ディーゼル車は軽油でなくて灯油でも走るというのは本当か?

ディーゼル車は軽油でなくても灯油でも走るというのは本当です。灯油でなくてもA重油でも走ります。ただ、ちょっと条件付きです。特に勝手に灯油やA重油混じりの軽油で走行すると脱税になるので要注意です。

軽油と灯油、A重油の違い

中東などから輸入された原油は製油所で、まず分留という操作が行われます。これは原油の成分を沸点の差によって分けることで、これによって原油は粗ガソリン、粗灯油、粗軽油、塔底油などに分けられます。

粗灯油の沸点は170~270℃
粗軽油の沸点は240~350℃

そのあと、粗灯油も粗軽油も水素化脱硫という処理が行われてそれぞれ精製灯油と精製軽油になります。この水素化脱硫というのは、硫黄分を取り除くのが目的で、灯油も軽油もやり方は同じです。実際に同じ装置で、ある日は粗灯油の脱硫、別の日は粗軽油の脱硫と使い分けることもあります。

この処理によって含まれる硫黄分は、規格上、精製灯油の硫黄分は0.0080%以下、軽油は0.0010%以下まで脱硫されますが、実際には精製灯油の硫黄分も軽油と同じ0.0010%まで下げているようです。

結局、灯油も軽油も原油を蒸留して、水素化脱硫を経て精製されます。主な違いは沸点の差だけということになります。

最後に、この精製灯油と精製軽油、さらに塔底油、あるいは精製前の粗軽油や粗灯油を材料にして、適切な割合でブレンドして性状を整え、さらに添加剤を加えて、製品灯油と製品軽油さらに製品A重油が作られます。外観上は、灯油は無色透明、軽油はやや黄色味がかった透明、A重油は茶褐色から黒色をしています。

要するに、市販されている灯油、軽油、A重油は同じような基材をうまくブレンドし、それに固有の添加剤も加えて作り分けているということです。だから、ディーゼル車用の燃料として最適なのは軽油ですが、灯油やA重油でも走らないことはないということです。

実際に灯油が使われることがある

実際にディーゼル車に実灯油が使われる例があるので紹介します。

寒冷地:

軽油はそもそも精製軽油に精製灯油をブレンドして作られています。灯油をブレンドするのは低温時に固まらないようにするためです。だから冬場は多めに、夏場は少なめに灯油を加えています。ただし、これでも軽油が固まってしまうような寒波が来たときや、山岳地帯で特に気温が下がる地域では油槽所(石油製品を一時的に貯めておく基地)で軽油に灯油を混ぜる場合があります。ただしこの場合、脱税にはなりません。税金(軽油引取税)は販売時に徴収されるからです。

緊急時:

東日本大震災のとき、油槽所が被害を受けたためガソリンスタンドの軽油在庫がなくなり、軽油の代わりに灯油を使ってディーゼル車を走らせたという例があるようです。このときは、潤滑性をよくするために潤滑油を少量混ぜたということですが、特に問題なく走ったともことです。ただし、あくまでも緊急避難として使う場合であり、長期間使うと問題が発生するかもしれません。それにこの場合は脱税になります。

軽油の代わりに灯油やA重油を使うときの問題点

灯油を使ったときの問題

ディーゼルエンジンは燃料を高圧にしてシリンダーに吹込んで燃焼させる方式です。特に最近のクリーンディーゼルといわれるものは燃料をごく小さな粒にして噴射させるので、燃料を非常に高圧にする必要があります。この高圧を作り出すために燃料噴射ポンプが使われ、ディーゼルエンジンの心臓部品の一つとなっています。

灯油を使うと、その燃料噴射ポンプが損耗して破壊的なダメージとなることがあります。軽油の場合は、潤滑性向上剤という添加剤が加えられていて、これでポンプの損耗を防いでいます。灯油はこの添加剤が含まれていないので、燃料噴射ポンプを傷つけることになります。

実は、以前は軽油中に硫黄分は0.5%ほど含まれており、この硫黄分が潤滑剤の働きをしていました。しかし、ディーゼル排ガス規制をクリアするために、現在は硫黄分をほとんど含まないサルファ-フリー軽油となっています。そのため潤滑性向上剤を添加してポンプの摩耗を防ぐことになりました。しかし、灯油はそもそもディーゼル車に使うものではないためこれをこの添加剤を添加していないという事情です。

A重油を使ったときの問題

軽油の代わりにA重油を使った場合、通常のA重油には硫黄分が最大2%含まれているので、これが潤滑剤の代わりになって灯油のような燃料噴射ポンプの損耗は起こらないかもしれません。(低硫黄A重油の場合は問題)

ただし、A重油には塔底油という非常に重質な成分が添加されているので、これが黒煙の原因となったり、排ガス浄化装置を劣化させたりする可能性があります。さらに、A重油はセタン価を特に考慮せずに製造されているので、不完全燃焼がおきる可能性もあります。

軽油引取税の問題

軽油には軽油引取税という税金が課されています。現在は一般税化されていますが、もともと地方道路の整備費用として使われる目的税でした。今でも基本的には道路整備に使われる税金です。

一方、灯油は家庭用暖房、A重油はビルの暖房や漁船の燃料などに使われるので道路整備とは関係がありません。だから軽油引取税は課されておらず、その分軽油よりも安い値段で販売されています。

だから、安い灯油やA重油を軽油の代わりに使ったり、あるいは軽油に混ぜて使ったりする人もいますが、これで一般道を走れば脱税になります。これが摘発されると10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金という、かなりの重罪となります。

灯油やA重油には製油所出荷時にクマリンという添加剤が加えられていますので、もし軽油からクマリンが検出されると、灯油やA重油を混ぜていることが分かります。ときどき、警察が検問を行ってディーゼル車から燃料を抜き取って検査していますので、こっそりやったつもりでも見つかってしまいます。

なお、公道を走らなければディーゼルエンジンの燃料として灯油やA重油を使っても脱税にはなりません。例えば、船舶や建設機械がそれにあたります。ただし、ディーゼルエンジンには軽油が最も適した燃料です。

2023年10月7日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。