日本は温室効果ガス排出ゼロを2050年よりもっと早く達成する その3つの理由

昨年10月、政府は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言した。(カーボンニュートラル宣言)しかしながら一部には、その実現を危ぶむ声もある。

とても、再生可能エネルギーのような非力な資源で日本が必要とするエネルギーをすべてまかなうことはできない。あるいは、非常にエネルギーコストが高くなって国民に多大の負担を掛けてしまう。あるいは、欧州や極端な環境保護団体の圧力に負けて、カーボンニュートラル宣言を出したに過ぎない。などなど。

しかし、日本がカーボンニュートラルを達成することは可能であるし、それどころか2050年を待たず、それよりずっと早く日本はカーボンニュートラルを実現する可能性さえあるというのがこの記事の内容である。

その理由としては、再生可能エネルギーのコストが急激に低下してきていること。日本人は独裁国家のように政府が目標を示せば、それに従順に従う国民であること。さらに日本のエネルギー需要そのものが低下して、達成ハードルが低下してしまうことの3つを挙げたい。

1.再生可能エネルギーのコストが急激に低下

まず、挙げられる理由は再生可能エネルギーのコストが急激に低下していることでである。

以下の図は日本の太陽光発電と陸上風力発電の発電コストの実績と見通しを示したもので、資源エネルギー庁が昨年9月、調達価格等算定委員会用に取りまとめた資料の中から採った。

日本における太陽光発電コストの推移と見通し

これによると、太陽光発電の発電コストについては2014年時点で34円/kWhであったものが、2019年には13.1円/kWhと、わずか5年間で6割も減少している。さらにその後、2030年には5.8円/kWhまで低下する見通しとなっている。

風力発電についても、2014年時点で21円/kWhであったものが、2019年には11.1円/kWhと約半分に低下。さらに2030年には6.6円/kWhまで低下する見通しである。

日本における風力発電コストの推移と見通し

このように、再生可能エネルギーは従来のように「コストが高い」というイメージがもう崩れつつある。稼働率にもよるが、少なくとも火力発電より安い。このためであろう、日本の再生可能発電量は2012年から2018年にかけて3.1倍に増加しているのである。

ちなみに、アラブ首長国連邦のドバイで計画されている太陽光発電の場合は、非常に条件がよいこともあって売電価格がなんと1.7セント/kWh(約2円/kWh)まで低下しているのである。

ここまで安くなると、電力供給側としては、いつまでも石炭やLNGなどの火力発電にしがみついている理由がなくなり、できるだけ早く太陽光発電や風力発電を確保しなければ、という話になってくる。

もちろん、再生可能エネルギーについては日本特有の障害があると指摘する声もある。太陽光については日本は山がちで平地が少ないとか、雨が多くて日照時間が少ない。風力についても、日本は安定した偏西風がないとか、台風の通り道になっている、洋上に設置するにしても遠浅の海域が少ないなど、いろいろと「できない理由」があがってくる。
他の国ができても日本にはできない理由があるのだと主張する。

だけど、どれも決定的にダメ、日本では絶対無理。という話ではない。例えば土地の問題については、日本には広大な面積の休耕田、休耕地、耕作放棄地がある。全国に広がるため池などを活用する、水上太陽光発電では世界でもトップクラスの実績がある。遠浅の海がないのなら浮体式洋上風力発電という方法もある。

ちなみに日本の国土面積は世界第62位に過ぎないが、排他的経済水域を含めれば、日本は世界第8位の面積を誇る。もちろんこの排他的経済水域では他国が勝手に風力発電や太陽光発電を行うことはできず、日本だけが実施することができるのだ。

あるいは、日本に再生可能エネルギーの適地が少ないのなら、海外の再生可能エネルギーを水素に変えて日本に持ってくるという方法もある。
つまり、知恵を集めれば、できない話ではないのである。

2.日本はソフトな独裁国家である

次の理由は、日本は実は独裁国だということである。
何のことかというと、日本人は政府が方針を決めると、おとなしくそれに従うという傾向があり、これをある人に言わせると日本はまるで独裁国家のようだ。ソフトな独裁国家であるというのである。

【例1】
その例として、ガソリンに含まれる硫黄分の削減について紹介しよう。
2000年初めころ、各国は自動車の排気ガスを削減するため、排気ガス浄化装置の設置を義務付けることにした。しかし、ガソリンに硫黄分が含まれていると、この浄化装置が働かない。そのため、各国政府は民間石油会社に対して、期限を決めてガソリン中の硫黄分を削減するよう指示した。

その状況を示したのが、下の図である。

ガソリン中の硫黄分の推移

横軸が年次、縦軸がガソリン中の硫黄分を示している。そして、この図の中の黒い実線が日本政府の目標値。赤が実績値を示している。

日本の硫黄分規制値は欧米より厳しく、サルファーフリーといわれる10ppm以下の達成時期については、日本が2008年、欧州が2009年となっていた。(アメリカの目標値は日欧よりかなり緩い80ppm)

ところが、実績値(つまり赤い線)を見るとわかるように、日本の石油会社がサルファ-フリーを達成したのは2005年。これは、政府目標より4年、欧州の目標より5年も早かった。

軽油についても下の図に示すが、これもガソリンと同様、日本政府の目標が2007年、欧州の目標が2009年(米国は15ppmまでしか下げない)だったのに対して、日本の石油会社は実際には政府目標より4年も早い2005年に達成しているのだ。

軽油中の硫黄分の推移

【例2】
ちょっと話が古くなるが、アメリカでは1970年にマスキー法という法律が施行された。この法律は、自動車の排ガスに含まれる一酸化炭素、炭化水素については1975年から、窒素酸化物については1976年から、それぞれ10分の1に規制すると言う内容であった。

もちろん、この規制は日本からアメリカに輸出する車にも適用される。これに対して、ホンダはCVCCエンジンを開発して1972年にクリア。マツダはロータリーエンジンを使って1973年に、それぞれ前倒しでクリアしている。

一方、アメリカでは当時ビッグスリーといわれたカーメーカーが期限内に目標を達成できなかった。そのため、マスキー法は再三延期となり、結局、アメリカのメーカーが目標を達成したのは1995年になってからである。

なお、日本でも1973年にマスキー法とほとんど同様の目標が設定されたが、日本のカーメーカーはホンダ、マツダはもちろん、他のメーカーも期限どおり目標を達成している。

このように、政府の目標あるいは方針に対して、日本の企業はきちんと対応し、時によっては政府が掲げた期限より前に目標を達成してしまうのである。

カーボンニュートラルは排ガス規制とは違う。そんなに簡単ではないという意見もあると思う。まあ、必ずそういう反対意見を言う人が出てくる。しかし、燃料のサルファーフリー化にしても、マスキー法にしても、当初は実現困難とする意見が多くあったのだ。

特にマスキー法については小型で安価で高性能を売りにした日本車にとっては規制をクリアするのが大変困難で、日本車の追い落としを狙ったアメリカの陰謀とまで言われた。

しかし、アメリカ車がもたもたする間に、日本車はさっさと目標を達成した。これは、そののち日本車がアメリカ市場で大きく飛躍する重要なステップとなった。もし、あのとき日本車がマスキー法をクリアできなければ、日本は今のような自動車大国になることはできなかっただろう。

このように、日本人あるいは日本企業は政府が目標を掲げると従順にこれに従い、むしろ目標よりも早く達成するための競争を始めることもある。だから一種の独裁国家のようだと言われるのかもしれない。

ただし日本は独裁国家のように見えるかもしれないが、実はそうではないというのが私の意見である。日本の場合、政府が勝手に目標を掲げているわけではなく、その前に各界から前もって話を聞き、これならやれるという範囲で目標設定を行っている。つまり根回し。前もって根回しをやっているから、うまく行く。

今回の2050年にカーボンニュートラルを達成するという目標は既に各界からヒヤリングを行って、政府は実行が可能との感触を得ている可能性がある。

3.産業構造がソフト化する

日本は1950年代から1970年代にかけて高度経済成長期を経験し、その後1990年頃までは比較的安定した経済成長期にあった。GDPはどんどん増加していき、電気や石油のようなエネルギー需要もどんどん増えて行った。それに合わせて発電所や製油所がつぎつぎと作られていったのもこのころである。

しかしながら、1991年にバブルが崩壊すると産業の発展は停滞し、失われた20年の時代に入って行った。従来、日本が誇った造船や鉄鋼のような重厚長大型産業は過去のものとなり、日本のGDPに占める第二次産業の割合は低下。代わってサービス業、金融業、ソフトウエア産業などの第三次産業の割合が増加してきている。

第三次産業であれば、巨大な工場は不要だし、製品半製品を国内輸送する必要もない。物の代わりに情報が行き来する産業である。エネルギーはコンピューターや通信機器で使う分があればいい。だから、これからエネルギー需要はどんどん減っていくだろう。つまり、経済成長期に建設されたエネルギー生産システムは余剰となっていく可能性がある。

さらに今後の人口減少や省エネ等を考えれば2050年にはエネルギー需要が現在より20%減少し、さらに業務、家庭部門を100%電化し、自動車の完全電動化などの徹底した電化を行えば、エネルギー需要は50%近くまで下がる(つまり、現在の半分になる)という予想もある。

日本の最終エネルギー消費の予測
竹内純子「エネルギー産業の2050年」(経済産業省 次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会資料より)

温室効果ガス排出量ゼロは困難と考える人たちは日本のエネルギー需要がこのままである、あるいは今後も増加していくと暗黙のうちに考えているのではないだろうか。実際は確実に減少していく。

現在のエネルギー需要のまま温室効果ガスゼロはかなり困難かもしれないが、将来、エネルギー需要が減って行くことを考えれば、そのハードルは随分低くなる。

陸上のハードル競技の場合、ハードルの高さは106.7㎝だそうだが、これが20%低くなれば、つまり85㎝になれば、ずいぶんと走りやすくなるだろう。ましてや50%低くなればわずか53㎝である。簡単に記録を更新することができる。

さらに、エネルギー需要量が減少することのほかに、もうひとつ目標達成を容易にする理由がある。

従来の重厚長大型産業の場合、製品原価に占めるエネルギーコストの割合はかなり大きい。だから、いかに安いエネルギーを調達するかが競争に勝つポイントの一つとなっていた。しかしながら、ソフト化産業では生産に占めるエネルギーコストの割合は当然、非常に小さい。

そのため、ソフト化企業がエネルギーを選択する場合、コストが安いことはあまり大きな要因とはならなくなる。安価ではあるが、温室効果ガスを大量に排出するダーティなエネルギー源よりも、少々コストが高くてもクリーンなエネルギー源を選択することになるだろう。というかそもそも、エネルギーコストへの関心そのものが減ってくることになる。

4.最後に

先日(6月11日)、トヨタ自動車はこれまで2050年に達成するとしていた目標を前倒しし、2035年までに世界の自社工場で二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする目標を発表した。

いよいよ始まったぞという感じがする。
日本経済新聞が225社を調べたところ、温室効果ガス排出ゼロ目標を掲げる企業数は20年末から4月末までに倍増したという。その多くが目標を2050年としているが、今後、トヨタ自動車のように目標を前倒しにする企業が増えてくるだろう。

2021年6月13日

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