「汝らここに入るもの一切の望みを捨てよ」 ダンテ「新曲」より
科学が進めばどんなことも可能になるのだろうか
一見、科学は不可能なことを可能にしてきたように見えます。超音速で空を飛ぶことだって、世界中に一瞬でメールを送ることだって、ドロドロの石油からつるつるしたプラスチックを作ることだって、ほんの100年前までは誰にも考えられませんでした。科学が進歩したおかげできるようになったことはたくさんあります。
では、科学が進めばいつかはどんなことでも可能になるのでしょうか。いやそうではない。科学がどんなに進んでも絶対に出来ないことがあるという話をしたいと思います。
と言っても、幽霊とかUFOとか超能力とかオカルトとか、そういう話ではありません。こういった現象は証拠があやふやだったり、きちんと調べられていなかったりするから、わからないだけのこと。きちんと調べればわかるはずなのですが、あまり本気になって調べても意味がないので調べられないだけなのでしょう。
同じことを同じようにやったら、だれがやっても同じ結果がでる。これを再現性といいます。科学は基本的には再現性のある事象をあつかいます。誰かが幽霊を見たと主張するけれど、他の人には見えませんというのは科学の対象にはなりません。このような科学の対象にならないものは、ここでは議論しません。
きちんとだれでも検証することができる現象でありながら、どうしてもできない不可能なことについてのみ、ここでは議論したいと思います。
将来、もっと科学が進めば、どんなことでも可能になる。将来のことまでは分からない。今は不可能でも、そんな先のことまで不可能といえるのか。と思われるかもしれません。でも、科学とは不可能を可能にしたように見えるけれど、むしろ科学は逆に不可能なことを発見してきたのではないかと思えるのです。
ここでは、そんな科学がどんなに進んでもできないこととして、以下の3つ挙げたいと思います。ほかにもあるかもしれないけれど。
・永久機関
・超光速移動
・過去に戻るタイムマシン
この3つの不可能は、どんなに科学が進歩してもできないと断言したいと思います。でも、いいや、いつかはできるはずだと望みを持っている人もいらっしゃるかもしれません。そんな人が、この記事の先を読む場合には次の言葉を贈りたいと思います。
「汝らここに入るもの一切の望みを捨てよ」 (地獄の入口の門に書かれた言葉)
永久機関
永久機関とは永久に動き続けることができ、ただ動き続けるだけでなく、外部にエネルギーを取り出すことができる機械です。単にただ動き続けているだけでなく、エネルギーを取り出すことができるという点がミソです。
永久機関は、熱力学という科学の分野で二つ理由から不可能であると言われています。一つはエネルギーは増えないということ。もう一つは、エントロピーは必ず増えるということ。この二本立てで永久機関は不可能といえるのです。
エネルギーとは仕事をする能力という意味です。この宇宙にはいろいろな物体がそれぞれエネルギーを持っています。それぞれの物体はエネルギーをやり取りするので増えたり減ったりしますが、減った量と増えた量は必ず一致します。つまり、エネルギーの総量は変わらないのです。
だから、外部からエネルギーをもらわないで、動き続ける物体は存在します(例えば惑星が太陽の周りをまわっていること)が、その物体が外に向かって仕事をすると、その分だけエネルギーが減ってしまい、動き続けることができなくなります。だから永久機関は不可能というわけです。これを第一種永久機関と言います。
エントロピーについては、エネルギーより少し分かりにくい考え方です。
例えばあるエンジンで考えてみましょう。エンジンとはある物体から熱をもらって仕事をする機械です。熱とエネルギーは同じだということはご存知だと思います。エンジンは熱というエネルギーをもらい、仕事をして、余った熱を放出します。
例えば、ガソリンエンジンなら、ガソリンが燃えた時に出る熱で燃焼ガスが膨張して、その膨張でピストンを動かして仕事をします。蒸気機関車なら石炭を燃やして熱を得て、その熱で水が沸騰して水蒸気に変わり、その水蒸気の圧力でピストンを動かします。
あるエンジンで、受け入れた熱がQ1、そのときの温度がT1とします。そして排気される熱がQ2、その時の温度をT2とします。すると、熱と仕事は同じですから、このエンジンで取り出せる仕事は、受け入れた熱Q1と排出した熱Q2の差つまり、Q1-Q2で表されます。
ところで、T/Qをエントロピーといい、Sで表します。つまり、エントロピーとはその物体の持つ温度を、その物体が持つ熱で割ったものです。そうすると、
入熱側のエントロピー S1=T1/Q1
排熱側のエントロピー S2=T2/Q2
となります。
ところで、ここで重要な関係があります。
それは必ず S1<S2 という関係が成り立つのです。これは排熱側のエントロピーS2は入熱側のエントロピーS1より必ず大きくなるということです。これはエンジンの効率が100%以上ということはあり得ず、必ずエネルギーのロスが生じることと関係があります。(煩雑になるので証明は省きます。関心のある方は専門書をご覧ください)
とにかく、エンジンが仕事をするとエントロピーは必ず大きくなるのです。実は、エンジンだけでなく、仕事をする機関はすべて必ずエントロピーを大きくしてしまいます。
エントロピーは分かりやすく言えば、エネルギーのロスと言うことです。先ほど述べたように、エネルギーはいくら使っても総量は変わりません。ですから一度使ったエネルギーを集めて、また使えば永久に動き続ける機関ができそうです。このような永久機関を第二種永久機関といいます。
しかし、エネルギーは100%の効率で使うことはできず、必ずロスが生じます。つまりエントロピーが大きくなるのです。その結果、一度使ったエネルギーをまた集めようとすると、もっと多くのエネルギーが必要になってしまいます。だから第二種永久機関も不可能ということになります。
このように、エネルギーを新たに生み出さない限り、あるいはエントロピーが減少しない限り、永久機関は不可能といえます。そして、新たにエネルギーを生み出すことも、大きくなったエントロピーを小さくする方法も見つかっていないし、今後も見つからないと思われます。だから永久機関は不可能というわけです。
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2021年9月1日