打ち水で涼しくなるのはなぜか 地球温暖化を防げるか

暑くなりました。この記事を書いているのは7月ですが、毎日30℃から35℃の猛暑です。この季節になるとあちこちで打ち水をしましょうという呼びかけも盛んに聞くようになります。

打ち水は単なる感覚的なもので、本当に気温を下げる効果はないという人もいますが、そんなことはありません。ちゃんと科学的な理屈があるのです。私は暑い日には、昼過ぎに庭にざっとホースで水を撒くのですが、すると、涼しい風が庭を吹き抜け、部屋の中まで冷気が入ってきます。

では、なぜ打ち水をすると涼しくなるのでしょう。一般には水が蒸発する際に、周囲から気化熱を奪う、あるいは熱を吸収する性質があるからだと説明されています。でもね。なぜ水は蒸発するのでしょうか。なぜ蒸発するときに熱を奪うのでしょか。あるいはそもそも気化熱って何?ちょっと深く考えるといろいろと疑問が湧いてきます。

なぜ、打ち水をすると涼しくなるのか。それは水の分子の動きで説明することができます。

熱とは分子の運動のこと

まず、なぜ打ち水をすると涼しくなるのかを説明するためには、熱とは何かという説明からしなければなりません。熱とはいったい何者なんでしょう。

熱い、冷たいという感覚は私たちの身の回りのあらゆる物質を触れた時に感じることができます。冬ならばストーブを焚けば部屋の中の空気が温かくなりますし、ガスでお湯を沸かしたり、煮物をしたりすると、お湯や料理が温かくなります。夏になればエアコンを使って部屋の空気を冷たくします。

熱くなるのは、熱をもらったから、冷たくなるのは熱を失ったからなんですが、では熱ってなんでしょうか。

私たちを取り巻くすべての物質は原子や分子という小さな粒からできていることはご存知でしょう。これらの原子や分子はじっとしているわけではなく、常に動いています。熱とはこの原子や分子の動きのことなのです。

例えば、空気も分子からできています。
空気は窒素分子と酸素分子が8対2くらいの割合でできています。(そのほかにアルゴンや二酸化炭素なども含まれています)これらの分子をまとめて空気分子と言うことにしましょう。これらの空気分子は目に見えませんが、自由勝手に飛び回っています。空気だけでなく、気体は全てその原子や分子が自由に飛び回っています。

気体分子は自由に飛び回っている

実は、この原子や分子の動きが熱の正体。熱その物なのです。
例えば、空気の分子の運動速度が大きいとき、私たちは暑いと感じ、速度が小さいとき寒いと感じるのです。ガスに火をつけると、空気中の酸素とガスが反応してCO2と水蒸気になりますが、このとき発生したCO2と水蒸気の分子が激しく運動するので、熱い、つまり温度が上がるのです。

昔は、熱素(フロギストン)という物質があって、そのやりとりで熱くなったり、冷たくなったりすると考えられていました。このような考え方を熱素説(フロギストン説)といいます。しかし、熱くなった物体は熱素をたくさん持っているので重くなるはずですが、そうはなりません。そのほかいろいろ不都合な現象があるので熱素説は否定されています。

現在は、熱素という物質が熱ではなく、物質を構成する原子や分子の動きが熱と考えられています。だから熱は取り出せるものでも、さわれるものでもありません。熱はものではありません。原子や分子の動き、つまりエネルギーなのです。

原子や分子の動きについては、速い物もあれば、遅い物もあり、また原子や分子同士でぶつかったり、壁にぶつかったりして方向が変わったり、速度が変わったりすることもあります。しかし、全体としての平均速度は変わりません。25℃のとき、空気分子の平均速度は時速約1,800㎞。実に空気の分子は音速の1.5倍の速度で私たちの周りを飛び回っているのです。

よく熱を加えると分子の速度が速くなるなどと言われることがありますが、これは間違いです。熱という物質があるわけではないので、熱を加えるという言い方は正しくありません。熱を加えるのではなく、分子の運動を速くするというのが本当は正しい言い方です。

水が気化するとはどういうことか

以上、空気のような気体について話してきました。では液体の水はどうなのでしょう。水もやはり、水分子と言う分子からできています。その水分子の量なのですが、片手ですくったくらいの水の量(18㏄)で6.0×1023個、つまり、6のあとにゼロが23個つくくらいの数の大量の分子が含まれています。

この水の分子は、気体と違って分子同士が分子間力という力で互いに引き合っているので、気体のように自由に飛び回っているわけではありません。分子たちは互いに引っ張り合って、ひとところにまとまっています。これが液体と言われる状態です。

ただし、液体の分子もまったく動いていないかというとそうではなく、気体ほど自由ではありませんが、動いたり、振動したりしています。このような分子の動きや振動が、気体の場合と同じように熱なのです。

気体の分子の動く速さが同じではないように、水分子もすべて同じ速度で動いているわけではありません。互いに衝突して速度が変わりますから、速いのも、遅いのもあって、その速度にはバラツキがあります。そして、中には分子間力を振り切ってしまうほど大きな速度になる水分子もあります。

このような特に速度の大きな分子が、たまたま水面近くにあると、その分子は分子間力を振り切って外に飛び出してしまいます。外に飛び出した水分子は気体、つまり水蒸気になります。このように、自らの運動速度によって分子間力を振り切って水面から飛び出して気体になる現象、これが気化です。

液体も分子は動いている 液面から飛び出す分子もある

分子が飛び出すときに分子間力を振り切って行くので、その分、速度が低下します。また、運動量の大きな分子が液体から飛び去ってしまうと、その分だけ水分子全体の運動速度の平均値が下がってしまいます。熱とは分子の運動のことですから、速度が下がるということは、水が熱を失うということであり、よって温度が下がります。

打ち水をすると温度が下がるというのはそういうことなのです。そして、分子間力を振り切るエネルギーが気化熱ということになります。

ちなみに、1gの水の気化熱は、2442ジュールですが、これを他の物質の気化熱と比較すると、ガソリンが300ジュールくらい、エタノールが840ジュール、水銀が290ジュールなどですから、水の気化熱は断然大きいのです。

つまり、水が気化しするときに奪う気化熱は、他の液体よりも断然大きく、その結果、気化による効果も大きいのです。

打ち水をすると気化熱を奪うといいましたがが、本当はおかしな言い方かもしれません。打ち水すると、気化熱分だけ水の温度が下がり、その結果、空気の熱が水の方に移動する。それが熱を奪っているように見えるということでしょう。

気化とは逆の現象もある

逆に一旦空気に飛び出した水の分子がまた、液体に戻ることもあります。空気中の水の分子も早いものと遅いものがありますが、遅いものが、たまたま水面に衝突すると、その分子は分子間力に捉えられて液体の水になってしまいます。これを凝縮と言います。このとき、分子間力によって引き付けられるのでエネルギーをもらうことになります。このエネルギーを凝縮熱といいます。

凝縮するときは、蒸発するときとは逆に凝縮熱をもらって、水の運動が活発になるので、温度が上がることになります。

つまり、水分子のうち、元気な分子は分子間力を振り切って飛び出していき、一方で元気のない空気中に漂っている水分子はまた液体に戻ってきます。水の表面では、気化と凝縮が繰り返し起こっているのです。

空気中の水分子(水蒸気)の量が湿度です。湿度が低いとき、つまり空気中の水分子の量が少ないときは、凝縮する水分子より気化する水分子の方が多いので、液体の水はどんどん気化してしいきます。その時、気化熱分だけ、水の周囲の温度は下がることになります。

逆に湿度が高いときは、凝縮する水分子、つまり液体に戻ってくる水分子も多くなるので、見かけ上、気化する水分子の量が減ってくるので、あまり周囲の温度は下がりません。

ちなみに、私たちの身体の表面は常に少量の汗がでています。湿度が低いときは、その汗が気化しやすいため温度も下がり、汗も乾いてさらさらした感じがします。逆に湿度が高いときはなかなか汗が乾かずに、べとべとした感じになるのはこのためです。

もうひとつ付け加えると、水の表面近くは気化した水分子が多いので、周囲より湿度が高くなっています。そのため、なかなか気化が進みません。しかし、風が吹くと水面近くの水分子を吹き飛ばしてしまうので、気化しやすくなります。風が吹くと涼しく感じるのはこのためです。風が吹くと洗濯物が乾きやすくなるのも同じ原理です。

打ち水で地球温暖化は止められるか

打ち水をすると、気温が下がります。では、世界中で打ち水をすればどうなるのでしょう。地球全体が冷えて、地球温暖化を止められるのでしょうか。

残念ながらそうはなりません。なぜなら、気化した水はまた凝縮してしまうからです。気化すれば一旦は水蒸気になりますが、世界の大気中に含まれる水蒸気の量は限界があるのようなのです。だから、世界中で打ち水をしても、やがて気化した水蒸気は凝縮して今度は凝縮熱分だけ地球を暖めてしまうので、地球温暖化は止められません。

ただ、打ち水をして周囲の温度が下がり、その分エアコンを止めたり、設定温度を上げたりすれば、発電所で燃やす化石燃料の量が減ります。その結果、温室効果ガスの排出量が減って、その分、地球温暖化を遅らせることになります。そういう意味では打ち水は地球温暖化防止に効果があります。

ちなみにエアコンで部屋を涼しくできるのはエアコンの中にある冷媒という液体が気化するときの気化熱を利用しています。ただし、一旦気化した冷媒はまた凝縮させて液体に戻さなければならないので、このとき熱が発生します。気化するときは室内機で行い、凝縮するときは室外機で行うので、部屋の中が涼しくなりますが、部屋の外はその分暑くなるということになります。

これは、世界中で打ち水をしても地球を冷やすことにならないのと同じ理屈です。

森羅万象も水分子の動き

水は砂漠を除いて地球の至る所に存在します。海から水が蒸発して空で雲になり、やがて雨になって落ちてきて、大地を潤し、大樹を育み、農作物を育てます。水は川になったり、霧になったり、雪になったり、氷になったり、地球上の美しい自然の移ろい、森羅万象にはいつも水がかかわっています。

水が液体でいられるのは1気圧では0℃から100℃までの間。地球に液体の水が存在するのは地球が太陽からちょうどいい距離で回っているからです。

地球よりちょっと内側の金星では水はすべて蒸発して水蒸気になったままで、液体に戻ることはありません。火星は地球よりちょっと外側。水は全て氷となり、溶けることがありません。月は地球の周りをまわっているわけですから、太陽からの距離がほぼ同じですが、残念ながら地球より少し小さいため水をつなぎとめることができず、水そのものが存在しません。

地球には、液体の水があるから、生命が生まれることができました。地球の環境では、水が液体で存在できるだけでなく、一部が気化するから大気中に水蒸気が含まれていて、それが雲になったり雨になったりして地上に落ちてきて、さまざまな変化を作り出しているのです。

地球には、液体の水があって、さらに気体になったり固体になったりできる環境となっていますが、このような環境を持ったのは、太陽と地球との距離がちょうどいい具合だったことと、地球の大きさもちょうどいいくらいだったこと。まさに地球は絶妙のバランスの上に存在するのです。よくいわれるように、地球は奇跡の惑星といっても過言ではないでしょう。

2022年7月23日

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