[5分で解説]PFASとは何か その化学構造から読み取る

最近、PFASという化学物質による環境汚染が問題となっている。
PFASは健康への影響が懸念されている物質なのだが、昨年、米軍基地から排出されていることが分かって問題となった。これだけなら米軍基地の管理の問題なのだが、その後、米軍基地とは関係のない河川や土壌などからも次々とPFASが検出され、さらには水道水や市販されているミネラルウォーターからも検出されて、さらに問題が大きくなっている。

こうなると、このPFAS汚染、いったいだれが垂れ流しているのか、どこが発生源なのか。健康被害は大丈夫か、そんなに有害なものならなぜ早く規制しないのか。様々な疑念が湧いてくる。それより、そもそもPFASとはどんなものなのか。
ここでは分かりにくいPFASについて、その化学構造から解説したい。

PFASとは何物か

PFASとは、ペルまたはポリフルオロアルキルサブスタンスの略であるが、このカタカナの名前だけ聞いてどのような物質なのか、お分かりになる方は少ないだろう。ペルとは「すべての」、ポリは「たくさんの」という意味だ。次のフルオロとは「フッ素化された」。アルキルは炭素と水素が鎖状につながった化学構造、アルキル基のことをいう。最後のサブスタンスの意味は「物質」だ。

有機物質には炭素が鎖のようにつながって、周りに水素が配置された部分を持つことが多い。この部分がアルキル基とよばれるものだ。このアルキル基の水素原子を、全部あるいは大半をフッ素原子に置き置き換えたものが、PFASである。

例えばこんな感じ。

図の上部に掲げたオクタン酸(カプリル酸)というのは、炭素が7個つながった鎖状のアルキル基とカルボキシ基というふたつの部分を持つ。これはかなりありふれた物質で、ココナッツやバター、母乳や牛乳にも含まれる。もちろん毒性はない。

このオクタン酸に含まれるアルキル基の水素部分がすべてフッ素に置き換わったらPFASということになる。この場合はペルフルオロオクタン酸、略してPFOAとよばれるPFASの一種である。

アルキル基というのは、さまざまな有機化合物にごく普通にみられる化学構造で、例えば、石油類やワックス、食品、洗剤など、多くの有機化合物に含まれている。このアルキル基の水素部分がフッ素に置き換わればPFASととなるわけである。

したがって、PFASは種類が多い。数え方にもよるが4,700種類とも、1万2,000種類ともいわれている。

何に使われているか

PFASはフッ素Fと炭素Cが結合しているところが特徴である。このCとFの結合は非常に強固で、切断するのが難しい。

さらに水素に比べてフッ素のサイズはかなり大きい。フッ素は水素原子より2割ほど大きく、アルキル基の骨格となる炭素原子と同じくらいの大きさだ。その結果、アルキル基の炭素の鎖がフッ素原子によって、隙間なく取り囲まれ、まるで鎧を着たような状態となる。そうなると、外部からの酸素や薬品類の影響を受けにくくなるのだ。

つまりPFASは外部からの影響を受けにくく、壊れにくく頑丈だという特徴がある。このためPFASは「永遠の化合物」とまでいわれる。

PFASは、このような頑丈な化学構造を持っているため、一般に熱や薬品、紫外線に強い。このためさまざまな用途に使われる。例えば、フライパンの表面処理剤、自動車のコーティング剤、消火剤などである。また、農薬にも補助剤として使用されていた。

つまり、PFASはとても頑丈な物質であることから、その特性を生かして様々な用途に使われるわけであるが、一方でこの頑丈さが仇となって問題が生じることになる。

人体への有害性は

PFASは壊れにくい物質であるから、体内に吸収されるとなかなか排出されず、身体に蓄積されていくことになる。ただすべてのPFASが人体にとって有害かというと、そうではない。

たとえばフライパンの表面加工に使われるお馴染みのテフロンもPFASの一種である。しかし、テフロンはPFOAなどとは比べものにならないほど巨大な分子であるため、摂取しても胃や腸の細胞膜から吸収されることはなく、そのまま排出されてしまう。このため、テフロンは安全だと考えられている。

実は、PFASのうち、人体に対して明らかに害があると確認されているのは、現在のところPFOA、PFOS、PFHxSとよばれる3種類のみである。この3種のPFASについては、コレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されている。

この3種類のPFASのうち、PFOAは上に図で示している。そのほかのものの化学構造は以下のようになっている。

PFOSはPFOAのカルボキシ基がスルホ基というものに代わったものである。そしてPFHxS はPFOSより炭素の数が2個少なく6個になったものである。

いずれも、フッ素化アルキル基の端にカルボキシ基またはスルホ基がくっついた形である。このカルボキシ基とスルホ基はいずれも水に溶けやすく、酸性を示すという性質を持つ。一方、アルキル基の方は水ではなく油に溶けやすい。

つまり、いずれも一つの分子の中に水に溶けやすい部分と油に溶けやすい部分を持っている。この構造は実は石鹸や洗剤など、界面活性剤といわれる物質と同じ構造なのだ。

洗剤と同じということは、つまり水と混ざると泡を作る。ただし、フッ素が含まれていると石鹸泡とは違って熱に強く、燃えにくい。このため泡消火器用の消火剤として使われてきた。

例えばガソリンやジェット燃料タンクで火災が発生した時に、この消火剤をタンクに注ぎ込めば、油面に強固な泡の膜を作る。そうなると、空気と燃料とが遮断されて火災は鎮火することになる。

米軍基地周辺から見つかったPFASは米軍が使っている泡消火設備から漏れ出たものといわれている。米軍施設から出てきたからといって、化学兵器とかそんなものではない。

除去・分解技術の開発

PFASが環境中に漏れ出ると、土壌を汚染したり、水に溶け込んで河川や地下水に流れ込んだりして、場合によっては水道水に混入する可能性もある。このような場合、まずPFASを分離して回収したあと、回収したPFASを分解して無害なものに転換しなければならない。

PFASの分離、回収には、活性炭や金属を担持したカーボンナノチューブ、イオン交換樹脂などが有効であることが分かっている。

しかし、PFASが頑強な化学構造を持つことから、回収されたPFASを加熱や燃焼によって分解することは難しい。分解方法としては紫外線による光分解や電気化学的分解、プラズマコロナ分解などが検討されている。

今後どうなる

人体に有害であることが判明している3種類のPFASについては、すでにわが国では製造も輸入も禁止されている。ただ、まだ全国にPFOS等を使った消火液が残っており、また農薬として散布されたものが土壌を汚染し、それが河川に流れ込むことはあるだろう。ただし、規制が強化されたことから、今後少しずつ減っていくのではないだろうか。

現在のところ上記の3種類のPFASのみが有害とされている。しかし、今後調査が進むにつれて、今後、新たなPFASが有害と認められるかもしれない。

多くの化学物質はその化学構造から物理的、化学的性質をだいたい推測することができるが、健康への影響については化学構造だけでは判定できないので、ひとつひとつ確認しなければならない。なにしろPFASは 1万2,000種類もあるのだ。

2024年7月15日

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