地球が温暖化すれば、涼しい高地や緯度の高い所に移住すればいいのか 八つあん熊さんの気候変動談義

今年も猛暑になるのでしょうか。夏場の高温は世界的な傾向です。これまでも地球は温暖化していることがデータで示されてしましたが、いよいよその温暖化が肌で感じられるようになったのではないでしょうか。

しかし、地球が温暖化して気温が上がれば、高地や緯度の高い涼しいところに移住すればいい。特に温暖化対策をする必要はないと主張する人たちもいます。

八「おい、熊よ。最近の夏はとっても暑くなってないか」
熊「おう、それは俺も感じてるぜ。どうもCO2ってもんが原因だそうだな」
八「だからよ。俺たちもCO2を出さないように気を付けろってことなんだろ」
熊「しかしな八よ、CO2を出さないようにするってのは、ずいぶん金がかかるって話だろ。それより、もっと北の方に移住したらどうだ。あるいは、山の上の方の涼しいところに住めばいいってことじゃないのか」
八「そりゃ言われりゃそうだ。世界中の人が北の方や山の上に住むようになれば、温暖化問題なんて一挙に解決ってわけだ」

気温が上がってもエアコンや移住という方法がある?

地球が温暖化すれば、高緯度あるいは標高の高いところに移住すればいい。だから温暖化対策は無駄だという意見を聞くことがあります。私の友人に軽井沢に別荘を持っている人がいますが、夏の間だけでも軽井沢や北海道の別荘で過ごせたらどんなにいいことかと羨ましく思っています。

もちろん筆者のような一般庶民は、別荘など手が届きませんから、自宅のエアコンをガンガン効かせて家にこもる、というのが暑い夏を乗り切る一番合理的な方法なのかもしれません。夏が暑くなったといってもせいぜい40℃ですから、エアコンをかけて、少し我慢すれば死ぬことはない。
と考えると、地球温暖化はそれほど気にする必要もないと思えるかもしれません。

地球温暖化といっても、地球の平均気温はこの100年間でたったの1.2℃しか上がっていない。年間にすれば0.012℃だ。こんなことのために、日本は多大の予算をつぎ込んで再生可能エネルギーを導入し、何兆円もの税金を使って途上国に援助している。こんなばかばかしいことはすぐにやめるべきだと主張する人もいます。

夏場の気温が40℃になっても、エアコンをがんがん効かせればいいことだし、何なら北海道や、場合によってはシベリアかどこかに涼しい所に移住すればいい。そう考える人もいます。

しかし、それはそう簡単な話ではないのです。ひとつは地球温暖化の影響は気温が上昇するということだけではないということ。もうひとつは、涼しい所に移住するというのは今まで築いてきたインフラや生産財などの資産を捨ててしまわなければならないということなのです。

地球は巨大なテラリウム

地球というのは外界から隔絶された閉鎖系で、宇宙にポッンと浮かんでいるオアシスだと言われます。テラリウムというものをご存知でしょうか。ガラスの容器に土や砂や水を入れ、これに植物を植えたり、メダカなどの生物を入れたりしたものです。

密閉型テラリウム

特に密閉した容器を使ってテラリウムを作ると、外部から空気や水や餌を入れてやることができません。それでも中の生き物は、その活動がうまくバランスすれば外部から物質を補充しなくても、何か月も生き続けることができます。

地球もこれと同じで、外部からの物質はほとんど入ってこないし、出て行きませんが、中の生物がうまくバランスをとっているので何億年にもわたって生物が生き続けているのです。つまり地球は巨大なテラリウムというわけです。

ただ、地球もテラリウムも同じなのですが、物質の出入りはなくても、光や赤外線の出入りはあります。地球は太陽から主に光という電磁波を受け、赤外線という光とは波長の違った電磁波を放出しています。

地球温暖化は単に気温が上昇するという話ではない

この太陽光というエネルギーが地球に降り注ぐおかげで、地球内部では様々な現象が起こります。晴れた日もあれば、曇った日、雨が降る日、雪が降る日もあります。さわやかな風が吹くこともあれば、むしむしと暑く湿った日もあります。太陽の光や雨や風によって、森が育ち、作物が育ち、川が流れ、氷河ができ、生き物が育ち、そして人間が生きています。

これらの地球の動き、つまり森羅万象は地球が持つエネルギーによって引き起こされており、そしてそのエネルギーのほとんどは太陽から来た光によるものです。(地熱や原子力は太陽光起源ではありませんが、太陽光エネルギーに比べれば、それはごくわずかな量に過ぎません)

地球がエネルギーを持つと、その一部は赤外線となって放出され、これによって地球の持つエネルギーは一定に保たれています。今問題となっている地球温暖化は、地球から放出される赤外線が空気中のCO2に阻害され、その結果、従来は宇宙に逃げて行ったエネルギーが地球内部に蓄えられ、地球の持つエネルギーは増加するという現象です。

これによって地球の持つエネルギーは、1971~2006年では1m2あたり0.50Wであったものが、2006~2018年には0.79Wに増加したそうです。そして、このエネルギーの増加量のうち91%は海洋の温暖化によるもの。そのほか、陸地の温暖化は5%、氷の減少が3%、大気の温暖化は1%であったといわれます。

つまり、温室効果によって地球に蓄えられるエネルギーの内、大気の温度上昇に使われるのはごくわずかでしかありません。大気の温度上昇としてわれわれが肌で感じる以上に、地球の温暖化は進んでいるのです。

地球温暖化によって引き起こされる現象

地球の持つエネルギーが増加すれば、当然ながら地球で起こる様々な森羅万象が影響を受けることになります。

上の図は地球温暖化によって、どのような気象の変化が起こるか、つまり森羅万象にどのような影響をあたえるかを示したものです。この図で示されるように、地球温暖化によって次のような問題が発生することになります。

極端な降水と洪水:海洋に蓄えられたエネルギーによって海水温が上昇し、海水温が上昇すれば水の蒸発量が増えて、その分、雨や雪の量が増える
沿岸洪水、海岸浸食:海水の温度が上昇すれば、海水が熱膨張することによって海面が上昇し、海岸付近で洪水が発生しやすくなり、また海岸線が浸食される
農業および生態学的旱魃;陸地の温度が上がれば、土の中の水分が蒸発して、砂漠化が進む。

このように、地球温暖化は単に気温が上昇するということだけではなく、地球の持つエネルギーが増加することによって、様々な自然現象が影響を受けるとことになります。単に夏場だけちょっと我慢をすればいいという話ではありません。

気候変動難民という恐怖

地球温暖化という言葉は分かりやすいので広く使われていますが、実は温暖化によって引き起こされる気候変動による弊害の方が重大なのです。

例えば、砂漠化が進めば、農地で食料が生産できなくなります。海面が上昇してくれば、標高の低い土地に住む人たちは住むところを失います。一方で、寒波や霜の害が減って、かえって農業がしやすくなったり住みやすくなったりする場所もあるかもしれません。

では、早魅や洪水や海面上昇によって住むところを奪われた人々は、そういう住みやすくなったところに移住すればいいのでしょうか。それは、そう簡単なことではないことは容易に想像がつくでしょう。

生産手段を失い、あるいは住むところを奪われた地域の人々は、いわば気候難民となるのです。気候難民が、地球温暖化によって住みやすくなった土地に移動しようとしても、受け入れ側としては迷惑な話です。すんなりと移住を受け入れてもらえるとは思えません。裕福な人たちが夏場だけ別荘に住むという話とはもちろん違うのです。

例えば、パキスタンやコンゴなどでの大規模洪水や、アフガニスタン、マダガスカル、アフリカの角地域などでの干ばつの影響により、何百万人もの人々が移住せざるを得なくなっています。

地球温暖化はちょっと夏場の気温が高くなった、気温が上がれば涼しいところに移住すればいい、という程度の話ではなく、気候の変動によって一部の地域では人が住めなくなり、あるいは住居や生産財を失って、難民として移住せざるを得なくなる。という深刻な問題を生みだしているのです。

八「つまり、暑くなったから高地や北の方に移住すればいいってもんじゃないってこったな。涼しい北の方に移住してもそこでおいらの仕事があるって保障はないし、仕事がなきゃおまんまの食い上げだ。よくよく考えてみると移住ってぇのは、そんな簡単な話じゃないってこったな」

2025年5月18日 *18

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