バイオエタノールはちょっと変わり者

バイオ燃料には様々な種類があり、薪や炭のように、家庭の煮炊きに使われる物から、工場の加熱炉や発電所のボイラーで燃料として使われるもの、自動車や船、飛行機のような輸送機関の燃料として使われるものがあります。

今回は自動車の燃料として世界的にも大量に使われている、バイオエタノールについてお話をしたいと思います。

バイオエタノールは、いわゆるエチルアルコール(ethyl alcohol)あるいは単にアルコールと呼ばれるものです。お酒の成分で、酒精ともいいます。飲むと酔っぱらうあれですね。

バイオエタノールはガソリンと同じように揮発性があり、火を付けると爆発的に燃焼するので、ガソリンの代わりに自動車の燃料にすることができます。

身近なところでは、アルコール消毒にも使われ、注射する前に皮膚を消毒したりするのに使われます。見た感じ、水のように無色透明ですが、水よりもさらさらした感じですね。

皮膚に付けると揮発性があるので、すぐに蒸発してヒヤッとします。いい匂いだと感じる人もいるでしょう。でも、蒸気には引火性があるので火気には十分注意が必要です。

このように、バイオエタノールは比較的なじみのある物質ですが、でも意外と知られていない、不思議な性質もあるのです。

まず、エタノールの一般的な物性を示します。
(エタノールにはバイオエタノールと合成エタノールがありますが、その物性や性質は全く同じなので、ここではまとめてエタノールと言うことにします。)

分子式               C2H5OH
分子量                 46.07
融点                     -114.5℃
沸点                     78.32℃
引火点                 13℃
発火点                 439℃
爆発限界              下限:3.3容量%~上限:19.0容量%(空気中)
蒸気圧                 5.878kPa(20℃)
蒸気密度              1.59
密度                     0.78493g/㎝3(25℃)

エタノールは燃える

燃えるということは、特殊な性質ではありません。有機物ならほどんど燃えます。
エタノールは引火点が13℃ですので、気温が13℃以上あれば、マッチで火をつけると火が着いて燃えます。灯油のように芯がなければ燃えないということではなく、液体の表面から炎を上げて燃えます。

爆発限界が3.3容量%~19.0容量%ということですから、エタノールが蒸発して蒸気になった場合、空気中の蒸気濃度3.3%以上なら火を近付ければ燃えるということです。ただし、逆に蒸気濃度が高くなりすぎて19%以上になれば、火を近付けても燃えません。

だからタンクにエタノールを貯蔵した場合、タンクの中でマッチやライターで火を着けようとしても着火しません。なぜなら、普通の温度ではタンク内の空間は、エタノール蒸気の濃度が19.0%より濃くなっているため、爆発限界を超えているからです。

ただし、タンクのハッチ(マンホール)を開けたり、タンクに穴が開いていたりしていると、空気が入り込んだり、逆にエタノール蒸気が外部に出てきたりして空気と混ざって、濃度が爆発限界内に入ることがあり、このときは火がつきます。

なお、蒸気密度は1.56ですからエタノール蒸気は空気よりも1.56倍重いということです。ですから蒸発したエタノール蒸気は床を這うように広がっていきます。エタノール蒸気が床を這って隣の部屋まで流れて、そこで火が着くということもあるので、注意が必要です。

エタノールは融点が低い

これはちょっと変わった性質です。エタノールは融点(固体から液体に変わる温度)が低い割には沸点が比較的高い温度持っているという、変わった性質を持っています。

水の融点が0℃で、この温度で水は固体の氷から液体の水に変わりますが、これに比べるとエタノールの融点-114.5℃はメチャクチャ低いのです。

ですからエタノールは氷やドライアイスで冷やしても凍りません。-196℃の液体窒素で冷やしてやっと凍ります。

この性質を利用して、エタノールは温度計に使われます。寒暖計のガラス管の中に入っている赤い液体がエタノールです(赤い色を付けてある)。もしエタノールの代わりに水を寒暖計に使ったら、冬の寒いときには凍ってしまって使い物になりませんが、エタノールならずっと低い温度まで(つまり-114.5℃まで)気温を測ることができます。もちろんこんなに気温が下がることはないでしょうが。

一方、エタノールはこのように融点が低い割には沸点が78.32℃と比較的高い温度を持っています。つまり、エタノールは液体で存在する温度範囲-114.5℃から78.32℃までと非常に広いのです。ただ沸点は水(沸点100℃)よりは低いので、加熱すると水より低い温度で沸騰します。

エタノールは有機物なのに水に溶ける

有機物は水に溶けにくいものが多いのですが、エタノールは水にメチャよく溶けます。溶解度が何%などというのではなく、エタノールは水とどんな割合でも溶けます。

ガソリンの密度は0.78 g/㎝3位で水(密度=0.997g/㎝3 @20℃)より軽いので、ガソリンを水と混ぜ合わせると分離して、ガソリンが水の上に浮かんできます。エタノールの密度(比重)は0.785g/㎝3ですからガソリンとほぼ同じですが、水と混ぜ合わせると完全に溶け合ってしまって水の上に浮かんでくるということはありません。

そのまま放っておくと、いつかは水と分離するということはなく、何か分離操作をしない限り、混ざったままの状態が永遠に続きます。

エタノールは蒸発熱が高い

もうひとつ、エタノールには蒸発熱(気化熱)が高いという特徴があります。蒸発熱というのは、液体が蒸発して気体になるときに必要な熱量のことです。

エタノールの蒸発熱は838kJ/kgもあり、これはガソリン(イソオクタン)の蒸発熱272kJ/kgに比べて約3倍も大きいのです。

これは、エタノールを蒸発させようとすると大きな熱が必要。あるいはエタノールが蒸発するとき、周囲から多くの熱を奪ってしまう。ということを意味します。消毒用エタノールを皮膚に付けたときにヒヤッとするのは、エタノールが蒸発するときに蒸発熱として体温を奪っているためです。

また、エタノールをガソリンエンジンの燃料としたときには、この蒸発熱によってエンジン内部が冷やされます。その結果、エンジンの効率が良くなったり、ノッキングが抑えられたりという、好都合な効果もあります。

(2020年4月13日)

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