化粧品は本当に石油から作られているのか 美の伏魔殿へようこそ

「世界は化学であふれている」というブログを続けている以上、避けて通れない分野が化粧品でしょう。化粧品こそ化学のかたまり。いつかは化粧品について記事を書かなきゃあと思っていました。

そんな中、ネットで「化粧品は石油から作られているから危険」という記事を目にしました。化粧品はすべて石油から作られているから肌に悪いという内容。検索してみると同じような記事がたくさん出てきます。

でも、化粧品は全部石油から作られるのでしょうか。あるいは化粧品の成分のほとんどが石油から作られているという意味なのか。どうやって石油から化粧品って作るのか。あまり具体的に書かれている記事は見当たりませんでした。そもそも、石油から作られたものはすべて肌に悪いのでしょうか。いろいろと疑問がわいてきます。

ということで今回は化粧品について調べてみることにしました。

化粧品は伏魔殿?

と思い立ったものの、男子としてこの世に生を受けて60有余年。不幸にして化粧品とは全く無縁の生活を送ってきた筆者にとって、どこから取っかかったらいいのか皆目見当がつきません。とりあえず、近くにあった化粧品の成分表を見てみたのがこれ。

いや驚きました。なんと成分表には30種類以上の成分が記載されているではありませんか。他の化粧品を調べてみても、やはり成分の数は数十種類。この成分の中には、私の知っているものも含まれていますが、その多くが聞いたこともないようなものばかり。

私の知っている化学物質は、例えば潤滑油として機械の動きを助けたり、材料として建材や自動車部品となったり、あるいは医薬品や繊維となったり、燃料として燃やされたり。私たちの生活を裏から支えています。

そしてその多くが、単純な成分からなっています。例えば衣服はポリエステルと綿の混紡だったり、プラスチックはポリエチレンやポリプロピレンがほぼ100%で、それにほんの少しの添加剤が加えられたりして、実にシンプルなものです。

それに対して、化粧品はどうでしょう。何十種類もの化学物質がてんこ盛り。その多くが、聞いたこともないような成分だったり、なじみのある成分でも、なんでここに入っているのだろうかと疑うような化学物質だったりします。

もし、これらの化学物質に話が聞けるなら、私は聞きたい。

「君たちはいったい誰なの。何のためにここにいるの。ここで何をしているの。」と

ここにいる化学物質たちは、女性の美を支える天使たちなのでしょうか、それとも女性の「美しくなりたい」という願望をもてあそぶ妖怪、魑魅魍魎たちなのでしょうか。だとすると、化粧品は正に伏魔殿。美の伏魔殿。

化粧品は石油でできているのかという切り口から、この伏魔殿に入り込んでしまいました。入り込んだが最後、妖怪たちの餌食になるのか。どこまで入って行けるのか。うまく抜け出せるのか。私にもわかりません。

伏魔殿の構造

化粧品という伏魔殿には、さまざまな部屋があります。

例えばスキンケアの部屋。ここは、化粧水、乳液、洗顔料、クレンジング、美容液、クリームなどなどに分かれています。メイクアップの部屋なら、ファンデーション、アイブロー、マスカラ、アイシャドー、アイライン、口紅、グロス、チーク、白粉、マニキュアなどなど。

それぞれに、目的が違い、それに合わせてそこに住む成分たちが違っているのです。そして、このことが、伏魔殿の問題をいっそう複雑にしています。どこから手を付けていけばいいのか。石油成分はどこに住んでいるのか。とりあえず、化粧品の成分を大きく3つに分類してみました。

  • 石油成分:石油から抽出されたもの又は石油の一部を取り出したもの
  • 合成成分:さまざまな物質を原料として化学合成によって作り出されたもの
  • 天然成分:動物や植物、鉱物など天然物をそのまま、あるいは抽出、精製したもの

石油成分は石油を精製したもの

石油成分は、もともと石油に含まれている成分の一部を取り出したものです。つまり、モロ石油そのもの。そんなもの化粧品として使って、危険ではないのでしょうか。この分野は私にとってお馴染みの分野ですから断言できます。かれらは悪さはしません。

まず、地下から汲み出されたばかりの石油には様々な成分が入り混じっていますが、そのほとんどが炭化水素と呼ばれる炭素と水素からできたもの。その炭素同士は鎖のように使がっていますが、そのつながり方によって、パラフィン系、ナフテン系、オレフィン系、芳香族系に分けられます。また、ヘテロ原子といって硫黄、窒素、酸素や金属分も少量ながら含まれています。

これらの成分のうち、毒性があるのは芳香族系や硫黄、窒素などを含んだ成分です。一方、パラフィン系やナフテン系は無害。だから、パラフィン系やナフテン系だけを慎重に取り出せば、人には害がない成分ということになります。

まず、原油は蒸留操作によって、揮発しやすい小さな分子が取り除かれ、水素化精製という技術によって、硫黄分や窒素分を完全に取り除く。そのあと、溶剤を使ってパラフィン系成分を抽出し、最後に溶剤を完全に取り除いて、パラフィン系炭化水素だけを取り出します。

化粧品の成分表に書かれているこのモロ石油というべき成分には、ミネラルオイル、パラフィン、ワセリンがあります。種類は少ないですが、使われている量は他の成分に比べるとかなり多いようです。

石油成分(ミネラルオイル)

流動パラフィンともいいます。含まれる炭素の数は15個から30個。炭素が鎖のようにつながった分子の形をしています。粘り気のある液体です。油ですから、耐水性や潤滑性があります。皮膚に着けると水分蒸散を防止してうるおいを保持し、皮膚を柔軟にする働きがあります。

ミネラルオイルは少量の界面活性剤を加えて、水とよく攪拌すると、乳液やクリーム状となるのでスキンケア化粧品やメイクアップ化粧品の油性基剤として使用されます。つまりミネラルオイルは、肌に油分が欲しいときに使う、害のない油という扱いです。

石油成分(パラフィン)

パラフィンはパラフィン系炭化水素の語源になった成分です。ろうそくの蝋と同じ物質です。炭素数はミネラルオイルより少し多くて16個から40個。炭素はほとんどまっすぐに鎖状に連なっています。このため分子同士が束になって結晶を作るので、常温では真っ白い固体です。

リップスティックは簡単に言えば、このワックスに顔料(色素)を練りこんで、型に入れてかためたもの。そのほか、ヘアメイク用のワックスや様々な化粧品のベースとして用いられます。肌にとって害のない固形状の油という扱いです。

石油成分(ワセリン)

炭素数は24から34個。炭素同士は鎖状につながっていますが、枝分かれしたものや環状となったものなどが混ざっているため、ワックスのように束になって結晶化せず、半固体状となっています。

半固体状なので、ワックスより肌に付着しやすく、ミネラルオイルのように流れません。このまま皮膚に塗布すれば、皮膚を保護し、水分の蒸発を抑える効果があります。化粧品としてはクリームの基剤として用いられるほか、軟膏剤のような医薬品の基剤にも用いられるものです。

このようにモロ石油ともいうべき石油から取り出した成分は、皮膚への刺激などもほとんどないことが知られています。だからいろいろなところに使われているわけですが。

かれらは、肌を白くしたり、しわを伸ばしたりというような特殊な術を持っているわけではありません。しかし、肌の湿度を保ったり、乾燥を抑えたり、あなたに優しい成分たちです。

合成成分の原料は石油か?

次の化粧品の成分は合成成分ですが、これは厄介。とにかく種類が多いのです。エステル類やシリコン油、紫外線吸収剤、腐食防止剤、ビタミン、界面活性剤などいろんな種類の合成品が化粧品に使われています。

化粧品は石油から作られていると主張する人たちは、この合成成分はほとんどすべて石油から作られていると主張しています。本当でしょうか。

とにかく種類が膨大ですので、すべての合成成分が石油からできているかどうかを調べるわけにはいきません。いくつか例を挙げて調べてみました。

合成成分(パラベン)

パラベンとはパラオキシ安息香酸エステルのこと。防食剤として使われています。ごくまれにパラベンでアレルギーを起こす人がいるので、化粧品の中にはパラベンを添加していない、パラベンフリーを売りにしているものもあります。

ではパラベンはどのようにして合成されるのでしょうか。

まず、パラベンは、パラヒドロキシ安息香酸をアルコール(メタノール、エタノールなど)でエステル化することによって製造されます。原料のアルコール類のうち、メタノールは天然ガス、エタノールはデンプンの発酵で作られますから石油じゃないですね。

一方の原料のパラヒドロキシ安息香酸は、カリウムフェノキシドと二酸化炭素を原料として作られます。二酸化炭素はもちろん石油じゃないです。カリウムフェノキシドはフェノールから作られ、フェノールはベンゼンとプロピレンと過酸化水素から作られます。

そして、ベンゼンはガソリンから抽出、プロピレンはナフサの分解によって作ります。ようやく出てきました。ガソリンやナフサは石油です。

このように、パラベンはいくつもの工程を経て合成されますが、最後はガソリンやナフサという石油にたどり着きました。これは確かに石油から作られていると言えますね。

合成成分(ラウリル硫酸ナトリウム

界面活性剤として使用されるものです。とても泡立ちがよく、洗浄力も大きいのですが、皮膚への刺激性があったり、髪のキューティクルを破壊したりする作用があるなど、いろいろと悪評があります。

合成するには、ドデカノール(ラウリルアルコール、CH3(CH2)10CH2OH)を、硫酸との脱水縮合によりエステル化した後、炭酸ナトリウムにより中和します。

硫酸や炭酸ナトリウムは明らかに石油ではありません。ドデカノールはパーム核油またはココナッツオイルの 脂肪酸とメチルエステルから水素化によって作られます。パーム核油やココナッツオイルはもちろん石油じゃありません。植物油です。

ところが、ドデカノールはエチレンからチーグラープロセスを使って作ることもできます。これはポリエチレンの製法と同じ方法。そして、エチレンはナフサを分解したもの。そしてナフサは石油です。

おっと、ここで石油が出てきました。ラウリル酸ナトリウムは石油が原料?いやいや、植物油を使っても作れるし、どちらを原料としても作ることができる。
合成成分だけれど、石油からでも天然物からでも作れるという例が出てきました。

合成成分(アスコルビン酸(ビタミンC)

アスコルビン酸には還元作用があります。そのため、シミの原因となるメラニンを還元し、美白に用いられます。また化粧品自身の酸化を防止するために添加されることもあります。実はアスコルビン酸は双子の兄弟で、LさんとDさんがいます。Lさんの方がビッグネームのビタミンCです。

ビタミンCはご存知のとおり、野菜や果物に多く含まれていますが、現在ではラインシュタイン法という方法で合成されています(ノーベル賞受賞)。その製造工程はとっても複雑なので、下の図を見てください。

ライヒシュタイン法(Wikipwdiaより)

この図で6番がアスコルビン酸。原料は1で、グルコースあるいはブドウ糖といわれるものです。ブドウ糖は風邪で入院した時などに点滴で注射されるやつ。ブドウ糖はデンプンや糖類を分解して作られます。つまりアスコルビン酸の原料は石油じゃないということです。


以上のように、合成成分の中には石油が原料のものと、石油以外が原料のものと、石油でも石油じゃなくてもいいよというものがあることが分かりました。といっても、ミネラルオイルやワックスのようなモロ石油とは違い、何段もの工程を経て合成されるものです。

石油が原料だと言っても、原料の元の原料の、その元の原料のその元をたどると石油かな?という場合が多いのです。しかも、石油だけが原料かというと、石油でなくても作れる場合があるし、おそらく石炭や天然ガスや植物の乾留物でも同じものが作れる場合もあるでしょう。

アスコルビン酸のように、もともとは天然物に含まれるものですが、現在は合成になっているものもあるし、そのほかにも、幾通りも製造方法があって、石油でなければ作れないというものでもない。

こうなると何がなんだかわからなくなってきました。これは伏魔殿の魔術にたぶらかされているのでしょうか?

天然物は安全か

さまざまな天然物も化粧品の成分として使われています。たとえば、グリセリンのように石鹸の副産物としてできるもの、セタールのような高級アルコール類、ラウリン酸のような脂肪酸、オリーブ油のような植物油、蜜蝋のような天然ワックス類などなど。

また、プラセンタエキスやカミツレエキスなどの植物の抽出物や、果ては酸化チタン、酸化亜鉛、マイカのような金属、鉱物類まで、化粧品にはさまざまな天然物が用いられてます。

人類に限らず、動物は長い歴史の中で、天然のものに対応できるように少しずつ進化してきました。一方、最近になってから人の社会の中に現れてきた合成物質は、人間との付き合いが短く、まだ人間側に耐性ができてない場合もあります。だから一般的に言えば天然物の方が合成品より安全といえるかもしれません。

でも、天然物なら何でも安全かと言えばそうでもないのです。人間だけが自然界に対応してきただけでなく、植物や動物もやはり長い間に進化してきました。そのひとつが体内に毒を持つということ。これによって他の動物に食べられるのを防いでいるのです。

よく挙げられるのが、毒キノコやジャガイモの芽、ふぐ毒など。でも意外に毒性を持つ天然物は多いのです。以下に有害な比較的身近な植物の例を思いつくまま挙げてみました。

  • 高等植物の15から20%にはアルカロイド系の毒性物質が含まれている
  • 紅葉がきれいなハゼの木にはウルシオールが含まれていて、触れると皮膚に発疹が生じる
  • 花に甘い香りのあるエゴの木にはエゴサポニンという毒素が含まれている
  • 野菜の王様と言われるモロヘイヤの実や茎にはストロファンチジンという毒性物質が含まれている
  • 真夏にきれいな花を咲かせるキョウチクトウには強い経口毒性がある

結構意外なところにも毒性物質が含まれているのです。

化粧品として使われる天然物は、このような毒性のあるものは使われていないと思いますが、石油から作られたから害があるとか、天然物だから安心だとかそんな単純なことではなさそうです。

そろそろ伏魔殿から出よう

さて、化粧品伏魔殿から出てきました。この伏魔殿には、様々な部屋があり、その部屋に住む成分たちはそれぞれの部屋で、それぞれ与えられた仕事をしているようです。

この伏魔殿を調べて分かったことのひとつ。化粧品は石油から作られているという話については、そんな単純なことではないということです。

ミネラルオイルのような石油成分は確かに石油から作られています(ただし安全が確認されています)。しかし、合成成分はさまざま。石油から作られているとしても、その原料の原料のそのまた原料が石油かもしれないという程度。同じ成分でも石油から作る方法もあれば、ほかの原料から作る方法があったりします。

同じ成分が、合成でも作れるし、天然物から取り出せるということも珍しくありません。だから、石油から作られているから危険とか天然物だから安全と簡単に分けることはできません。

化粧品という伏魔殿に住む妖怪たち、つまり化学物質成分は、多くの場合あなたの味方をします。ただ時々、悪さをするものがある。それは、祖先が石油だからというのではなく、その妖怪があなたに合わなかった、あなたが嫌われたということ。

だから、その成分自体が、あなたに合うかどうかが問題なのです。(※パッチテストを勧めている書物もあります)石油起源の妖怪があなたにとって優しかったり、天然物起源の妖怪があなたの敵だったりすることもあります。

※パッチテスト:上腕の内側などに化粧品を使ってみて、24時間後、48時間後に肌の反応を見るテスト。その化粧品が肌に合わないと感じたらやってみるといいようです。

今回、この化粧品という美の伏魔殿に入ってみました。まだ入り口付近をうろうろしただけですが、もっとずっと奥の深い世界のようです。

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小西さやか著、日本化粧品検定協会監修「日本化粧品検定1級対策テキスト」(主婦の友社)
化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/

を参考にさせていただきました。

2021年4月17日

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化粧品は本当に石油から作られているのか 美の伏魔殿へようこそ」への4件のフィードバック

  1. 風戸

    良いねこうゆう記事。私もコスメ大好き
    けど石油って事は昔から知ってます。 なので控えめに使ってたりします。
    ファンデーションは塗らないとか、目元だけmakeなど。スキンケアも全く意味無いですよ。 デパートの高いやつも。
    化学物質ダラケです。
    成分気にするのは大切ですが、
    化学物質まみれ、添加物まみれの世の中ですから、避けては通れません。お金掛かりますしね。また来ます

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      風戸さん 記事を読んでいただいてありがとうございます。
      化粧品って、本当にいろんな成分が含まれています。わたしもびっくりします。石油が原料の物も、そうでないものも。
      石油だからだめ、天然だから大丈夫と一概に言えないようです。結局、肌にあうかどうか確かめるのが一番じゃないでしょうか。
      他の記事も読んでみて下さい。

      返信
  2. S

    こんばんわ。
    乳液などの白い化粧品は全部石油が入ってる!危険だ!なんてことをどこかで見かけまして、何を言ってるんだと思いつつも気になりこちらにたどり着きました。
    石油は基本的に悪さはしないとのことで、今後も安心して生きて行けそうですw

    結局は合うあわないというのも納得です。みんながいいという化粧品で赤くなったり痛くなったり…。自分に合うものを見つけられるのはいつになるやら…。

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      Sさん コメントありがとうございます。
      石油だから悪い、天然物だからよいと単純に分けることはできません。石油にも悪い成分はありますが、注意深くその成分を排除したものなら問題はありません。逆に天然物でも悪い成分がありますから、精製度が低ければ有害です。その点、大手メーカー品は大丈夫だと思います。単純に石油だから悪い、天然物だからよいと宣伝する化粧品は疑ってかかるべきだと思います。
      ただ、人によって合う合わないがありますから、おっしゃる通りいろいろ試して、自分に合う物を見つけるのかいいのじゃないでしょうか。

      返信

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