カーボンニュートラル社会では道路がめちゃくちゃになる? アスファルト舗装はできなくなるのか

政府は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにしようという目標を掲げている。いわゆるカーボンニュートラル宣言と言われるものだ。これはもちろん地球環境を守るために必要な措置である。

ところが、ひとつ問題がある。この政策が進むと道路舗装に使われるアスファルトが生産されなくなって、日本の道路がめちゃくちゃになってしまうのではないかということである。これは、あまり議論には上っていないが、実は深刻な問題なのかもしれない。

アスファルトは縁の下の力持ち

カーボンニュートラル目標を達成するためには、基本的には石油や石炭などの化石燃料の使用を止めなければならないわけで、いわゆる脱炭素、脱石油などと言われる。道路舗装に使われるアスファルトは石油から作られるから、脱石油が進むとアスファルトも作られなくなるかもしれないのだ。

ご存じのとおり、アスファルトは道路舗装用に使われる。日本の道路舗装率は82.5%、一般国道に限れば99.5%が舗装されている。日本人にとって道路は舗装されているのが当たり前という状況なので、その舗装に使われるアスファルトが作られなくなったとしても、あまり気に留める人はいないかもしれない。

しかし、舗装道路がなくなったらどんなに不便か考えてほしい。高速道路は壊れても補修できなくなるし、生活道路もガタガタになって、雨が降れば水たまりばかりになってしまう。産業や生活に必要な物資の運搬効率も極端に悪くなってしまうだろう。舗装道路は日本に限らず、世界の国々にとってすこぶる重要なインフラなのだ。

アスファルトは道路舗装以外に、ルーフィングといってビルの屋根に敷き詰めたり、シート状にして住宅の壁に貼り付けたりして防水に使われる。道路舗装にしても、ルーフィングにしてもアスファルトは私たちの生活や産業を支える文字通り縁の下の力持ち、屋根の上の力持ちなのだ。

脱石油が進むとアスファルトは生産されなくなる?

アスファルトは石油から作られるとは言っても、燃やすものではないから、温室効果ガスを発生するわけではない。だからカーボンニュートラル政策でもアスファルトを使ってはいけないということにならないはずである。ところがそうはならない。

日本は石油を中東などから輸入してこれを日本国内で精製している。具体的にいうと、輸入された原油は最初に常圧蒸留という処理が行われて、ガソリンや灯油や軽油が取り出され、残った油が常圧残油と呼ばれる部分になる。これを更に減圧蒸留と言う方法で処理して、減圧残油と呼ばれるものが得られる。この減圧残油のうち、道路舗装などの用途に適した一部がアスファルトとなる。こんな具合だ。

アスファルトの製造工程

つまり、原油を処理するとガソリン、灯油、軽油、重油といった燃料とアスファルトや潤滑油という材料が一緒に生産されるわけで、今の製造方法では石油からアスファルトだけを作り出すということはできない。必ず、ガソリンや軽油といった燃料が併産されることになる。

言っておくが、ガソリンや軽油などは余ったから捨ててしまうということはできない。このような大量の危険物を捨てるところはないし、燃やしてしまえば温室効果ガスが発生するので何のための脱炭素化かわかないことになるからだ。

以前、筆者は発展途上国の人からこんな相談を受けたことがある。「国を発展させるためには道路を整備しなければならない。それで石油を輸入してアスファルトを作りたいのだが、どうやって作ればいいのか」と。

それで、私は貴国に製油所はありますかと聞いたところ、我が国は貧しいので製油所はありませんとのことだった。残念ながら製油所がなければアスファルトは作れませんと答えせざるを得なかった。石油を輸入してアスファルトだけを作ることはできないのだ。

石油とアスファルトの需要は減り続けている

最近の自動車の燃費向上はすさまじい。そして、少子高齢化、若者の自動車離れなどによって、日本のガソリンなどの石油製品の需要は毎年減り続けている。

当然、需要が減れば製造量も減り続ける。その結果、日本の製油所はどんどん閉鎖されてきている。1999年が石油需要のピークであるが、このとき全国に39の製油所があった。そして、2022年の現在、我が国の製油所は15か所まで減り、このうち、アスファルトを製造している製油所は9か所しかないというのが現状である。

先日ENEOSが和歌山製油所の閉鎖を発表したが、今後も製油所の閉鎖は継続的に進められ、2050年のカーボンニュートラル達成までに、燃料製品を製造する製油所の数はゼロになっていることだろう。したがって、このままいけば、国内でアスファルトを製造する製油所もなくなってしまうことになる。

一方、アスファルトの需要の方も一時よりは減ってきている。これは、近年、道路の新設があまりなくなってきたこともあるが、アスファルトのリサイクル技術が進んだことが大きい。

傷んだ道路を補修するときに、今まで使っていた舗装道路からアスファルト分だけを回収して再利用する技術である。このおかげで、アスファルトの需要は1990年の年間440万トンから近年は160万トン程度に減ってきている。

舗装用アスファルトの需要 (一社)アスファルト協会資料より

しかしながら、リサイクルによっても一定量のバージンアスファルトは必要となる。このため、現在ではアスファルト需要は横ばい状態で、一定の需要がある。つまり、石油精製でアスファルトが製造できなくなったとしてもアスファルトの需要はあるのだ。

アスファルトの代替や輸入は可能か

アスファルトの代替としては、セメントコンクリートを使うという手がある。ただし、セメントには大きな欠点がある。固まるまで時間がかかるのだ。これに対して、アスファルトの場合は、アスファルトと石や砂を混ぜ合わせた合材を持ってきて道路に敷き均したあと、ローラーで圧力を掛ければ、そのあとは数時間で固まって使用可能となる。

例えば、道路を補修する場合、交通量が減る夜間に道路の片側を閉鎖して、舗装工事をする。そうすれば、夜が明ける前に固まって、早朝のラッシュ時に間に合わせて開通できる。そういう離れ業がアスファルトではできるのだ。

樹脂アスファルトというものもある。アスファルトとは言っても中身は樹脂、すなわちプラスチックや合成ゴムであるが、アスファルトと同じように施工することができる。

商店街や公園などでは黄色やレンガ色などに美しく着色されたカラーアスファルト舗装道路があるが、それが樹脂アスファルトだ。ただし、残念ながらアスファルトより何倍もコストがかかってしまう。

輸入するという方法もある。実は現在、国内で使用されるアスファルトの30%は韓国から輸入されている。しかし、これから石油製品の需要が減少するのは韓国でも同じであろうから、韓国の輸出能力も低下していくだろう。

なお、アスファルトは加熱しておけば液体だが、冷えると固体になってしまうという性質がある。貯蔵タンクの中では加熱されていて液体であるが、アスファルトタンカーはほとんど加熱設備がないから、時間が経つと固まってしまう恐れがある。だから、アスファルトタンカーは中身が冷える前に目的地に到着しなければならない。

そのため、アスファルトは短い距離しか輸送できないという制約があり、輸入先がお隣の韓国に集中しているのはそのためだろう。したがって、韓国に輸出能力がなくなっても他の国から輸入すると言うわけにもいかないのだ。

ではどうする どうなる

脱炭素化は、石油や石炭の消費を将来的にはゼロにすることである。その代替としてEVだとか、再生可能エネルギーの導入とかに目が行きやすいが、意外にアスファルトの問題は盲点かもしれない。やはり石油から作られる潤滑油についても、いずれ同じような問題がでてくるだろう。

ではどうなるのか。ひとつは道路舗装は全面的にセメントコンクリートにしてしまうか。もうひとつは、最後に残った製油所、それがどこになるか分からないが、閉鎖されずにアスファルトと潤滑油を作り続けるということになるかもしれない。その製油所はいわゆる残留者利得を得ることができるだろう。

その製油所ではアスファルトや潤滑油が主力製品となり、アスファルトと同時に生産されるガソリンや軽油などは余り物扱いということになる。

おそらく、ガソリンや灯油はプラスチックなど石油化学製品の原料となるだろう。軽油や重油の場合は設備投資が必要となるが、これも石油化学の原料として使用することができる。

これが、最後に残された製油所の姿である。ただし、プラスチックも脱炭素社会では使用が禁止されるということになれば、舗装用のアスファルトの製造も終わってしまうことになるのだが。

2022年5月22日

【関連記事】
アスファルトは石油のカスから作っているからカスファルトである
2035年ガソリン車販売禁止 余ったガソリンはどうなる
ENEOS和歌山製油所閉鎖は突然の決定ではない 既にプログラム済み
自動車のEV化 余ったガソリンはどうするのか
中国がナフサじゃなく原油からプラスチックを作り始めたぞ COTCという流れ
日本はレジ袋の原料を韓国から大量に輸入している

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。