浮体式洋上風力発電の発電コストは原子力より安い!  日本のメーカーも参入

昨年、政府は2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロという目標を打ち出した。それは無理だという意見もある。たとえ可能だとしても、電気代が上がってしまうから覚悟しなさい。あるいは再生可能エネルギーだけにたよらずに、原子力を容認しなければいけないという人もいる。

これらの意見は再生可能エネルギーの発電コストが高いということが前提となっている。しかし、再生可能エネルギーの発電コストは高くない、いや原子力よりもっと安いとなると話は180度変わってしまうことになる。

つまり、再生可能エネルギーの発電コストが原子力より安ければ、これは環境問題ではなく、経済的にももっと再生可能エネルギーを導入すべきだということになる。いやいや、導入しなければ世界に負けてしまう。ましてや、原子力のように将来にむけて廃炉や放射性廃棄物の処分という負の資産を残すなどもっての外ということになるだろう。

実はここ数年、再生可能エネルギーのコストが飛躍的に低下している。あるいは今後ますます低下するという情報があちこちで出始めているのである。

ここでは、そのような例のひとつとして、米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が昨年11月に発表した※浮体式洋上風力発電の発電コスト試算結果を紹介したい。

※Philipp Beiter, Walt Musial, Patrick Duffy, Aubryn Cooperman, Matt Shields, Donna Heimiller, and Mike Optis, “ The Cost of Floating Offshore Wind Energy in California Between 2019 and 2032”, Technical Report NREL/TP-5000-77384 Revised November 2020

浮体式洋上風力発電とは何か

浮体式洋上風力発電とは、その名のとおり洋上風力発電の一種である。
ご存知の通り、 風力発電は大きな風車に風を受けて回転し、それによって発電タービンを回して発電する。図‐1に示すように、世界的に見れば風力発電は太陽光発電、バイオマスと並んで再生可能エネルギーの三姉妹のうちのひとりである。

図ー1 主要国の再生可能エネルギーの構成(BP統計より)

ところが、この図でわかるように、我が国では太陽光発電とその他(主にバイオマス)が主体で、風力発電が突出して少ない。日本は山がちの地形のため、安定的な風が得られないことや、人口が密集しているため、騒音や景観などに対する住民の理解が得られにくい。などが原因と言われる。

土地がないなら、海の上にその風力発電機を設置すればいい。それが洋上風力発電。我が国では余り見かけないが、欧州ではよく目にする発電方式である。洋上ならば風力も比較的安定しているし、住民の理解を得やすいというか、そもそも人が住んでいない。

ただし、現在は海底に固定して設置される着床式とよばれる装置であるため、水深30m以内の浅いところにしか設置できない。欧州では遠浅のところが多いが、日本は浅い海が少ないから難しい。

そこで考えられたのが、海に浮き(フロート)を浮かべてその上に風力発電機を設置しようというアイデア。これが浮体式洋上風力発電である。

そうすれば、水深の大きな外洋でも設置できる。外洋ならば、風も安定しているし、ローター(羽根)を大型化して発電量を増やすことができる。

といっても、風力発電設備から海底にケーブルを引いて陸地まで電力を輸送しなければならないから、外洋といっても今のところそんなに遠くに設置することはできないのだが、それでも我が国は海に囲まれた国である。候補地はたくさんあるだろう。

浮体式洋上風力発電のフロート構造

実は浮体式洋上風力発電はすでに普及している技術ではない。まだ開発途上の技術なのだ。だから、いろいろな方式が提案されており、今のところどの方式が主流ということはない。以下にその例を挙げる。

(1)半潜水型

半潜水型は、一部が洋上、残りが水中に没するフロートをアンカーで海底に固定し、このフロートの上に風力発電設備を設置する方式である。

この方式ではアンカーを接続しなくてもフロートが十分安定しているので、岸壁で風力タービンなどを完全に組み立て、そのあと、外洋に牽引して行って設置することができる。岸壁で重機などを使って組み立てるので、海上での組み立てる方式と比べて建設コストを低減することができる。

図ー2 半潜水式洋上風力発電

さらに、メンテナンスのときはアンカーから切り離して、岸壁でまで曳航して陸地の施設を使って修理を行うこともできる。

最新の半潜水式プロジェクトは2019年にポルトガルで建設されたWindfloat Atlanticという設備で、8.4MWタービンは三菱重工・ヴェスタス(MHI Vestas)製である。

(2)スパーブイ

フロートの下にバラスト(重り)が置かれており、その結果、フロート全体が水面よりも下になるタイプ。ちょうど、魚釣りに使う浮きのような感じだろうか。バラストによって安定しているため、水面の波に影響を受けにくいという特長がある。

図ー3 スパーブイ式洋上風力発電

2017年10月にEquinor社によってスコットランドのピーターヘッド沖に設置された30 MWの浮体式洋上風力発電設備は、スパーブイ方式を採用している。

また、ちょっと小ぶりだが、2016年3月に長崎県五島市沖合に、戸田建設が設置した2MWの国内初の浮体式洋上風力発電設備もスパーブイ方式である。

スパーブイ方式は喫水が深いため、水深の深い海域の海上で風力発電システムを組み立てる必要がある。そのため、組み立てコストが増加し、また一部の海域では利用できないという。

(3)テンションレッグ・プラットフォーム

フロートの下に何本かの重りを付けたロープをつるし、その張力によって安定化させるシステム。係留索が取り付けられるまでは不安定で、海上で発電システムを組み立てる必要があり、設置コストが上昇する可能性がある。しかし一度設置すると安定し、海底への影響が小さいといわれている。

図ー4 テンションレッグ・プラットホーム式洋上風力発電

オランダのSBM Offshore社は、フランスの地中海で24MWのプロヴァンスグランドラージパイロット風力エネルギープロジェクトに3つのテンションレッグ・プラットフォームを納入することになっている。

浮体式洋上風力発電設備の構造には他にも多くのバリエーションがあるが、ほとんど、以上の3つのタイプを組み合わせたものだ。ただ、現在、公表されている洋上風力発電設備の89%が半潜水型と言われており、NRELでも半潜水型をモデルとしてコスト試算を行っている。

NRELの発電コスト試算結果

NRELでは、カリフォルニア州の沖合、太平洋上に浮体式洋上風力発電設備を設置した場合の、建設コスト、運転・メンテナンスコストおよび発電コストを2019年から2032年を想定して試算している。

その結果が図―5のとおりだ。

図―5 カリフォルニア沖合の浮体式洋上風力発電の発電コスト
(モローベイやディアブロキャニオンなどは、海上の地区名)

この図が示すように、2019年時点で100ドル/MWh程度だった発電コストは年々低下していき、2032年には約60ドル/MWhとなっている。これは1ドル106円で換算すると、1kWhあたり6.4円となる。

6.4円/kWhという値段は、経済産業省の発電コスト検証ワーキンググループが2015年に示した着床式の洋上風力の発電コスト(政策経費を除く)23.2円/kWhより大幅に小さい。さらには最も安価とされる原子力発電のコスト(社会的費用を除く)が8.5円/kWhだから、これよりも安いことになる。

このNRELの試算結果は、浮体式洋上風力発電がこれから数年以内に、原子力発電よりも安い発電方式になると言っているわけだ。

発電コスト低下の理由

ではどうして浮体式洋上風力発電の発電コストはこんなに安くなっていくのだろうか。それは、この発電方式がまだ開発途上であって、まだまだ改善の余地があるということなのだろう。

発電コストが低下する大きな理由のひとつは、ローターが大型化され、その結果、発電規模が大きくなることだ。下の表はNRELが計算の前提とした、浮体式洋上風力発電のデザインである。

表 NRELの発電コスト積算のための浮体式洋上風力発電のデザイン

この表から分かるように、年々ローターの直径が大きくなり、それに伴ってタービン出力も大きくなっていく。とNRELでは予想している。

しかし、タービンのサイズが増加しても、建設コストはそれほど大きくならない。タービンのサイズが2倍になっても、そのサポート構造、係留、アレイケーブル、設置コストなどの費用が2倍になるわけではない。だから発電kWあたりにすれば、設備コストは安くなる。

そもそも、風力発電は火力発電のように燃料を燃やすわけではないから、燃料代がかからない。発電コストは、建設にかかる費用の減価償却費と運転管理のための人件費およびメンテナンスコストである。このため、発電量あたりの建設費が安くなれば、当然ながら発電コストは下がる。運転管理費やメンテナンスコストにしても同じことが言える。つまり、風力発電は大型化すればするほど、発電コストが安くなるのだ。

三菱重工・ヴェスタス社は、9.5MWおよび10MWの風力タービンを既に市場に送り込んでおり、ゼネラルエレクトリック(GE)とシーメンスガメサは、2022年と2024年にそれぞれ12MWと14MWのタービンを商業的に利用可能にすると発表している。だからNRELの予想もぜんぜん的外れじゃない。

我が国での可能性

同じくNRELは、この風力発電コスト試算を発表する前(2020年7月)に全米の再生可能エネルギーによる水素の製造可能性調査を行っている。

図ー6 米国の再生可能エネルギー資源の分布

この図が米国の再生可能エネルギー資源の分布を表しており、色の濃い北米大陸のほぼ中央部に大量の再生可能エネルギー資源が存在することが明らかとなった。

この地域はバイオマス、陸上風力および太陽光のいずれも大きな可能性を持っている。それは、この地域が非常に平坦で広大な土地が広がり、人口密度も低いことによる。

一方、我が国においては、この米国中部のような広大で平坦な土地がほとんどない。だから残念ながら再生可能エネルギーを米国のように国土内に確保することは難しい。

しかしながら、我が国は四方を海に囲まれており、日本が有する経済水域の面積は世界有数であることを思い出してほしい。海洋はアメリカ中部と同様に、あるいはもちろんそれ以上に、平坦な場所であり、人口密度も低いというかゼロである。

だから、日本をとりまく広大な海洋は再生可能エネルギー、特に風力発電の宝庫となりうる。

現在、浮体式洋上風力発電は、様々な取り組みが行われている。将来、日本近海の洋上に浮体式洋上風力発電所が何千台も並び、そのクリーンで安価な電力によって、火力や原子力に頼らずに、日本は世界で最も豊富で安価な電力を享受する。そんな未来を期待したい。技術のニッポンがんばれ。

2021年3月9日

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