【意外な真実】 石油は永遠に枯渇しない

石油について、多くの方々が疑問をもっているのがこれであろう。昔、石油はあと30年で枯渇すると言われたが、まだ枯渇していない。これはどうしてなのか。いつかは枯渇するのだろうが、それはいつになるのか。正しい期限が知りたい。とそう思っている人は多いのではないだろうか。
結論から言おう。石油は永遠に枯渇しない。

石油30年枯渇説はフェイク

石油ショックのとき(1970年代)石油はあと30年で枯渇すると言われたが、それが本当ならとっくの昔に枯渇していたはずである。(もうあれから55年も経っている)なぜこんなことが起こったのか。石油があと30年で枯渇するという話は可採年数という数字が根拠で、石油ショックのとき石油の可採年数が30年だったのだ。

しかし、この年数は当時確認済みの石油の埋蔵量を年間消費量で割った数字に過ぎず、石油が枯渇する年数を表しているわけでない。にも拘らず、石油はあと30年経ったらなくなるという、今風にいえばフェイクが拡散していったのである。

特に、政治家や学者、企業経営者たち(必ずしも石油の専門家ではない人たち)の集まりであるローマクラブが、石油はあと30年で枯渇することを前提として「成長の限界」という、もっともらしいレポートを出して危機感を煽った。これによって、30年枯渇説が世間に植え付けられてしまったのである。

可採年数とは

油田が発見されると、その油田にどれだけの石油(原油)が埋蔵されているかを地質調査によって確認する。これが確認埋蔵量である。そして、その油田からどれだけの石油を毎年採掘するかを決定し、確認埋蔵量を毎年の採掘量を割った値を計算する。これが可採年数である。

これはその油田にとっては重要な数値である。油田は見つけただけでは商業生産ができるわけではない。井戸を掘るだけでなく、汲み上げた原油から水やガスを分離したり、原油を貯蔵するタンクを作ったり、消費地まで運ぶパイプラインや港湾、従業員たちの宿舎なども建設する必要があるからだ。

これだけの投資をしてもその油田が1年や2年で枯れてしまっては投資が回収できない。そのため、可採年数という数値が重要となる。投資を回収でき、さらに利益を生み出すだけの寿命がその油田になければならない。その油田の寿命が可採年数というわけである。

石油ショック当時言われた可採年数は、世界の油田の可採年数の平均値。あるいは世界の油田の確認埋蔵量の合計から、毎年の世界の石油総産出量を割ったものであり、それが当時は30年だったということである。

以上の説明からわかるように、可採年数というのは個々の油田については、その油田が枯渇するまでの年数を表すことになるが、世界中の油田についてその平均値を出しても石油が枯渇する年数ということにはならない。なぜなら、新たに発見される油田が計算に入ってないからだ。

可採年数は新たな油田が見つかれば増加し、見つからなければ減少することになる。そして実際には石油ショック以来、新たな油田がつぎつぎに見つかっているから、可採年数はどんどん増加していき、現在は50年くらいの数値になっているというわけである。

図―1 確認埋蔵量と可採年数の推移

では、これからも新しい油田は見つかっていくのだろうか。確かに今までは新たな油田が見つかり可採年数は増加してきたが、これからもそうなるとは限らない。いつかは油田が見つからなくなり、可採年数は下降に向かうという説が一時、盛んに言われたこともある。これをオイルピーク説というが、ではいつ石油生産のピークが訪れるのか。いろいろな予想が行われたが、結局可採年数は増え続けてきたわけであるから、オイルピーク説も正しいとはいえないだろう。

シェールオイルの登場

そして決定的なできごとが2000年代初期に起った。それはシェールオイルを採掘する技術が開発されたことである。シェールオイルというのは、これまでの油田よりかなり深い頁岩と言われる地層(シェール層)に含まれる石油である。シェールオイルの存在は昔から知られていたのであるが、これを採掘する技術がなかった。その技術がアメリカの技術者によって開発されたのである。

その後、シェールオイルは世界中に分布しており、その埋蔵量も膨大であることが分かってきた。ただ、採掘コストが従来型の石油よりも若干高いので、完全に従来型の石油に置き換わることはできないが、それでもアメリカを中心にシェールオイルの採掘が進められている。

石油ショックの時に比べて、石油の可採年数が増えているのは、ひとつは新たな油田が途切れることなく開発されてきたことと、もうひとつはシェールオイルを採掘する技術が開発されたことによる。

石油がどれだけ地球に埋蔵されているか、正確な数字は分からないが、いまのところ今ある油田から石油がなくなったら探せばまた見つかるという状態にあるから、30年や50年で枯渇するということはない。

しかしながら、石油は「限りある資源」(ときどきこんなあやふやなフレーズが使われる)なのでいつかは枯渇するのではないか。それがいつかを知りたいとおっしゃるのかもしれない。とにかく地球という惑星は1個しかないのだから、このまま石油を掘り続けていけば、いつかは石油は掘りつくされてしまうはずである。
ただし、それは人類が石油をこのまま掘り続けた場合の話である。

人類は石油を採掘しなくなる

では人類はいつまで石油を採掘し続けるのだろうか。
図―2はIEA(国際エネルギー機関)が予想した石油(原油)の需要を示したものである。IEAは3つのケースで分析しているが、いずれのケースでも石油の需要はここ数年がピークになり、それから下がっていくと予想されている。最も可能性の高いと考えられるNZEとよばれるケースでは、2050年に需要量が今の4分の1まで下がってしまうと予想されている。

図―2 今後の原油需要予想(IEA WEO2023より)

このNZEとはネットゼロエミッション、つまりCO2排出量を実質的にゼロとするという意味である。現在、世界の140以上の国々が2050年までにCO2の排出量をゼロにすると宣言しており、NZEはこの宣言どおりに石油削減政策が取られることを前提としたケースである。CO2排出量をゼロにするためには、基本的に石油などの化石燃料を使うことはできない。その結果、石油需要はここまで下がると予想されているわけだ。

といっても2050年にはまだ石油需要は現在の4分の1ほど残っているじゃないかとおっしゃるかもしれない。しかし、これは中国やインドなどがネットゼロ目標を2050年ではなく、2060年や2070年に置いているからである。だから、石油需要の減少は2050年で頭打ちになるわけではなく、それ以降も下がり続けてゼロに近づいていくと予想される。

石油が枯渇する前に石油の時代は終わる

石油は確かに限りある資源ではあるが、その資源を全部掘り出してしまう前に、石油の採掘量が減ってきて、将来はほぼゼロになる。そして未来は石油は埋蔵量を残したまま、需要がなくなってしまうのである。つまり、石油は枯渇することなく、石油の時代は終わりを告げることになる。

よく言われることだが、「石器時代は石が枯渇したから終わったのではない」。それと同じで石油の時代はもうすぐ終わるが、石油が枯渇するから終わるのではなく、石油がその役割を終えてしまい、採掘されなくなるということなのである。だから石油は永遠に枯渇しない。

といっても今すぐ石油の消費がゼロになるわけではない。これから数十年に渡って石油は使い続けるだろう。それでも少なくともその間は、石油が枯渇すると心配する必要はない。

2024年12月10日*4

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