イージスアショア立地選定報告書のミス

経緯

イージスアショアは日本に飛来するミサイルなどを迎撃するためのミサイルシステムです。北日本と西日本に1基ずつ配備して、日本全体を敵のミサイルから守ることを目的としています。

このうち、北日本に配備する1基の設置場所については、まず20か所を候補地として選定し、それぞれについて①レーダーを遮る山がないか、②インフラが整備されているか、③国有地の機能役割に問題はないか、④住宅地からの距離、⑤津波の影響はないかの5項目の観点から調査が行われました。

その結果、秋田県の新屋演習場以外は適当でないとする報告書が提出されました。ところが、住民説明会でこの報告書の調査内容にミスがあることが指摘され、説明会が紛糾。防衛省はイージスアショアの配備地について再調査を行わざるを得なくなったうえ、住民の不信感を買うことになりました。

ミスの内容

ミスは①のレーダーを遮る山がないかという調査項目で見つかりました。候補地から見て最も高い山の頂上までの角度を実際の角度より大きく見積もっていました。

例えば候補地の一つである男鹿では、実際の角度は4°しかないのに、15°と報告されました。20か所の候補地のうち9か所がこの間違った角度をもとに不適当とされました。

ミスの直接原因

このミスの直接の原因ははっきりしていて、新聞等でも報道されています。この調査を行った担当者が候補地から山までの角度を実測せずに、グーグルアースの断面図から角度を割り出したことが原因です。

グーグルアースの断面図は横方向よりも高さが拡張されて表示されていますが、そのことに気づかずに、そのまま角度を測ってしまったというのが、ミスの原因です。

なぜなぜ分析と対策の提案

このように、今回の報告書のミスは単純に角度を割り出した担当者がグーグルアースの特性を知らなかったという初歩的なミスが直接原因です。

では、今後このようなミスが起こらないためには、どうしたらいいでしょうか。担当者をクビにする。間違えるなと叱る。始末書を書かせる。再教育をする。で、このようなミスが今後起こらなくなるでしょうか。

なぜなぜ分析を行ってみますと、単に担当者のミスだけでなく、いろいろな要因が浮かび上がってきました。
(今回のなぜなぜ分析では、調査は防衛省から委託された調査会社が行ったものと仮定しています。また、この分析は新聞等に公開されている情報をもとに行ったものですので、情報が不明の部分については、推定で行いました)


分析結果の考察

(1)担当者の問題

まず、ミスをした担当者はグーグルアースの特性を、なぜ確認しなかったのでしょうか。ミスをした担当者はこの間違いがどのような結果をもたらすか考えれば、もっと慎重に検討したはずです。今後、仕事を担当者に任せるときに、それがどれくらい重要かをきちんと知らせておく必要があるでしょう。

対策:この報告書がどんなことに使われるかをきちんと仕様書に書いておくこと

(2)チェックの問題

今回のミスで最も重要なのは、チェックの問題です。報告書が提出されて公開され、マスコミで指摘されるまで、調査会社も防衛省もだれも気が付かなかったという点です。

調査会社には報告書のチェックを行うシステムがなかったのでしょうか。あるいは、チェックする能力がなかったのでしょうか。調査会社の社員にチェックする能力がないのなら、専門家の意見を聞くなどの方法もあったはずです。

防衛省も、報告を受け取ったときに内容をチェックしたのでしょうか。これは推定ですが、防衛省はもともと新屋演習場を最終候補として考えており、報告書の結論がそのとおりだったため、特にチェックをしなかったのではないでしょうか。

防衛省は報告書が提出されたときに、例えば他の調査会社に委託して報告書の内容に間違いがないか、チェックをしてもらうという方法もあったと思います。

対策:調査会社は報告書を提出する前に、必ず内容をチェックする。防衛省は報告書が提出されたときに、ほかの調査会社や専門家にチェックを依頼する。

(3)角度を実測しなかった問題

調査会社はなぜ角度を実測せず、グーグルアースを使ったのでしょうか。調査会社には実測する能力がなかったことが考えられます。また、防衛相もこの調査会社に実測を行うように指示しなかったと思われます。

これは地図を使えば計算で求められるからですが、山頂よりも近いところに小高い丘のような地形があれば、山頂が隠れるので地図ではわかりません。グーグルアースであれば、どのような地形かわかります。一方で、少なくとも現地にいけば、地図が使えるかどうかわかったはずです。

対策:山の角度を測るときは専門の会社に依頼する。仕様書に山の角度を測る方法を示しておく。必ず現地を確認する。

 

対策案

なぜなぜ分析を行うことによって、今後、このようなミスが起きないように対策がいろいろ出てきましたが、特に重要なのは以下の対策です。

対策案1: 調査会社は報告書を提出する前に必ず内容のチェックを行う。必要に応じて、専門家にチェックを依頼する

対策案2:防衛省は、報告書を受け取ったときに、重要なものは別の調査会社か専門家にチェックを依頼する

結局、調査担当者が初歩的なミスをしたことも問題ですが、それより、そんな初歩的な間違いのある報告書をそのまま提出してしまう調査会社の体制。間違いに気づかず公開してしまう防衛省の体制の問題が大きいでしょう。

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