ガソリンのオクタン価は有害な添加剤で上げている?

ガソリンスタンドに行くと、レギュラーにしますか、ハイオク(またはプレミアム)にしますかと聞かれることがあります。あるいは、セルフのガソリンスタンドならレギュラーかハイオクかをモニター画面で選ぶことになります。

乗る車によってレギュラーかハイオクかが指定されていますので、自分の車にあった油種を選ぶわけですが、一般にはレギュラーを入れます。欧州車やスポーツタイプの車はハイオクを入れるように指定されていることがあります。

ハイオクというのはオクタン価が高い(ハイ)ということを示していて、価格もレギュラーより少し高い(ハイ)ですよね。では、オクタン価とは何でしょう。先日もある人からオクタン価って何ですかと聞かれました。意外と知らない人が多いのではないでしょうか。

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「私はBMWに乗っていて、ハイオクを入れるように指定されているのだけれど、なんでハイオクなの。レギュラーを入れちゃいけないの」とか、「レギュラーとハイオクは混ぜるとだめなの」とか「オクタン価ってメーカーによって違うの」とかいろいろ聞かれることがあります。

車を運転する人にとって、オクタン価というのは身近なものですが、意外に何か知らない。あるいは誤解されていることが多いのではないでしょうか。今回はその中で、「ガソリンのオクタン価は毒な添加剤で上げている」という誤解について話をしたいと思います。

オクタン価とは何か

オクタン価が何かについてご存知の方は、この章は読み飛ばしてください。特に新しいことは書いていませんから。

オクタン価とは、ノッキングの起こしにくさを表す指数で、これが高いほどノッキングを起こしにくいガソリンということ。つまり、オクタン価の高いガソリンほど性能が良いことを示しています。

ではノッキングとは何でしょうか。
ガソリンエンジンは吸入、圧縮、爆発、排気という行程があることはご存知だと思います。

① 吸入工程:ガソリンと空気の混ざったもの(混合気)がエンジンのシリンダー内に吸い込まれる工程です。

② 圧縮工程:シリンダー内のピストンが上昇することによって、吸い込まれた混合気が圧縮されます。

③ 爆発工程:混合気が最も圧縮された時点(実際には、その少し前)で、点火プラグによって混合気に点火され、混合気が爆発して急膨張します。この膨張によってシリンダーが押し下げられます。

④ 排気工程:次にシリンダーが上昇するときに、爆発によって生じた燃焼ガスが排気されます。

ガソリンエンジンの4つの工程

ガソリンエンジンはこの4つの工程を繰り返すわけですが、そのうち圧縮工程では、できるだけ混合気を圧縮した方がエンジンの効率が上がります。つまり、図のaの部分に比べて、bの部分をできるだけ小さくするようにした方がよいということです。このbに対するaの比率(a/b)を圧縮比といいます。エンジンの設計を行う場合、圧縮比はできるだけ大きくした方が良いということになります。

ただし、あまり圧縮比を上げ過ぎると、圧縮によってガソリン混合気の温度が上がってしまいます。その結果、ピストンが完全に上昇する前に混合気が勝手に着火して爆発してしまうことがあります。これを異常燃焼といいます。

異常燃焼が起こるとピストンは上端に達する前に下向きの力を受けることになり、エンジンの回転が阻害されてしまうことになります。そうなると、エンジンがカラカラという音をたてたり、急に出力が小さくなったり、場合によってはエンジンが壊れてしまうこともあります。このような現象がノッキングです。

それでは、ノッキングが起こらない圧縮比はどのくらいでしょうか。通常のガソリンエンジンの圧縮比は10~11程度に設計されています。しかし、ノッキングを起こしにくいガソリンを使えば、もっと圧縮比を大きくすることができて、エンジンの効率を高めることができます。

日本の場合、レギュラーガソリンとして市販されているガソリンのオクタン価は90、ハイオクのオクタン価は100ですので、通常のエンジンはオクタン価を90、高効率を求めるエンジンはオクタン価を100として設計されています。自動車のオーナーはそのエンジンがオクタン価90を想定して設計されているのならレギュラーガソリンを、オクタン価100を想定して設計されているのならハイオクガソリンを使うよう指定されているわけです。

オクタン価は添加剤で上げている?

製油所でガソリンを製造する場合、最初にやることは原油を蒸留してガソリン留分という成分を取り出すことです。原油から取り出されたばかりのガソリン留分は直留ガソリンといわれ、オクタン価は70ほどしかありません。ですから、製品にするにはオクタン価を高めてやらなければなりません。

どうすれば、オクタン価の高いガソリンが作れるか。いろいろな方法がありますが、ひとつの方法として異常燃焼を防ぐ添加剤を添加するという方法があります。よく使われる(使われていた)添加剤として四エチル鉛という物質があります。四エチル鉛は少量添加するだけで、オクタン価を5から15程度上昇させる効果があります。

しかし、この四エチル鉛という物質は非常に強い毒性があり、取扱いをあやまると中毒を起こし、神経性の障害を起こしたり、死に至ったりするとても危険なものなのです。ガソリンにはオクタン価を高めるために有毒な添加剤が加えられているという通説はこのことなのでしょう。しかし、現在は四エチル鉛は添加されていません。ほとんどの国で四エチル鉛の添加は禁止されています。

四エチル鉛の毒性は非常に強く、例えば戦後すぐのことですが四エチル鉛を食用油と間違えて食べた人が神経性の障害を起こしたとか、ガソリンスタンドで働く人が、ガソリンを口で吸いこむ作業を繰り返し行っているうちに中毒になったとか、ガソリンタンクの清掃中に、清掃員が鉛中毒になって死亡したなどという例があります。四エチル鉛は、このように大変毒性が高いので、国家資格を持った人しか取り扱うことができません。(筆者もこの資格は持っています)

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ちょっと余談ですが、四エチル鉛はドラム缶で輸入され、金網で覆われた専用の倉庫に保管されていました。これをガソリンに添加するには一旦サービスタンクに移し替える必要があり、この作業は二人一組になって行われます。

二人でこの作業を行うのは、どちらかが何かミスをしても、もうひとりが気づいてミスを修正する可能性があるためと、逆に3人以上で作業をしないのは、もし何かトラブルが発生しても被害者は二人だけで済むという理由からです。

なお、この作業を行うときは、作業中に四エチル鉛が身体に付着するかもしれないので、作業員は作業が終わると充てん室に設置されている専用のお風呂に入って、体を洗ってから作業場から退出することになっています。四エチル鉛は、このくらい慎重に作業を行う必要のある物質なのです。

1969年に丸善石油(現コスモ石油)が四エチル鉛を使ってオクタン価を100まで引き上げたハイオクガソリンを販売しました。(このとき小川ローザが出演したCMが話題になりましたので覚えていらっしゃる方もおいででしょう)その後、他の元売り各社も相次いで、オクタン価100のハイオクガソリンを販売し始めましたが、いずれも四エチル鉛によってオクタン価を上げたものでした。

ところが、1970年4月に東京の牛込柳町で行われた集団検診の結果、国道附近の住民の多数が鉛中毒になっているいう診断結果が発表されました。このことから、ガソリンに含まれる四エチル鉛が国道沿いの住民の健康を脅かしているのではないかと大騒ぎになりました。

ただし、その後に行われた再検査では、住民から採取された血液などからはほとんど鉛が検出されず、鉛による中毒患者も実はひとりもいなかったことが明らかになりました。これで牛込柳町の鉛中毒事件は収束しましたが、このときガソリンには有毒な添加物が含まれているという話が広がったという経緯があります。

現在、日本のガソリンには四アルキル鉛は使われていません。四アルキル鉛が使われなくなった理由としてこの東京牛込柳町の事件が取り上げられることがありますが、実は鉛の添加を規制しようという話は、その前からあったことなのです。

触媒コンバーターの採用

このころ、自動車排ガスによる大気汚染が世界的に問題となっていました。特にロサンゼルスやサンフランシスコの光化学スモッグは有名で、筆者もサンフランシスコを訪れた時に、昼間に一日中外を歩き回ったら、夜には目から涙が止まらないようになってしまいました。夕食を食べに中華街に行ったのですが、涙を流しながら食事をした覚えがあります。


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排ガス中の有害物質として代表的なものは、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)です。NOxとCOおよびHCはトレードオフの関係にあり、エンジンを改良してNOxを減らすとCOやHCが増えてしまい、逆にCOやHCを減らすとNOxが増えてしまうという状況で、大変厄介でした。

それで、エンジンの排気口に触媒コンバーターという物を取り付け、これでエンジンから排出されたNOxとCO、HCを同時に浄化してしまうことになりました。ところが、触媒コンバーターはガソリン中の鉛分によって効果がなくなってしまうという性質があるため、実用化が妨げられていました。

そこで、ガソリンへの四エチル鉛の添加が禁止されることになったわけです。触媒の働きを阻害する物質を触媒毒といいますが、鉛化合物は人間にとっても触媒にとっても毒なのです。ちなみにガソリンに四エチル鉛を入れなくすることを無鉛化といい、四エチル鉛を含まないガソリンを無鉛ガソリンといいます。

よく、鉛化合物は人体に有害なのでガソリンへの添加が禁止された。牛込柳町の事件が契機になったと言われることがありますが、実際は触媒コンバーターを取り付けるために無鉛化が条件となったというのが正解です。

現在はどうしているか

現在はガソリンには四エチル鉛は添加されていません。では、どうやってオクタン価を上げているのでしょうか。

ガソリンにはいろいろな種類の分子が含まれる混合物であり、それらの分子の中にはオクタン価の高いものや低いものがあります。ですから、オクタン価の高い分子を増やし、オクタン価の低い分子を減らすことによって、四エチル鉛を使わなくてもガソリンのオクタン価を上げることができます。

ガソリン成分は芳香族、オレフィン、側鎖パラフィン、直鎖パラフィンに分類することができ、そのオクタン価は大体、以下のとおりです。

    芳香族>オレフィン>側鎖パラフィン>直鎖パラフィン

製油所の中には接触改質装置という装置があって、直留ガソリン中の芳香族を増やしてオクタン価を上げることができます。また、重油からガソリンを作る接触分解装置によって得られる分解ガソリンはオクタン価の高いオレフィンが含まれています。アルキレーション装置で作られたアルキレートと呼ばれるガソリンは側鎖パラフィンが多く含まれます。

現在、製油所では改質ガソリンや分解ガソリン、アルキレートなどを適切に組み合わせてブレンドすることによってオクタン価を上げており、四エチル鉛のような重金属を含むオクタン価向上添加剤は使用していません。

※ただし、ハイオクガソリンには清浄剤という添加剤が添加されています。これはエンジン内のバルブの汚れを防止するためのもので、オクタン価を上げることが目的ではありません。(そのほか、ガソリンには着色剤や酸化防止剤が添加されていることがあります)

含酸素化合物(ETBEなど)によるオクタン価向上

エタノールやMTBE(メチルターシャリーブチルエタノール)、ETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)という物質は分子中に酸素を含むので含酸素化合物と呼ばれます。これらの含酸素化合物はオクタン価が高く、四エチル鉛のように有害な重金属を含まないので、アメリカや欧州ではオクタン価向上剤としてよく使われてきました。

含酸素化合物はオクタン価を上げるだけでなく、自動車排ガスの低減に有効であるとの実験結果があることから、アメリカではガソリンへの添加が義務付けられていた時期がありました。

しかしながら、MTBEは水に溶ける性質があるため、ガソリンスタンドからガソリンが漏洩したときに地下水を汚染したという事件がアメリカで発生。一部の州で使用が禁止され、その他の州でもアメリカの石油会社は自主的にMTBEの使用を取りやめています。

ただし、日本や欧州では、MTBEは禁止されていません。アメリカはガソリンスタンドからガソリンが漏洩した時に地下水を汚染することを問題としているのに対し、日本や欧州では、そもそもガソリンが漏洩すること自体が問題と考え、MTBEを禁止するのではなく、ガソリンスタンドの漏洩対策に力を入れているからです。

つまり、アメリカはガソリンスタンドからガソリンが漏れてもいいが、水溶性のMTBEが地下水を汚染するするのがケシカランと考えているのに対し、日本や欧州ではガソリンが漏洩すること自体が問題であり、漏洩しなければMTBEが水溶性だろうがなんだろうが関係ないという考え方ですね。日欧の考え方の方が合理的だと思います。それにアメリカではMTBEと同様に水溶性のエタノールの方は禁止されていないのも変ですね。

なお、ETBEはサトウキビなどの植物から作られたエタノールを原料とするため、温室効果ガス削減効果があるとされ、日本や欧州では地球温暖化対策としても使用されています。アメリカはMTBEと同様にETBEも水溶性であることから使用されていません。

すみません。話がオクタン価の話から逸れて行ってしまいました。

2019年10月12日

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