シェルのF1燃料は廃棄物から? ライゼン社の第二世代エタノール技術がすごい

F1(フォーミュラ1)はモータースポーツの最高峰だ。世界最高のドライバーが操り、世界最速のマシンが時速300㎞以上で難関サーキットを疾走する。このF1、その車体やパワーユニット、使用できる材料、燃料や潤滑油に至るまで、細かな規定、つまりレギュレーションが設定されている。

このレギュレーション、技術の進歩や社会情勢などを反映して少しずつ変更されてきた。F1で使用する燃料については2022年から気候変動対策の一環としてエタノールを10%添加することが義務付けられている。

そして、2024年に発表された新しいレギュレーションによると、2026年以降、F1で使用する燃料は100%カーボンニュートラルでなければならないということになった。つまり、燃焼させても空気中のCO2を増やさない燃料だけがF1で使える燃料となるわけである。

では、このカーボンニュートラル燃料規定に各チームはどう対応するのだろうか。F1ではないが、インディ500ではシェルが提供する100%持続可能な燃料が使用されている。おそらくこの燃料が答えのひとつになるだろう。

この燃料、もちろん石油が原料ではない。ブラジルのライゼン社が製造する第二世代のバイオエタノールを原料とし、これにシェル独自の成分を添加してオクタン価100の燃料としたものといわれている。つまりシェルのF1用燃料は第二世代バイオエタノールが主成分となる可能性が高い。

ではこの第二世代バイオエタノール、どうやって作っているのだろうか。

作っているのはブラジルの砂糖とエタノールのメーカーであるライゼン社。シェルとブラジルの企業コザンが出資する合弁会社である。

一般にサトウキビから砂糖を作るときには、収穫されたサトウキビを圧縮して液体の糖蜜を絞り出し、この糖蜜を煮詰めて結晶化させて砂糖を取り出す。結晶化しなかった残りの糖蜜を酒の作り方と同じ方法で発酵させるとエタノール溶液となる。このエタノール溶液を蒸留、脱水して濃度を99.5%程度まで濃縮したものが第一世代のバイオエタノールだ。

一方、サトウキビから糖蜜を絞り出したときに出てくる搾りかすであるが、これはバガスとよばれる。ライゼンはこのバガスをボイラーで燃やしてスチームを作り工場内の動力や発電に使っている。しかし、それでも使いきれなかったバガスは廃棄物である。

ライゼンは、この廃棄されていたバガスを発酵させてエタノールを作る方法を開発した。これが第二世代のバイオエタノールだ。バガスの主成分はセルロースやヘミセルロースとよばれるものだから、セルロースエタノールともいわれる。

なぜいままでバガスからエタノールを作らなかったかといえば、それは簡単である、セルロースやヘミセルロースは今までの方法では発酵しないからである。

実は、セルロース系の原料からバイオエタノールを製造する方法は、世界中で開発が進められてきた。特に米国では国を挙げてこの技術を開発し、数億ドルもかかる製造プラントがいくつも建設されてきた。しかし、失敗に次ぐ失敗。今のところ、順調に稼働しているプラントはひとつもない。それほど難しい技術なのだ。

ところが、政府の手厚い保護を受けて技術開発を進めてきた米国でなく、ブラジルの企業ライゼンが今のところ世界で唯一、セルロース原料からバイオエタノールを作っているのだ。

第二世代バイオエタノールが商業規模で作れるというのは実はすごいことなのだ。ライゼンはバガスを原料としているが、これは今までのバイオエタノール工場から廃棄物として容易に入手可能だからだ。

しかし、バガスから作れるということは、同じ技術を使ってバガス以外のセルロース系原料からも自動車燃料が作れるということだ。例えばセルロース系原料にはどんなものがあるのか。ちょっと挙げてみると、農作物の葉や茎、ワラ、廃木材やかんなくず、生ごみ、ススキなどの雑草類、着古した木綿の衣服などなど。こんなものから自動車燃料を作れる可能性が出てくる。

現在、ライゼンはブラジルのサンパウロ市北西約150㎞に位置するビラシカバ市近郊の自社バイオエタノール工場敷地内で第二世代バイオエタノールを製造している。これによってサトウキビの栽培面積を増やすことなく、バイオエタノール生産量を50%増やせるという。

今後は自社が持つ20か所のバイオエタノール工場に隣接する形で第二世代バイオエタノール工場を併設していく予定で、すでにいくつかの工場で建設に取り掛かっているという。

F1は単にスポーツというだけではない。自動車技術の実験場という意味もある。ここで培われた技術が、市販の自動車の改良に役立った例は枚挙にいとまがない。今回のレギュレーション変更で、さまざまなカーボンニュートラル燃料が試されることになるだろうが、その中でも有力なもののひとつが第二世代バイオエタノールである。

この燃料が一般化されるのなら、将来、自動車燃料は油田ではなく、農場で作られるものになるのかもしれない。

2024年4月12日

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