[石油の疑問]レギュラーガソリンとハイオクガソリンの作り方はどう違うのか

ガソリンスタンドでは、ご存知のとおりレギュラーガソリンとハイオクガソリン、それに軽油が売っている。自動車のユーザーはその中から自分の自動車に適合した油種を給油するわけであるが、軽油はともかく、レギュラーとハイオクの作り方の違いを知っている人は多くはないのではないだろうか。この記事ではレギュラーガソリンとハイオクガソリンの作り方の違いを解説する。

レギュラーとハイオクの違い

石油製品の中で最も生産量の多いのがガソリンだ。そしてそのガソリンのほとんどが自動車用燃料として使われている。したがってガソリンは自動車が快適に、円滑に運転できること、かつエグゾーストノズルから排出される有害物質をできるだけ減らすこと、という特性が求められている。

ガソリンの品質は良く知られているようにJIS規格に定められているが、それとは別に「揮発油等の品質確保に関する法律(略して品確法)」という法律によっても決められている。その内容は次の表のとおりである。

ガソリンのJIS規格(一部抜粋)


「揮発油等の品質確保に関する法律」に掲げられたガソリンの強制規格

品確法による規格は車の安全や環境の面から必要とされる品質を定めたもので、一方、JIS規格はどちらかというと自動車を円滑に駆動させたり、性能を引き出したりすることを狙った規格である。

品確法に掲げられた強制規格は、その名のとおり強制力があって、この規格を満たさないガソリンは日本のガソリンスタンドで販売することができない。一方JIS規格は、それを守らなければ販売できないというものではないが、日本の石油会社が作っているガソリンは、レース用や試験用など特殊な用途を除いてJIS規格に準拠して作られている。

では、ハイオクとレギュラーの違いはなんなのだろうか。JISの規格表を見るとわかるようにガソリンには1号と2号がある。1号がハイオク、2号がレギュラーの規格となっている。ちなみに1号にも2号にも(E)のついたものがあるが、これはバイオエタノールを3%から10%の範囲で添加したものだ。ただし、現在のところ日本ではこの規格のガソリンはほとんど売られていない。

さて、1号と2号、つまりハイオクとレギュラーの違いであるが、JIS規格上の違いはオクタン価。それだけだ。ハイオクはオクタン価が96.0以上、レギュラーは89.0以上と決められている。そしてそれ以外の規格の違いは全くない。

実際に日本のメーカーが作っているガソリンのオクタン価はJIS規格より少し上乗せされていて、レギュラーが90以上、ハイオクはメーカーによって違うが98か100だ。

さらに、ハイオクには清浄剤という添加剤が添加されている。JISには清浄剤についての規定はないが、製品としての付加価値を高めるために石油会社が独自に添加している。ちなみに、この清浄剤はエンジンバルブの汚れを付きにくくするものである。誤解されていることが多いが、エンジン自体やシリンダー内を綺麗にするものではない。実際、清浄剤の種類によっては、かえってエンジン内部が汚れる場合もあることは意外と知られていない。

ハイオクはオクタン価が高い。オクタン価が高いということは燃えにくい。燃えにくいからエンジン内部が汚れるなどと説明されることがあるが、実はこれは間違い。エンジン内部が汚れるのはハイオクに含まれる清浄剤のせいなのだ。ただ、エンジン内部が見た目で汚れていても、それほどエンジン性能に影響はない。重要なのはバルブの汚れ。これが汚れるとエンジン性能が大きく低下することがある。

話が少しそれたが、国内石油会社で作られているハイオクはJIS規格よりオクタン価を高め、さらに清浄剤が添加されている。また、かつては蒸留性状という蒸発のしやすさを調整したり、アルキレートやMTBEという成分を添加したりして自動車の性能を引き出す工夫がされていたりしていた。このことからハイオクは単にオクタン価が高いだけではなく、車が走りやすいように、さまざまな工夫が凝らされていたので、名称もハイオクガソリンではなくプレミアムガソリンなどといわれていた。

ときどき、自動車のガソリン給油口付近に「無鉛プレミアム」と書かれていることがあるが、これは鉛化合物を含まないハイオクを給油してくださいということだ。

このように日本の石油会社がJIS規格に上乗せする形で付加価値をつけていたわけであるが。これは石油会社の競争が今よりずいぶん激しかったころのなごりである。現在、日本の石油元売会社は事実上3社に集約されているが、1980年代には日本の石油元売各社は15社もあり、互いにハイオクの販売量を増やそうと必死で差別化を図っていたのである。

オクタン価とはなにか

ガソリンエンジンは作動時に吸入、圧縮、爆発、排気というサイクルを繰り返す。圧縮行程では圧縮を強度(圧縮の度合いを圧縮比という)に行うほどエンジン効率が良くなり、パワーが出る。しかし、圧縮しすぎるとガソリンが異常燃焼を起こしてノッキングという現象が起こる。ノッキングが起こるとエンジンがガタガタ震えて、場合によってはエンジンが破損してしまうことになるから、いくらでも圧縮すればいいというものではない。

ではどのくらいの圧縮比にすれば異常燃焼が起きないのか。それは使用するガソリンの特性による。異常燃焼のしにくさ、つまりノッキングのおこりにくさの指標がオクタン価だ。オクタン価の高いガソリンは異常燃焼しにくい、つまりノッキングしにくいから、圧縮比を高めることができて、エンジン効率が上がる。

高性能車はエンジンの性能を高めるため、圧縮比を大きくしていることが多いからオクタン価の高いガソリンを使うことが必要だ。日本の場合、高性能エンジンはオクタン価が98や100のガソリンを使うことを前提として設計、調整されている。だから、こういう車にはハイオクを使用しなければならない。

一方、普通の性能のエンジンであれば、それほど圧縮比は大きくないから、レギュラーガソリンを使用することになる。高性能エンジンにハイオクではなくレギュラーガソリンを使うとノッキングを起こすことになるが、実際にはノックセンサーというノッキングを感知する装置が取り付けてあり、エンジンを調整するから破壊的なノッキングは起こらないのだが、ただし、エンジン効率はかなり低下することになる。

一方、レギュラーガソリンを使うように設計されている一般の車両では、ハイオクを使ってもエンジン性能が良くなるわけではなく、ただ、お金の無駄遣いになるだけだといわれている。

なお、欧州車の多くはハイオクを使うことが奨励されているが、これは欧州で多く売られているガソリンのオクタン価が日本より高く、95のものが多いからである。このオクタン価95のガソリンに合わせて欧州車は設計されているため、日本のレギュラーでは低すぎるということで、オーバースペックではあるがハイオクの使用が求められているというわけである。

オクタン価を上げる方法

中東から輸入してきて製油所に運ばれてきた原油は最初に蒸留という操作が行われて、原油はナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などに分けられる。この工程で得られたガソリンのオクタン価は60~70程度しかないから、とてもJIS規格には適合しない。だから、規格に合うようにオクタン価を上げなければならないことになる。

よくオクタン価を高めるために石油会社は添加剤を加えているんだろうと言われることがある。確かに昔はそうしていたが、現在は添加剤によってオクタン価を上げることは行われていない。

ではどうやるか。ガソリンはいくつかの成分に分けられる。その成分とはノルマルパラフィン、イソパラフィン、ナフテン、オレフィンそして芳香族である。ガソリンのオクタン価はこの成分によって違ってくる。

一般にオクタン価は低い方から

n-パラフィン<ナフテン<イソパラフィン<オレフィン<芳香族

の順だ。(ただし、同じ成分カテゴリーの中に入るものでもいろいろな種類の化合物があってオクタン価は同じではないので、必ずしもこの順番になるわけではないが、だいたいこんな感じと考えてほしい。)

だから、ガソリンに含まれる成分をできるだけオクタン価の高い成分に転換してやれば、オクタン価を高めることができる。オクタン価を高める方法は次のような操作である。

改質
主にガソリンに含まれるナフテン分を芳香族分に転換する方法である。改質されたガソリンのオクタン価は96~100程度もある。

なお、ナフテンを芳香族に転換するときに水素が抜き出されるが、この水素は石油に含まれる硫黄分を取り除くときに使われる(水素化脱硫工程)。また、この水素を重油に添加すれば灯油や軽油を作ることができる(水素化分解工程)。製油所ではオクタン価を上げるために副生する水素も有効に利用されているわけである。

分解
単に原油を蒸留しただけでは需要の少ない重油がたくさんできてしまう。このため日本や欧米の製油所ではこれを分解してガソリンにしている。この分解によってできたガソリンには大量のオレフィン分が含まれるのでオクタン価が上がる。分解法によって作られたガソリンのオクタン価は90~93程度だ。

アルキル化
ガソリンより軽いLPG留分も、重油と同様に余剰気味なので、これをアルキル化という操作をおこなってガソリンを作っている製油所もある。アルキル化を行うとオクタン価の高いイソパラフィンができるのでオクタン価が上がる。アルキル化でできたガソリンをアルキレートという。アルキレートのオクタン価は94~96である。

こうやって、様々な方法で調整されたガソリンをガソリン基材というが、最終的には、これらのガソリン基材をブレンドして、規格にあった製品ガソリンが作られることになる。

レギュラーとハイオクの作り方の違い

以上述べたように、製油所ではさまざまな種類のガソリンができてくるわけであるが、最終的にはこれらのガソリンをブレンドして規格に合った製品が作られる。ハイオクとレギュラーはこのときのブレンドの仕方で作り分けられている。

ブレンドするガソリン基材は少なくても3種類、多い製油所では7~8種類もブレンドすることがある。製油所では各基材の性状を測定し、どの基材とどの基材を何%ずつ混ぜ合わせれば規格に合った製品ができるかを計算で求めて、その割合でブレンドする。

レギュラーとハイオクの違いは、これらのガソリン基材の混合割合である。つまり、ハイオクには特にオクタン価の高い基材が優先的に配合されてオクタン価が高められているわけであるが、オクタン価だけでなく、JISや品確法に定められたさまざまな規格、例えば蒸気圧や蒸留といったオクタン価以外の品質もクリアしなければならない。

ちなみに、ガソリンのブレンドで大事なことは、もちろん製品の性状が規格に合致したものでなければならないが、さらに重要なことは、製品の需要を満たして、かつ基材の過不足を起こさないことだ。

ある基材が足りないとか、ある基材が余ってしまうということが起こらないようにしなければならない。基材が余ったからどこかに捨てるとか、廃棄物処理業者に引き取ってもらうということはできない。そんなことをすれば製油所は大赤字になるし、そもそもそんな大量の危険物を引き取ってくれる処理業者はどこにもいないからだ。

そのような制約の中でハイオクはオクタン価が98や100になるように、レギュラーは90以上になるようにブレンド比率を計算してブレンドされる。ブレンドされたハイオクとレギュラーはもちろん別々のタンクに貯蔵され、1ロット毎に製品検査を受けて、合格したものが出荷されることになる。

オクタン価向上剤のいろいろ

従来はオクタン価を上げるために、オクタン価向上剤というものが用いられることがあった。特によく使われていたのがアルキル鉛という化合物だが、これは毒性が非常に強いため、ブレンドするときには細心の注意が必要であった。

しかし、現在アルキル鉛は、一般の市販ガソリン用としては使われていない。それは毒性の問題というより自動車の排ガス対策である。20世紀の終わりころ、自動車排ガスによる大気汚染が深刻となっていったため、自動車には排ガス浄化触媒が設置されることになったのだが、ガソリンに含まれるアルキル鉛がこの触媒を壊してしまうのだ。このため現在ではアルキル鉛をガソリンに添加することは禁止されている。

では、アルキル鉛化合物に代わるオクタン価向上剤はないのか。そのころいろいろ検討されたのだが、そのひとつとしてMTBEという化合物がある。ただし、米国でガソリンスタンドからガソリンが漏れだし、このとき水に溶けやすいMTBEが飲用にも使われる井戸水に混入したことから、米国の一部の州ではMTBEの使用が禁止されている。このため、現在米国ではMTBEは使われていない。

しかし、日本や欧州ではMTBEの使用は禁止されていない。それは、ガソリンスタンドの漏洩対策を厳密に行うことによってガソリン自体の漏洩を完全に防いでいるからだ。そもそもMTBEが井戸水に混入することを心配するより漏洩したガソリンを放置していたことの方が問題だろう。ガソリン自体が有害なのであるからMTBEだけ規制しても仕方がないというのが日欧の考え方であり、こっちの方が筋が通っていると思う。

また、米国ではMTBEは使われていないが、バイオエタノールをガソリンに10%混合することが義務付けられている。バイオエタノールのオクタン価は111もあるから、これもオクタン価向上剤の役割を果たしている。日本や欧州ではバイオエタノールを直接混合するのではなく、バイオエタノールから作られたETBEを添加しており、これもオクタン価向上効果(オクタン価118)があるが、日本の場合はオクタン価向上剤というより、地球温暖化対策の意味が大きい。

2024年10月12日

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