いまさら聞けないアルコール消毒液のはなし(バイオ燃料のはなし)

この記事は新型コロナウイルス非常事態宣言の真っ最中に書いています。もともと、このシリーズではバイオ燃料について書いていました。それで、今回はバイオエタノール燃料について書こうとしていたところ、世間ではアルコール消毒液の不足が問題となってきました。

コロナウイルスの感染を防ぐため、手指は良く洗ったり、消毒したりしましょうという呼びかけが政府から行われています。ところが、消毒液はスーパーでもドラッグストアでも、ネットでも売り切れ。一方で、酒造メーカーや清涼飲料水のメーカーがアルコール消毒液の製造を始めたとの報道もありました。

ところで、アルコール消毒とは何でしょうか。バイオエタノール燃料とも少なからず関係があることから、今回はアルコール消毒液について、すごく基本的なことから、ちょっと詳しいところまで述べてみたいと思います。

1.アルコールとは何?

まず、アルコールとは何でしょうか。アルコールとは分子の中に-OHという構造が含まれる有機化合物(炭素を含む物質)の総称です。また、アルコール類の名前には「ノール」という接尾語を付けることになっています。

例えば、炭素1個の最も簡単な有機化合物はメタンですが、これに-OHがくっつくとメタノール、炭素2個の化合物はエタンですが、これに-OHがくっつくとエタノール、炭素3個の場合はプロパノールという具合です。なお、プロパノールには炭素のつながり方によってノルマルプロパノールとイソプロパノールがあります。

アルコール類の化学構造 (Cは炭素、Hは水素、Oは酸素)

また、別の呼び方として接尾語に「アルコール」を付けることがあります。メタノールはメチルアルコール、エタノールはエチルアルコール、プロパノールはプロピルアルコールとも呼ばれます。

ちょっと紛らわしいですが、同じものです。このようにアルコールにはいろいろな種類があるのですが、最も生産量が多くて、最もよく使われるものは炭素数が2のアルコール、すなわちエタノール(エチルアルコール)です。

2.エタノールの種類

エタノールは一種類の物質ですが、その製法や品質によっていくつかの種類があります。これからエタノールの種類について紹介したいと思います。

(1)バイオエタノールと合成エタノール

エタノールの作り方にはふた通りの方法があります。ひとつは、サトウキビやトウモロコシなどの植物を原料として、発酵法によって製造する方法。もうひとつは、石油や天然ガスを原料として化学合成によって製造する方法※1です。

植物を原料としたエタノールをバイオエタノール。石油や天然ガスを原料にしたエタノールを合成エタノールといいます。ただ、この二つは作り方が違うだけで、できたエタノールは物理的、化学的な性質が全く同じなので、見分けがつきません。

しかしながら、合成エタノールは化石燃料を原料としていますので、当然ながらカーボンニュートラルではなく、地球温暖化対策にはなりません。ですから合成エタノールが燃料として使われることは、普通はありません。

(2)含水エタノールと無水エタノール

エタノールは水に溶けやすく、水とはどんな割合でも混ざり合います。製造されたばかりのエタノールは水溶液の形になっていて、濃度は10%以下しかありません。

そこで、濃度の高いエタノールが必要なときは、蒸留によって水分を取り除きます。ただし、通常の蒸留法では、どんなにがんばっても水分が4%程度残ってしまうという性質があります。このように4%程度の水分を含むエタノールを含水エタノール(エタノール純度95%以上)といいます。

含水エタノールから、さらに特殊な方法で水分を除去すると、水分をほとんど含まないエタノールを作ることができます。これを無水エタノール(エタノール純度99.5%以上)といいます。

つまり濃度の高いエタノールには、含水エタノールと無水エタノールがあるということですが、この区別はバイオエタノールにも合成エタノールにもあります。

(3)変性エタノール

日本では、お酒には酒税という税金がかけられています。酒税の対象になるのは「エタノールが1%以上含まれる飲み物」とされています。

しかし、エタノールはお酒だけでなく、溶剤や化粧品や食品や燃料などの用途があります。このようなお酒以外の用途に用いられるエタノールの場合は工業用エタノールと言われ、酒税がかかりません。

ただし、製造者が勝手に、これはお酒じゃないので酒税を払わないよと言うことはできません。アルコール事業法という法律に基づいて許可を受けて製造され、なおかつエタノール濃度が90%以上のものだけについて、酒税が免除されます。

ただし、これだと課税されていないエタノールを買ってきて、水で薄めてお酒として飲んだり、販売したりする不届き者が出ないとも限りません。そこで、工業用エタノールには有毒なメタノールや、プロパノール、ガソリンなどを少量添加して飲めないようにしています。このような不純物を加えて飲用に適さないようにしたエタノールを変性エタノールといいます。

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3.エタノールの用途

エタノールの用途としては、飲食用、燃料用、工業用、消毒用などがあります。

(1)飲食用(お酒)

飲用とは、つまりお酒のこと。日本酒やワインは発酵させてろ過すれば、そのままで製品になりますが、焼酎やウィスキーは、蒸留して水分を取り除いてエタノール濃度を20%から45%くらいまで高めています。

また、エタノールは食品に添加されたりすることもあります。例えば味噌は過剰な発酵を抑えるため、醤油には腐敗を防止するために、それぞれエタノールが添加されています。

(2)工業用

工業用としては、接着剤や塗料、インクなどの溶剤として、また、香水は油状や固体の香料をエタノールに溶かしたものです。

(3)燃料用

燃料用とは、ガソリンに混合して自動車用燃料として使用するものです。(ブラジルではガソリンに混ぜないで、そのまま燃料として使用されることがあります。)これにつきましては、次回からもっと詳しく述べていきます。

(4)消毒用※2

エタノールは細菌類やウイルスの表面の細胞膜やタンパク質を破壊して死滅させる作用があるので、消毒に用いられます。この作用はアルコール類の中でも炭素の数が多いほど効果が大きいと言われていますが、一般に消毒用として使われているのは炭素数2のエタノールです。

ただ、消毒に使うエタノールは濃度が高いほど良いというものではなく、70%くらいが最も効果が高いようです。消毒用として市販されているエタノールは、だいたいそのくらいの濃度に調整されていますが、含水エタノール(濃度95%)や無水エタノール(濃度99.5%)でも、清水を加えて濃度を70%前後に調整すれば消毒用として使うことができます。



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4.市販されている消毒用エタノールの注意点

(1)植物を原料とした消毒用エタノール

市販されている消毒用エタノールの中には、原料がトウモロコシのような植物だとことさら強調しているものがあります。なんとなく植物原料のものが身体によさそうですが、消毒効果は植物を原料としたバイオエタノールでも、石油や天然ガスを原料とした合成エタノールでも同じで、違いはまったくありません。

(2)エタノールとアルコールの違い

市販品には「消毒用エタノール」と書かれたものと「消毒用アルコール」と書かれたものがありますが、いずれも同じものです。(厳密にいえば消毒用アルコールという表記ならメタノールやプロパノールなどを使ったものもあり得ることになります。購入するときに成分表を確認すると安心です)

(3)商品名にIPやIPAがついたもの

市販品には「消毒用エタノール」のほかに「消毒用エタノールIP」や「消毒用エタノールIPA」と書かれたものがあります。IPやIPAというのはイソプロパノール(イソプロピルアルコール)のことです。

IPやIPAが付いたものは、エタノールにイソプロパノールを少量加えていますよということです。これは、毒性のあるイソプロパノールを加えて飲めないようにすることが目的で、お酒にはできないので、酒税がかかりません。いわゆる変性エタノールと言われるものです。

酒税がかかっていない分、価格が若干安めですが、消毒の効果はほとんど変わらないのでお得です。

(4)専門メーカー以外の製品

コロナウイルスの蔓延に伴って、消毒用エタノールの消費が急増して、手に入りにくくなっています。従来の消毒用エタノールメーカーのほかに、お酒の醸造所や清涼飲料水のメーカーでも消毒用エタノールを製造するようになりました。

エタノールを70%程度の濃度に調整すれば消毒用として使えるわけですから、このような新たに参入したメーカーの製品でも、ちゃんと品質管理さえしてあれば、問題なく使えます。

(5)手作り消毒用エタノール

焼酎を蒸留することによって消毒用エタノールを自分で作るという方法もあるようで、そのためのキットも販売されています。ただし、この方法は単蒸留といわれる方法で、エタノール濃度がそれほど上がりません。

例えば、20度の焼酎を蒸留すると、蒸留液のエタノール濃度は53%程度になります。この濃度でも消毒効果はありますが、市販のものよりも消毒効果は劣ります。また、エタノールは引火しやすく火災の危険があるので、家庭で行うときは十分注意する必要があります。

無水エタノールが入手できれば、これに清水を30%程度混ぜれば消毒に使えますので、こちらの方が安全で簡単です。容器に無水エタノールと清水を7:3の割合で入れ、よくかき混ぜれば出来上がり。ウィスキーの水割りと同じ要領ですね。家庭や職場でも簡単に作ることができます。

ただし、作り方がウィスキーの水割りと同じだといっても、無水エタノールは毒性のある添加剤を加えて変性エタノールになっている場合がありますので、手作り消毒液はくれぐれも飲まないでください。酒税法違反となりますし、なによりもあなたの健康を害します。

なお、消毒用エタノールと無水エタノールのバナーを張り付けておきました。ただし、この記事を書いている時点では消毒用エタノールは在庫がありませんでした。無水エタノールの方はまだ若干の在庫があるようです。

消毒用エタノール

 

無水エタノール

 

 


※1 合成エタノールの製造法はナフサや天然ガスを分解してエチレンにしたあと、水を付加してエタノールを製造する直接水和法と、やはりエチレンに硫酸を反応させて硫酸エステルにしたあとで水を反応させる間接水和法があります。

※2 花王株式会社安全性評価研究センター 人見潤「アルコールと殺菌の話」を参考にさせていただきました。

(2020年5月4日)

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いまさら聞けないアルコール消毒液のはなし(バイオ燃料のはなし)」への2件のフィードバック

  1. 小島順一

    非常に役に立ちました。
    世の中には知っているようで知らないことがたくさんあります。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      小島様。興味を持って読んでいただきありがとうございます。少しでもお役に立てば幸いです。

      返信

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