石油が枯渇するとプラスチックは作れないというウソ

プラスチックや合成繊維は石油から作られているので、石油が枯渇すると作れなくなる。という話がネット上で多く語られています。ためしに、「石油枯渇」、「プラスチック」をキーワードでググるといろいろな議論が出てきます。

「石油の枯渇が迫っているのに、プラスチックはどうするんだ」とか、「石油が使えないということは、プラスチックの生産ができないことでもある」とか、「貴重な石油資源だから燃料にするよりプラスチックにすべきだ」とか
石油が枯渇したらプラスチックは作れないということが前提となった議論が続いています。本当にそうでしょうか。

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1.結論

  • プラスチックは石油が枯渇しても全然問題なく作れます。(ていうか石油は枯渇しませんけどね)
  • 世界的にみても、プラスチックは石油以外に石炭や天然ガスからフツーに作られています。
  • 日本で石油が原料として使われているのは、石油が安定的に大量に、かつ安価に供給されるからです。
  • 日本でも石炭を原料にして、実際に商業規模でプラスチックが作られていますので、あなたの使っているプラスチックも石炭から作られているものもあります。(これ本当の話)
  • むしろ、ナフサだけでなく、ガソリンや灯油、重油からプラスチックを作ろうという研究が進められいます。

2.プラスチックは石油でなければ作れないのか

世間では、あれもこれも石油から作られているという話が蔓延しているようです。薬はほとんど石油から作られているから危険とか、味の素は石油から作られているとか、ひどい話ではマーガリンは石油から作られているという人までいます。

これに比べると、確かに多くのプラスチックは石油から作られているというのは事実です。ただし、「プラスチックは石油でなければ作れない」という点が誤解されているのです。

石油化学工業が発達する前にもプラスチックや合成繊維はありました。セルロイドというプラスチックはパルプ(木材)や綿を原料としていましたし、レーヨンやキュプラという化学繊維は綿が原料です。ベークライトはフェノールとホルムアルデヒドを原料としてますが、これは石炭から作られていました。(現在は石油からも作られています)

世界初の合成繊維であり、エンジニアリングプラスチックとしても使われているナイロンも、もともとの原料は石炭でした。ナイロンが発売された当時のキャッチフレーズ 「石炭と水と空気から作られ、鋼鉄よりも強く、クモの糸より細い」 は有名です。

このようにプラスチックや合成繊維は、最初は天然繊維や石炭などを原料として作られていましたが、次第に石油に置き換わっていったのです。だから、これらのプラスチックは石油がなくても作ることは技術的にも経済的にもぜんぜん問題ありません。

また、石油化学工業が発展してから普及したポリエチレンやPET樹脂なども日本では石油を原料としていますが、必ずしも石油でないと作れないということではありません。

プラスチックの原料として石油が多く使われているのは、石油が大量にかつ安定的に供給でき、価格も安いからというのが理由です。

3.プラスチックは石油からどうやって作るか

では現在、どうやって石油からプラスチックが作られるかを、ちょっと解説してみたいと思います。

輸入された原油は製油所で、まず蒸留(常圧蒸留)されて、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などに分けられます。このうち、プラスチックに使われるのは主にナフサとガソリンです。

石油化学製品にはオレフィン系と芳香族系があります。オレフィン系の化学製品を作るにはナフサが、芳香族系はガソリンが主に用いられます。

ナフサはナフサクラッカー(エチレンクラッカーともいう)という装置を使って熱分解され、エチレンやプロピレン、ブテンというものができてきます。これらは気体ですが、重合という操作を行うと固体に代わります。これがプラスチックです。

エチレンを重合させたものがポリエチレン、プロピレンを重合させたものがポリプロピレン。ブテンは合成ゴムの原料になります。

原油からプラスチック原料を作る工程

一方、芳香族系はガソリンから作ります。原油から取り出されたガソリン分は改質装置という装置を使って成分を変化させると、ベンゼンやキシレンという芳香族成分ができてきます。

この成分を抽出して純度の高いベンゼンやキシレンを製造します。これらは液体ですが、さまざまな工程を経て重合させると、ベンゼンからはナイロンやポリスチレンが、キシレンからはペットボトルに使われるPET樹脂などが作られます。

このように、現在の日本では石油を原料として、ポリエチレンやポリスチレン、PET樹脂などおなじみのプラスチックが作られています。

4.では、石油が枯渇したらどうするか

まず言っておきますが、石油は簡単には枯渇しません。これから少なくとも100年や200年は全然大丈夫です。(「石油はあと40年で枯渇する?」参照)という話はとりあえず置いて、石油が使えなくなったらどうするかという話をしましょう。

プラスチックにしても合成繊維にしても、その成分は主に炭素と水素です。プラスチックの種類によっては、それに少量の窒素や酸素、塩素が含まれていることがあります。

プラスチックの化学構造

これらの成分のうち、水素は水から取り出すことができるし、窒素や酸素は空気から、塩素は海水に大量に含まれています。では炭素はどうするか。現在、日本でプラスチックの原料として使われる石油は、この炭素源として使っているのです。

ということで、もし、石油がプラスチックの原料として使えなくなったとしたら炭素源をほかに探せばいいということになります。

炭素源として一番手っ取り早いのが石炭や天然ガスです。実際、石炭や天然ガスは海外では(実は日本でも)プラスチック原料としてよく使われています。そのほか、研究段階ですが、木材やサトウキビから作られたエタノールからエチレンを作る方法や、空気中のCO2をプラスチック原料とする研究も行われています。

余談ですが、ダイヤモンドも成分は炭素ですから、ダイヤモンドからプラスチックを作ることもやろうと思えばやれます。そんな馬鹿なことをする人はいないでしょうが。

日本が高度成長期に入り始めたころ、カーバイド(炭化カルシウム)からプラスチックを作ろうという話がありました。カーバイドに水を加えるとアセチレンという気体が出てきますが、これに水素を添加するとポリエチレンの原料となるエチレンを作ることができます。

カーバイドは石灰岩と石炭から作りますが、石灰岩も石炭も日本国内に比較的豊富に産出しますので輸入に頼らないプラスチック資源としてかなり真剣に検討されていました。

話を石炭に戻します。日本は石炭をコークス原料として大量に輸入しています。コークスを作るときに副生するタールには、ベンゼンやキシレンが大量に含まれていますので、これを抽出してプラスチック原料にすることが実際に行われています。例えば日鉄ケミカル&マテリアル(株)などのメーカーが存在します。

皆さんが使っているプラスチックの一部にはこの石炭タールを原料としたものが混じっている可能性は十分あるのです。
(石炭タールが原料だからと言って発がん物質が含まれているというようなことは一切ないので誤解しないでください。石炭タールを原料としても、石油を原料としても、できるプラスチックはまったく同じです。)

なお、南アフリカでは大量かつ安価にとれる石炭(露天掘り)から人造石油を作っています。この人造石油からガソリンやジェット燃料などが作られるとともに、当然ながらプラスチックも作られています。

実は筆者も10年ほど前に南アフリカへ行く機会があり、現地で人造石油のプラント群を見学させてもらったことを覚えています。

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天然ガスもアメリカや中東ではごく普通にプラスチックの原料となっています。特にアメリカでは、無尽蔵とも言われるシェールガス(天然ガス)の採掘に成功しました。(シェールガス革命)

そのため、多くの石油化学プラントが原料をナフサから天然ガスに切り替えている状況です。

このように、世界的に見た場合、必ずしも石油だけからプラスチックを作っているわけではありません。

つまり、プラスチックは石油でなければ作れないということではなく、日本では、石油が炭素源として比較的安価で、大量に安定的に供給されるから使っているというだけのことなのです。

5.逆に石油が余るという問題

以上は石油が枯渇したら、あるいは石油が使えなくなったらプラスチックはどうなるという観点から話をしてきました。ところが、最近石油が枯渇するどころか、逆に石油が余ってしまうという心配があるのです。どういうことでしょうか。

原油は輸入してきたら、まず蒸留してナフサやガソリン、軽油、重油などに分け、ナフサやガソリンからプラスチック原料を作るとお話ししました。

ナフサやガソリンなどが原油から採れる割合は大体決まっていて、ナフサは5%くらいしかありません。またガソリンから抽出されるベンゼンやキシレンも原油全体から見れば5%くらいでしょうか。

そのほかの90%くらいはガソリンや灯油、軽油、重油などの燃料として使われています。

ところで、原油を蒸留して作られるナフサですが、実は我が国が必要とするナフサの量よりずいぶん少なくて、足りない部分は大量に輸入しているのが現状です。それだけ日本はプラスチック大国だということでしょう。

プラスチックはナフサという石油の余り物から作られているなどという馬鹿げたことを、どっかの大学の先生がマスコミなどで吹聴してまわっているようですが、ナフサは余り物どころか、足りないのが現状ですからとんでもない間違いです。(「プラスチックは石油の余り物で作られている?」参照)

では今後どうなるか。今後、日本は人口が減ってくることや産業の空洞化によって、燃料の消費量が減ってくることが予想されます。特にガソリンは自動車燃費が著しく向上していることや若者の車離れの影響などでどんどん需要が減ってきています。

一方で、プラスチックの需要は世界的に伸びつつあり、日本からの輸出も増えてきています。プラスチックを増産しようとするとナフサやガソリン(ベンゼン、キシレン)を増産する必要があり、そのためにはたくさん原油を買ってきて処理する必要があります。

ところが、プラスチック原料は原油の10%程度しか取れませんから、残りの90%の燃料として使われる部分も一緒に増産されてしまいます。一方で、日本国内では燃料の消費量が減ってきている。ということで、石油が余るという事態が起こるのです。

(念のため言っておきますが、余った石油は捨てるということはできません。(「製油所で燃えている炎は余った石油を燃やしている?」参照))

ではどうすればいいか。対策として考えらえているのは、今まで燃料として使われてきた石油の部分(灯油や軽油、重油など)も石油化学(つまりプラスチック)の原料にしようということです。そうすれば原油の輸入量も減らすことができます。

ただ、今の設備を使って燃料からプラスチックを作ろうとしても、設備が壊れてしまいます。そうならないように、世界的に技術開発が進められています。

できれば原油の40%以上をプラスチックなどの石油化学の原料にしたいね(Crude to Chemicalsといいます)というのが目標です。

2019年7月

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