2035年ガソリン車販売禁止 余ったガソリンはどうなる  ガソリン会社はどうする?

1.ガソリン車が販売禁止になったらガソリンが余るのか

2050年までに日本は温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすると宣言した。また、この政策の一環として2035年頃にガソリン車の販売を禁止するという話が出ている。ではガソリン車の販売が禁止となった場合、ガソリンはどうなるのだろうか。ジャブジャブに余って、製油所のタンクからあふれ出てしまうのだろうか。

原油を精製すると一定量のガソリンをはじめとして、様々な石油製品が一緒に出来てきてしまう。日本は原油を輸入してガソリンを作っているが、ガソリンだけを製造しているわけではない。例えば電気炊飯器が売れなくなったら家電メーカーは電気炊飯器の生産をやめればいい。だが、石油精製は電気炊飯器のような組み立て型の産業ではなく、いうなれば分解型の産業なのだから事情が違う。

例えば、牛1頭を解体すればカタやロースやヒレやモモやバラやその他いろいろな部位がでてくる。ロースだけとかヒレだけとかを取り出すわけにはいかない。牛タン屋は牛タンが必要だからと言っても、牛1頭から採れる牛タンは1枚だけに決まっている。日本の政治家のように2枚も3枚も舌を持つ牛はいないのだ。

石油精製も同じで、ガソリンだけを作っているわけではない、ガソリンのほかに軽油や灯油や重油などもできる。だから近い将来、ガソリン車を廃止してガソリンが売れなくなれば、ガソリンが余ってしまうと心配する人もいる。

つまり、軽油や灯油を作ろうとするとガソリンもできてしまう。ガソリンだけを作らないというわけにはいかない。できてしまったガソリンをどう処分するのか。だからガソリン車を廃止するなどもっての外だと言う意見もある。

2.ガソリンが余ったらコンピューターで調整できる

実際にガソリン車の販売が禁止になり、ガソリン販売量が減ってしまったら、石油会社はどうするのだろうか。

石油精製は精肉業のように単純ではない。日本や多くに国々では重油の需要が少なく、ガソリン需要が多いので、重油からガソリンを作っている。(「原油から作られる石油製品の割合は決まっている? 連産品という誤解」参照)

つまり、製油所では重油がガソリンに変わるのだ。バラ肉がヒレ肉に変わるようなものだ。そんなことができるのかって?いや可能なのだ。それどころか、実は日本国内で市販されているガソリンには、その量の半分くらいは重油から作られたガソリンが混ぜてある。

そのほか、製油所では様々な精製工程から出てくる様々な成分を集めてきて、ガソリンが作られている。(下の図のような具合)

ガソリンは非常に複雑な工程を経て作られる


また、ガソリンの一部は石油化学の原料として化学会社に売られているし、これがナフサと言われるものだが、実はそのナフサは国内では生産されるだけではぜんぜん足りなくて、足りない分は海外から輸入したりしている。(「日本はレジ袋の原料を韓国から大量に輸入している」参照)

と、こういう風に、このあたりは大変複雑で、例えば100リットルの原油を精製したら何リットルのガソリンが必ずできてきますというような単純な話ではない。さらに、ガソリンと同時に作られる灯油や軽油や潤滑油やアスファルトやその他の様々な石油製品の生産割合も考慮しなければならない。

では製油所ではどうやって、これを調整しているのか。どの製品をどうやって、どのくらい作ろうと決めているのか。これはとても複雑になるから、人間の手ではとても計算することができない。そこで、石油精製専用のコンピューターソフトを使って計算している。

実はこれ、第二次大戦中に開発されたもの。例えば本国から遠く離れた部隊にどのように大量の補給物資を送るのが最も費用対効果が大きいのか、などの問題に対して最適な答えを得る方法として考え出された。

戦後、この研究は線形計画法あるいはLPモデルと言う名称で石油精製に応用されて発展してきた。ちなみにこのソフト、使用料だけで年間で億円単位の金がかかる。計算にそれだけのコストをかけても元が取れるという優れものの計算ソフトなのだ。

だから、ガソリンの需要が減ってきたら、どのように製油所を運営していくか。当面はこのLPモデルを動かして最適な答えを見つけて対応することになる。

恐らく、LPモデルは重油を分解してガソリンを作る作業を止める。ナフサの輸入を止めて、余剰のガソリンをナフサの代わりに石油化学会社に送る。などといった対策を提案してくることになるだろう。

これでかなりの融通がきく。ガソリンが売れなくなったら、その分がタンクから溢れ出すとか、余ったガソリンを捨ててしまうということにはならない。

3.もっと脱炭素が進んだらどうするのか

ではもっともっと脱炭素化が進んだらどうなるのか。我が国は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言している。これを達成するためには、ガソリンだけでなく灯油も軽油も重油もその他の燃料も生産量をゼロにしなければならないことになる。

ところでちょっと前の2018年の資料だが、IEA(国際エネルギー機関)の報告書では当面の間、世界の原油生産量が今より増えると予想している。世界で脱炭素の動きが広まれば、原油の生産量が減るはずなのだが、なぜか増える。

一つの理由は、発展途上国ではまだまだ石油を燃料として使い続けるということである。もう一つほかの理由がある。それは、石油化学への利用が増えるということだ。

ご存知のとおり石油は燃料だけでなく、プラスチックや合成繊維や合成ゴム、その他さまざまな化学製品の原料となっている。(「レジ袋などのプラスチックは石油の余り物で作られている?」参照)そのほか、アスファルトや潤滑油なども石油から作られる。

今後、特に発展途上国が豊かになれば、それに伴ってこれらの石油化学製品やアスファルトや潤滑油の需要は増えていくと予想されるのだ。

であれば、製油所は燃料の製造ではなく、石油化学原料などの製造基地になって生き延びていくことになるだろう。ただし、すべての製油所が生き残るわけではなくて、一部の幸運な製油所だけがそうなるだろう。

かつて、製油所は火力発電用の重油を大量に作ってきた。しかし、石油ショックによって、石油火力発電所の新設が禁止されたことから重油が余剰となってしまった。一方、日本では自動車が普及し始めて、自動車用のガソリンや軽油の需要が増加してきた。そのため、製油所は重油からガソリンや軽油を作るように進化してきたという歴史がある。

そしてこれからは燃料の需要が減るけれど、代わってプラスチックなどの石油化学製品の需要が世界的に増えていくことになる。原油から燃料を作るのではなく、石油化学の原料を作るように進化していくという方向になる。

いままで、石油化学の原料は日本ではナフサが主に使われてきたが、これからはナフサだけでなくガソリンも灯油も石油化学の原料となる(化学会社からはいやがられると思うけど)。重油はアスファルトや潤滑油を取り出したあと分解して、これも石油化学の原料に持っていく。
いずれにしても、技術開発と設備投資が必要となるが、技術的にできないことではないのだ。

まとめ

ガソリン車の販売が禁止された場合、ガソリンが余る。余ったガソリンはどうするのかという疑問に対してまとめると次のようになる。

当面の対策としては、重油からガソリンを作ることを減らすことや、ナフサの輸入を減らしてガソリンをナフサの代わりに石油化学の原料とする。
もっと脱炭素化が進むと、石油の用途は燃料からプラスチックなど石油化学が中心になる。

2021年8月7日
2022年6月1日改訂

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2035年ガソリン車販売禁止 余ったガソリンはどうなる  ガソリン会社はどうする?」への3件のフィードバック

  1. 山縣利仁

    灯油や軽油はどうするか。これも実は石油化学の原料に使っている国もあるのだから、日本でもできないことではないだろう。石油化学会社からは嫌がられると思うけど。

    なぜ嫌がられるのか理由を教えて頂けますか。
    よろしくお願いします。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      山縣さん 記事を読んでいただいてありがとうございます。
      現在、石化工場ではナフサを高温で分解してエチレン、プロピレン、ブタジエンなどを作っています。灯油や軽油をナフサの代わりに使った場合、分解炉の高温によって、一部がコークスになってしまうこと(コーキング)が一番の問題だと思います。分解炉のチューブがコークスで汚れてメンテナンスの頻度が高くなってしまいます。場合によっては配管を閉塞させてしまうかもしれません。
      また、分解して得られるものの組成が少し変わります。例えば、灯油や軽油を原料とするとエチレンのほかにエチレンボトムの割合が増えてきます。エチレンボトムも余り物ではなくて、ペットボトルの原料として使えるので悪いことではないのですが、プラントが設計通りに動かせないということがあるかもしれません。場合によっては、装置の一部改造が必要となります。
      そのほか違った原料が入ってくると、今までとは違った現象が起こってきます。それに一々対応しなければならなくなるので、石油化学会社からは嫌がられることになると思います。

      返信
      1. 山縣利仁

        返答して頂きありがとうございました。

        石油関連の記事で大変お世話になっております。
        今後も勉強させて頂きます。

        返信

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