1.急激に増える世界の再生可能エネルギー
世界の再生可能エネルギーが急激に増えると予想されている。
今年(2023年)1月に公表されたIEAの報告書(Renewables 2022)には2022年までの再生可能エネルギーの動向と今後2027年までの予想が示されているが、その報告書では、昨年に比べて世界の再生可能エネルギーの量が大幅に上方修正されているのだ。
IEAの予測では2027年までに再生可能発電容量は1,500GW増加し、2026年には天然ガスの発電量を、2027年には石炭発電量をそれぞれ超えて、2027年には世界の発電量の約40%を占める世界最大のエネルギー源になると予想されている。
今回、特にIEAの上方修正が大きかったのは中国、EU、米国およびインドであるが、中国やインドは必ずしも気候変動対策に積極的でなかった。なぜ世界の再生可能エネルギーがこれほどまでに増えると予想されているのだろうか。
それは再生可能エネルギーには単に気候変動対策だけではないメリットがあるからだ。そのメリットとは、エネルギー安全保障ともうひとつは発電コストが低いということである。
2.エネルギー安全保障
2022年2月にロシアがウクライナに突然侵攻し、それから1件以上が経過している。当初、すぐにロシアに蹂躙されると予想されていたウクライナが欧米諸国の支援を受けて善戦しており、ロシアを追い返そうという勢いである。
西欧諸国は国際法を無視して侵攻したロシアを強く非難しているが、一方で西欧諸国はそのエネルギー源の一つである天然ガスの多くをロシアに頼っているという関係にある。ロシアと西欧諸国は陸続きであるため、ロシアと西欧諸国との間には何本もの天然ガスはパイプラインが走っており、ロシアの天然ガスはこのパイプラインを使って西側に送られている。
日本のように産ガス国で一旦、−162℃という極低温まで冷却して液化天然ガス(LNG)として専用船で運ぶという必要がないため、輸送コストは格安である。ちなみに、そのパイプラインのうち、かなりの本数はウクライナ領土内を通過している。
ロシアがこのパイプラインのバルブを閉める、あるいはウクライナがそのパイプラインを破壊するなどすれば、西欧諸国は一気に重要なエネルギー源の一つを失うことになる。さらには、西欧諸国がロシアから天然ガスを購入することは、ロシアがウクライナへの攻撃を継続する資金を提供することにもなる。
そこで、西欧諸国はロシア産天然ガスを排除しようとしている。2022年5月に策定されたREPowerEU計画では、2027年までにロシア産天然ガスを排除することを謳っている。そして、このロシア産エネルギー資源の穴を埋めるのが太陽光や風力などの再生可能エネルギーなのである。
もうひとつ再生可能エネルギーを後押ししているのが、化石燃料の高騰である。ロシアはウクライナへの軍事侵攻で巨大な支出を行っているが、その資金を支えているのが、化石燃料価格の高騰である。ロシアは天然ガスのみならず、石炭や石油の大輸出国である。そのため、化石燃料の高騰はウクライナ侵攻を支える重要な収入源となっている。逆に化石燃料を輸入している国々はエネルギー価格の高騰に悩まされることになる。
しかしながら再生可能エネルギーの多くは自国内で得られる国産資源である。将来は、再生可能エネルギーの豊富な国から送電線で電力を送ったり、水素に転換して水素の形で輸入したりすることもあり得るだろうが、基本的には国産資源である。
太陽光や風力は世界中どの国でも得られるエネルギー資源であり、石油や天然ガスのように一部地域に偏在している資源ではない。だから、外国に依存しないエネルギー源として、また、石油や天然ガスのように価格が変動しないエネルギー源として、エネルギー安全保障上、大きな価値のある資源なのである。
3.発電コストの低減
再生可能エネルギーは高価だと思っている人も多いのではないだろうか。しかし、最近の再生可能エネルギー発電のコストは急激に低下しており、むしろ、最も安い電源が再生可能エネルギーということになりつつあるのだ。ちなみに、Bingの対話式AI「Copilot」に再生可能エネルギーのメリット、デメリットを聞いてみたら、再生可能エネルギーのデメリットとして価格が高いことを挙げてきた。これはCopilotが参照したデータが古かったようだ。(このあたりがAIの限界なのだろう)
下のグラフは、太陽光発電の発電単価を示しているが、どんどん低下していることに気づかれるだろう。残念ながら我が国は主要国の中でもとりわけ価格が高いが、それでも10年前に比べれば発電コストは4分の1程度まで低下しているのである。
次に、下の図は日本の各種の発電方式の発電単価を2020年と2030年で比較したものである。2020年時点ではLNG火力、原子力、石炭火力の発電コストが1kWhあたり、10円から12円程度であるのに対し、太陽光(事業用)は13円程度で、やや高い。
しかし、2030年には太陽光が10円まで低下するのに対し、原子力はほぼ変わらず、石炭やLNGはむしろ高くなって12円から18円まで上昇すると予想されている。2030年時点では太陽光がもっとも安価な電源となると予想されているわけだ。
以上は日本の状況であるが、海外ではこの傾向はもっと顕著である。ちなみに、IEAは2027年までの中国の再生可能エネルギー導入量を35%も上方修正しているが、この主な理由として、それまでの中国の発電の主力だった石炭火力に対して、太陽光発電のコストが大幅に低下していることを挙げている。ちなみに、中国は世界の太陽光発電パネルの実に90%以上を生産している国である。
従来、高い高いと言われてきた再生可能エネルギーの価格が、いまや逆転してむしろ最も安価な発電方式になろうとしている。再生可能エネルギーを導入するから、電気料金が高くなると不平を言う人も多いが、これからはむしろ石炭や天然ガスのような化石燃料に頼ることこそ電気料金が上昇する原因となる。
特に化石燃料の価格は不安定で時に高騰する場合もある。これに対して、太陽光や風力は一旦建設してしまえば、発電コストは減価償却費やメンテナンスコストのような固定費であるから、火力発電のように燃料費の影響を受けることがない。つまり安定したコストで発電することが可能なのだ。
いま、開発が進んでいるペロブスカイト太陽電池は、それ自体が安価に製作できる上、軽量であるため、建設時の基礎や架台の工事費も少なくなる。このような新しい技術が実用化していけば、さらに発電コストは低下していくことになるだろう。
4.残された問題
もちろん、再生可能エネルギーにも様々な問題がある。最も大きな問題は、出力が自然条件に左右され不安定だということだろう。太陽光発電は太陽が照っている時だけ、風力発電は風が吹いている時だけしか発電することができない。そんな不安定な再生可能エネルギーに国の重要なインフラである電力を任せられるかという意見もあるだろう。しかし、国際情勢に振り回されて価格が大きく変動し、輸入途絶の可能性さえある化石燃料もやはり、不安定な電源である。
ならば原子力かというと、原子力は安全性や使用済み核燃料の問題以外にも実は大きな問題を抱えている。それはあまり話題には上らないが、出力が調整できないという問題である。
原子力は電力需要が増えたら発電量を上げる、需要が減ったら発電量を下げるという調整が全くできない。特に発電量を下げられないというのは問題で、電力需要が最も低い季節、時間帯の電力需要が原子力発電の発電能力の最大値となり、これ以上に原子力発電の比率を高めることができない。つまり、原子力の比率は一定以上には原理的に上げられないということなのだ。
結局、経済的にも、安全保障の面からも、再生可能エネルギーの比率が今後増えていくことになるだろうが、出力の不安定を解消するために、当面天然ガス火力発電を一部残しておいて、電力需要を調整するということになるだろう。
そして、将来的には大規模な蓄電池や水素など、電力を蓄える技術を開発導入して、電力需要への適合を図っていくことになるだろう。
2023年6月3日