京アニ放火事件 被害拡大のなぞ

2019年7月21日

18日、京都アニメーション(京アニ)の3階建ての建物で、40代の男がガソリンを撒き、火をつけるという事件が起こりました。これにより、34人(その後入院中の1名が死亡して合計35人となった)の尊い命が失われるという悲惨な結果となりました。なぜこの事件によって、これだけ被害が拡大し、多くの犠牲者が出たのか、考えてみました。

ガソリンを撒いて火をつけるとどうなるか

多くの人が誤解されていると思いますが、ガソリンを撒いて火をつけると、ガソリンが導火線のようになって火を導き、床に撒かれた大量のガソリンに引火して、やがて床が火の海になる。映画の世界ではよくこんなシーンが出てきますが、これは間違いです。

実際には、大量のガソリンを撒いて火をつけると、そのとたんにガソリンは爆発的に燃焼(爆燃)して大きな火の玉になります。これをファイアボールといいます。床に撒いたガソリンがボーボーと燃えるわけではありません。

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この写真はファイアボールのイメージです

ガソリンを撒いて火をつけた容疑者も重度の火傷を負い、重篤な状態になっているといいますが、火をつけた容疑者自身が逃げる間もないほど、火の回りが早かった。つまり爆発的な燃焼が起こったから逃げ遅れたと考えられます。

爆燃のメカニズム

爆燃のメカニズムについては「ガソリンにマッチの火を近づけても燃えない?ウソ」を参照ください。

燃焼とは燃える物(この場合はガソリン)と空気中の酸素が結合する化学反応です。石炭や薪のように表面だけが空気と接している場合は、石炭や薪の表面から揮発した成分だけが酸素と結合して燃焼します。

しかし、ガソリンを床に撒くとガソリンが蒸発(気化)して空気と混ざります。それによって、その空気全体が可燃性となります。この状態を爆発混合気といいます。ここに火をつけると、その爆発混合気全体がほぼ一瞬で燃焼することになります。これが爆燃です。

放火事件の状況の推定

(注意:以下の記事には推定が含まれています)
容疑者は京アニの1階で、床にガソリンを撒いたため、1階のかなりの部分が爆発混合気になっていたはずです。これにライターで火をつけたので、1階部分は一瞬で火に包まれたでしょう。

この爆燃によって、まず衝撃波が発生してガラス窓を吹き飛ばし、そのあと高温の熱風が吹き抜けていきます。(容疑者が火傷を負ったのはこの時点?)

ガソリン蒸気は、この爆燃によってほとんど燃え尽きてしまいますが、爆燃のあとに炭素の細かい粒子と、有毒な一酸化炭素が残ります。この炭素粒子と一酸化炭素は高温ですから、吹き抜けになっているらせん階段を通って3階まで一気に駆け上ったと思われます。

2階にいた被害者の証言によると1分以内に墨汁のような真っ黒な煙が広がったといいます。これが炭素の粒子です。目には見えませんが、高濃度の一酸化炭素も、この黒い煙に混じっていたはずです。

3階に被害者が最も多かったのは、ガソリンの燃焼熱によって高温になった一酸化炭素が、らせん階段を一気に上昇し、3階に滞留したためと思われます。

スタジオが本格的な火災になったのは、そのあと、スタジオ内にある大量の紙や壁に爆燃の炎が引火して燃え始めてからでしょう。

最後に

犠牲者は焼死だけでなく一酸化炭素中毒も多かったといいます。単なる放火とは違い、締め切った部屋の中でガソリンが爆燃を起こすと、火傷だけでなく、一酸化炭素や衝撃波によって多くの命が奪われることを今回の事件は示しています。

らせん階段が被害を大きくした側面があります。らせん階段がなく、そのほかの階段も壁で仕切られていたら、2階、3階の人たちの逃げる時間が稼げたのではないでしょうか。

日本は安全な社会であると思っていましたが、意外なところに盲点がありました。米国のように銃を使った犯罪は日本では起こりにくいですが、ガソリンは銃にも匹敵する凶器になりうるというのが、今回の教訓のひとつだと思います

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