電力をどうやって貯蔵し、運ぶかが課題
再エネの問題点はその多くが電力で供給されることと、発生量が不安定なことである。電力で供給された再エネは送電線のないところには輸送することができないし、貯蔵することもできない。
例えば海外で生産された再エネ電力を日本に運ぼうとしても送電線がなければそのまま運ぶことはできない。また、我が国には広大な経済水域があり、ここで洋上風力発電を行うことが検討されているが、陸から離れている場合はせっかく作った電力を陸地に運ぶことができない。
そこで提案されているのが電力を水素やアンモニアに変えて貯蔵や輸送をすることである。余剰時の電力を使って水を電気分解して水素にし、この水素を貯蔵したり運搬したりして、必要に応じて燃料電池を使って再び電力に変えることができる。アンモニアは電気分解で作った水素を空気中の窒素と化合して作られ、水素と同様に貯蔵や輸送が可能である。
しかし、水素を作るための電気分解は、エネルギー効率が70%ほどしかなく、残りの30%は捨ててしまうことになる。また、その水素を使って再び電力に転換しようとすると、この場合もエネルギー効率は30%(熱の利用ができる場合は70%)ほどしかなく、全体として貯蔵輸送できる電力はもとの電力の20%程度にしかならない。
さらに、水素の冷却時や輸送時にもエネルギーを消費してしまう。アンモニアについても電気分解で得られる水素を原料としている以上、エネルギー効率は水素を直接使った場合と大きく変わるわけではない。
そこで最近検討されているのが、蓄電池を使って電力を貯蔵し、蓄電池ごと輸送する方法である。蓄電池のエネルギー効率は90%前後、リチウムイオン電池なら95%もあるから、無駄が少ない。
ただ、蓄電池は重量があるので、定置式ならいいが輸送には向かないと考えられてきた。しかし、最近、蓄電池を電力の輸送に使おうという企業が現れた。パワーエックスという会社である。
主に系統用蓄電池を製造して全国の蓄電施設に提供している会社であるが、最近になって充電された蓄電池そのものを専用船で輸送しようというプロジェクトを開始した。これなら、水素やアンモニアを使ったときのような、貯蔵時のエネルギーロスも大幅に抑えることができるだろう。ただし、蓄電池が重量物であることは課題として残る。
提案の方法
そこで一つの提案をしたい。
蓄電池としてレドックスフロー型を採用し、蓄電池そのものではなく、活物質と電解液のみを輸送すればどうかという提案である。といってもどんな提案なのか分からない人も多いだろうから解説する。
一般に蓄電池は電極と電解液および活物質から成っており、これらが一つのパッケージとなって蓄電池セルを構成している。電力を貯めるのが活物質であり、その活物質が動くフィールドが電解液、活物質に電力を供給したり、電力を取り出したりするのが電極である。
レドックスフロー蓄電池もそれと基本的に同じなのだが、活物質が電解液に溶け込んだ形となっており、その活物質を電解液ごとセルから取り出せるという特徴がある。
活物質は正極用と陰極用があり、充電時は活物質が酸化および還元されることによって電気エネルギーが蓄えられる。放電時は酸化された活物質が還元され、還元された活物質が酸化されることによって電力が発生する。
大きな特徴は先ほど述べたように、充電時に酸化および還元された電解質を取り出して貯蔵することができる点である。
一般の蓄電池はセルに封入された活物質が全て活性化してしまえば、それ以上充電することができない。しかし、レドックスフロー蓄電池の場合は活物質を電解質とともに取り出して貯蔵し、セルには新たな活物質と電解質を補充していけば、いくらでも蓄電量を増やしていくことができる。

レドックスフロー蓄電池の構造(図はWikipediaより)
そこで私の提案。電力を運ぶために充電した蓄電池を船に乗せて輸送するのなら、蓄電池を構成する成分のうち、活物質だけ(実際には活物質を含んだ電解液)を取り出して輸送すればいいではないかということである。
再エネ電力の生産地に充電用のレドックスフロー電池を設置しておいて、活物質の酸化、還元を行ったあと、この活物質を電解液ごと取り出して、これを船で電力消費地に運ぶ。電力消費地には発電用レドックスフロー電池を設置しておき、活性化された活物質を含んだ電解液を送り込んで発電するというシステムである。
提案の方法の利点と問題点
この方式のよいところはいくつもある。
まず、蓄電池そのものを運ぶ必要がないから輸送重量の軽減になる。次にレドックスフロー蓄電池の電解質は不燃性であるから、火災の危険がない。
パワーエックス社ではリン酸鉄型リチウムイオン電池を使用しているが、この電池の電解質は可燃性であるため船に乗せるために安全性に配慮した蓄電池セルを特別に設計したという。しかし、提案の方法ではその必要はない。
また、提案の方法では、特殊な構造の船は不要であり、現在運航中のタンカーに若干の改造を加えるだけでそのまま使える可能性がある。もちろん、港湾での積み下ろし作業もクレーンなどは必要なく、活物質を含んだ電解液をポンプでタンクに送るだけでよい。
一方、問題点としては、活物質として使われるバナジウムの価格が高騰していることや、活物質を貯蔵、輸送する際の自然放電を防ぐ工夫が必要なことである。
なお、この提案はレドックスフロー蓄電池を例として挙げているが、この種類の蓄電池でなければならないということはない。既に述べたように、蓄電池は活物質、電解液および電極からなっている。さらに、これらの成分を固定するパッケージや配線類などが付属するが、そのすべてを運搬する必要はなく、活物質だけを取り出せる電池なら、このアイデアは有効であろう。
もうすでに、このような提案をしている人がいるのかもしれないが、筆者が調べた限りでは、レドックスフロー蓄電池の活物質と電解質は電池セルの近傍に貯蔵し、遠隔地への輸送ということは考えられてないようだ。
2025年6月15日
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