福島第一原発のトリチウム汚染水問題

概要

2019年8月9日、福島第一原発の汚染水についての小委員会が開催されました。汚染水は原子炉で溶け落ちた核燃料を冷却するためのもので、放射能を持つトリチウムが含まれているため排出することができずに、タンクに貯蔵しているものです。

この件について、石油会社でタンクの管理に携わった経験を踏まえて、外野席からちょっと言わせてもらいたいと思います。

福島第一原発では、現在115万トンの汚染水を保管してますが、汚染水は1日あたり170トンずつ増えており、3年後に満杯になるとのこと。そのため、東電では、汚染水を海洋に放出したいと考えているそうです。

地元の漁業関係者はこれに反発しています。自分たちが漁をしている海に放射性物質を流そうというのですから、当然ですよね。でも東電側の説明によると海洋放出以外に方法がないといいます。その理由は以下のとおりだそうです。

長期保管案 東電の検討結果
敷地内保管継続 ・年月の経過で放射能量が減る ・汚染水が増え続け、廃炉の終わりにタンクが残る ・廃炉事業に必要な施設が設置できない、遅れる
大型、地中タンクなどへの置き換え ・既設タンクから保管容量は増えない ・設置や検査に1基4~6年 ・破損した場合の漏洩量が膨大
敷地外保管 ・移送ルートや保管場所の自治体の理解が必要 ・移送によって、放射性物質のリスクを新たに生む ・実現可能な移送手段がない

2019年8月9日付朝日新聞より

でもね、この東電の検討結果を見るにつけて、疑問がわいてきます。初めから海に放出することを前提にして、そのためにいろいろ理屈をつけたという風にしか見えないからです。

敷地内保管継続ができない理由について

東電は、汚染水が増え続け、廃炉の終わりにタンクが残るのがその理由のひとつだ、と説明していますが、これはどういう意味でしょう。確かに廃炉したあとで敷地内にタンクは残りますが、それが何か問題ですか?その説明がありません。

廃炉の終わりに跡地を更地にして何か別の用途に使うのでしょうか。こんな放射性物質まみれの土地は当面、使いようがないでしょう。そう汚染水タンクを残して、汚染水の貯蔵に使う以外に何か使い道がありますか?全く意味不明の理屈です。

大型・地中タンクなどへの置き換えができない理由について

大型タンクを作っても、既設タンクから容量が増えないという意味が分かりません。大型タンクにすれば、当然容量が増えるでしょう。だから大型タンクじゃないのでしょうか。

今使っている円筒形のタンクは容量120m3だそうです。写真を見ると高さ5mくらいですから、直径は5.5mくらいでしょうか。大型化といっても、単に直径を大きくするだけを大型化と呼んでいるのなら確かに容量は増えないかもしれません。

でも、直径を大きくすれば、高さも高くすることができるはずです。例えば、原油を貯蔵するタンクの場合、直径は80m、高さは20mくらいあります。このくらいのタンクは技術的に何の問題もなく作れるということです。

このサイズのタンクを作れば10万トンの汚染水が貯蔵でき、これ1基で588日分、1年半分の汚染水を貯蔵することができる計算になります。

また、円形タンクならタンクとタンクの間に隙間ができますので、ここに少し小さなタンクを作ってやれば、同じ土地面積でも貯蔵量はもっと増えることになります。

いやいや、そもそも円筒形のタンクである必要があるのでしょうか。スイミングプールのような長方形にしてもいいはず。長方形にすると構造的に弱くなるので、その分外壁を厚くすればいいし、たわみが生じるのなら、桶や樽のようにタガをはめればいいのです。
(実際に原油タンクではウィンドガーターというタガがはめられています。)

設置や検査に1基4~6年かかるという理由も挙げられていますが。そんなにかかるとは思えません。石油類など危険物の貯蔵タンクを建築するときで付近に住宅があるなどであれば、アセスメントだなんだかんだでかなり時間がかかる場合があります。

しかし、福島第一原発の場合は、付近にはだれも住民はいません。さらに、いわば緊急事態ですから、アセスメントにそんなに時間がかかるとは思えません。今から設計に取り掛かれば、1~2年で完成するのではないでしょうか。

大型タンクにした場合、タンクが破損した場合の漏洩量が莫大になるという理由も挙げられていますが、これについては対策は簡単です。タンクの中を間仕切りすればいいのです。実際に、タンク内を間仕切りしている例があります。

こうすれば一部が漏洩してもほかの部分は漏洩しません。原油タンカーはそのような構造になっています。しかも間仕切りをすれば、構造的にも強くなるから、ゆがんだり座屈したりしにくくなります。

そもそも破損した場合の漏洩が膨大とはなんという言い草でしょう。東電はこの原発事故が起こる前、原子炉は絶対安全、放射能が漏れることは絶対ないと言い張ったではありませか。

君たち何にも知らないんだね。原子炉は3重に囲われていて、放射能は絶対に漏れないんだよ。放射能が漏れるなんて素人の言うことだね。と、まるで子供にも諭すような、そんなキャンペーンを展開していたではありませんか。

放射能は絶対に漏れない。それだけの自信があるのに、たかが水タンクの破損を心配するというのはどうでしょうか。放射能が漏れるのが絶対ないのなら、タンクの水が漏れることなんて絶対の10乗くらいないと言ってもらわないと困ります。自分の都合がよいときは漏れないといい、都合が悪くなれば漏れるのが心配という。

皮肉はさておき、タンクの中に間仕切りをしておけば漏洩量は少なくできます。さらに、タンクの周りをコンクリートの防壁で囲えば、もしもの漏洩にも対処できるでしょう。実際に原油タンクではそうしています。原油と違って、漏洩した汚染水は防壁内に溜まっても火が着くことはありません。もし漏洩しても、汚染水は防壁内に溜まりますから、簡易ポンプでくみ上げてほかのタンクに移せばいいだけの話です。

タンクからの漏洩についていえば、1974年に三菱石油水島製油所で大規模な重油の漏洩事故がありましたが、それ以降、タンクからの大規模な漏洩事故はほとんどありません。にもかかわらず、漏洩したときの規模が大きくなるから、大型タンクはだめだと言うのは、ダメな理由のこじつけではないでしょうか。

敷地外保管ができない理由について

東電側が提示した理由は

  • 移送ルートや保管場所の自治体の理解が必要
  • 移送によって、放射性物質のリスクを新たに生む
  • 実現可能な移送手段がない

ということのようです。

東電は敷地外保管として、どうも遠くに運んで貯蔵することを考えているようですが、発電所の近隣の土地を買収あるいは賃借して排水貯蔵設備を作れないのでしょうか。航空写真で見る限り、福島第一原発の回りは山林だったり、畑だったりしています。

畑は当然ながら現在何も作物は植えられていません。これだけ周りに空地があるのに、なぜ東電は遠くに運ぶことだけを考えて、それは無理と結論を出しているのでしょうか。

発電所の隣接地の山林や畑を買収あるいは借用して、貯蔵設備を作れば、自治体の理解も必要ないし、移送時のリスクもない、パイプラインを使えば簡単に移送することができ、上に挙げた「できない理由」はすべて解決します。

もし用地の取得が困難なら、タンカーのような船型のタンクを作って洋上に浮かべて汚染水を保管するという手もあります。長崎県にある上五島石油備蓄ではこのような方法によって洋上に浮かべたタンクに原油を貯蔵しています。

このタンクは1隻あたり88万m3の容量があり、これだけで、現在、福島第一原発に設置されている汚染水貯蔵タンクの約6,800基分、(現在の汚染水タンク設置数の約7倍)に相当します。このような洋上タンクは、造船所で作って福島第一原発の近くまでタグボートで運んで係留すればいいのです。

最後に

そもそも、石油技術者としてみた場合、何であんな小さなタンクを次から次へと作っているのか理解に苦しみます。大きなタンクをドカッと作った方が、手間もかからないし、コスト的にも有利なはず。

第一、東電だって石油火力発電所を持っていますので石油を蓄える大型タンクの運営ノウハウもあるはず。(ちなみに、東電は国の委託を受けて、石油国家備蓄タンクの操業管理を行っています。)それとも、東電の中で原子力部隊と火力発電部隊はまったく情報の交換はないのでしょうか。旧日本軍の陸軍の海軍のように。だとするとこれも問題なんですがね。

もちろん、事故当初は福島第一原発の敷地内でタンクの建設工事をするのは困難だったでしょう。だから、小型タンクのパーツを外部で作ってトラックで運びこみ、現地で組み立て、簡易的に汚染水を保管した。というのは理解できます。でもあの事故からもう8年も経つのに、同じことをまだ続けていたとは驚きです。

汚染水がタンク容量をオーバーするのなら、福島第一原発の隣接地を買収もしくは借用して、原油タンククラスのタンクを建設する。漏洩が心配ならタンク内に仕切り板を作っていくつかの区画に分けて一度に大量の漏洩が起きないようにする。周りをコンクリートの防壁で囲んでおく。というのが現実的な対策ではないでしょうか。

これによって、原発を完全に廃炉にするまで、汚染水をためておけます。トリチウム放射能の半減期は12.3年ですから、約12年で放射能は半分に、25年で4分の1になります。放射能が少なくなるまで待って、少しずつ希釈して放出していけばいいでしょう。あるいはタンクの寿命がくるまで、そのまま保管していても何ら問題ないと思いますがね。

2019年8月10日