サラリーマンなら誰しも出世したいと思います。同期入社で社長になれるのはひとりいるかいないか。でも取締役ならなれるかも。と、思っているサラリーマンは少なくはないのでは。サラリーマンにとって取締役就任というのは一種の憧れかもしれません。
でも取締役って何なのでしょう。課長や部長なら、その仕事の内容はわかるけれど、取締役ってのは何をやっているのか分かりにくいですよね。どんな仕事をしているのか。報酬は誰が決めるのか。遅刻や残業はどうなるのか。有給休暇は何日もらえるのか。いろいろと疑問が湧いてきます。いつも役員室にいるので、一般社員には近づきにくい取締役。ちょっと役員室をのぞいてみましょう。お付き合いください。
取締役のイメージ
取締役って、重役とか役員とか言われたりします。あるいはエグゼクティブなんて英語で呼ばれるとぞくぞくしますな。個室を与えられ、かわいい秘書にかしづかれ、交際費もたっぷり使えて、報酬もたんまり。取締役にはこんなイメージがあるのではないでしょうか。
サラリーマンは、係長から始まって、課長、次長、部長と出世し、その次は取締役という順番になる。そう思っている人が多いのかもしれません。部長の上が取締役で、その上が常務とか専務。その上が社長?
実は部長と取締役の間には津軽海峡やドーバー海峡ほどの隔たりがあるのです。単純に部長の次が取締役と言うわけではありません。
会社組織は三権分立
ちなみに会社って誰のものなんでしょう。社長のものでしょうか?社員のもの?お客さんのもの?社会のもの?いろいろと考え方はあるでしょうが、法律でははっきりしています。会社は株主のものなのです。
株主は英語ではオーナーと言われることがあります。オーナーは会社の所有者という意味です。でも株主は普通一人じゃありません。大きな会社になるほど株主の数は多くなり、数千人から数万人に達することもあります。こんな大人数の株主で会社を運営していくわけにはいきません。
それで、株主は会社を経営するために、何人か人を雇うことになります。これが取締役。つまり、会社を取り締まる人たち。誰を取締役にするかは株主総会で決められます。
さらに取締役の人たちは、その中から代表者を選び、その人が会社全体の経営を統括します。この人が代表取締役。一般に社長とか会長とかの役職名で呼ばれます。さらに株主総会では会社運営の目付け役として監査役を決めます。
会社は株主総会、取締役、監査役の三つの機関で支配されています。株主総会が国会、取締役が内閣、代表取締役が総理大臣、監査役が裁判所と考えれば、政府の三権分立に似ていますね。
だれが取締役を決めるのか
取締役は株主総会で株主によって選ばれることになります。部長までは社長の権限で決められますが、取締役は社長が決めるわけではありません。部長に出世したら、その次は取締役ということとは根本的に違います。
一般社員は課長だろうが部長だろうが、会社が雇った従業員ですが、取締役は株主に雇われているという関係にあります。
ただ、実際には会社側が株主総会で取締役候補を指名し、それを株主総会で承認するのが普通です。取締役候補にはその会社を良く知っている人。つまり、その会社で出世した部長さんが選ばれることが多い。だから、出世の階段では部長の次が取締役という感じになっているわけ。
ただし、部長までは会社との雇用契約で雇われているのに対し、取締役は株主から委託を受けている人ですから身分が違います。部長職から取締役になる人は、会社を辞めて一旦従業員ではなくなり、その上で改めて取締役として会社と委託契約を結ぶという形になります。
もちろん、取締役は株主総会で決めるのですから、必ずしも元社員でなければならないという必要はありません。社外に適任者がいれば、その人が取締役になることもあります。いわゆる社外取締役と言われる人たちです。
あるいは、その会社の株を買い占めて大株主になれば、取締役を推薦することができます。別の組織から取締役を持ってくることも、株を買い占めた人が自分で取締役になることも可能です。
今、自分は部長だから、このままいけば次には取締役になれそうだぞと期待していたのに、突然、外部から取締役が現れるということも現実にはありうる話です。これはトンビに油揚げをさらわれたようなものでしょうが、取締役とはそういうものです。
取締役ライフ
取締役は普段、どんな労働条件で、どんな仕事をしているのでしょう。例えば、遅刻をしたらだれかに叱られるのでしょうか。
取締役は社員つまり従業員ではないので、何時に出社し、何時に退社しなければならないという従業員規則に従う必要はありません。いつ出社してもいいし、いつ退社しもいい。いやいや毎日会社に来なくてもかまいません。
だから、有給休暇もありません。有給休暇を申請しなくても、いつ休んでもかまわないからです。ただし、残業しても残業代はもらえません。労働基準法で定められている労働時間の上限もなしです。(取締役工場長や取締役兼部長のように、一般社員の仕事と兼務する場合は、従業員規則が適用される場合があります)
取締役の給与は一般社員のように働きを査定されて決まるものではありません。取締役の報酬は会社の定款や株主総会の決議によって決められますが、一般に社員のときよりも多くもらえると思います。ボーナスは決算時に株主総会の承認を得られればもらえます。
そのほか、取締役は使える交際費が多いし、役員専用車を使わせてもらったり、ゴルフ会員権なんてのももらえたりすることがあります。このへんはうらやましいですな。
どんな仕事をしているのか
では取締役はどんな仕事をしているのでしょうか。
取締役の方で、社長とか会長とか、専務、常務あるはCEOなんて肩書のついている人がいますが、これは法律で決められたものではなくて、会社が勝手に決めた役職です。しかし、取締役と代表取締役。この二つはちゃんと法律に定められた役職です。
取締役の義務としては、年4回以上開催される取締役会に出席すること。これだけです。しかも、小規模な会社では取締役会自体が開催されない場合もあります。
あと、年1回開催される定期株主総会やそのほかの臨時株主総会に出席すること。実はこれは義務ではありません。でも、取締役は株主総会で委託されて取締役になっているわけですから、これは出席すべきでしょう。
取締役の仕事は「会社の業務執行に関する意思決定を行う」ことです。具体的に言うと、組織の設置や廃止、社員の選任や解任、財産の処分や借金の承認、代表取締役の選任や解任などです。
さらに、会社の運営がうまく行っているかの監督や監査をすることも仕事です。また、本部長や工場長などの役職を兼務している人は、その仕事も同時にすることになります。
取締役はいつでもクビになることがある
一般社員は会社に雇われているわけですから、社長がクビと言えば一方的に解雇される可能性があります。一方、取締役は株主総会で選ばれている訳ですから、社長が勝手にクビということはできません。
しかし、実際には一般社員が社長からクビだと言われても、ちゃんとした理由がなければ解雇権の乱用と言うことになって簡単には解雇されません、一方、取締役は株主総会で解任が決議されればいつでもクビになってしまいます。
取締役の任期は2年ということが多いので、一度選任されても、2年後の株主総会で再任されなければクビと言うことになります。そもそも株主総会でに取締役候補として社長が名簿に名前を載せてくれなければ、その時点でお役御免ということになります。
そのほか、判断ミスや怠慢、過失によって会社に損害を与えたような場合は、株主から損害賠償を請求される場合もあります。この場合は取締役個人が支払うことになりますから、大変ですね。
以上のように、取締役はその会社にとっての経営のプロとして、様々な経営判断を行うのが仕事です。華やかで、従業員規則にも縛られず、報酬も多いですが、それはそれでかなり責任の重い仕事でもあるようです。
2022年4月8日