バイオガソリン E50やE85も売る米国のガソリンスタンド

近年、世界各国で気候変動対策としてガソリンにバイオエタノールを混合する動きが広まってきている。我が国でもあまり知られていないが、ガソリンに10%のバイオエタノールを混合したガソリン、すなわちE10ガソリンを導入する計画が進められており、2028年度には一部のガソリンスタンドで、2030年度以降は全国的に販売が開始される予定となっている。

このバイオエタノール入りガソリン。実は米国やブラジルでは1970年代から導入されており、米国で売られているガソリンはすべてE10ガソリンとなっている。さらにE15やE85を販売しているガソリンスタンドもある。

※バイオエタノール入りガソリンは「E+エタノール添加率」で示される。例えばE15は15%、E85は85%のエタノールが含まれたガソリンであることを示している

今年10月。筆者はアメリカ穀物バイオプロダクツ協会の招待により、バイオエタノールの原料となるトウモロコシの収穫からバイオエタノールの製造、流通およびガソリンスタンドでの販売状況について米国内を視察する機会を得た。

その中で特に米国のガソリンスタンドでは実際どのようなガソリンがどのように売られているのかについて報告する。わが国でも将来、E10やE20が販売される時に(言い忘れたが、わが国ではE10のあと、E20の販売も将来計画として入っている)、どのような形になるのか参考になるのではないだろうか。

訪問先のガソリンスタンドで大歓迎を受ける

今回訪問したガソリンスタンドはイリノイ州。場所はシカゴから20kmほど西に位置するダウナーズグローブという住宅地だ。ここはまだ大都市シカゴの一部だが、シカゴから一歩外に出ると、その周りはいわゆるコーンベルトとよばれる広大なトウモロコシ畑が広がっている。

ここで収穫されたトウモロコシが地元のプラントで精製されてバイオエタノールになり、そのバイオエタノールがガソリンに添加されてエタノール入りガソリンが作られ、ガソリンスタンドで売られている。つまり、地産地消というわけだ。

ここに独立系のガソリンスタンド、パワーマートガスステーションを構えるギリシャ出身のすこぶる陽気な店主から、われわれ日本人18名からなる視察団は大歓迎を受け、いろいろお話を伺うことができた。

写真1 パワーマートガスステーションの外観
日本のGSと外観は変わらないが、スペースに十分な余裕がある

写真2 ガソリンスタンドの販売室 
コンビニになっている(手前のお菓子や飲み物はわれわれ視察団のために店主が用意してくれたもの)

どんなガソリンが売られているのか

日本のスタンドで売られているのはレギュラー、ハイオク、軽油それに灯油である。一方、米国の場合は、一般にレギュラー、ミッドグレード、プレミアムの3種類のガソリンとディーゼル車用の軽油で、灯油は売られていない。このうち、3種類のガソリンはすべてバイオエタノールを10%含む。つまりE10ガソリンだ。

しかし、今回訪問したガソリンスタンド売られているガソリンはこれだけではない。上記の4種類のほかに、E15、E30、E50、E70、E85。つまりそれぞれバイオエタノールを15%、30%、50%、70%、85%含むガソリンも販売されている。消費者は、この多様な種類のガソリンの中からから自分の望む燃料を選んで購入することになる。

このガソリンスタンドに設置されている計量ポンプは2種類ある。

写真3 計量ポンプの操作パネル部分

写真3はその計量ポンプのひとつで、操作パネルの部分を写したもの。消費者はこのパネルのボタンを押して希望の種類のガソリンを購入することができる。

この計量器で販売しているのは右のボタンから順にプレミアム(ハイオク)、ミッドグレード、レギュラーで、ボタンに書かれている数字はそれぞれのガソリンのオクタン価を示している。(ただし、米国のオクタン価は日本とは違ってアンチノック・インデックスといわれるもので、日本のオクタン価より少し低めの数字となっている。)

既に述べたが、この3種類のガソリンはいずれもE10ガソリン、つまりバイオエタノールを10%含むガソリンである。このほかに88と書かれた青いボタンと85と書かれた黄色いボタンがある。このうち88はE15。つまりバイオエタノールを15%含むガソリン用のボタンである。この88という数字はオクタン価を示している。一番左端にある85のボタンの数字はオクタン価ではなくE85を示している。すなわちバイオエタノールを85%含むガソリンである。

ボタンの上にデジタル表示されている数字は値段で、単位はセント/ガロン。もちろん一番高いのがプレミアムで、この日は4.645セント/ガロン(184円/ℓ)。レギュラーでは3.199セント/ガロン(127円/ℓ)。E85が一番安くて2.549セント/ガロン(101円/ℓ)となっていた。(1ドル=150円で換算。また米国は州によってガソリン税率が異なるので日本の価格と単純な比較はできない)

なお、E15は2001年以降に製造された乗用車、E85はフレックス車といわれる特別な車両にしか給油することができない。

写真4 もうひとつの計量ポンプ

写真4はもうひとつのタイプの計量ポンプだ。このポンプも同じように、消費者がボタンを押して購入する油種を選択する。一番右の88のボタンはE15、一番左の85のボタンはE85で、これは写真1と同じである。その間にあるE30、E50、E70のボタンはバイオエタノールの混合率を示している。

オクタン価は操作パネルの右側に小さく書かれているが、バイオエタノール混合率が高くなるほど高くなる。そして価格については逆に混合率が高くなるほど下がっている。つまり、バイオエタノールをたくさん含むガソリンの方がオクタン価が高く、一方値段は安いからお得のように見えるが、バイオエタノールが多いほど燃費が悪くなるので、消費者はこれを考慮しなければならない。

なぜ、このガソリンスタンドでは、こんなに多くの種類のガソリンを販売できるのだろうか。実は、このガソリンスタンドの地下にはC-BOBというエタノールブレンド専用のガソリンが貯蔵されている。

このガソリンスタンドではE30からE70までのガソリンについては、このC-BOBとE85を適切な割合でブレンドしながら自動車に給油するようになっている。このような仕組みのおかげで多くの種類のガソリンを販売できるということだ。

ドライバーが間違って購入しないか

このように多種類のガソリンが売られていると、消費者が間違えて購入しないのだろうかという疑問が湧いてくる。日本でも軽油を軽自動車用の燃料だと間違えて給油してしまう例が後を絶たないという。

このような質問を店主にぶつけてみたところ、E85の販売を開始した当初は間違える消費者もいたというが、最近は知識が浸透してきたおかげで、間違える人はいなくなったという。

写真5 給油についての注意書き

なお、計量ポンプの脇には写真5のような張り紙がしてあった。翻訳すると次のようになる

  • 51%から83%のバイオエタノールを含むガソリンについてはフレックス車のみ
  • フレックス車以外の車両に給油するとエンジンに害を及ぼす
  • E15については2001年以降に製造された乗用車およびフレックス車のみ
  • その他の車両やボート、ガソリンエンジンを持つ機器には使用しないこと
  • このような行為は障害の原因となり、連邦法で禁止されている

日本でもかつてガイアックスのような高濃度アルコール燃料が市販されて、これを給油した車両が不調になったり、火災を起こしたりした事例がある。米国でもE85のような高濃度のバイオエタノールを含むガソリンについては、フレックス車のような専用の車両のみに給油するよう、注意が喚起されているわけである。

日本でE10ガソリンを販売するときの問題点

今回、視察したガソリンスタンドでは、プレミアム、ミッドグレード、レギュラーといった通常のガソリンの他に、E15やE85、さらにE30、E50、E70のようなバイオエタノール10%を超えるガソリンを販売していた。

米国のガソリンスタンドの全てがこのような多種類のエタノール入りガソリンを販売しているわけではないが、最低でもバイオエタノールの含有量は10%となっている。

今後、わが国でも気候変動対策としてE10ガソリンが導入されていくわけであるが、10%のバイオエタノールをどこで混合するのか。製油所や油槽所での混合が検討されているが、今回視察したように、ガソリンスタンドで混合することも考えられる。

また、米国でE85の給油がフレックス車に限定されているように、わが国でもE10ガソリン対応車に給油が限られることになるだろう。それをどのように区別して行うのか、また誤給油どう防ぐのかなどが課題となるだろう。

2025年11月8日

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