バイオ燃料は地球温暖化対策だけじゃない バイオ燃料の5つの目的

バイオ燃料が再び注目される?

ここにきて再びバイオ燃料導入の機運が高まってきている。2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、2035年までに新規に販売される乗用車については、100%電動化(EV)を目指すと明記されている。

ところが、8t以下の商用車についてはEV化率20~30%、8t超の大型の車については2030年までにEV普及目標を設定する。と、すべての自動車をEVにするとは言い切っていないのだ。その理由は、長距離トラックやバス、重機までEV化することが困難なためなのだろう。自動車ではないが、ジェット機の電動化などは全く無理なのだ。

では、EV以外にCO2を排出しない動力源としては何があるのだろうか。それには水素、合成燃料そしてバイオ燃料が挙げられる。しかしながら、水素を自動車燃料として普及させるためには非常にコストのかかる水素ステーションを日本各地に設置する必要がある合成燃料に至ってはまだ開発中の技術であり、使用実績がほとんどない。

となると、手っ取り早く活用できるのがバイオ燃料である。バイオ燃料は世界的に見て格段に多くの使用実績があり、すでに普及段階に達している。バイオ燃料なら現在の自動車エンジンやジェットエンジンがそのまま使え、既存の燃料供給インフレがそのまま使えるという利点もある。

今後、水素や合成燃料技術の画期的な進捗がなければ、長距離トラックやバス、重機などは世界的にみてもバイオ燃料という形にならざるを得ないのではないだろうか。にも拘らず、日本ではどうもバイオ燃料を忌避する傾向がみられる。

世界のバイオ燃料

バイオ燃料とは、動植物を原料として製造された燃料である。例えば、薪や炭。あるいは江戸時代に照明に用いられた魚油やナタネ油、あるいは和ロウソクもこの仲間。私たちが昔から使ってきた燃料が含まれる。

しかし、一般にバイオ燃料というのは自動車燃料として使われるものをいう。ガソリンの代わりにはバイオエタノール、軽油の代わりにはバイオディーゼルが使われている。

このバイオ燃料、石油由来の燃料ではないので、燃やしても大気中のCO2を増やさない。バイオ燃料を燃やすとCO2が出てくるが、このCO2は原料となる植物が成長過程で吸収した量と原理的に一致する。だから燃料として燃やしても空気中のCO2を増やさないという理屈なのだ。(ただし、従来型の第一世代のバイオディーセルは原料の一部に天然ガスが使われているため、完全にCO2を増やさないとはいえない)

一番たくさんバイオ燃料を作っているのは米国である。トウモロコシからバイオエタノールを作っており、全米で供給されるガソリンにはほぼすべてに10%のバイオエタノールが混合されている。そのほかに、バイオエタノールを85%まで増やした燃料が一般に市販されている。

続いて多いのがブラジルだ。この国ではサトウキビがバイオエタノールの原料である。バイオエタノール製造工程で使われる熱や電力もサトウキビの絞りカス(バガス)を燃やして得るという徹底ぶりで、製造時のCO2もほとんど発生しない。

ブラジルの市販ガソリンには20~30%のバイオエタノールが混合されているほか、バイオエタノール100%の燃料も市販されている。そして、この2種類の燃料のどちらでも走行できるフレックス車という車両が売られており、ブラジルの新規乗用車販売台数の実に90%以上がこのフレックス車である。

欧州では主にバイオディーゼルが使われている。原料はナタネ油や大豆油、パーム油で、軽油に7%まで混合して使用されている。近年、HVOと呼ばれる第二世代のバイオディーゼルが開発され、普及し始めている。この新しいバイオディーゼルは100%濃度で使用することができる。

バイオ燃料の原料として期待されるジャトロファの種

日本の現状

日本でも、一時期バイオ燃料の導入が盛んに喧伝された時期があった。2006年頃、環境省が中心となって日本各地にバイオ燃料を作るプロジェクトが立ち上がった、しかしながら、そのすべてが失敗に終わっている

このため、日本ではもうほとんどバイオ燃料が生産されていない。このため、バイオ燃料は破綻した技術だと考えている人もいるようだ。中には食料危機を助長するのでバイオ燃料の製造は世界的に禁止されたなどと、事実ではないことを言う人までいる。

現在、日本では少量(原油換算50万キロリットル)のバイオエタノールが輸入されて、エネオスやコスモ石油でこれをETBEというものに転換してガソリンに混ぜている。そのほか、家庭や事業所から出る廃食用油を回収して作られた、わずかな量のバイオディーゼルが利用されているに過ぎない。

このように、海外ではバイオ燃料がかなり大量に使用されているのに、日本ではあまり導入が進んでいないがこれはどうしてなのだろうか。

日本では地球温暖化対策としてバイオ燃料が位置付けられているが、実は地球温暖化が騒がれるずっと以前から、世界ではバイオ燃料の使用が開始され、長い歴史を持っている。実は地球温暖化対策はずっと後になってから付け加えられた、バイオ燃料の目的の一つに過ぎないのである。

では、バイオ燃料の目的とは何なのか。バイオ燃料には5つの目的がある。それを次に解説したい。

バイオ燃料の5つの目的

① 石油代替燃料

バイオ燃料のもともとの目的は石油代替燃料である。
実は1900年代に米国のヘンリー・フォードが自動車を大衆化したとき、最初に燃料として使われたのはバイオエタノールだった。また、ディーゼルエンジンを発明したドイツのルドルフ・ディーゼルが最初に使った燃料は植物油だったのである。

その後、石油産業が発達したことから、自動車燃料としてはガソリンや軽油が専ら使われるようになって行った。だから基本的にはバイオエタノールでもバイオディーゼルでも石油に代わりに自動車燃料として使うことができる。

太平洋戦争末期、あまり知られていないことであるが、石油が手に入りにくくなった日本はサツマイモからバイオエタノールを作ってガソリンの代わりに戦闘機用の燃料とした。多分、特攻機にもこのバイオエタノールが使われたであろう。その時の工場がいまも鹿児島県出水市にあり、現在も操業している。

1970年代に石油ショックが発生すると、世界のエネルギー事情が一変した。このとき世界中で石油代替燃料の開発が進んだが、その一つがバイオエタノールであった。

石油ショック当時、非常に貧しい国であったブラジルは、石油価格の高騰によって石油の輸入ができなくなった。そのためガソリンの代わりになるバイオエタノールを国内で栽培されるサトウキビから作った。アメリカも石油ショックをもろに受けた。そのため国内のトウモロコシから作ったバイオエタノールをガソリンに混ぜて使い始めたのである。

石油ショック以前から、ブラジルはラム酒をサトウキビから、アメリカはトウモロコシからバーボンウィスキーを作っていた。その技術がバイオエタノールの製造に生かされたというわけである。

② 農業振興

戦後、日本でもそうであるが、欧州も極度の食料不足に見舞われた。このため欧州各国政府は農業を保護し、食料を増産する政策を推し進めた、しかしその後、農業技術が飛躍的に進歩した結果、農作物が大増産されるようになった(緑の革命と言われる)。このため、今度は逆に大量の農作物が余剰という事態に陥ったのである。

当時結成されたばかりのEECは農作物余剰対策として減反を奨励し、減反を受け入れた農家には補助金を支払うことになった。ところが、この補助金が半端ない金額に上り、一時EEC予算の70%以上にまで膨らんでしまったという。(日本でもこの時期、食管会計の赤字が大問題となった)

このため、余剰となった農作物を使ってバイオディーゼルやバイオエタノールが作られることになったのである。これは米国も同じで、やはりトウモロコシが余剰となったため、政府が減反を奨励するようになったのであるが、一部の農家はこれに反発。余剰のトウモロコシからバイオエタノールを作り始めた。これが現在のバイオエタノール産業となっていった。

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ナタネ油もバイオ燃料の原料

バイオ燃料が食料ひっ迫の原因になっているとか、貧しい人から食料を奪ってケシカランとか批判する人がいるが、実際は欧州でも米国でも食料が余剰となったからバイオ燃料を作っている。これは農家の所得向上政策という意味合いもある。

もし、バイオ燃料が使われなくなれば、畑はまた休耕地に戻ってしまうことになるだろう。日本でも膨大な面積の休耕田や耕作放棄地があるが、これも事情は同じである。

③ 大気汚染対策

1970年代、米国では大都市を中心に自動車からの排気ガスによる大気汚染が深刻になって行った。この対策の一つとして酸素を含む燃料(含酸素燃料)の使用が義務付けられることになった。当時使われた含酸素燃料は主にMTBEとバイオエタノールである。

ところが、ガソリンスタンドからガソリンが漏洩したとき、ガソリン成分の内のMTBEが水に溶けやすいため、地下水を汚染するという騒ぎが起こった。ことからMTBEが禁止され、ガソリンにはエタノールだけが添加されるということになったという経緯がある。エタノールも水に溶けるが、MTBEほど有害ではないと判断されたのだろう。

余談であるが、日本でも欧州でもMTBEは禁止されていない。それはなぜか。そもそも米国のようにガソリンスタンドからガソリンが漏れること自体がおかしいのである。ガソリンスタンドはガソリンが漏れないように管理すべきであり、ガソリンがタンクから漏れなければMTBEが水に溶けるかどうかは関係ない。それが日欧の判断である。まっとうな判断だと思う。

④ エネルギーセキュリティ

2001年9月11日、米国で発生した同時多発テロ事件を受けて、米国では中東からの石油輸入をできるだけ減らそうという動きが急速に高まって行った。そして2007年にはエネルギー独立安全保障法(EISA)という法律が施行された。

この法律によって、燃料販売事業者はバイオエタノールのような国産バイオ燃料の他、セルロース系バイオエタノールのような先進バイオ燃料の使用が義務付けられることになった。

⑤ 地球温暖化対策

最後に出てくるのが、地球温暖化対策である。これは言うまでもないだろう。バイオ燃料の原料となる植物が成長期に吸収したCO2とバイオ燃料を燃焼させたときに発生するCO2が相殺されることによって大気中のCO2を増やさないため、地球温暖化対策となる。

例えば欧州会議は2008年に「再生可能エネルギー指令」を採択した。これは全EU加盟国に対してバイオ燃料や再生可能電力等を輸送用燃料として最低10%導入するよう義務付けているが、この目的は正に地球温暖化対策である。

なぜ日本ではバイオ燃料が普及しなかったのか

以上のように、海外ではバイオ燃料は当初は ①石油の代替 として使われてきたのであるが、そのほかに ②農業振興や ③大気汚染対策、④エネルギーセキュリティなどを解決する手段として利用されてきたのである。日本のように⑤地球温暖化だけがバイオ燃料の目的ではない。

特にバイオ燃料は農業振興としての面が強く、例えば米国は中西部のコーンベルトと呼ばれるトウモロコシ地帯が政治的に大きな力を持っている。トランプ元大統領が2020年の大統領選挙で負けた原因の一つが、シェールガス業者を優遇し、バイオエタノールを軽視したことが挙げられるだろう。農業票は大きな力を持っているのだ。

最初に述べたように、今後脱炭素化が進むとすれば、小型の乗用車についてはEV化が進むとしても、長距離トラックやバス、重機、あるいはジェット機のようにEV化が難しい輸送機関についてはバイオ燃料が有力な選択肢である。

①石油代替燃料としての目的は当然のことながら、②農業振興や④エネルギーセキュリティもバイオ燃料のチャームポイントである。

例えば我が国でも国内に広く存在する休耕田、耕作放棄地で原料作物を作り、これをバイオ燃料とすれば、農業従事者の所得も向上するし、エネルギーセキュリティにも資する。あるいは海外から輸入するにしても国情の安定した友好国から輸入するなら、エネルギーセキュリティに貢献するはずである。

バイオ燃料は地球温暖化だけでなく、そのほかにもメリットがあり、これを生かすことも考慮すべきだろう。

2021年11月2日

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