原油からプラスチックができるまで ナフサだけじゃない意外に知られていないもうひとつの原料

プラスチックは現代社会においてはなくてはならないもの。軽量で丈夫、清潔で加工しやすい、様々な物がプラスチックで作られていて、私たちの暮らしを便利で快適なものにしている。

このプラスチック、石油から作られていることは多くの人が知っているだろう。石油の元は原油という地下から掘り出された、どろどろした黒い液体だ。この原油からナフサというものが作られ、このナフサを原料としてプラスチックが作られている。このあたりまではよく知られたことだろう。

しかし、実はナフサ以外にもプラスチックの原料となるものがあるのだが、あまり知られていない。それはやはり原油から取り出されるガソリンである。つまり、プラスチックはナフサだけでなく、ガソリンからも作られている。

石油からプラスチックを作るには、よく知られているナフサから作る道筋と、あまり知られていないがガソリンから作る道筋があるのだ。ここでは、原油からナフサを経由してプラスチックを作るナフサルートとガソリンを経由して作るガソリンルートを少し詳しく説明したい。

原油からナフサ、ガソリンまで

日本は国内で使用する原油のほぼすべて(95%)を中東からの輸入に頼っている。輸入された原油は一旦、巨大な原油タンクに貯蔵され、通関手続きを行ってから、精製工程に送られる。精製工程の最初に行われるのが常圧蒸留だ。

原油の主な成分は炭素原子と水素原子からできた炭化水素と呼ばれる有機化合物だ。炭化水素はいくつかの炭素原子同士が互いに結び付きあって、その周りに水素がくっついた形をしている。原油に含まれる炭化水素には炭素の数が1個の小さな分子から数十個つながった大きな分子まである。原油はこれら大きさの違う様々な炭素分子が混ざり合ったものだ。

炭化水素分子は含まれる炭素の数が多いほど沸点が高い。常圧蒸留装置ではこの沸点の違いを利用して、原油の成分をいくつかのグループに分ける作業が行われる。例えば、精肉業では1頭分の豚肉をロース、ヒレ、カタ、モモ、バラなどに分けるが、常圧蒸留はそれに似ている。

常圧蒸留装置では原油は350℃程度まで加熱され、これを蒸留塔という高さ50mほどもある巨大な鋼鉄製の塔に通される。この塔の中は空洞であり、数十段の棚で仕切られている。この棚は上に行くほど温度が低く、下に行くほど温度が高くなるようにコントロールされている。

加熱された原油はこの蒸留塔の中で蒸発する。原油の中の最も軽い部分(炭素の数が1個から4個のもの)は気体のまま蒸留塔の最上部から出ていく。この気体は、別の装置で回収されてLPG(プロパンガスやブタンガス)として出荷される。

それより重い成分は、各棚で蒸発と凝縮を繰り返し、結局、沸点の低い成分ほど上の棚、沸点の高い成分ほど下の棚で液体になって溜まっていくことになる。(実際はもっと複雑なのだが、簡単に言えばこういうことだ)そして、蒸留塔で蒸発しなかった最も沸点の高い成分は、そのまま蒸留塔の底に溜まってくる。

つまり、常圧蒸留塔では、送り込まれた原油は沸点の差によって成分が分離され、内部の棚に沸点の低い成分から高い成分へと順番に溜まって行くことになる。実際には、原油は連続的に蒸留塔に送り込まれ、上部から順にナフサ、ガソリン、灯油、軽油として連続的に取り出される。蒸留塔の最も下に溜まった成分は塔底油とよばれ、これも連続的に取り出されていく。

原油の常圧蒸留と石油化学原料製造フロー

こうやって原油から分離された成分のうち、プラスチックなど石油化学の原料となるのがナフサとガソリンで、ナフサはオレフィン系、ガソリンはアロマ系の石油化学原料となる。

ナフサルート

ナフサの成分は炭化水素だが、1分子に含まれる炭素の数が4個から7個程度である。わが国は石油化学が盛んなのでナフサ需要が非常に大きく、国内の製油所で生産される量では全然足りない。足りないどころかナフサの国内需要は石油会社が生産する量の3倍に達する。そのため、石油会社は不足するナフサを外国から大量に輸入している。

製油所で生産されたナフサと輸入されたナフサは特に区別することなく、石油化学工場に送られて石油化学原料として使われることになる。

石油化学工場では、まずナフサクラッカーとよばれる装置でナフサを分解する。この装置ではナフサをスチームと一緒にして加熱炉で840から920℃まで加熱する。加熱するというのは分子の振動を大きくするということだ。ナフサクラッカーのような非常に高い温度で加熱されると、ナフサ分子内の振動が大きくなり、炭素と炭素の結合が切れる。これが分解だ。この分解にかかる時間はわずかに0.03~0.5秒である。

炭素と炭素の結合が切れると、切れたところが二重結合となる。そして二重結合を持つ炭化水素をオレフィンという。オレフィンは不安定なので、化学反応を起こしやすい。このため様々な加工をすることができる。この性質を利用してプラスチックを始めとする石油化学製品が作られることになる。

ナフサクラッカーでナフサを処理すると様々なオレフィンができてくる。炭素が2つのものはエチレン、3つのものがプロピレン、4つのものがブテン、同じく炭素が4つだが二重結合が二つあるものをブタジエンという。これらも炭素数が多いほど沸点が高くなるので、専用の蒸留塔を使って沸点の差によって分離される。

ナフサから作られる石油化学原料(オレフィン系)

なお、ナフサクラッカーでは一旦分解してできたオレフィンが再び結合して、炭素数が6個以上くっついた炭化水素もできてくる。この炭素数の多い成分は蒸留塔の底部に溜まることになる。これをエチレンボトムあるいはTCRといい、これはアロマ系の石油化学原料となる。

ガソリンルート

ガソリンもナフサと同じく炭素と水素から成る炭化水素だが、炭素の数は6個から12個とナフサより多い。ガソリンはよく知られているように自動車の燃料として使われるが、常圧蒸留装置から出てきたばかりのものはオクタン価が低いので、そのままでは自動車燃料として使うことができない。そのため、改質という操作が行われる。

改質とはガソリンを500℃程度まで加熱して、白金やレニウムという金属を主体とした触媒に接触させることにより行われる。この改質反応によって、ガソリンに含まれるパラフィンやナフテンといわれる成分がアロマ(芳香族)といわれる成分に変化する。あるいは直線状のパラフィンが枝分かれしたイソパラフィンというものに変化する。これによってオクタン価が上昇する。

アロマはいわゆる亀の甲といわれる6角形のベンゼン環といわれる構造を持つ分子だ。ベンゼン環はオレフィンと同じように二重結合を持っているが、このように6角形となった場合は、オレフィンのように不安定ではなく、安定的な性質を持つ。

ガソリンから作られたアロマのうち、炭素数が6個のベンゼン環だけものはベンゼン、ベンゼン環に炭素が1個付いたものがトルエン、ベンゼン環に2個の炭素が付いたものはキシレンといわれる。この3つを合わせてBTXとよんだりする。なお、キシレンは、炭素の付き方によってオルソ、メタ、パラおよびエチルベンゼンの4種類がある。

ガソリンから作られる石油化学原料(アロマ系)

改質されたガソリンに含まれるアロマ分はある種の溶剤に溶けやすいという性質があるので、この性質を使ってガソリンからアロマ分だけを取り出すことができる。この方法を溶剤抽出法という。また、ナフサルートで説明したエチレンボトムはアロマ分の多い物質であるから、これからも溶剤抽出法によってアロマ分を取り出すことができる。ただし、量的にはガソリンルートよりかなり少ない。

プラスチックの作り方

プラスチックは炭素原子が1000個以上つながった、巨大な有機化合物だ。大きな分子量(分子の重さ)を持つので高分子化合物とも言われる。このような巨大な化合物は、モノマーと言われる小さな有機化合物分子をいくつもつなぎ合わせて作られる。このモノマーをつなぎ合わせることを重合という。そして、そのモノマーの多くが、ナフサやガソリンから作られているわけである。

日本で作られているプラスチックは生産量の多い物から順番に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、PET樹脂である。これらのプラスチックはどうやって作られるのかを見てみたい。

ポリエチレンはレジ袋などでお馴染みのプラスチック、ポリプロピレンは食品容器などに使われるプラスチックだ。原料はポリエチレンがエチレン、ポリプロピレンがプロピレンだから、いずれもナフサルート、すなわちナフサをナフサクラッカーで分解して作られる。

ポリエチレンもポリプロピレンも原料モノマーが違うだけで、いずれも触媒を使ってモノマーを付加重合という方法で連続的につなぎ合わせて作られている。

つぎに多く生産されているのが、ポリ塩化ビニルだ。これは身近なものでは水道配管やソファーのビニールレザーなどに使われている。ポリ塩化ビニルの原料はクロロエチレンで、これはエチレンに塩素を化合させたもの。エチレンが原料だから、ナフサルートだ。

ポリスチレンはスチロール樹脂ともよばれるプラスチックで、お馴染みの発泡スチロールはこのプラスチックに気泡を含ませたものだ。原料モノマーはスチレンで、これはエチルベンゼンを脱水素して作られるから、これはガソリンルートだ。

近年、よく使われるようになったPETボトルだが、材質はポリエチレンテレフタラート(PET樹脂)といわれるものだ。これはエチレングリコールとテレフタル酸を脱水縮合という反応でつなぎ合わせたもの。エチレングリコールの元の原料はエチレンだから、これはナフサルートだが、テレフタル酸の方は原料がパラキシレンであるから、こちらはガソリンルートである。

なお、合成繊維や合成ゴムもプラスチックと同様にモノマーを重合させて作られる高分子化合物だ。このモノマーもプラスチックと同様に石油を原料として作られている。

例えば、世界最初の合成繊維であり、エンジニアリングプラスチックとしても使われるナイロンは、当初は石炭を原料として作られていた。石炭を乾留させてコークスを作るときにできるコールタールを原料として作られたアジピン酸とヘキサメチレンジアミンという二種類のモノマーを重合させて作られていた。

現在、ナイロンの製法として様々な方法が開発されているが、日本で発明されたナイロン6はεカプロラクタムというものを原料としている。εカプロラクタムの原料はベンゼンだからこれはガソリンルートということになる。

プラスチックが石油からできていることは多くの人が知っているだろう。そして、さらに詳しい人は石油の中の特にナフサといわれる成分から作られていることも知っている。しかし、実は、ナフサだけではなく、ガソリンからも作られていることは意外に知られていない。

プラスチックの種類によってナフサ経由のものもあれば、ガソリン経由のものもある。身近なプラスチックであるが、その製造方法について、少し詳しく説明した。

2013年12月17日

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