荒唐無稽な話ではない

2020年10月22日、菅総理大臣が地球温暖化対策として2050年に国内の温室効果ガス排出を実質ゼロとすることを目指す方針を固めたというニュースが飛び込んできました。

欧州では、2050年に温室ガス排出を「実質ゼロ」にする方針を掲げた「欧州気候法案」の成立を目指す動きがあり、また中国では習近平国家主席が国連総会で「2060年までに排出効果ガスの実質ゼロを実現できるように努力する」と表明しています。

今回の方針に対して、そんなことは実際には無理だとか、各国の動きに押されて国民に高い電気料金を押し付けるつもりかなどと批判する向きもあるようです。しかし、2050年までに実質排出ゼロは決して無理でも荒唐無稽な話でもありません。

その理由は、また別の記事で詳しく述べたいと思いますが、再生可能電力のコストが世界的に大幅に低下しつつあることが背景にあります。

2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロが実行に移されるとして、では自動車はどうなるのでしょうか。今のようにガソリンや軽油で自動車が走っていては目標を達成できませんから、いつかは別の動力源を持った自動車に代わって行くはずです。

それはいつごろ、どんな車になるのでしょうか。あるいは、もっと身近な話として、私たちが、次に買い替える自動車はどんな車になるのでしょうか。今使っているガソリン車は使えなくなるのでしょうか。

温室効果ガスゼロ車への考えられるスケジュール

自動車の買い替えの期間はだいたい8年から9年と言われていますので、おおざっぱに10年が自動車の寿命と考えることにします。すると、2050年に温室効果ガス排出量をゼロにするなら、2040年には自動車からの温室効果ガスの排出量をゼロにしておかなければならないという計算になります。

しかし、2040年に急に温室効果ゼロ以外の車を禁止するとするわけにはいかないので、それまでに、政府の指導で計画的に温室効果ガス排出ゼロの車(以下ZEV=Zero Emission Vehiclesとよぶことにします)を増やしていくことになるでしょう。

と考えると、あなたが今年新車を買った(多分ガソリン車)として、これを10年後の2030年に買い替えるとすると、そのときはZEVかそれに近い新しいタイプの車が選択肢に入ってくると思われます。しかし、まだそのときはガソリン車でもいいかもしれません。

ただ、ガソリン車を買ったとすると、ガソリンスタンドの数が次第に減ってきますので、どんどん使いづらくなっていくことになるでしょう。そして、さらにその次の買い替え時期の2040年には、もうガソリン車は販売されていないかもしれません。

では、どんな車が次に買うべき車になるのでしょうか。考えられる選択肢は以下のとおりです。

・電気自動車(EV)
・燃料電池車(FCV)
・プラグインハイブリッド車(PHEV)
・100%バイオ燃料車(フレックス車)
・ガソリン車(CCUガソリンによる)

それぞれについて、現在の状況と今後の可能性をまとめてみました。

電気自動車(EV=Electric Vehicles)

電気自動車はバッテリーに蓄えられた電気を使って、ひとつまたは複数のモーターで車輪を回転させて走行する自動車です。バッテリーに蓄えられた電気が再生可能エネルギーあるいは原子力で作られたものであれば温室効果ガス排出量がゼロになります。

電気自動車は、モーターで駆動されますが、モーターはガソリンエンジンに比べて、エネルギー効率が高く、はるかに静かで、加速が容易で、かつ回生ブレーキによってさらにエネルギー効率を高めることができます。そしてガソリン車よりメンテナンスの面でも有利です。

しかしながら、バッテリーを充電するために長時間を要し、走行距離も短く、ガソリン車に比べて価格も高くなります。

以前紹介した( 世界燃費の悪い車をランキングしてみたら驚きの結果が…あの名車がつぎつぎと参照)アメリカのエネルギー省と環境局が編集したフュエルエコノミーガイドブック2020年版(以下FEG2020)には、アメリカで市販されているEVとして、日本の日産も含めて13社、42モデルのEVがリストアップされています。

電気自動車の例(空気取り入れ口もエグゾーストノズルもない)

同じく、このガイドブックによると、1充電あたりの走行距離はだいたい100マイル(160㎞)から300マイル(480㎞)の間ですが、400マイル(640㎞)を超えるものもあります(テスラModel S Long Range Plus)。400マイルといえば、もうガソリン車にそれほど引けを取らない距離です。

ただし、充電時間は走行距離の長いモデルほど長くなる傾向があり、フル充電するには短いもので4時間から、先ほど挙げた長距離走行モデルで15時間もかかります。

電気自動車は今のところ、夜間に自宅のコンセントから充電しておき、近場のドライブを楽しむなら不便はないでしょう。しかし、長距離走行を行う場合は、前もって受電ポイントと充電時間を確保しておく必要があります。それを忘れるとドライブの途中で動かなくなるという危険があります。

燃料電池車(FCV=Fuel Cell Vehicles)

燃料電池車は水素を燃料として燃料電池によって電気を生み出し、モーターを回すことによって走行します。燃料電池は電池と名前がついていますが、乾電池や蓄電池ではなく一種の発電機と考えた方がよいでしょう。ただしエンジン発電機のような可動部分がないので静かな発電機です。

燃料電池は、ガソリンエンジンよりもエネルギー効率が高く、排出されるのは水だけです。しかも水素は水を電気分解することによって無尽蔵に取り出すことができるので、究極のエネルギー源であるかのように言われています。( 水素は海水からとりだせば無尽蔵のエネルギー源になる? 参照)

しかし、現在の水素は、電気分解ではなく、ほとんど天然ガスや石油、石炭などの化石燃料から化学反応によって作られていますので、水素を製造するときに温室効果ガスを排出します。また、水を電気分解して水素を製造する場合でも、その電力が化石燃料を使って発電所で作られている場合は、発電所で温室効果ガスを排出します。

ですから、再生可能エネルギーや原子力によって作られた電気で水を電気分解して作られた水素をつかわなければZEVとはなりません。この関係は電気自動車と同じです。(グリーン水素でなければ意味がない―環境省の水素ステーションは地球に優しくなかった  参照)

燃料電池車は電気自動車に比べると走行距離が長く、燃料の充填もガソリン車と同じくらいの時間で済みます。ただし、燃料電池にはその部品に白金のような貴金属が使われているためどうしても車体価格が高くなります。

燃料電池車の一番の問題点は、燃料の水素を供給するためのインフラが整っていないということです。燃料電池車に水素を充填できるいわゆる水素ステーションは全国に135か所(2020年10月現在)ありますが、ガソリンスタンドの3万か所に比べれば非常に少ない数です。

水素ステーションの例

ということで、燃料電池車を購入しても、水素ステーションが近くになければ水素を充填できず、また遠距離ドライブの際には、水素ステーションが近くにない場所には行くことができないというのが現状です。

水素ステーションには水素をどこかの工場で作って運び込むオフサイト型と、水素ステーションで水を電気分解して水素を作るオンサイト型がありますが、どちらにしても国内全土に水素ステーションを配置するとなると莫大な資金と時間がかかることになります。

現在のところ、燃料電池車は市販の乗用車として、トヨタのMirai、ホンダのClarity Fuel Cell、ヒュンダイのNexoなどがありますが、その種類も台数もまだ非常に少ない状況にあります。

プラグインハイブリッド車(PHEV=Plug-in Hybrid Electric Vehicles)

現在トヨタやホンダなどから発売されて普及しているハイブリッド車はエンジンとモーターの両方を駆動源とする自動車ですが、プラグインハイブリッド車はモーターを動かすためのバッテリーに家庭用電源などから充電できるようにした自動車です。

これによって、電気自動車の走行距離が短く、充電に時間がかかるという欠点を改善することができます。より電気自動車に近づいたハイブリッド車と言えるかもしれません。

例えば、夜間に家庭用コンセントから充電しておき、通勤や買い物など近場の用途に使うときは主に電気で走る。長距離を走るときはガソリンエンジンを併用して走行距離を延ばすという使い方ができます。

プラグインハイブリッドには直列型(シリーズ型)と並列型(混合型)があります。
直列型は車輪を動かすのは電動モーターだけで、ガソリンエンジンは発電機として働きます。近距離の場合は電気のみで走り、長距離走行によってバッテリーの電気が減ってきたらガソリンエンジンが動いて、バッテリーに充電する仕組みです。

並列型は電動モーターとガソリンエンジンの両方が車輪につながっており、モーターだけで走行する場合とエンジンだけで走行する場合、両方が同時に働く場合の3つのケースが自動的に選択されます。

このようにプラグインハイブリッド車は電気自動車のようにバッテリーの残量を気にせずに走ることができるという利点がありますが、ZEVではありません。ガソリンエンジンを使っているときは当然温室効果ガスを排出しますし、大気汚染物質も排出します。

FEG2020 にはプラグインハイブリッド車として20社45モデルがリストアップされており、この中には日本車としてトヨタ、ホンダ、三菱、スバルが含まれています。

バッテリーへの充電時間は2時間から9時間。走行距離は電気走行を主としたものは200マイル(320㎞)、ガソリンエンジンと併用したものには600マイル(960㎞)を超えるものもあります。

100%バイオ燃料車(Flex Vehicles)

バイオ燃料にはガソリン代替となるバイオエタノールと軽油の代替となるバイオディーゼルがあります。ここでは主にバイオエタノールについて述べていくことにします。

バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビなどを原料として作られたもので、ガソリンと同様に内燃機関の燃料として使用することができます。その燃焼に伴ってCO2を排出しますが、これに含まれる炭素分と酸素分は、トウモロコシやサトウキビが、その生育に伴って大気中から吸収したものですから、結果として大気中のCO2を増やしません。温室効果ガスの排出はゼロと考えることができるわけです(カーボンニュートラルといいます)。

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現在のバイオエタノールはトウモロコシやサトウキビから作られている

現在でもアメリカのガソリンはほとんど10%のバイオエタノールが含まれていますし、ブラジルのガソリンには20%から25%の範囲で普通にバイオエタノールが混合されています。

ここでいうバイオ燃料100%車は、このようなガソリンとバイオ燃料の混合燃料ではなく、バイオ燃料だけで走行できる自動車のことです。これによって実質的にZEVにすることができます。

実はブラジルでは既に100%バイオエタノールを燃料とした自動車が1980年代から走っており、さらに2003年からは100%バイオエタノールとガソリンのどちらかを選択して使えるフレックス車と言われる自動車が市販されています。

現在、ブラジルで販売される新車の約半分がフレックス車と言われており、 あまり知られていませんが 、日本のトヨタ、ホンダ、日産、三菱、それにオートバイのヤマハもブラジルではフレックス車を販売しています。

一方、アメリカではバイオエタノール含有量を85%まで高めた燃料(E85)を使える自動車がシボレー、フォードおよびGMCの3社から合計22モデル販売されています。

このようにバイオ燃料100%車はすでに技術的には完成しており、今までのガソリン車の技術をほとんどそのまま使うことができるという利点があります。

さらに、バイオエタノールは今までのガソリン供給インフラをそのまま使うことができます。例えば、ガソリンスタンドに設置されている地下タンクのうちのひとつをバイオエタノールに転用すれば、同じガソリンスタンドでガソリンとバイオエタノールの両方を販売することができます。

フレックス車は従来のガソリン車とほぼ同じなので、車両価格も比較的安価で、信頼性も高くなります。また、フレックス車はガソリンかバイオ燃料のどちらかを選択できるので、購入初期にはガソリンで走行し、温室効果ガスの排出規制が厳しくなったらバイオ燃料に切り替えるという方法が使えるかもしれません。

問題点としては、バイオエタノールの持つエネルギー少ないので、1リットルあたりの走行距離がガソリンに比べて60%くらいに低下してしまいます。また、ガソリン車と同様に排気ガス(温室効果ガスではない)を排出することになります。

ガソリン車(CCU=Carbon Capture and Utilization)

温室効果ガスゼロを目指す2050年以降、ガソリン車のように温室効果ガス(CO2)を排出する自動車は使えなくなるのでしょうか。いいえそうとも限らないと言えば、驚かれるかもしれません。

今、火力発電所の排気ガスや大気中からCO2を回収して地中や深海に貯蔵するCCSという技術が開発されていますが、回収されたCO2を貯蔵や廃棄するのではなく、それからガソリンや化学製品を作る研究が盛んになってきました。

誤解されていることが多いのですが、火力発電所から回収されたCO2を使う場合は、温室効果ガス排出量はゼロにはなりません。単にCO2を2度使いしたということです。

しかし、大気中のCO2を使ってガソリンが製造できれば、これはバイオ燃料と同じように、カーボンニュートラルが成り立つので、温室効果ガス排出ゼロということになります。

この技術が実用化されれば、今までと同じガソリン車をつかっても温室効果ガスゼロを達成でき、ガソリン供給インフラもそのままでかまわないという、いいことずくめのような話になります。

ただし、CO2からガソリンを作るためには、水素が必要となりますが、これは燃料電池車で述べたように、再生可能電力によって作られた水素でなければならないということになります。

この水素を作るための再生可能電力が豊富にあるのなら、わざわざCO2からガソリンを作る必要はなく、電気自動車や燃料電池車でいいじゃないかという議論もあります。

では何が本命か

では、温室効果ガスゼロ時代にどの車が本命になるのでしょうか。

電気自動車
充電時間が長い、走行距離が短いという問題もありますが、やはりこれが本命ではないでしょうか。特にバッテリーの改良が進めば一気に普及していく可能性があると思われます。

燃料電池車
電気自動車より充填時間が短く、走行距離も長いという利点がありますが、水素インフラの整備に巨額の資金が必要となることを考えれば、筆者の個人的な意見として普及は難しいと考えます。

プラグインハイブリッド車
電気自動車の欠点をガソリンエンジンで補うという観点から良くも悪しくも、電気自動車とガソリン車の中間と言う感じ。次の買い替え(2030年代)にはいいかもしれませんが、2040年以降の温室効果ガスゼロ時代には生き残れないと思います。

100%バイオ燃料車(フレックス車)
一番の問題は広い農地のない日本でバイオ燃料をどのように製造するかということですが、石油と同じように海外から輸入してもいいかもしれません。

近年、農林業廃棄物や雑草、下水汚泥などからバイオ燃料を製造する技術が研究され、一部で実用化されています。これが普及すれば日本でもバイオ燃料が製造される可能性があります。( うんこでジェット機が空を飛ぶ-しかも地球に優しい 参照) 意外に100%バイオ燃料車(フレックス車)はZEVのダークホースかもしれません。

ちなみに、飛行機で温室効果ガスゼロを達成しようとするならバイオ燃料(バイオジェット)しかないと考えられていて、バイオジェットの研究が日本を含めて世界中で盛んに行われています。( バイオジェットとは何か―ユーグレナ社のASTM規格取得 参照)バイオジェットの製造技術が確立すれば、同じ技術で自動車用バイオ燃料を作ることが可能となります。

ガソリン車(CCU)
まだ、CCUは研究段階で、見通しが立ちません。個人的にはCCUで化学原料を作ることはできても、自動車用燃料を作ることはエネルギーの有効利用という観点からは、かなり無理筋の技術だと思います。

エネルギーロスの観点から
エネルギーというものは、転換していくに従って、そのロスが増えていくという法則がありますので、太陽光や風力などの再生可能エネルギーはできるだけ手を加えずにそのまま使った方がエネルギーのロスが少なくなります。

再生可能電力の持つエネルギーを100とした場合、これをそのままバッテリーに貯蔵して使うと80、水を電気分解して水素にした場合は60。その水素を使ってCO2と反応させてガソリンにした場合には15しかエネルギーを活用できないという試算結果もあります。

2020年10月25日

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