製油所で燃えている炎は余剰になった石油を燃やしている?

1.あの炎はなに?フレアスタックといいます

製油所や石油化学工場では、工場の煙突の先で炎が燃えていることがあります。これをフレアスタックというのですが、遠くからでもよく目に付くので、あれは何ですかと聞かれることがよくあります。すると製油所のスタッフが「あれは余ったガスを燃やしているんですよ」と言うことがあります。

実は私もそう説明していました。ところが、そのような説明をすると、「製油所では余剰になった石油をフレアスタックで燃やしているんだ」という誤解を受けることがあります。

あるとき、大学の先生から、原油の何%くらいを捨てているのかと聞かれることがありました。いえいえ捨てるものなんてほとんどありませんよと答えると、でもフレアスタックで燃やして捨てているんでしょうと反論されてしまいました。

私も反省。フレアスタックの炎については、もっときちんと説明すべきだったと思います。

ということで、今回のテーマは「製油所で燃えている炎は余剰になった石油を燃やしている?」としました。

2.フレアスタックの一番の目的は圧力調整

フレアスタックで燃やしているガスは余ったから燃やしているわけではありません。フレアスタックにはいくつかの役割がありますが、一番の役割は圧力調整です。

製油所や石油化学工場では原料を高圧にして取り扱うことがよくあります。これは一般に高圧にした方が化学反応が起こりやすくなるためです。(反応の種類によっては低圧の方がいい場合もあります)このように原料を高圧にして取り扱う容器を圧力容器といいます。

圧力容器の圧力は高いほどいいというのではなく、最適圧力がありますので、圧力容器には、圧力をコントロールする調整弁がついています。調整弁は圧力が上がり過ぎると自動的に開いて中のガスを排出し、圧力が下がり過ぎると自動的に閉じます。

こうやって調整弁が開いたり、閉じたりして圧力の調整を自動的にやっているわけです。製油所や石油化学工場では、このような調整弁が数十個はあるでしょう。(数えたことはありませんが。)

圧力容器の圧力は調整弁でコントロールする

ただし、調整弁が開いたときに排出されるガスは可燃性だったり、有毒だったりしますので、そのまま空気中に放出するわけにはいきません。

そこで、放出されたガスは配管を通って集められて、煙突の上から空気中に放出されることになります。このとき、ガスに火をつけて燃やしてしまうことによって、ガスは無害化されるというわけです。

3.フレアスタックは緊急時の頼もしい味方

フレアスタックの役割は圧力調整だけでなく、別の目的もあります。ひとつは、緊急時対応、もうひとつは運転調整による一時的なガスの排出です。

製油所や石油化学工場の設備に火災や漏洩が発生した場合は、できるだけ早く設備の運転を止める必要があります。設備には緊急停止ボタンが必ず設置されており、設備に異常が発生して危険な状態になったときは、このボタンを押すだけで装置は自動的に停止するようになっています。

原料を供給するポンプが停止し、加熱炉が消火され、そのほかポンプやコンプレッサーなども必要に応じて自動的に止まります。圧力容器中の高圧ガスもそのままでは危険なので、調整弁が開いて内部のガスを放出して圧力を下げてしまいます。

あるいは、圧力容器の中で異常反応が起こったりして、圧力容器の圧力が急激に上がってしまうということがないとは限りません。この場合は、調整弁ではなくて安全弁が働いて中のガスを逃がしてしまいます。いずれの場合も逃がされたガスはフレアスタックで燃やされます。

このように緊急事態が発生した時には安全のため、圧力容器のガスが放出されてフレアスタックで燃やされるわけです。ただし、このような緊急事態は10年に1回あるかないかという頻度です。

もう一つの役割は、運転中の一時的なガスの放出です。装置内ではガスが発生する反応があり、多くの場合、発生したガスは回収設備で回収されて有効利用されますが、回収設備が不調だったり、回収装置が止まっていたりすると、回収されないガスがフレアスタックで燃やされます。

製油所や石油化学工場は1日24時間、365日連続して運転していますが、たまに運転を止めたり、運転を再開したりすることがあります。このときはガスの回収設備が動いていないということがあるので、一時的にフレアスタックで燃やされることになります。このようなことはたまにあります。

このようにフレアスタックの炎は余った石油やガスを意図的に燃やしているのではなく、通常は圧力調整のために放出されたガスを燃やしています。あるいは頻度的には少ないですが、緊急事態が発生した時や運転開始・終了時に放出されたガスを一時的に燃やすことがあります。

4.あの炎は省エネに使えないの?

フレアスタックで燃やしているガスは、もったいないので何かにつかえないのという質問もよく受けます。まったくそのとおりです。

圧力調整のために放出されたガスをフレアスタックではなく、燃料ガス配管に流し込んでしまうという方法があります。

そうすれば放出されたガスは燃料ガスとして工場内で燃料として使用され、省エネになります。ただし、燃料ガス配管はフレアスタック配管より圧力が高いので、場合によっては放出されたガスをコンプレッサーで加圧してやる必要があるので、その設備にお金がかかります。

とはいえ、そうやって、少しずつ放出されるガスの回収を心がけてきた結果、最近の製油所や石油化学工場のフレアスタックでは、普通はほとんど見えないくらい炎が小さくなっています。

ただし、ときどき、フレアスタックから大きな炎が噴き出して夜空を赤々と染めている場合がありますが、このときは、製油所や石油化学工場で運転調整を行っているか、あるいは何らかの緊急事態が発生している可能性があります。

【追記】
海外の油田地帯で、真っ赤な炎が盛大に燃えているのを見ることがあると思います。これは日本の製油所や石油化学工場とは違って、採掘された原油と一緒に出てくるガス(随伴ガス)を有効利用することができないため、火をつけて燃やしています。この場合は確かに捨てていると言えるかもしれません。

2019年6月27日
2022年4月6日 改訂

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製油所で燃えている炎は余剰になった石油を燃やしている?」への4件のフィードバック

  1. 乗越雅光

    圧力調整や緊急時対応でガスを放出するという説明では、あのように長時間フレアが発生しているという現象の説明としては不十分です。

    1. takarabe 投稿作成者

      乗越雅光さん。記事を読んでいただいてありがとうございます。

      確かに緊急時対応というのは、年に1回あるかないかで、その時は大規模なフレアが発生しますが、長時間継続することはありません。(通常1時間から数時間)
      しかし、圧力調整は常に行われていますので、これはあまり大きな炎にはなりませんが、長時間燃え続けます。
      石油精製や石油化学のプラントはほとんどの場合、連続装置です。プラントの一方から原料が連続的に送り込まれ、もう一方から製品や半製品が連続的に出てきます。そのプラントが24時間、365日動き続けています。ひとつの製油所にはプラントが十数基あり、その中の圧力容器が全体で数十個あります。その圧力容器の圧力は分間隔で自動的に制御されています。
      そのため、ある圧力容器は圧抜きをしており、別の圧力容器は加圧しているという状態がつづき、常に少量ずつのガスがフレアスタックに送り込まれ、常に燃えているという状態になっています。

      といっても、場合によってはおっしゃるとおり放出されるガスが無くなってしまうことがあります。このときはフレアスタックが消火してしまいますので、緊急時対応ができなくなってしまいます。その対策として実は、フレアスタックにはプロパンガスが送り込まれて常に火が着いた状態を維持することになっています。つまり種火というわけです。
      プロパンガスはオレンジ色の炎なので、よく目立ちます。あるいはプロパンガスの種火を見てフレアがいつも燃えていると思われてるのかもしれません。
      このあたりの解説は不十分だったかもしれません。

  2. 匿名

    2022.6.27夜いつにも増してフレアスタック?ねような炎が長く5.6時間以上続いた。越してきて初めて。9年になるが。何が起きたのか?横浜根岸製油所

    1. takarabe 投稿作成者

      匿名さん。記事を読んでいいただいてありがとうございます。
      根岸製油所は私も一時期勤務したことがあります。その日何があったのかは存じませんが、何か装置の不調でもあってやむを得ずガスをフレアに逃がしたのではないでしょうか。根岸製油所は住宅地の近くにある製油所のため、住民の方々からいろいろとお叱りを受け、気を遣っていたことを覚えています。フレアが大きくなると不安を感じる方もいらっしゃいますので、できるだけ短時間に終わらせるように努力していると思います。

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