3月28日、News Week(日本版)に「パンや土、ワイン、コンクリートからも… 地球上のあらゆるものが電力源に? 発電の先を行く「超小集電」の可能性」という記事が配信された。
この記事で紹介されているのは、トライポッド・デザイン社(中川 聰 CEO)が開発した超小集電という技術だ。これを使えば、自然界に存在するものを媒体に微小な電気を集めて、その電力を使って様々に利用する技術ということらしい。ANNニュースやテレビ東京、東京新聞などでも同様の記事が配信されている。
この「超小集電」という技術。原理は、イオン化傾向が異なる2種類の金属を使って電気エネルギーを得る。イオンになりやすいほうの金属がマイナス極で電子を発生させ、プラス極へ移動する際に電気が生成される仕組みと説明されている。
要はイオン化傾向の異なる2種類の金属を様々な物質(電解質)に突き刺せば微小な電気エネルギーが集まってきて、電力として利用できるということらしい。
トライポッド・デザインは、このような簡単な装置を使って、これまでに河川や土壌、パン、ワイン、コンクリートなど、3000種以上の物質が電解質として集電可能であることを実証したという。
これが実用化されれば、電気の通っていない場所でも電力を使うことができる。しかも、電力を生成する過程で二酸化炭素を一切排出しない上、天候・時間帯にも左右されない。まさに究極のクリーンエネルギーだ。と記事は結んでいる。
この超小集電、本当にこのような画期的でクリーンなエネルギーなのだろうか。
原理は200年も前に発明されたボルタ電池
はっきり言って、これは残念ながら画期的なエネルギー源ではない。この記事で示したような装置を使えば、確かに電力を得ることができるが、しかし、この原理は今から200年以上も前にすでに発見されているのだ。ボルタ電池という。
ボルタ電池というのは、イオン化傾向の異なる2種類の金属を電解液という電気を通す液体に漬けて導線で結んだもの。これだけで電力を得ることができる。電解液は一般に希硫酸液が使われるが、電気を通すものならだいたい何でもいい。
よく使われるのが果物だ。下の写真はレモンに銅板と亜鉛板を刺して導線でつないだもの。

こんな簡単な設備で、電力が発生している。この場合はレモンを使っているが、レモンでなくても、電気を通すものなら大体何でも発電できる。つまり、トライポッド・デザインが発明したと称する超小集電はすでに200年前から見つかっていたということである。
電力の元は自然の微小電力ではなく電極製造時のエネルギー
このNews Weekなどで紹介された超小集電なるものも、ボルタ電池であるから、当然電力を発生させることができて何の不思議もない。多分トライポッド・デザインの装置は、これにコンデンサーを付けて電力を一旦貯めてから、まとめて放出させているのだろう。
ただ、この記事の記者が誤解しているのは(あるいはトライポッド・デザインも誤解しているのかもしれないが)、ここで発生する電力は自然界で発生した電力を集めているわけではない。
ではどうやって発電しているのか。それは電極として電解液に差し込んだ金属から発生しているのである。記事にも説明してあるように、電極がイオンとなるときに電子を発生して電流となる。イオンとなった電極は電解液に溶け込んでいって、次第にやせ細っていく。
つまり、電力は自然界の微小な電力を集めて発生させたものではなく、電極がイオンになって電解質の溶け込んでいくことによって(いわば電極が自らを犠牲にして)、電力を発生させているのである。つまり電気のもとは電極であり、土やパンではない。
電極が全てイオン化してしまえば、いくら土やパンがあっても発電はできなくなる。そもそも土やパンがエネルギー源ではないからだ。電極が溶けて減ってしまえば、電極を交換しなければ発電は続けられない。
この方法で電力を作れば、確かに発電時にはCO2は出さないが、一方でここで使われている電極を精錬するときに使うエネルギーを発生させるときにCO2が発生している。超小集電といわれる装置で発生した電気エネルギーは、自然界から集めたものではなく、電極の精錬時に使用されたエネルギーを取り出しているに過ぎないということだ。
2025年4月4日*13
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