グリーンイノベーション 再生可能な合成燃料(ディーゼル、ジェット)の開発戦略

2030年代半ばにガソリン車販売停止―ディーゼル車、ジェット機はどうなる

今年1月10日「政府は2030年代半ばにガソリン車の販売を停止し、電動車とすることを検討している」という内容の記事を大手メディアが大々的に報道しました。ただし、この記事は政府の公式発表ではなく、その詳細もまだ不明です。

そのため、ガソリン車の販売を停止するとしても、ディーゼル車が含まれるかどうかは明らかではありません。(欧州ではディーゼル車も含めて廃止としている国もあります)前回、私は乗用車は電動化するにしても、トラックやバスなどのディーゼル車は残すべきだと提案しました。

その理由は、バスやトラックなど大型車の電動化技術はまだ遅れていること。および大規模災害時や有事の際に電気の供給が止まった場合を考えると、すべての自動車を電動化すべきではないと考えるからです。

今のところ、まだ政府がディーゼル車廃止に言及していませんが、このような技術的な問題や災害時対応を考えると「ディーゼル車も含めて電動化する」と政府も自信をもって言い切れないというのが現状なのではないでしょうか。

一方、前回は述べませんでしたが、航空機の分野に目を移すと、電動化できるのはプロペラ機のみで、現在主流となっているジェット機は電動化することが技術的に困難でしょう。というより、困難という段階ではなく、絶対的に電動化は無理と言っていいと思います。

したがって、当面、電動化するとしても対象は乗用車のみ。トラックやバスなどはディーゼルエンジン、航空機はジェットエンジンという住み分けの形にならざるを得ないのではないでしょうか。

では、温室効果ガス排出量ゼロ目標はどうなる

では、従来どおりディーゼル車やジェット機が残ったとして、政府が目標とする2050年までに温室効果ガス排出量を実質的にゼロ、つまりカーボンニュートラルにするという目標はどうやって達成するのでしょうか。

実はディーゼル車やジェットエンジンはそのままでもカーボンニュートラルを実現する方法があります。それは、燃料として再生可能合成燃料、すなわち再生可能ディーゼル燃料や再生可能ジェット燃料を使えばいいということです。

再生可能合成燃料は今までの軽油あるいはジェット燃料と性質がほぼ同じなので、今までと同じディーゼル車やジェット機をそのまま使うことができます。また、現在の石油系燃料の輸送基地や輸送機関、ガソリンスタンドもほとんどそのまま使うことができるので、燃料供給インフラを新たに作る必要もありません。

また、燃料の備蓄が可能なので、災害時や有事の際にも、これらの交通機関は活動することができます。

このような再生可能合成燃料は世界中で研究開発が進められており、一部では既に実用化され、商業ベースに乗っている物もあります。なんでもかんでも電動化する、電動化以外は考えられないというのではなく、今は2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、さまざまな手段を検討すべきだと思います。

では、再生可能合成燃料をどうやって作るのか、以下に述べていきたと思います。

再生可能合成燃料の開発戦略

言うまでもありませんが、現在のディーゼル燃料(軽油)やジェット燃料は石油から作られており、その成分は炭素(C)と水素(H)からできています。ディーゼル燃料は12個から20個、ジェット燃料は9個から15個の炭素が鎖のようつながり、それぞれの炭素に水素が2個から3個くっついた形をしています。

このように、ディーゼル燃料もジェット燃料も化学構造的には比較的シンプルな形をしていますので、炭素と水素を同じようにつないでいけば、原理的にはディーゼル燃料もジェット燃料も比較的簡単に合成することができます。

その製造から消費までをごく簡単に書いたものが以下の図です。
再生可能合成燃料を作るためには、いろんな方法が研究開発されていていますが、いずれの技術もこの図の形で表すことができます。

再生可能合成燃料の基本的な製造と消費

原料は水と空気:ただし夢の燃料ではない

再生可能合成燃料を作るには、水素と炭素をつなぎ合わせればいいのですが、その原料の水素と炭素はどこから手に入れるのでしょう。
水素は水から取り出すことができます。水素は水の素と書くくらいですから。一方、炭素は炭の素と書きますから、炭から取り出すことは可能ですが、ここでは空気中の二酸化炭素CO2を使うことにします。

つまり、再生可能合成燃料は、水と空気から作られるわけです。

こうやって水と空気から作られた再生可能合成燃料はディーゼル車やジェット機のエンジンで燃やされます。すると、またCO2と水(水蒸気)になって排気口から排出されます。

エンジン燃焼で発生する水とCO2の量は、この燃料を合成するときに使った原料の水とCO2の量と必ず一致します。だから、ディーゼル車やジェット機がこの合成燃料を使ってCO2を発生させても、それはそもそも燃料を作るときに空気の中から取り出したCO2と同じになるわけですから、大気中のCO2の量は変わらないことになります。

つまり、このような方法で作られた合成燃料は燃やしても空気中のCO2を増加させないので、すなわち、カーボンニュートラルな燃料ということになります。

もちろん、再生可能合成燃料を作るときに原料として使うCO2は、必ず空気中のCO2を使わなければなりません。

よく、石炭や天然ガスを使う火力発電所や工場の煙突から出るCO2を使って合成燃料を作るという話が出てきますが、この場合CO2は化石燃料から出てきたものです。そのため、そのようなCO2を使って燃料を作り、ディーゼル車やジェット機で使用した場合は、結局大気中のCO2を増やしてしまうことになります。このような合成燃料は再生可能燃料とは言えません。

エネルギー収支

水と空気から燃料を作るというと、そんなうまい話があるわけない。うそっぱちだと思う人がいるかもしれません。しかし、うそではありません。なぜなら、再生可能合成燃料は単に「うまい話」ではなく、それなりの代償が必要となるからです。それはエネルギー収支の問題です。

再生可能合成燃料を作るときの原料となる水とCO2はいずれも非常に安定な物質です。安定ということは、つまり持っているエネルギーが低いということです。このエネルギーの低い原料を使って、燃料というエネルギーの高い物にするためには、必ず大きなエネルギーを外部から持ち込まなければならないということになります。これを投入エネルギーと呼ぶことにします。

一方、製造された再生可能合成燃料は、ディーゼル車やジェット機で使われることによって、ディーゼル車や飛行機を動かすエネルギーを発生することになります。これを利用可能エネルギーと呼ぶことにします。

この投入エネルギーの量と利用可能エネルギーの量は原理的に同じになります。つまり使ったエネルギーと得られるエネルギーは同じになります。当たり前と言えば当たり前の話なのですが。

しかし実際には、合成工程や燃料を運搬する工程、さらにはエンジンでの燃焼工程や動力伝達工程で、それぞれエネルギーロスが生じるので、使ったエネルギーよりも得られるエネルギーは小さくなってしまいます。
ですから、できるだけエネルギーロスの少ない合成燃料の製造技術を開発することが必要となります。

ちなみに、どんなに研究開発を進めても利用可能エネルギーが、投入エネルギーよりも大きくなることはもちろんありません。もし、そのような話があれば、それはまさしく「うまい話」であって、疑ってかかるべきなのです。

なお、ここで気を付けなければならないのは、投入エネルギーは必ず太陽光や風力などで得られた再生可能エネルギーでなければならないということです。※

例えば、化石燃料を使った火力発電で作られた電力や化石燃料を燃やして得られる熱などを使った場合は、その電力や熱を作る過程でCO2が発生してしまいますので、この場合は再生可能合成燃料とはなりません。

※投入エネルギーとして原子力を使えばCO2を増加させません。ただし、この場合はウラニウムを消費して、放射性廃棄物を排出していくので再生可能とは言えません。

具体的な合成方法

では水とCO2からどのようにして再生可能合成燃料が作られるのでしょうか。つまり合成工程として具体的にどのような方法が使われるのでしょうか。
これについては、様々な合成方法が提案されていますが、主なものは光合成とフィッシャー・トロプシュ合成(FT合成)です。

次回からは、① 光合成 と ② FT合成 および ③ 光合成とFT合成を組み合わせた合成法 の3つについてさらに詳しく紹介したいと思います。

2021年1月17日

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