメリカでも認識が広がっているのかもしれません。

    以下のページからですが、
    https://www.ief.org/news/ammonia-the-missing-link-in-the-energy-transition

    オランダ(HALDOR TOPSOE)やサウジアラビアでグリーンアンモニアの商業開発も始まったりしているようですね。
    Chemical companies are pursuing all varieties of ammonia production. A Danish industrial partnership aims to begin operating the first commercial-scale green ammonia plant by 2023. A multibillion-dollar project based in the planned Saudi city of Neom is the most ambitious, aiming to use water electrolysis, renewables, and the Haber-Bosch process to produce 1.3 million metric tons of ammonia annually for export. A similar project based in the Port of Salalah, Oman, aims to produce around 390,000 metric tons annually.

    米KBRを複数のプラント開発に着手(以下、その一例かな?)
    https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/dc75c712925e6814.html

    といった動きも出ているようですね。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      Shinさん。情報提供ありがとうございます。
      私も十数年前、アンモニアメーカーの方から水素の運搬方法としてアンモニアがあると聞き、非常に興味深いと思いました。そして、今考えられているのはアンモニアから水素を取り出すのではなく、そのまま燃やしてしまおうという考えで、これも面白いアイデアだと思います。海外でも関心がでてきているようですな。
      しかし、日本のマスコミや一部の関係者は、どうもグレーやブラックのアンモニアでも、とにかく輸入して発電所で燃やせばCO2が出ないかのように誤解されているようなので、この記事を書いた次第です。
      KBRの情報をありがとうございます。この技術は肥料用アンモニアとしても、将来必須の技術になると思います。しかし、当然コストアップとなるので、燃料用として使えるのかについては、他の発電方法(例えば太陽光や風力、原子力)との競争になるのではないでしょうか。

      返信

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