まっ黒な原油から作られるプラスチック なぜ固体、色がない、においがしない?

先日3月18日に放送されたラジオ番組での小泉環境大臣の発言が話題になっています。
その内容は、要約するとこんな感じ。

「プラスチックの原料って石油なんですよね。意外にこれ知られてないケースがあるんですけど。で、まさかなんか石油の色もニオイもないじゃないですか。だからわかんないと思うんですけど…」

この発言に対してネット上では、プラスチックが石油から作られていることはみんな知っている。そんなことを国民が知らないと思って馬鹿にしているのか。などとちょっと辛辣に批判されました。

確かにプラスチックが石油から作られていることは、大半の人たちが知っていることでしょう。しかしながら、プラスチックは石油から作られているのに、石油のような色もニオイもないってところはどうでしょう。その理由を知っている人は案外少ないのではないでしょうか。

様々な石油製品はすべて地中から汲み上げた原油が原料です。原油はドロドロしたまっ黒い、ツンと刺激臭のある液体です。それがどうして、すべすべして、色もにおいもない、固体のプラスチックに変わるのでしょうか。ちょっと不思議ですよね

原油は真黒なドロドロした液体

この記事では、まずプラスチックがどのようにして原油から作られるか、そしてなぜ透明で、においもない、すべすべした固体になるのか。について解説したいと思います。

プラスチックはどうやって作られるか

石油製品の元となる原油は、ほとんど炭素と水素からできています。炭素と水素からできているので炭化水素といいます。そのほか硫黄や窒素、酸素、金属類(ニッケルなど)も含まれますが、これはわずかです。

炭素は、炭素同士が紐のようにつながる性質があり、その炭素の周りを水素が取り囲んでいる、というのが炭化水素のイメージです。

ブタンの化学構造

この図は炭素が4個連なった炭化水素の一例(ブタン)を示していますが、炭素の数はいくつでも増やしていくことができます。地下から汲み上げられた原油には炭素の数が1個から70個程度の炭化水素がいろいろ混ざって含まれています。

一般に炭化水素は炭素数が少ないほど蒸発しやすい(沸点が低い)という性質があります。炭素数が1個から4個までは室温では気体、それより多いものは液体です。炭素数がもっと増えると次第にドロドロの状態になり、最後はほぼ固体(容器に入れて傾けても流れない)になってしまいます。

地下から採掘された原油は製油所に運び込まれ、まず常圧蒸留装置で、沸点の差(つまり炭素数の差)によって、ナフサ(炭素数5~6)、ガソリン(炭素数5~10)、灯油(炭素数10~20)、軽油(炭素数14~20)、重油(炭素数20以上)などに分けられます。

原油はまずナフサやガソリンなどに分けられる

このうち、ナフサとガソリンがプラスチックの原料として使われます。なお、灯油や軽油、重油もプラスチックの原料として使うことが技術的には可能ですが、日本ではあまり行われていません。

石油は加熱すると分解する

石油を構成する炭化水素は加熱すると分解するという性質があります。ナフサやガソリンは炭素が5個から10個程度つながった形をしていますが、高温に加熱すると炭素と炭素の間の結合が切れて、炭素数が2個から4個程度までの小さな炭化水素になってしまいます。

実際はエチレンプラント(ナフサクラッカーともいう)という装置では、ナフサやガソリンを800から900℃に加熱して、わずか0.1秒から1秒程度で分解してしまいます。

バラバラになった炭化水素は炭素数が2のものをエチレン、3のものがプロピレン、4のものがブテンおよびブタジエンとよばれています。

この分解した炭化水素、つまりエチレンやプロピレンなどは炭素と炭素の間の結合が二重になった、二重結合が含まれています。二重結合は容易に化学反応を起こすという性質があるため、いろいろな化学反応を行わせて、さまざまな化学製品が作られます。そして、プラスチックもその一つです。

例えばエチレンは、高温高圧にしたり、特殊な触媒(チーグラーナッタ触媒)を使ったりすると、エチレン分子同士が二重結合部分で互いに結合していき、分子がどんどん長くなっていくという現象がおきます。このように、分子同士がいくつも結合していく化学反応を重合反応と言います。

小さな分子がいくつも重合して巨大な分子になっていく

この重合反応で分子量が1万以上になったものが高分子(ポリマー)といわれ、いわゆるプラスチックとなります。(ちなみに、約350個のエチレン分子が重合すると分子量が1万になります)

なお、エチレンが重合して作られたプラスチックがポリエチレン、プロピレンが重合したものがポリプロピレン、ブタジエンが重合したものがポリブタジエン(合成ゴム)です。

発泡スチロールに使われるポリスチレンはエチレンにベンゼンが付加した形のスチレンを、パイプなどに使われるポリ塩化ビニル(塩ビ)はエチレンに塩素が付加した形の塩化ビニルを、それぞれ重合させたものです。

では、いよいよ、プラスチックはなぜ固体か、色がないか、においがしないかの説明をしましょう。

プラスチックはなぜ固体か

石油が液体なのに、なぜプラスチックは固体なのでしょうか。答えを一言で言うなら、分子の大きさが石油に比べて超大きいからです。

石油を構成する炭化水素は大きなものでも炭素が70個ほど結合したものなのに対し、プラスチックは重合反応によって分子量が1万以上になります。これは炭素を700個以上含む巨大な分子です。

分子が大きくなると、分子同士が引き合う力(分子間力)が大きくなって、互いに引っ張り合うという現象が起こります。また、プラスチックは紐状の細長い分子ですから、互いに絡み合うという現象もおきます。あるいは、分子が直線的な場合は紐状の分子がいくつも束ねられた状態になることもあります(結晶化といいます)。

プラスチックが加熱された状態では、プラスチック分子が比較的自由に動き回っているため、形が保てなくなります。つまりこれが液体です。しかし、液体のプラスチックを冷却していくと、各分子の動きが次第に小さくなっていきます。こうなると分子間力で互いの分子が引っ張り合い、さらに、紐状の分子が絡み合って動かなくなります。

この状態になると、プラスチックを入れた容器を傾けても動かない。つまり固体の状態となります。

一言でいえば、プラスチックが固体なのは、分子の大きさが石油に比べて超巨大なので、互いに引き合ったり絡み合ったりして、分子が動かなくなって固まるというわけです。

プラスチックはなぜ色がないか

原油は真っ黒い色をしていますが、これを蒸留してプラスチック原料のナフサやガソリンにしたときからすでに色はついていません。同じく灯油も無色。軽油は少し黄色っぽい色がついていますが、ほぼ透明。しかし、重油は真っ黒。つまり地下からくみ出したばかくの原油が黒いのは重油が含まれているからです。ではなぜ重油は黒いのでしょうか。

これは、重油には光(可視光線)を吸収する性質のある分子が含まれているからです。光が吸収されるから光が通らない。だから黒く見える。例えば図で示すような化合物(ベンゼン環がたくさんくっついた形をしているので多環芳香族化合物といいます)は光を吸収する性質があり、これが黒く見える原因です。

多環芳香族化合物の例

多環芳香族化合物は大きな分子ですから当然炭素数が多くなり、例えばベンゼン環が4個連なったナフタセンは炭素数が18。5個連なったペンタセンは炭素数が22です。そのほかにも、光を吸収する化合物がありますが、いずれも炭素数が多いため、沸点が高い。だから、原油を蒸留して取り出されるプラスチック原料のナフサやガソリンには、このような光を吸収する大きな分子が含まれないから色がない、ということです。

なお、ポリエチレンやポリプロピレンのように結晶化するプラスチックは、その結晶部分で光が乱反射するので、色はついていませんが透明ではなく乳白色に見えます。

簡単に言うと、原油が黒いのは光を吸収する分子が含まれているため。プラスチックを作るときに、光を吸収する分子のない部分を使っているので色がついていないというわけです。

プラスチックはなぜにおいがしないのか

原油にはツンとするにおいがあります。ガソリンや灯油もガソリンスタンドで嗅いだことがあると思いますが刺激臭があります。ナフサもガソリンと同様の匂いがします。

においとは、化学物質が揮発して蒸気となって、吸気と一緒に鼻に入り込み、それが鼻腔内の神経を刺激して、私たちはそれをにおいとして感じているということです。逆に言えば、においはその物質が揮発、蒸発しなければ感じないということになります。

ガソリンや灯油のような石油製品は分子が小さいので、分子同士が引き合う力(分子間力)が小さいく、そのため一部の分子が分子間力を振り切って空気中に出てきます。それが鼻に入ってくるので、においがします。

一方、プラスチックは分子が超大きいので分子間力が大きく、また分子自体が重いので、簡単には空気中に出てきません。よって、鼻に入ってこないのでにおわないというわけです。

プラスチックの原料はまっ黒いドロドロした原油ですが、その原油を蒸留し、分解し、さらに重合することによってプラスチックが作られます。プラスチックは原油と同じく炭素と水素からできた物質ですが、いろいろな工程によって炭素や水素の結びつき方が変わっていき、その結果、原油とは違った性質をもつプラスチックに変化してしまうというわけです。

これが、まさに化学(ばけがく)です。

2021年4月2日

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