チキンレース @ダナン・ベトナム

チキンレースという言葉をご存じでしょうか。チキンとは臆病者という意味。だからチキンレースは臆病者のレースということです。かつてジェームス・ディーンが主演した「理由なき反抗」の中でチキンレースが出てきます。

ジェームス・ディーン扮するジムがライバルのバズとチキンレースをやる。二人はそれぞれ車に乗って崖に向かって突っ走る。そのまま走れば崖から落ちてしまうので、どこかで止めなければいけないのですが、怖気づいて先にブレーキをかけた方が負けというずいぶん危険なルールです。この勝負がどうなったかは、まだ映画を見ていない人のために語らずにおきましょう。

さて、博士と私はダナンで、思いがけずチキンレースに付き合わされることになってしまいました。この日、私たちはクワンガイという町に行く予定でした。ダナンからクワンガイまでタクシーで3時間ほど。ほかに鉄道もありますが、あまり利用されていないと聞いたのでタクシーを使うことにしました。タクシーといっても、日本に比べると料金がずいぶん安いのでお得です。

ホテルのベルマンにタクシーを呼んでもらい、クワンガイへ行きたいとタクシーの運転手に通訳をしてもらって、タクシーに乗り込みました。ちなみにこの付近のタクシー運転手はほとんど英語が分からないし、さらにクワンガイとかカンガイとか、カタカナの発音で地元の人に話しても、これも通じません。ちょっと発音が違うみたいなんです。だからホテルでタクシーを呼んでもらって、行先まで伝えてもらうことが必須なのです。 

タクシーは順調に走り出しました。ダナンの町もバイクは多いですがハノイほどでもなく、道も広いから快適。あとはクワンガイに着くだけだとすっかりリラックスしていました。ただし、それはダナンの市街地内のこと。郊外に出ると様子が変わってきます。ダナン郊外からクワンガイまでは片側一車線、往復二車線の一本道です。決して道はよくないし、あちこちで工事をしているからさらに乗り心地が悪くなる。ガタガタガタガタ。

外には美しい水田が広がっている(画像がぶれていてすみません)

市街地を抜けると、タクシーは、この乗り心地の決して良くない細い道路を高速で走りだしました。もちろん揺れるけど問題は揺れではありません。この道路は細いけれども、このあたりの幹線道路だから、いろんな車が通っています。乗用車だけでなく、トラックやバスやもちろんバイクも通る。中には遅い車もいるわけです。

わがタクシー運転手は遅い車がいると躊躇なく追い越しをかけていきます。片側一車線だから、追い越しは当然、反対車線にはみ出してしまいます。遅い車がたくさんいる場合は、それらの車をすべて追い越すまで、タクシーは反対車線を高速で走ることになります。

もちろん、対向車がこちらにやってくるわけですが、運転手はなかなか車線に戻ろうとしない。ああ!あわや正面衝突という直前で、わがタクシーは遅い車の列を追い抜き、ひらりと車線に戻るのです。

対向車が来るまでに車列を追い越せなかったらどうなるのかと思うと怖くなりますが、とりあえず(いつも幸いなことに)、対向車とぶつかる前にひらりと車線にもどることができるのです。ひらり、ひらりとね。

もっと慎重に運転してくれよと運転手に頼むのですが、いかんせん言葉が通じません。英語で、ゆっくり、ゆっくりと言っても(スロー、スローという簡単な英語なんですがね)、トイレかい?とか、ここで降りるのかい?というジェスチャーをしてくる。こりゃだめだ。あぁ儘よ、なるようになれと、しまいにはあきらめてしまいました。

ところで、驚いたことに、わがタクシーの運転手だけが運転が荒いのかというとそうでもないのでです。対向車も車線をはみだしてこちらに向かってくるし、わがタクシーでさえ追い抜いていく車もある。ときどき大型のバスやトラックでさえ、わがタクシーを追い抜いて行くのですが、これはなかなか迫力があります。

いちばんひやりとしたのは、二重追い越しの場面です。わがタクシーが遅いトラックの列を追い越そうと反対車線に出たとき、今まで後ろにいた大型バスが、わがタクシーをさらに追い越そうとしたのです。つまり、トラック、タクシー、バスが両側二車線の道路いっぱいになって並行して走り始めたわけです。

そうこうするうちに、対向車がこちらに向かってきました。おいおいどうなるんだ。ところが、どの車もブレーキをかけません。バスもわがタクシーもトラックも並行に並んだまま走り続け、一方対向車がこちらに向かってくる。これでは理由なき反抗のチキンレースじゃないか。だれかブレーキをかけてくれ。こんなことに命を懸けたくはない。

結局どうなったかって、結局だれもブレーキをかけなかったのです。トラック、タクシー、バスが少しずつ右(ベトナムは右側通行)によけ、対向車も反対側によけて路側帯に片方の車輪を乗りあげたまま走行し、とにかくぶつからずに通過しました。そのあと、タクシーがトラックを追い越して走行車線に戻り、さらにバスがタクシーを追い越して走行車線に戻りました。

ちなみに、私はインドでもチキンレースを経験したことがあります。ニューデリーから有名なタージマハールのあるアグラへ行く途中のことでした。ここも一本道で、片側一車線、両側二車線の道路なのですが、けしからんことに運転手は最初から走行車線を走る気がないのです。

どこを走るかというと、センターラインをずっと走り続ける。ユーミンの歌じゃないけれど、これじゃあまるで滑走路じゃないか。そのうち対向車がやって来る。すると、その対向車も当然のようにセンターライン上を走って来るのです。そのまま両者が走り続ければ、正面衝突する。ところが両者とも譲ろうとしない。ああ、ぶつかるという寸前にどっちかが避ける。避けた方がチキンというわけですね。こんなことを繰り返しながらアグラに着いて見たタージマハールは綺麗だったな。

その点、ベトナムはまだましです。少なくとも運転手には走行車線を走ろうとする意志がある。「博士、今の見ました?そうとうやばかったですよね。」と話しかけたら、博士はぐっすりお休みでした。まあ、とにかく無事だったからいいや。

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2019年8月12日

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