今夏の電力ひっ迫の原因は火力発電
今年の夏、電力のひっ迫が問題となった。電力の余裕を示す予備率が4%台まで下がって、節電が呼びかけられた。これを受けて、太陽光や風力のような再生可能エネルギーを充実させるべきだとか、原子力を復活させるべきだとかの議論が巻き起こった。
しかしながら、電力は平均すれば需要に対して絶対量が不足しているわけではない。電力がひっ迫するのは夏場や冬場の、電力がピークになる数時間に限られるのだ。だからこのピークに合わせて電気を作るようにすればいいわけだが再生可能エネルギーも原子力もこれができない。
ではどうやって電力会社は発電量をピーク需要に合わせているのだろうか。それは発電量を上げたり下げたりすることが容易にできる火力発電の役割である。ところが、今年の夏は、火力発電の老朽化や整備不足でこの調整ができなかった。だから電力のひっ迫が起こったのだ。
しかし、火力発電は、今後どんどん縮小されていくことになる。その理由はもちろん地球温暖化対策だ。火力発電が地球温暖化の原因となるCO2を大量に排出するからだ。しかし、これ以上再生可能エネルギーが増え、あるいは原子力が復活して、火力発電の比率が下がってきたら、ピーク需要に対応することはますます難しくなる。
こう考えると、単純に火力発電を廃棄して再生可能エネルギーや原子力に置き換えればいいというものではない。ではどうすればいいのか。ひとつのアイデアとしては、火力発電からCO2が排出されないようにすればいいのである。そんなことが可能なのだろうか。
実はCO2を排出しない火力発電の研究が世界中で進められているのである。この記事では、CO2を排出しない火力発電について説明したい。
発生したCO2を回収すればいい
火力発電所では、燃料をボイラーで燃やして高圧蒸気を作り、その圧力でタービンを回して発電する。燃料となる石炭や天然ガスの主成分は炭素(C)だから、これを燃やせば C は空気中の酸素Oと結びついて CO2 になる。現在の火力発電所はこのCO2をそのまま排気ガスとして大気に捨てている。だから問題なのだ。
では、火力発電所からCO2を出さないようにするにはどうすればいいか。発生したCO2を排気ガスから回収して大気に出さなければいいのである。
では、回収したCO2はどう始末するのかという問題があるが、それは地中や海底に廃棄したり、化学原料として再利用したりすることが考えられている。これはこれで難しい問題なのだが、ここでは取り敢えず火力発電所からCO2を回収する方法だけを説明したい。
火力発電所の排ガスからCO2を回収する。これには次の方法が考えられている。
① ポスト燃料法
② プレ燃焼法
③ オキシ燃焼法
この3つだ。
次に、これらの方法をひとつひとつ説明していこう。
ポスト燃焼法
ポスト燃焼法は火力発電所で排出される排気ガスの中に含まれるCO2を何らかの方法で分離、回収しようという方法である。
排気ガスからCO2を回収する方法はいくつかあるが、実用化されている方法は化学吸収法と呼ばれる方法である。これはCO2がアミン化合物のようなアルカリ溶液に溶けやすいことを利用する。
ボイラーから出てきた排気ガスは吸収塔に導かれる。吸収塔では上からアルカリ溶液がシャワーのように振りかけられ、その中を排気ガスが通って行くときにCO2がアルカリ溶液に溶けて除去される。
一方、CO2を吸収した溶剤は再生塔に送られて加熱蒸留される。するとCO2は溶剤から分離されて純粋のCO2が得られる。CO2を分離された溶剤は再び吸収塔に送られる。
こうやって火力発電所の排気ガスからCO2を分離することができる。このCO2回収方法は既に実用化されていて、アンモニア工場や石油精製ではよく使われている方法である。この化学吸収法、日本では三菱重工などがその技術を持っている。そして、世界でもトップクラスの納入実績を誇っていることはあまり知られていない。実は日本の得意分野の一つなのだ。
プレ燃焼法
ポスト燃焼法が、燃料を燃やしたあとの排気ガスに含まれるCO2を回収しようとするのに対して、プレ燃焼法は燃料を燃やす前にCO2を回収してしまおうという方法である。
この方法ではまず、燃料をガス化してCO2と水素の混合気体にする。この混合気体からCO2を何らかの方法で分離回収して、残りの水素だけをボイラーで燃焼させる。水素は燃えて水(水蒸気)になるから、排気ガスにCO2は含まれないことになる。
燃料をガス化して得られる混合ガスからCO2を分離回収する方法については、ポスト燃焼法と同じである。
実は、燃料の石炭を一旦ガス化して燃焼させようという方法は石炭ガス化複合プラント(IGCC)として既に大規模な実証実験が行われていて、商業化一歩手前の状態にある。この技術は世界中で開発が進められているが、その中でも日本の技術はトップクラスなのだ。
オキシ燃焼法
オキシ燃焼法は、燃料を空気ではなく酸素で燃焼させる方式だ。空気に含まれる酸素分は2割程度しかない。残りの約8割が窒素だ。だから燃料を空気で燃焼させるとボイラーから排出される排気ガスにはCO2と水蒸気以外に大量の窒素が含まれることになる。だから、ポスト燃料法では化学吸収法などを使ってCO2だけを取り除く必要があった。
しかし、空気ではなく酸素で燃料を燃焼させれば排気ガス中に窒素は含まれないから、CO2と水蒸気だけである。その排気ガスを冷却すれば水蒸気は液体の水になって下に溜まってくれるから、残りの排気ガスはCO2だけということになる。これを貯蔵して大気に出さなければいい。
ただし、燃料を酸素で燃やすためには、当然、酸素を作らなければならない。このため、空気を-170℃から-190℃の超低温まで冷却して一旦液体にして、あとは窒素と酸素を沸点の差で酸素を分離する方法が使われる。ただし、空気をこのような超低温まで冷却するには大きなエネルギーを消費することになる。これがオキシ燃焼法の欠点である。
CO2回収法の改良
ポスト燃料法では排気ガスからCO2を分離回収し、プレ燃焼法ではガス化された燃料からCO2を分離回収する。このCO2分離回収方法として化学吸収法があると述べた。ただし、この方法は溶剤再生のために多くの熱が消費される。このため、CO2回収コストが大きくなってしまうという問題がある。
現在、化学吸収法によるCO2の回収コストはCO2、1トンあたり6,000円ほどかかると言われている。これを1,000円程度までに下げたい。このためにはCO2を吸収しやすく、かつ再生コストの安い溶剤の開発が進められている。一方、化学吸収法に頼らずもっとコストの安いCO2分離回収技術の開発も進められている。
これもいろいろアイデアがあるのだが、以下に簡単に紹介しておく。
物理吸収法:高圧によってCO2を液体に物理的に吸収させる方法。
気体は圧力が高いほど液体に溶け込む性質があり(ヘンリーの法則)、この性質を利用してCO2をエーテルのような液体に溶かして排気ガスから除去する。CO2を吸収した液体は、低圧にすればCO2を吐き出すので、循環して使用する。
物理吸着法:固体にCO2を吸着させる方法
活性炭、アルミナ、金属酸化物、ゼオライトなどの固体は、小さな穴が開いており、この穴にCO2を取り込んで、排気ガスから除去することができる。CO2を吸着した固体は、熱をかけたり、圧力を下げたりすればCO2を吐き出すので、CO2を回収できる。
膜分離法:CO2を選択的に透過させる膜を用いて分離する方法
様々な物質を薄い膜にすると、ある物質だけを選択的に透過する性質を持つ場合がある。特にCO2だけを透過する膜ができれば、ちょうどふるいで大きな砂と小さな砂を分けるようなもの。排気ガスの通り道に膜を置いておくと、CO2だけが透過してくるので非常に分離コストが安くなると期待されている。膜分離技術も実は日本が得意とする分野だ。日本ガイシや住化、東レ、 三菱化学などが進んだ技術を持っている。
化学ルーピング:燃料を空気ではなく化学物質で燃焼させる方法
酸素を持つ化学物質を酸素の「運び屋」として使って燃料を燃焼させる方法である。燃料と「運び屋」が接触するとそれが持つ酸素で燃料が燃焼する。燃焼した排気ガスはCO2と水蒸気だけなので、冷却すれば水蒸気が液体の水になり、CO2だけを分離することができる。酸素の運び屋には鉄、マンガン、銅などが使われるが、安価な生石灰を使うことも研究されている。この場合はカルシウムルーピングと言われる。
火力発電、特に石炭火力はCO2排出量が多い。というか石炭はほとんど炭素Cの塊と言っていいので、それを燃やせば当然CO2が出ることになる。日本は特に石炭火力が多いので、世界から非難されている。
しかし、石炭火力からCO2を出さないようにできれば、これは画期的なことだ。しかも、日本は石炭火力発電では超臨界発電とか、化学吸収とか、膜分離とか得意な分野がたくさんある。是非、技術を完成させてCO2を出さない火力発電を完成させてほしい。
ただし、回収したCO2をどう処分するかという難しい問題がある。これが完成しなければ絵にかいたモチになってしまうのだが。その辺の事情は別の機会に紹介したい。
2022年12月12日
【関連記事】
電力不足には原子力も再生可能エネルギーも解決にならない 貯電技術が今後のカギ
浮体式洋上風力発電の発電コストは原子力より安い! 日本のメーカーも参入
電気を貯める方法は蓄電池だけじゃない 蓄電ビジネスは成立するか
原子力発電のここが危険 ブレーキを踏み続けなければ暴走するシステム
アンモニア発電…マスコミが報道しない問題点 このままではかえって温室効果ガスが増えてしまう