【石油のトリビア】屋根のないタンクは何のため? 浮き屋根式タンクの話

製油所や化学工場を上空から見た航空写真で、ときどき屋根のない(ように見える)タンクを目にすることがあります。例えば下の写真のような例です。

浮き屋根式タンクの例

このタンク、なぜ屋根がないのでしょうか。ほかのタンクには屋根があるのに、このタンクだけ屋根がないように見えます。建設の途中なのでしょうか。それとも修理のために屋根を一時的に外しているのでしょうか。

実は屋根がないのではなく、中に貯蔵されている石油や液体の化学製品の上に直接、屋根が浮かんでいるのです。ちょうど落し蓋のような形です。このような形式のタンクを浮き屋根式タンクあるいはフローティングルーフタンク(Floating Roof Tank)といいます。

タンクには主に3つの形式があります。コーンルーフタンク、ドームルーフタンクそしてフローティングルーフタンクです。このうち、コーンルーフとドームルーフには屋根があります。

タンクの種類

フローティングルーフタンクにも屋根はあるのですが、その屋根が中の液体の上に浮かんでいるので、外から見ると屋根がないように見えるのです。

フローティングルーフタンクがこのような落し蓋形式の屋根を採用しているのは、中に貯蔵されている石油や化学製品のような液体の蒸発を防ぐことが主な目的です。

コーンルーフやドームルーフのような固定屋根式のタンクの場合、中の液体と屋根の間に隙間ができます。中の液体が蒸発しやすいとその隙間の間に蒸発した蒸気が溜まってきます。タンクは密閉されているわけではなく、どこかで必ず大気と繋がっていますから蒸発した蒸気が外に出てしまいます。

もしタンクを密閉してしまうと液体をタンクに入れた時に、隙間の圧力が上がってタンクが破裂してしまいます。逆に液体を外に出したときは隙間の圧力が大気圧より減ってしまうため、タンクがぺしゃんこに凹んでしまいます。実はタンクというのは、その大きさの割には非常に薄っぺらな鋼で作られているので、タンクは密閉せず、どこかで大気に繋がるように設計されているわけです。

しかし、タンクに貯蔵されている液体の蒸気が外に出てしまうと大気汚染の原因となってしまいます。もちろん蒸発すると貯蔵している液体の量が減ってしまうので、もったいないという問題もあります。

というわけで、これを防ぐために屋根が液体の上に浮かんで隙間を作らないようにしているというわけです。屋根が液体の上に浮かんでいるわけですから、液体をタンクに入れると屋根は液体と一緒に持ち上がり、液体を外に出すときは屋根は下がって行きます。屋根が下がったときに上から見ると、まるで屋根がないように見えるというわけです。

浮き屋根式タンクの断面図

上の図は、フローティングルーフタンクの断面です。
浮き屋根にはポンツーンという浮き(フロート)が付いていて、この浮きによって液体の上に浮かんでいます。また、浮き屋根と側板の間から蒸気が漏れないようにゴムでできたシール材が挿入されています。またレインシールドという板が取り付けられて、雨が隙間から入ってこないように工夫されています。

また、雨が降った時には、雨水が屋根の上に溜まったりしないのでしょうか。それも考慮されていて、屋根に溜まった雨水はルーフドレインという配管を通って外に排出されます。

また、屋根と側面の間に階段があり、作業員はこの改題を使って屋根の上に上がって点検やサンプルの採取を行うことができます。なお、この階段も固定されておらず、屋根の動きに合わせて自動的に動くように作られています。

なお、屋根が下の方に移動したときに強い風を受けたり、地震が起こったりすると外壁が歪んでしまうかもしれません。これを防ぐためにタンクの外壁には補強のための輪っか(タガ)が嵌められています。これをウインドガーターとよんでいます。

フローティングルーフタンクは、このように様々な設備が必要となるため、建設コストが高くなります。そのため、ガソリンや原油、蒸発しやすい化学薬品の貯蔵に使われ、灯油や軽油、重油など、あまり蒸発しないものの貯蔵には固定屋根式のタンクが使われることになります。

タンクはただ液体を保管しておくだけの設備ですが、環境や安全に考慮して、実はさまざまな工夫が凝らされているというわけです。

2025年1月26日*9

【石油のトリビア】屋根のないタンクは何のため? 浮き屋根式タンクの話」への2件のフィードバック

  1. 東日本大震災から14年

    タンクの圧力の話で思い出したのですが、
    2011年の東日本大震災、市原市の石油会社のタンクで火災が起きて
    (社員を名乗るニセメールが流れたあれです。)
    このときに火災現場の指揮を取った市原市消防局の人のインタビューを
    数年前の千葉日報の記事で読んだことを。
    2022年3月6日の記事で、時間が経っているので全文は登録しないと、現在は読めなくなっているみたいですが。
    あやふやな記憶ですが、消火のために急激に温度を下げてしまうと、タンクの金属が温度変化で壊れ、さらに被害が大きくなるとか。
    そのため、タンクの中の石油がなくなるまで、自然に沈火させるしかないとか。それでも、朝夕の冷え込みや雨による温度変化とかにも考慮しないといけないとか。
    登録してまで読みたいとは思いませんが、石油タンクの火災は山火事の火災以上にやっかいかも。京浜工業地帯には、石油タンクがいくつもあって。
    東日本大震災でもう一つ思い出したのが、根岸の石油会社から被災地に石油を運ぶ話、太平洋側の鉄道が使えず遠回りして石油を届けた話が、確か絵本になっていたような。

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    1. takarabe 投稿作成者

      東日本大震災から14年さん コメントありがとうございます。
      東日本大震災で起こった石油会社のタンク火災ですが、コスモ石油千葉製油所のLPGタンク火災だと思います。LPGは加圧して貯蔵する必要があるため、私が記事で掲げたコーンルーフでもドームルーフでもフローティングでもなく、完全密閉式の球形タンクが使われます。千葉製油所では当時、ちょうど球形タンク1基の点検中で、たまたまタンクの中にLPGではなく水を入れていた状態のときに地震が来ました。水の重さはLPGの2倍近くあるため、球形タンクの支柱が地震の振動に耐え切れずに座屈し、近くのLPG配管を壊して、漏れたLPGに着火。ほかのLPGタンクに燃え移ったと記憶しています。
      LPGタンクは密閉式のため液体の石油より危険で、炎で炙られるとタンクの中でLPGが沸騰して爆発破裂する可能性があります。そのため、火災を消すというより、燃えていない他のLPGタンクが高温にならないように水をかけて冷却して延焼を防ぎながら、燃えるものがなくなって自然に消えるのを待つという方法が取られます。それでも千葉製油所の場合は4基のLPGタンクが爆発したようです。
      石油コンビナートはこのような危険を持っていますが、燃えるものがなくなれば自然に消えるわけで、福島第一原発が14年経った今でも地下で核燃料が燃え続けていることを考えれば、これよりは扱いやすいと思います。
      被災地に石油を運ぶ話。実際に運んだ人は大変な苦労をされたようです。地震で電気やガスは止まりますが、ガソリンスタンドは石油さえ運んでもらえれば、多くの場合、すぐに営業を再開できるため、防災の最後の砦と言われています。これから脱石油が進むと思いますが、防災のことも考えておくべきだと思います。

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