エンジン自動車の救世主 e-fuel は本当にカーボンニュートラルなのか

欧州では2005年以降EV以外の新車販売禁止?

2023年2月14日、欧州議会は欧州連合(EU)で販売されるすべての新型乗用車および小型商用車は、2035年までにCO2排出量をゼロにすることが求められるという規則案を可決した。この規則案は今後、EU加盟国の承認を得て正式採用となる。
これに対して、ドイツ政府は「e-fuel(イーフュエル)」を使用する新車販売については2035年以降も認めるようEUに要望を出したことが明らかとなっている。

CO2を排出しない車と言えば電気自動車 EV や燃料電池車 FCV が挙げられる。2035年以降 CO2 を排出する車は販売禁止となれば、EV や FCV 以外は販売できないということになる。これに対してドイツは e-fuel は走行時に CO2 を排出するが、これはもともと CO2を原料として作られた燃料なので、燃やしても空気中の CO2を増やさない。つまりカーボンニュートラル燃料であるから、2035年以降も販売できるようにすべきだと主張しているわけである。

この主張に対しては、これから EU 内で議論されていくことになるだろう。e-fuel を使っても大気中の CO2 を増やさないのなら、ドイツの主張はもっともであるように見える。実はわが国でも e-fuel に相当する燃料の開発は政府の支援のもと積極的に開発されている。この技術は自動車燃料に限らず、ジェット燃料や都市ガスにも使えるとして開発が急がれている。それは、ドイツが主張するように、使っても大気中の CO2 を増やさないカーボンニュートラルな燃料とされているからである。

e-fuelとはなにか

e-fuel の e は電気 electric を意味する。電気で作られた燃料という意味だ。では電気でどうやって燃料を作るのか。まず、電気を使って水を電気分解して水素を作り出す。一方、もう一つの原料である CO2 は逆シフト反応と言われる化学反応を使って、一酸化炭素 CO を作っておく。こうしてできた水素と一酸化炭素を反応させて、炭素と水素からなる化合物、すなわち炭化水素という物を作り出す。この炭化水素はガソリンや軽油と同じものであるから、分解や蒸留によって性状を調整してやれば、そのまま自動車燃料として使うことができる。これが e-fuel だ。

水とCO2から燃料を作り出す工程

つまり、電気から作られた水素を炭素に結合させて炭化水素という液体にしたものが e-fuel である。ちなみに水素を液体にする方法は e-fuel だけではない。空気中の窒素 N と化合させればアンモニアに、トルエンという物質と反応させればメチルシクロヘキサン(MCH)という液体になる。(アンモニアは気体だが、−33℃まで冷却すれば容易に液体になる)

このように水素を使いやすくするために水素と反応させてできた物質を水素キャリアという。e-fuel も水素キャリアの一種と考えることができる。ただ、e-fuel のいいところは、ガソリンや軽油の代替として、そのまま自動車燃料として使うことができし、ガソリンや軽油の輸送インフラやガソリンスタンドをそのまま使うことができる。そして、これが重要なのだが、カーメーカーは現在持っている内燃エンジン技術やエンジン工場がそのまま使えるのである。

しかし、e-fuel にも大きな問題がある。それは本当に燃やしても大気中の CO2 を増やさないといえるのかという問題である。
e-fuel も燃やせば当然 CO2 が出てくる。しかし、原料として CO2 を使っているのだから、燃やしても大気中の CO2 は増えないと e-fuel を開発しているメーカーは主張している。この言い分は本当なのだろうか。

それは、原料の CO2 をどのようにして手に入れるのかによって違ってくる。

CO2の入手方法

CO2 の入手方法は以下のように3つある。

① 大気から直接回収する
② 植物を燃やして取り出す
③ 化石燃料を燃やして取り出す

それぞれ解説しよう。

① 大気から直接回収する
これは大気に含まれる CO2 を回収して原料として使う方法だ。このように大気から取り出す方法を DAC(Direct Air Capture)という。これならメーカーが言うように e-fuel を燃やしても大気中の CO2 は増加しない。ただし、大気中の CO2 濃度は非常に小さく、400ppm(0.04%)ほどしかない。このような希薄な CO2 を取り出すことは技術的にたいへん難しい。

② 植物を燃やして取り出す
木材など植物(バイオマス)を燃やして CO2 を取り出す方法だ。植物は成長過程で大気中の CO2 を吸収しているから、燃やして出てくる CO2 は大気中から取り入れたものだ。これは間接的な DAC といえる。だからこの場合も大気中の CO2 を増やさない。これは木材だけでなく、紙くずや都市ごみ(プラスチックを除く)、糞尿のような植物起源の材料でも同じことだ。

③ 化石燃料を燃やして取り出す
しかし、問題はこの最後の方法だ。この方法は天然ガスや石炭のような化石燃料を燃やして得られる CO2 を使うことである。想定されているのは石炭火力発電所。ここでは石炭という炭素のかたまりのような燃料を使うので、排気ガス中の CO2 濃度はかなり高くなる。濃度が高くなるほど、CO2 の回収は容易になる。

しかし、この場合、e-fuel を燃やして出てくる CO2 は石炭を燃やしてでてきた CO2 と同じである。だから、このときは e-fuel を使えば大気中の CO2 濃度は増加することになる。だから、この場合、e-fuel はカーボンニュートラルではない。
しかし、残念ながら CO2 の取り出し方としては、この③の方法が最も技術的に可能性が高いのだ。

CO2は誰が出しているのか

化石燃料を使って取り出した CO2 を使って e-fuel を作った時、出てくる CO2 は誰が出したことになるのか。これは複雑な問題になる。例えば、ある国で石炭火力発電所の排ガスから CO2 を回収して、e-fuel を作り、これをわが国が輸入して自動車燃料として使ったとしよう。このとき、出てくる CO2 は誰が出したことになるのだろうか。

e-fuel を作った国では、火力発電所から出てきた CO2 を回収して、大気に出さずに e-fuel を作ったのだから、CO2 排出量はゼロだと主張するだろう。一方、その e-fuel を輸入して使った国では、排出される CO2 は e-fuel を作るときに原料として使った CO2 だから大気中の CO2 は増えないと主張する。

では、結局大気中の CO2 排出量はゼロなのだろうか。そう主張する人もいるが、とんでもないことだ。火力発電所で化石燃料を使っている分、大気中の CO2 は増えると考えなければ帳尻が合わない。

その CO2 排出量を e-fuel 製造国とするか、e-fuel 使用国とするか、あるいは折半とするかのどれかしかない。両方ともゼロということはあり得ないのだ。

結局のところ、原料の CO2 をどうやって入手するかによって CO2 排出量の考え方が違ってくる。大気中から回収した CO2 やバイオマスを燃やして入手した CO2 を原料として使えば、CO2 排出量はゼロと考えていいだろう。

しかし、化石燃料を燃やして得られた CO2 を使った場合は大気中の CO2 を増やしてしまう。だから同じ e-fuel でも、その来歴を明らかにしておかなければならない。そして化石燃料を使った場合は、その CO2 排出についてだれが責任をとるのかを決めておかなければならないことになる。

このような手続きは、これから議論が進むことになるだろう。その結果によっては、化石燃料起源の CO2 を使った e-fuel はカーボンニュートラルと認定されないということに、なるかもしれない。

2023年3月16日

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