石油産業はこれからどうなるのか 脱炭素社会で 石油系燃料が売れなくなったら

政府の脱炭素化政策は石油業界の死活問題

2050年、つまり今から30年後に、我が国の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする。そんな方針を政府は打ち出しました。温室効果ガスの代表的なものがCO2ですから、政府が掲げる温室効果ガス排出量ゼロとはCO2を出すなということ。

そして、そのCO2の大半は化石燃料を燃やすことによって排出されるわけですから、2050年から日本は化石燃料を一切使いませんよと宣言していることになります。

一方、化石燃料を日本で最もたくさん売っている業界は石油業界です。一次エネルギーのうちの約41%が石油。(石炭26%、天然ガス22%、その他11%)ですから、2050年になると、石油産業は燃料としての石油を売ってはいけませんというのが政府の方針ということになります。表向きそんな露骨な言い方はしませんが、結局はそういうことです。

これは正に石油業界にとって死活問題。その割には石油業界はのんびり構えているようにも見えます。30年あるからまだいいやと思っているのかもしれません。しかしながら、長年にわたって石油業界に身を置いていた筆者にすれば、寂しい限りです。

ではこれから石油業界はいったいどうなっていくのでしょうか。石炭産業や繊維産業のように衰退業種となっていくのでしょうか。少し本気になって考えてみました。

石油業界は燃料だけを売っているわけではないが

石油精製業は、ご存じの通り原油を買ってきて、それを精製して各種の石油製品を作り、それを売ることによって成り立っている産業です。石油製品の主なものは、ガソリン、ジェット燃料、灯油、軽油および重油のような燃料ですが、政府の方針に従えば、これはこれから30年後に売れなくなってしまうというわけ※1。

では、年間売上高21兆8,000億円、従業員数18,900人(2018年)の石油業界は売るものが無くなって、消滅してしまうのでしょうか。

幸いなことに石油業界が売っているのは燃料だけではありません。燃料以外のもの、すなわち非燃料製品として、ナフサ、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)、溶剤、潤滑油、パラフィンワックス、アスファルト、石油コークスなどがあります。

あまり一般にはなじみがない製品かもしれませんけど、これらの製品は燃やすものではありませんので、CO2は排出しません。だから30年後もまだ商品として成り立っているでしょう。

だから、30年後に燃料製品の販売がなくなっても、石油業界は非燃料製品を売ればいい。では、石油業界が扱っている非燃料はどのくらいあるのでしょうか。それで石油産業は成り立つのでしょうか。
現状の石油精製の流れを模式的に示したのがこの図です。

図―1 現状の石油製品製造割合(数字は年間量 単位100万KL)

この図を上から見て行ってみましょう。まず、石油製品の原料となるのは言わずと知れた原油です。原油は国内でも少量産出しますが、大半は輸入です。輸入された原油は国内の石油を精製する工場、すなわち製油所で精製されて石油製品となり、販売されます。

というのが石油産業の根本となる流れです。そして、そのほかに石油製品の一部は海外からも一部輸入されています。(輸入石油製品のうち最も多いのはナフサ)また、逆に一部の石油製品は輸出もされているという構図です。

脱炭素社会でどう変わる

では、2050年に実現するであろう脱炭素社会では、この図-1はどうなるのでしょうか。

まず、燃料製品の国内販売と輸出※2がまったく消滅してしまうことになります。燃料製品は全石油製品のうち83%を占めていますので、これが無くなるということは、製油所で製造して販売する石油製品の量は、現在の5分の1以下になってしまうことになります。

売るものが5分の1になってしまったのでは、当然、石油産業というのはほとんどなくなったも同然ということになってしまうでしょう。

しかし、望みもあります。この図-1をみていただくと分かるように、いま日本はかなりの量の石油製品を外国から輸入しているのです。これを国内生産に切り替えればいい。というか、将来は石油精製設備に大きな生産余力が出てくるわけですから、輸入をやめ、その分、非燃料石油製品を増産することになるでしょう。
日本はレジ袋の原料を韓国から大量に輸入している 参照)

輸入をやめて、国内生産に切り替えると石油精製量は5,600万㎘まで増えることになります。これにより、国内生産量は現行の32%まで回復することになります。
といっても製油所の生産量は、現在の約3分の1まで縮小することになるのですが…

どんな石油製品を作るのか

ではこのとき製油所はどんな製品を作っていくことになるのでしょうか。現在、我が国で作られている非燃料石油製品の割合を図―2に示しました。

図―2 製油所で製造される非燃料製品

この図でわかるように、ナフサとBTXが大半を占めています。ナフサもBTXも石油化学製品の基礎原料ですから、2050年頃の製油所は一言でいえば石油化学原料を供給することが主な仕事ということになります。

では、製油所ではこれらの需要に合わせた製品を作っていけるでしょうか。つまり製油所は2050年までに、燃料製造を中心とした製油所から石化製品に特化した製油所に変身しなければならないのです。

よく、石油精製でできる製品は一定の割合でしか作れず、製品間で量を調整することができないとか、ナフサはガソリンや灯軽油を作るときに勝手にできてしまう余り物だ、などと言われたりします。
レジ袋などのプラスチックは石油の余り物で作られている
原油から作られる石油製品の割合は決まっている? 連産品という誤解  参照)

しかし、これは都市伝説のようなもので、実際はそうではありません。現在でも石油製品は需要に合わせて、量を調整することができますし、ナフサは決して余り物ではありません。(実際、ナフサは不足していて大量に輸入しているわけですから)

製油所は石化型に変身

既存の製油所は非常に複雑な装置構成になっていますが、大きく分けて一次装置と二次装置に分けられます。

一次装置は原油を単純に蒸留して、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油という留分に分けます。二次装置は、一次装置で出てきた留分を脱硫したり、分解したり、重合させたりして、各留分の品質を調整したり、量を変えたりします。

一次装置では、その留分の割合はほぼ決まっていて、それを変えることはほとんどできませんが、二次装置では、例えば需要の少ない重油を分解してガソリンや灯油、軽油など需要の多い製品に転換することができます。二次装置のお陰で、石油製品の割合はかなり自由に調整できるのです。

これら、製油所に既にある二次装置をうまく使えば、現在の燃料製造を中心とした製油所を石油化学原料の製造を中心とした製油所に変えることは十分可能なのです。ただし、いろいろな問題は出てくると思いますが…
具体的に各装置の働きを見ていきましょう。

まず、一次装置では原油はナフサ(5%)、ガソリン(25%)、灯油(15%)、軽油(15%)および重油(40%)に分けられます。これは将来もそのまま残るでしょう。これらの各留分を二次装置で処理していきます。( )内の%は原油からとれるだいたいの割合を示します。

ナフサ:これは今までと同じように石油化学の原料となります。エチレンクラッカーという装置によって熱分解されてエチレンやプロピレンという石化の基礎原料となります。

ガソリン:ガソリンはもう自動車用燃料として製品にすることはできません。一次装置から出たガソリンはオクタン価を高めることを目的として設置されている改質装置によってガソリン中のBTXの割合を高めることができます。このガソリンを改質ガソリンといいます。

このガソリンから抽出装置で純度の高いBTXを抽出します。BTXはPET樹脂やナイロンなどの原料となります。つまりガソリン燃料製造のための装置を石化用として使うわけです。

BTXを抽出した残りのガソリンをラフィネートと言いい、ナフサと同じようにエチレンクラッカーで熱分解して、エチレンやプロピレンにします。
実は、このようなプロセスは既に一部の製油所では行われています。

灯・軽油:これも燃料として販売することはできません。一部は溶剤としますが、大半はこれもエチレンクラッカーで、そのまま熱分解することになるでしょう。

日本では現在、エチレンクラッカーはほとんどナフサを原料としているので、灯軽油を使うといろいろ問題が発生する可能性があります。ですが、海外では灯油や軽油を原料としている国もありますので不可能な話ではありません。

重油:減圧蒸留という操作によって、いままでと同じように潤滑油とアスファルトに分離して製品にします。残りは重油分解装置(FCC)で分解されて、分解LPGや分解ガソリンにします。

分解LPGはそのままで石化用原料となりますし、分解ガソリンは改質ガソリンと同様にBTXを抽出し、残りはナフサと同様にエチレンクラッカーで熱分解されます。また、既存のFCC装置を改造することによって、重油から直接プロピレンを作れるようにすることもできます。

製油所はもともと一次装置と簡単な脱硫装置だけでしたが、硫黄酸化物による大気汚染の問題が生じたときには、直接脱硫装置を建設して石油製品から硫黄分を取り除きました。モータリゼーションが進展すると、重油分解装置を導入して重油からガソリンや軽油を増産しました。

その他、サルファ-フリーガソリン・軽油を世界に先駆けて製造したり、バイオ燃料を取り入れたりなど、日本の製油所は時代の要請に合わせて、その装置構成を変えていったという歴史があります。
石油の歴史は余り物有効利用の歴史 レジ袋が余り物で作られているって?とんでもない  参照)

今後、脱炭素という政府の方針に合わせて、製油所も石化原料の供給基地として生まれ変わることになるでしょう。ただし、この変身がうまく行かなければどうなるか。例えばナフサやBTXのような石化原料は全量海外から輸入するという事態になると、石油産業は日本から消え去ることになります。

2050年どの製油所が生き残るのか

製油所が燃料から石化原料の製造にシフトすると、日本全体で、原油の処理量は3分の1程度まで下がることになります。その結果、現在23か所ある日本の製油所のうち、かなりの数が淘汰されることになると思われます。

製油所の規模は通常、バレル/日で表されます。バレルという単位は時々聞かれると思いますが、1バレルは159ℓです。将来、石油精製量が減少して、現在の3分の1程度になったとすると、日本全体の石油精製量は年間5,500万㎘程度になり、これは約80万バレル/日(稼働率85%と仮定)に相当します。ということは、日本中には20万バレル/日の規模の製油所なら4か所ほどあればいいということになります。

では、どの製油所が生き残り、どの製油所が閉鎖されるのでしょうか。これから石油産業の主力となる非燃料石油製品は主に石油化学製品の原料です。であれば、石油化学コンビナート内の製油所が有利になると思われます。

それ以外の製油所でも、たとえば電極用石油コークスやPET樹脂の原料となるパラキシレンのような特色のある製品を作っている製油所は、原油処理をやめたとしても、他の製油所から半製品を受け取って製品を作ることによって存続できるでしょう。

閉鎖された製油所はどうなるか

では、存続できなかった製油所はどうなるのでしょうか。
それは、これから石油会社自身がどのように変身していくかにかかってくると思います。日本の多くの石油会社は、総合エネルギー会社を目指していますから、閉鎖された製油所はそのための重要な資産として活用するのが望ましいでしょう。

閉鎖された製油所の利用方法としては今後の課題ですが、個人的には以下のように活用できればいいのではないかと考えます。

バイオマス発電所
海外から輸入された木質系燃料あるいは、国内の山林等から得られるバイオマス資源や廃材などを燃料として火力発電を行います。すでにバイオマス発電所を持っている製油所もあります。

太陽光発電所
製油所の広い土地を利用して太陽光発電を行います。

エネルギー貯蔵センター
2050年頃には日本の電力供給は再生可能発電が中心となっていることでしょう。しかし、太陽光や風力など気象や時間によって発電量が変化します。二次電池や水素によって電力が余った時に電力を蓄え、足りないときに放出するのがエネルギー貯蔵センターです。

バイオ燃料の受け入れ基地
自動車は電動化だけが脱炭素の手段ではありません。バイオ燃料もカーボンニュートラルの燃料です。おそらくアメリカは今後バイオ燃料に力を入れてくるでしょう。日本にはバイオ資源が少ないので海外で生産して、受け入れる基地を作るというアイデアです。
バイデン当選で流れが変わるか/シェールオイルからバイオエタノールへ  参照)

CO2から軽油やジェット燃料を作る工場
バイオマス発電所から出てくるカーボンニュートラルなCO2を使って、再生可能電力で作られた水素と反応させて軽油やジェット燃料を作る工場です。
再生可能合成燃料/水と空気と光で作る燃料(バイオ燃料編)
  うんこでジェット機が空を飛ぶ-しかも地球に優しい  参照)

このあたりに来ると、まだ夢の話かもしれません。ただ、残された時間が30年とはっきりしているわけですから、かえって計画が立てやすいという面もあるでしょう。

各石油会社はもう長期計画を立てているかもしれませんが、石油産業にとって大きなピンチである脱炭素化を、是非ともチャンスに変えていただきたいと思います。

※1 化石燃料を燃やして発生するCO2を回収して地中に埋めるCCSという技術が開発されており、この技術を使えば化石燃料を燃やしてもCO2を排出しないことができます。しかし、この技術はまだ可能性の段階であるし、実用化されたとしても石炭や天然ガスなどを使った火力発電所が主な対象になると思われるので、この記事では特に考慮していません。

※海外では2050年時点でCO2排出量を規制しない国もあるので、まだ燃料の輸出は可能かもしれません。しかし、韓国やシンガポールなど石油製品輸出国との競合となるため、あまり期待できないと考えます。

2021年2月7日

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