モーターの定格出力は85kW、バッテリーの容量は40kWh (e+は60kWh)。これは電気自動車(EV)日産リーフのカタログに記載されている数値である。でもなぜモーターの単位はkW(キロワット)なのにバッテリーはkWh(キロワットアワー)なのだろうか。これはリーフに限らず、どのメーカーのEVでもカタログにはみんなそういう単位になっている。
実はEVに限らず電気製品に関してはさまざまな場面でkWとkWhが使われているのだが、意外にこのkWとkWhの違いがあやふやで、間違って使用されていることを見かけることがある。例えば、「当社は年間400kWの省エネを達成しました」とか、「この電気加熱炉の出力は5kWhです」とか。これらは間違った使い方である。
このようなkWとkWhの違いは、特に一般の人が知らなくても特に問題なかったのだが、EVが普及するにつれて、このkWとkWhをよく目にするようになってきた。kWとkWhの違いは何なのか。もちろんわかっている人はわかっていて、今さらという感じなのだが、わかってない人はこの機会に覚えてしまったらどうだろう。
まず、kはいうまでもないが1000のこと。 1Wを1000倍したものが1kW。 1Whを1000倍したものが1kWhだ。 でWは仕事率と呼ばれる単位。電気機器の出力を表すと考えればいいだろう。ありていにいえば、電気機器の力強さだ。
そして、hは時間を表す。1Wの電気機器を1時間使ったときの単位が1Wh。つまり、Wは電気機器の出力の瞬間の値、Whはそれを1時間使った時の出力を1時間分積算した値である。
EVでいえば、モーターの出力はkWで示される。これが大きいほど強力なモーターということだ。一方、バッテリーの容量はkWhで示される。これが大きいほど蓄えられる電力が大きく、長距離走れることを示している。
例えば、バッテリーに蓄えられている電力が100kWhだとすれば、この電力を使って1kWのモーターを回せば、100時間回り続けることになる。ここまで知っておけば、一応EVについてのkWとkWhの違いに悩むことはないだろう。
ただ、この関係をもっと詳しく知ろうとなるとちょっとややこしいことになる。やっかいなのは、時間の単位がからむことだ。実はWという単位はもともと1秒当たりの仕事のことなのだ。つまり
W=J/s
ここでJ (ジュール)は仕事の単位。Sは秒数だ。
仕事といっても人間がやる仕事のことではない。物理的な仕事のことで、1N(ニュートン)の力が物体を1m動かすときの仕事を1Jという。また、仕事をする能力のことがエネルギーだから、Jはエネルギーの単位でもある。だからWとは1秒間にどれだけ仕事をしたか、あるいは1秒間にどれだけのエネルギーを発生させたかという数値だ。
例えば、自動車工場の生産能力については「年間20万台」とか、製油所の精製能力を表すときは「10万バレル/日」のように、年間とか1日あたりとか時間を限って表される。ところが発電所の発電能力はMW (メガワット=100万W)やGW (ギガワット=10億W)で表され、時間の単位が入ってない。例えば「年間1GW」でも、「100MW/日」でもなく、単に1GWと言えば発電能力を表す。
発電能力というのだから時間で区切って表す必要はないのかと思ってしまうが、その必要はない。なぜなら、Wという単位にはすでに「1秒当たり」という時間の単位が入っているからだ。何Wの発電というときは1秒あたりに発生した電力エネルギーと考えればいい。
で問題なのはWhだ。WhはWに1時間という時間の単位をかけたもの。Wはもともとエネルギーを秒という時間で割ったものだから、Whはそれに時間の単位を掛けるのだ。だからWhは、またエネルギーの単位に戻ることになる。このあたりがわかりづらいのだ。
1Wは1秒当たり1Jということであるから、これに1時間=3600秒をかければ3600Jということになる。つまり、1Whは3600Jのエネルギーということなのだ。
だったら、WやWhのようなややこしい単位を使わずに、J/sやJを使えばいいようなものなのだが、電気関係の学者やエンジニアは使い慣れたWやWhの方がいいということらしい。ちなみに栄養学で使われるcal(カロリー)もエネルギーの単位なのだが、こちらはなるべくcalという単位は使わず、できるだけJを使えってことになっている。
話をまとめると、 Wは時間の単位が入っていないが、「1秒あたり」のエネルギーを表している。Whはhという時間の単位が入っているが、時間とは関係なくそれ自体でエネルギーを表しているということだ。
2024年12月15日*4