バイオ燃料は本当にカーボンニュートラルなのか いくつか条件がつくが…

バイオ燃料とは従来から薪や木炭などの形で使われてきましたが、現在では自動車の燃料として使われるバイオエタノールやバイオディーゼル、あるいは発電用燃料として使われる木質チップなどを指すことが多いようです。そして、最近注目されているのがSAF。ジェット機用のバイオ燃料です。

バイオ燃料が注目されている理由のひとつは使っても空気中のCO2を増やさない、つまりカーボンニュートラルな燃料だということです。それは、

「バイオ燃料は燃えた時に確かにCO2を出すが、その一方で原料となる植物が成長する過程で空気中のCO2を吸収しているので、差し引きゼロになる」

と言う理屈なのですが、本当にそうなのかと疑問を持つ人もいます。例えば以下のような。

  1. 植物が成長時に吸収したCO2と燃焼時に発生したCO2が本当にイコールになるとは思えない
  2. 石炭や石油ももともとは生き物で、空気中のCO2を吸収していたのだから、バイオ燃料と同じじゃないか
  3. バイオ燃料を作るためにCO2を吸収する森林が破壊されているのだから意味がない
  4. バイオ燃料は、その製造や輸送時にCO2を発生しているので、カーボンニュートラルじゃない

ここでは、バイオ燃料が本当にカーボンニュートラル、つまり使っても空気中のCO2を増やさない燃料なのか考えてみたいと思います。

① 植物が成長時に吸収したCO2と燃焼時に発生したCO2が本当にイコールになるとは思えない

「植物は空気中のCO2を吸収していることは知っている。だが成長時にCO2を吸収することと、燃やした時にCO2が発生することとは別の話ではないか。同じ量になるとは思えない。」

まず、理解してほしいのは化学変化には質量保存の法則が成り立つということです。自然界では様々な化学変化が起こっていて、その結果、物質は形や色や硬さやにおいなどが変わっていきます。しかし、ただ一つ変わらないものがある。それは質量、つまり重さのことです。質量保存の法則とは化学変化が起こる前と、起こったあとではトータルの質量が変わらないという法則です。

例えば、木炭が燃えると、あとは灰しか残りません。だから木炭は燃えるとずいぶんと軽くなったように見えます。しかし、これは木炭が燃えるときに使う酸素と燃えて出てくるCO2を計算に入れていないからです。

実際には「燃えてなくなった木炭」と「燃えるために使われた酸素」の合計の重さは、「発生したCO2」と「燃え残った灰の重さ」の合計の重さは全く同じになります。

だから、植物が成長するときに吸収したCO2の量とその植物を原料として作られたバイオ燃料を燃やして出てくるCO2の量はこの質量保存の法則によって完全に一致することになります。というか、そう考えないと説明がつかないのです。

気を付けなければならないのは、酸素もCO2も無味無臭の気体なので目に見えませんが、ちゃんと重さを持っているので計算にいれないといけないということです。

例えば、スギの木の種は非常に小さくて重さは1粒1gもないでしょう。この小さな種が地面に落ちると、そこから芽が出て、成長し、やがて重さ何トンもある大木になって行きます。生命という現象には本当に驚かされます。

しかし、どうして1gもない種が何トンもの重さになるのでしょうか。質量保存の法則から、何もないところから突然重量が増えてしまうことはあり得ないので、その重さの元となる何かの物質が外部から植物内に取り入れられたと考える他はありません。

植物の体は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)からできています。それ以外の元素はごくわずかです。この植物の体のうち、水素は水から、酸素は水と空気から取り入れることができます。では炭素は?これは空気中のCO2から取り入れたと考えるしかありません。他に炭素の元となる物がないからです。

逆に言うと、植物は成長過程で水と空気から取り入れた炭素と水素と酸素の分だけ重くなるのです。
そして、この植物を燃やすと、植物に含まれる炭素がCO2になって排出されることになりますが、その量は成長時に空気から取り入れたCO2と厳密に一致することになります。

もし、吸収したCO2より排出したCO2の方が多いというのなら、多くなった分の炭素は一体どこから来たというのでしょうか。燃やされるときに出るCO2と空気から取り入れたCO2は同じ量になると考えなければ質量保存の法則から説明がつかないのです。

② 石炭や石油ももともとは生き物で、空気中のCO2を吸収していたのだから、バイオ燃料と同じじゃないのか

「石炭は大昔の樹木からできたもの、石油や天然ガスも大昔の微生物や植物や藻類が堆積してできたものと聞いた※。であれば、どちらも生物が生きているときにCO2を吸収したのだからバイオ燃料と同じじゃないのか」

※石油や天然ガスの成因については、生物が元になったという説のほかに原始大気のメタンやマントル、マグマから出てきたガスが元になったという説もあります。

いいえ同じじゃありません。カーボンニュートラルかどうかは、その燃料が燃やされたときに大気中のCO2を増やさないかどうかということです。

今、地球温暖化で問題になっているのは、特に石炭や石油のような化石燃料を大量に使うようになってから大気中のCO2が増えていることです。ではなぜ、バイオ燃料は空気中のCO2を増やさないのに、化石燃料はCO2を増やしてしまうのでしょうか。

それは、化石燃料がCO2を空気から取り入れる期間が、バイオ燃料よりも、とてつもなく長いからです。

化石燃料ももともとは生物で、生きている間に大気中のCO2を吸収してきたとしても、それは数千万年から数億年という非常に長い期間をかけて少しずつ吸収してきたものです。一方、人間が化石燃料を大量に使い始めたのは、ほんの100年ほど前からに過ぎません。

化石燃料が、1億年かけて回収ため込んできたCO2を、人間はこの100年間の間に燃やして排出しているわけで、これでは空気中のCO2を増やしてしまうことになります。

1億年と100年という年数の違いは、感覚的にはなかなか理解しにくいかもしれませんが、1年を1mで考えたらどうでしょうか。化石燃料を大量に使い始めた100年間は100m、石炭や石油や天然ガスがCO2を蓄えた期間は1億m。1億mは10万kmです。これは地球2.5周分に相当します。

つまり、石炭や石油や天然ガスは地球2.5周分をてくてく歩きながら、少しずつCO2を貯め込んでいったようなもの。その貯め込んだCO2を100mというサッカーコートのゴールとゴールの間くらいの距離で一気にばらまいているわけです。これでは空気中のCO2の量は増えますよね。

③ バイオ燃料を作るためにCO2を吸収する森林が破壊されているのだから意味がない

「バイオ燃料を作るために森林を伐採して、これを燃料として使用する。あるいは、森林を伐採して、その跡地に作物を植えてその作物からバイオ燃料を作っているのだから、森林のCO2吸収能力が無くなってしまう。」

これは正しいです。ただし、いくつかの誤解があります。

よく言われるのが、ブラジルではバイオエタノールを作るためにアマゾンの森林を破壊しているということ。実際にはバイオエタノールの原料となるサトウキビはアマゾンから1,000km以上離れたサンパウロ付近で作られていますし、今後はアマゾンではなくセラードとよばれるサバンナ地帯に畑を広げることが計画されています。アマゾンではありません。

アメリカはトウモロコシがバイオエタノールの原料ですが、これは中西部のコーンベルトと呼ばれる広大な穀倉地帯で作られています。それ以外に、世界には休耕地や耕作放棄地が大量に存在していますから、バイオ燃料の増産が必要になれば、まず現在使われていない農地が使われることになるでしょう。

しかしながら、発電用に使われる木材チップはちょっと問題かもしれません。実は樹木は空気中のCO2を吸収して自分の体を作っているだけでなく、一部は根として地中に入り込み、一部は葉や枝となって地面に落下して腐葉土や泥炭になります。

この腐葉土や泥炭は何百年も何千年もかけて形成されています。森林を伐採してバイオ燃料として燃やした場合、出てきたCO2はカーボンニュートラルが成り立ちますが、腐葉土や泥炭から放出されるCO2は化石燃料と同じように空気中のCO2濃度を増やしてしまうことになるでしょう。これは森林を伐採して農地にした場合も同じことになります。

森林の樹木を伐採してバイオ燃料とするのなら、植林や再森林化を計画的に行っていくことが必要となります。

④ バイオ燃料は、その製造や輸送時にCO2を発生しているので、カーボンニュートラルじゃない

「バイオ燃料を作るときに、作物の収穫や伐採、加工、輸送に化石燃料が使われており、このときCO2が発生するのでカーボンニュートラルではない。」

バイオ燃料の加工や輸送に化石燃料が使われればカーボンニュートラルでないCO2が発生することは事実ですが、ちょっと論点が違います。

例えば、アメリカのバイオエタノールはトウモロコシから作りますが、トウモロコシの刈り取りに使うコンバインの燃料として石油が、蒸留熱源として天然ガスが、ポンプなどの動力源として石炭火力で作られた電気が使われます。このとき発生したCO2はカーボンニュートラルではありません。

しかし、だからバイオ燃料がカーボンニュートラルではないというのは間違いです。なぜなら、バイオ燃料はあくまで、それを燃やした時に出るCO2についてのみカーボンニュートラルだといわれているのであって、製造や輸送時に発生するCO2まで含めてカーボンニュートラルだと言っているわけではないのです。

ちょっとわかりにくいので、例を挙げましょう。例えばあるラーメン屋さんが、開店20周年を記念して、先着20名様までラーメンを無料にすると宣伝したとします。それである人が、その無料のラーメンを食べようと電車に乗ってそのラーメン屋さんに行きました。電車代が往復320円だとすると、その人にとってラーメンは無料ではなく、320円の出費が必要だったと言うことになります。

では、ラーメン屋が無料だとウソをついたのでしょうか。そうではありませんよね。ラーメン屋さんが無料だと言っているのはラーメン代だけで、電車代も含めて無料だと言っているわけではないのです。ラーメンを食べるために320円の電車代がかかったからラーメンは無料じゃないとクレームをつけるのは言いがかりに過ぎません。

それと同じで、バイオ燃料はそれを燃やした時に出るCO2だけがカーボンニュートラルだと言っているのであって、それを作るときや輸送するときに発生するCO2も含めてカーボンニュートラルと言っているわけではないのです。

ある国のCO2排出量を算定するときには、その国で排出されたCO2の量を実際に測っているわけではありません。実際にはその国で使用された化石燃料やセメントの原料となる石灰石の量などから計算によってCO2排出量が計算されています。

だから、バイオ燃料製造や輸送などに化石燃料が使われたのなら、当然ながら、その時に排出されるCO2がその国の排出量として算入されています。バイオ燃料を作るときに使われた化石燃料から排出されるCO2はゼロとされているわけではなく、ちゃんと算入されているのです。

と言っても、バイオ燃料を作るときに大量に化石燃料が使われているのは事実なので、その量が多ければ、バイオ燃料で削減する以上にCO2が増えてしまうことになります。だから、例えばアメリカでは、以下のような温室効果ガス削減率の基準を使って、基準に満たないものはバイオ燃料として認めないという処置をとっています。

化石燃料に対する温室効果ガスの削減率(この基準に満たないものはバイオ燃料として認めない)

  • トウモロコシ由来のエタノールを中心とした従来のバイオ燃料:20%以上
  • セルロース系バイオ燃料:60%以上
  • バイオディーゼル(バイオマス由来ディーゼル燃料):50%以上
  • セルロース系およびバイオディーゼル系以外の次世代バイオ燃料:50%以上

実際にはアメリカの従来型のバイオエタノールでは、温室効果ガス削減率は48%、ブラジルのバイオエタノールの場合は60%となっています。

ブラジルの削減率が大きいのは、バイオエタノール製造用の熱源や動力源としてサトウキビの搾りかす(バガス)を使っているからです。バガスもバイオ燃料ですからCO2排出量はゼロとみなせます。

将来的には、バイオ燃料製造時や輸送時にもバイオ燃料やそのほかの再可能エネルギーを使うようにすれば、温室効果ガス排出量はゼロにすることもできるでしょう。

まとめると

バイオ燃料は燃やしても空気中のCO2濃度を増加させません。つまりカーボンニュートラルです。ただし、それはバイオ燃料を燃やした時に発生するCO2に限られるということに注意が必要です。

バイオ燃料の製造や輸送で化石燃料を使えば、それに伴って発生するCO2はカーボンニュートラルとしてはカウントされていません。また、森林伐採に伴って腐葉土や泥炭から発生するCO2もカーボンニュートラルではありません。

今後は、バイオ燃料の製造や輸送にも再生可能エネルギーを使うこと。バイオ燃料増産のために森林伐採を行わないこと。あるいは計画的な森林の再生を行うことが必要となるでしょう。

2022年3月15日

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