昨年(2024年)11月、政府はE10ガソリンを導入する方針を固めた。E10ガソリンとはバイオエタノールを10%添加したガソリンのことだ。このE10ガソリン、海外では珍しいものではない。すでに多くの国々で導入されているのだが、わが国でも気候変動対策としてE10ガソリンの導入が進められることになったものである。
ところで、以前、高濃度アルコール燃料というものがあった。ガイアックス(他にイクシオン、エピオンなど)という名前で一般に販売され、マスコミでも取り上げられたので知っている人も多いだろう。
そのガイアックスもバイオエタノールではないがアルコール類をガソリンに添加したものだった。しかし、これは車の故障の原因になる。あるいは排気ガス中の有害なNOx量が増えるという理由で販売が禁止された。
今回、政府が導入する方針を決めたバイオエタノールもアルコールの一種だ。では、なぜE10はよくて、ガイアックスはだめなのかと疑問を持たれる方も多いだろう。この記事ではE10とガイアックスの違いについて解説したい。
添加されるアルコール類の種類の違い
まず、 E10ガソリンとガイアックスの違いは添加されるアルコール類の種類が違うことだ。E10ガソリンにはサトウキビやトウモロコシなど、植物を原料として作られたバイオエタノールが使われる。
バイオエタノールを燃料として燃やした時に排出されるCO2は、もともと植物が成長過程で空気中から取り入れたもの。だから空気中のCO2を増やさないから気候変動対策になるということだ。
一方、ガイアックスの場合は、添加されているアルコール類はバイオエタノールではなく、イソプロピルアルコールやブタノールと呼ばれるもの。あるいはアルコールではないがMTBEというエーテル類も含まれていた。
これらは植物から作られるのではなく、石油や天然ガスから作られる。もともとの用途は塗料や薬品類を溶かす溶剤つまりシンナーなどで、工業的に比較的大量に作られているものだった。
こういうアルコール類やエーテル類を燃やして出てくるCO2は、空気から取り入れたものではなく、もとはといえば地下からくみ上げたものだから、空気中のCO2を増やしてしまう。つまり気候変動対策にはならないのだ。
添加されるアルコール類の量の違い
次の違いは添加されるアルコールの量だ。 E10はもちろんバイオエタノールを10%添加したもの。一方、ガイアックスは50%以上がアルコール類だ。つまりガイアックスは添加されるアルコール類の濃度が全然高い。
なせこんなに高い濃度のアルコール類を添加したかといえば税金対策である。ガソリンには揮発油税という非常に高率な税金が課せられていることはご存じのとおりであるが、一方、アルコール類は無税だ。だから以前から無税のアルコール類をこっそりガソリンに添加して揮発油税をごまかそうそうという業者が後を絶たず、取り締まりの対象となっていた。
ところが、ガイアックスは50%以上のアルコール類をガソリンに混ぜて、これはもはやガソリンではない、新燃料だという触れ込みで売り出した。ガソリンではないから、揮発油税を払わなくていいという理屈だ。
揮発油税が課されるガソリンの定義なのだが、国税庁の通達でおおむね50%以上の炭化水素を含むものとされている。だからアルコール類を50%以上ガソリンに混ぜれば法律的にもうガソリンではないということになる。
しかし、当時、日本を走っている自動車は輸入車でない限り、燃料としてアルコール類を含まないガソリンを使う前提で設計されていた。そこに、アルコール類を50%以上も含む燃料を使うことは想定されていない。その結果、ガイアックスを使った一部の車両で故障が多発することになった。
また、排ガス浄化装置もこのようなアルコール類を含む燃料を想定していないので排ガス中の窒素酸化物の排出量が普通のガソリンを使ったときより5倍も増えてしまうという問題も指摘されていた。
ではE10ガソリンは大丈夫なのか
ガイアックスが発売されたころも、すでに海外ではE10は販売されていた。それで問題なかったのかというと、そういう国では自動車側でアルコールを10%含むガソリンに対応していたのだ。いきなり50%もの高濃度のアルコール類を含む燃料を販売すればそれは無茶というものだろう。
なお、アメリカではバイオエタノールを85%も含むE85と呼ばれるガソリンが売られている。ブラジルではE100、つまりバイオエタノール100%の燃料も売られている。このような燃料はガイアックスよりアルコール濃度の高いガソリン(E100はもうガソリンではないが…)であるが、それでも大丈夫なのだろうか。
アメリカやブラジルでも、このような高濃度の燃料を使えるのはE85あるいはE100専用車に限っている。ガイアックスが当時、宣伝していたように、どんな車両でも使っていいというわけというわけではないのである。
このようにガイアックスはE10ガソリンと同じようにアルコール類をガソリンに添加した燃料ではあるが、その添加するアルコール類の種類も添加量も違う。ガイアックスでは気候変動対策にならないし、当時は自動車側での対応もできていないという燃料であったため、いろいろトラブルが起こったというわけである。
このガイアックス事件を契機として、日本ではガソリンに含まれるアルコール類は3%以下に制限されることになった。しかし、そのころから日本の一部のカーメーカーはE10ガソリンに対応した自動車を作り始めている。その結果、現在、路上を走っている車はかなりの割合でE10対応となっている。
政府が、E10導入の方針を決めたのは、わが国でもE10対応車の割合が増えてきていると判断したためであろう。
2025年1月19日 *7
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