■石油製品はすべて原油から作られる
石油製品にはガソリンや灯油、軽油など様々な製品があるが、その原料となるのはすべて原油とよばれる油田からくみ上げられた黒いどろどろした油である。その他の原料としてはバイオエタノールや添加剤があるが、その量はごくわずか。現在、石油製品の原料は99%以上が原油である。つまり様々な石油製品が販売されているが、これらは全て原油というひとつの原料から作られている。これは他の産業とは違った石油精製という産業の大きな特徴のひとつといえるだろう。
例えば、自動車産業や家電産業では、さまざまな部品を集めて一つの製品が作られている。製品は1種類でも、それを構成する部品の種類は何十とか何百とか、場合によっては何万という数になる。
石油産業の場合は、それとはまったく逆だ。原油から必要な成分を取り出し、それを加工して製品にする。つまり自動車や家電のように部品を組み立てるのではなく、原油をバラバラにして、ガソリンや灯油や軽油といった部品を取り出し、それをグレードアップして製品にしているのである。
■売れ残った石油製品は捨てることができない
しかし、それを聞いて、読者の中には不思議に思った方もおられるのではないだろうか。様々な石油製品ができたとして、それがきちんと売れるのだろうかと。
おっしゃるとおり、例えば時計を分解すれば、出てくる歯車やばねやねじの数が決まっている。これと同じ様に、原油から採れるガソリンや軽油や灯油などの製品の量はだいたい決まっている。その量の全てに買い手かつくのだろうか。製品によって足りなくなったり、余剰になったりしないのだろうか。
どんな商品でもそうであるが、売れる量は市場で決まる。できてしまったから買ってくれといっても売れるものではない。では余った商品はどうするのかといえば、普通は廃棄されることになる。
例えば、パンを作って商品棚に並べておくが、どうしても売れ残りが出てくる。そうなれば、別の棚に移して、値段を下げて売る。それでも売れなければ、廃棄処分する。
では、売れなかった石油製品も同じように廃棄するのだろうか。実は石油製品は廃棄することができないのだ。そう言うというと驚かれるかもしれないが、石油製品は売れなくて余ったからといって、捨てることができないのだ。
製油所にはフレアスタックといって細い煙突の先で炎が上がっている。あれは不要になった製品を燃やして捨てているんじゃないのかと聞かれそうであるが、あれは不要といえば不要なのだが、複雑な石油精製装置内の圧力調整のために圧抜きをしたときに出てくるガスを燃やしているものである。売れない製品在庫を意図的に燃やしているわけではない。
石油製品はガソリンにしろ、軽油や灯油にしろ、火が付きやすいので消防法で危険物に指定されている。そんな危険なものを廃棄するといったって廃棄するところがない。そもそも、せっかくお金を出して原油を輸入してきて、手間暇かけて製品にしたものを捨ててしまうなんてことをやったら、もったいないし、利益がでない。
■余らないように製造する
では、捨てることができないとなると、余ってしまった石油製品はどうするのだろうか。答えをいうと、余剰物が出ないように作っているということだ。
似たようなものに電力がある。電力は発電してしまうと基本的に捨てることができない。だから電力需要量に合わせて分刻みで発電量を調整している。石油製品もこれと似ていて、廃棄することはできないので需要に合わせて作るしかない。
ただし、電力は1種類しかない製品であるが、石油製品は何種類もあるから、それぞれに生産と販売のバランスを取って行かなければならない。
■石油製品は何十種類もある
ちょっとわき道にそれるが、石油製品にはどんな種類があるのだろうか。ナフサ、ガソリン、灯油、ジェット燃料、軽油、 A重油、 C重油、アスファルト、潤滑油が主なものである。そのほかBTXと呼ばれる石油化学製品や溶剤などを作っている製油所もある。
ガソリンについては、ハイオクとレギュラーがあり、軽油も季節によって5種類を作り分けている。 A重油は通常品と低硫黄品があり、アスファルトも舗装用と防水(ルーフイング)用があるが、さらにそれぞれに硬さによっていくつかの種類がある。
潤滑油に至っては用途によって、自動車用、油圧作動油、ギヤ油、タービン油、コンプレッサー油、軸受油、グリース、切削油などがあり、それぞれに何種類もの製品がある。さらに1リットル缶、 4リットル缶、ぺール缶、ドラム缶といった荷姿の違いまで勘定に入れれば、その種類は軽く100種類を超えてしまうだろう。
特殊なのはC重油で、硫黄含有量や粘度、流動点によっていくつかの製品に作り分けているが、さらに需要家の要望に合わせてオーダーメードすることも多い。だからこれも何十種類もの製品を作り分けなければならない。
結局、石油製品の種類は潤滑油を除いても数十種類もあるのだ。
■どうやって売れ残りをなくすのか
このように多くの種類を持つ石油製品だが、売れ残りを出してしまうことはできない。どの種類の石油製品も1ℓたりとも余剰生産は許されないのだ。それは至難の業に思える。製油所ではどうやってそれを達成しているのだろうか。
これに大きく貢献するのが各種の二次装置である。例えば二次装置のうちのひとつに分解装置というものがある。一般に重油の販売量は少なく、ガソリンや軽油の販売量は多い。分解装置は重油を分解してガソリンや軽油や灯油にして量を調整してくれるのだ。この分解装置を始めとする二次装置を駆使して各石油製品の生産量は調整することができる。
もう一つ売れ残りを減らす働きをするのはLPモデルというコンピュータープログラムである。LPモデルは石油製品の生産を制約しているさまざまな要因を一次方程式、つまり中学の時にならった y=ax+b というやつに書き出して、これを解いて一番儲けの大きな解を導き出す。
この一次方程式は製油所の様々な要因を表したものだから、何千という数になるが、この大量の一次方程式をコンピューターによって解くと、どの二次装置をどのくらいの割合で運転すればいいか、あるいは買ってくる原油の種類をどれにするかなど、製油所の操業に必要な運転パラメーターをはじき出してくれる。製油所ではこのLPモデルの解にしたがって操業すれば、ほぼ売れ残りを防ぐことができる。
■最後は人間の力で
以上のように石油製品の量は二次装置で調整することができ、その二次装置の運転についてはLPモデルによって計算させて導きだす。これで製油所の生産計画をたてて各製品の生産量を調整して市場のニーズに合わせて数十種類におよぶ石油製品のそれぞれの生産量を調整するわけである。
しかし実際にはこの生産計画どおりにならないこともある。予想よりガソリンの売れ行きが悪かったり、ジェット燃料が大量に売れたりする。また、製油装置の調子が悪くて計画どおりに生産できないこともある。
製油所の二次装置からは、さまざまな石油半製品が出てくるが、これらの半製品は何種類かがブレンドされて、最終的に市場に出せる製品になって出荷される。このブレンド工程では、いつも同じ割合で半製品が混合されるわけではなく、最終的には人間が混合割合を決めている。
この混合割合については製品規格の範囲内で、ある程度は変更することが可能だ。だからある石油製品が余りそうなときには生産量を減らし、余剰となった半製品は他の石油製品にブレンドして使用する。これによって最終的に生産量が調整される。
つまり、最後には人間の経験やノウハウで調整されるのだ。ちょうど、お母さんが冷蔵庫の中の余り物をうまく使って美味しい夕食を作るように。
2026年2月3日


