温暖化で海面上昇はなぜ起こる。北極の氷が融けるから? 八つぁん、熊さんの気候変動談義

地球温暖化は起こっているのか、起ってないのか。地球温暖化が起こっているとしても、その原因は人間活動によるものなのか、あるいは人間とは関係のない自然現象なのか。昔から多くの学者たちが論争し、意見が分かれてきました。

しかし、データの量が増え、シミュレーションの精度も上がってくると、次第に地球温暖化はやはり起こっており、それが人間活動によるものだという考えが強くなってきています。

国連はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という機関に委託して、世界中の膨大な論文を精査させ、気候変動の研究がどのように進んでいるかについて報告させています。そして、最新の第6次報告書では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と冒頭で述べられています。

つまり、これはもう人間が地球温暖化を引き起こしているということは疑う余地がないほどはっきりしていると結論付けているわけです。もちろん、細かな部分では論争が続くと思われますが、人為的な地球温暖化が起こっているという根幹の部分は揺るがないでしょう。

しかしながら、一般庶民の間では温暖化についての様々な説が話題に上ります。
この記事では、学者や専門家の高度な議論ではなく、一般庶民の地球温暖化議論。つまり八つぁん、熊さんの気候変動談義について、ちょっと口をはさんでみたいと思います。

今回は、地球温暖化による海面上昇について。

海面上昇は北極の氷が融けるから?

八「おい熊、知っているか?今、気温が上がってな、北極の氷が融けちまうってんで大変な騒ぎなんだぞ」
熊「知ってらい。でもそれが何だってんだ。ホッキョクグマが住むところが無くなって、この長屋に押しかけてくるってか」
八「いやいや、北極の氷が融けちまったら、おまえ海が高くなるだろ。そしたら、このあたりが水浸しになるってんだよ」
熊「おいおい、べらぼうめ。おめえはそんなことも知らないから馬鹿だってんだ。北極の氷が融けても、そら、なんだっけ、そうだアルキメデスの原理ってやつでな、海の水は高くはならないだよ」
八「へえ、そうかい、それなら安心だな」

地球温暖化によって海面が上昇して、島が沈んでしまうというようなことが言われます。しかし、北極の氷は海に上に浮いているのだから、アルキメデスの原理によって融けても海面は上昇しない。これは小学生でも知っていることだ。地球温暖化が起こっていると提唱する人はそんな基本的なことも知らない。

このような主張を信じている人を時々見かけます。これもどっかの大学の先生が言い出したことのようですが、言わせてもらえば少しピントのずれた主張です。

確かに地球が温暖化することによって、北極の氷が融けます。でも、例えば、ウイスキーに氷を入れたやつをオンザロックといいますが、氷が融けてもウイスキーの水面が上がって、グラスからあふれ出ることはありません。それと同じことで、地球が温暖化しても海面上昇は起こらない。という理屈です。

それでも海面上昇は起こる

しかし、地球温暖化によって、やはり海面上昇は起こるのです。なぜか。それは海面上昇は北極の氷が融けるから起こるのではなく、別の原因があるからです。

温暖化による海面上昇の原因は以下の4つの原因があると言われています。

海洋の熱膨張           50%
氷河からの氷の消失    22%
氷床からの氷の消失    20%
陸上での貯水量の変化  8%

%の数字は海面上昇の原因となる割合を示しています。

これらの海面上昇の原因のうち、特に影響が大きいのが海水の温度が上がることによる熱膨張です。これが海面上昇の原因の50%を占めると言われています。

一般に気体でも液体でも固体でも、温度が上がると膨張して体積が増えます。海水も同じで、地球温暖化によって海水温度が上昇すると体積が増えて海面が上昇することになります。いやいや熱膨張なんてたいしたことはないだろうと思われるかもしれませんが、海はその容積が膨大なだけに、ちょっとの温度差でも影響は大きいのです。

水の熱膨張係数を0.00021/℃、海の平均水深を3,800mとして計算すると、海水の平均温度が1℃上昇すれば海面は約80㎝上昇する計算になります。もちろん、海は深いので地球温暖化の影響を受けやすいところと、受けにくいところがありますし、海流によって海水は流れています。ですから、それほど単純ではありませんが、海水温度が上がれば海面が上昇してくることはご理解いただけたでしょう。

次に影響が大きいのが地球温暖化によって、陸上の氷河や氷床が融けることです。
氷河や氷床は海に浮かんでいるのではないので、アルキメデスの原理は成り立ちません。氷河や氷床が融ければ融けた氷は水になり、海に流れ込むので、当然海面は上昇してきます。

氷河はご存じのとおり、山岳地帯に降った雪が谷間に集まって固まってできた氷の塊で、少しずつ流れていいます。氷河の先端は氷が融けて川となり海に流れ込んでいます。この氷河、1950年以降、世界中で短くなっている、つまり融けてきていることが観測されています。

氷床というのは南極やグリーンランドの陸地の上を覆っている氷のことです。
グリーンランドの氷は1990年代から少しずつ減少していることが観測されています。南極の氷の量については、今のところはっきりと減少しているというデータはないようです。しかし、これは幸いなことです。南極の氷床がすべて融けると海面は60mも上昇すると言われているからです。

以上のように、北極の氷が融けても海面は上昇しないということは正しいけれど、海面上昇はそもそも北極の氷が融けるのではなく、海水の熱膨張や陸地の氷が融けることによって起こります。だから地球温暖化によって海面上昇は起こらないという話は間違いです。

これからどれだけ海面上昇が起こるか

では、今までにどれだけ海面上昇が起こったのでしょうか。

1900年以降、現在までに起こった海面上昇は大体20㎝ほどだそうです。それほど多い量ではありません。

ではこれからどうなるのか。それは地球温暖化がこれからどのくらい進行するかによって変わってきます。温室効果ガス(GHG)排出量が「非常に少ない」から「非常に多い」までの5段階のケースについて、海面上昇がどのくらいになるかをシミュレーションしたのが下の図です。


この図で分かるように、1900年に比べて2100年には、GHG排出量が最も少ないケースで40㎝くらい、非常に多いケースでは80㎝くらいまで上昇すると予想されています。

しかし、恐ろしいのは、この図の点線で書かれているケースで、南極などの氷床が今予想されているよりももっと早い速度で崩壊していった場合、2100年ころには海面上昇は1.5mから2mにも達することです。

ちなみに、最悪ケースで海面が2m上昇した場合、海抜2m以下のところが水没するということになります。具体的にはどんな影響がでるかは、Flood Maps(http://flood.firetree.net/)というサイトで確認することができます。

これによれば、例えば、東京の葛飾区や江戸川区あたり、大阪なら西淀区や尼崎市あたり、最も酷いのは名古屋で、市の西半分と弥富市や愛西市あたりが水没することになります。

また、よく海面上昇で引き合いに出されるツバルという島国ですが、この国は非常に海抜が低く、最も高いところでも4mしかありません。海面が上昇するとこの国は海に沈んでしまうと言われています。

でも、温暖化懐疑派はツバルはまだ沈んでいないじゃないか。だから海面上昇はウソだと主張しますが、海面上昇は今のところ、1900年に比べて20㎝程度ですから沈んでいなくても不思議ではありません。

しかし、これから何十年か経てば、やがてツバルが海に沈むという本当の危機が訪れる可能性があります。

八「てーことは、うちらの長屋も海になっちまうってことかい?こりゃ安心してはいいられなってぇことだな」

2022年4月21日

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