みんな知らないガソリンの作り方 重油からガソリンを作るFCC装置の話

原油を精製するとガソリンや灯油や軽油や重油が一定の割合でできていまい、調整が効かない。これを連産品といって、石油製品の特徴だと思っている人も多いようだ。ネット上でもかなり公的なサイトで、そんな解説がされている場合もあるが、実はこれは間違いだ。(そろそろ間違いに気づいてほしいと思うだが、なかなか修正されない)

輸入された原油はまず、蒸留という操作によって、ナフサやガソリン、灯油、軽油、重油に大まかに分離される。これを一次処理というが、この時点では、確かに製品の割合は原油の種類によってほぼ一定である。

しかし、これは一次処理までのこと。実際には製油所には二次処理と呼ばれる装置群があって、この装置を使って石油製品の生産割合はかなり自由に調整することができるのだ。そもそも製品の生産割合が決まって、その変更ができないとしたら、需要に合わせて製品をつくるという基本的な作業ができないし、そんな事業は産業として成り立たない。

では二次装置ではどんな仕組みで石油製品の割合を調整しているのだろうか。二次装置には、さまざまな役割を持った設備が含まれるが、その中でもガソリンを作るための、もっとも重要な設備は流動接触分解装置といわれる設備である。英語で言うとFluid Catalytic Cracking略してFCCといわれる装置だ。

この記事についてはこのFCCという装置の役割や仕組みについて、説明したい。なお、このFCC。石油精製業における至宝ともいえる、完璧な装置なのだ。

FCCは重油からガソリンを作る

原油を精製すると一次装置でできてくる石油製品の割合は大体決まっているが、これを需要に合わせて調整したり、品質を調整したりするのが二次装置の役割である。特に問題なのはガソリンと重油の割合である。一次処理で生産されるガソリンは原油の20%、重油は40%くらいである。

一方、需要についてはガソリンが30%くらいあるのに、重油は10%くらいしかない。つまり、一次処理で得られるガソリンでは需要に対して全然足らないのに、逆に重油は大幅に余剰なのだ。

では、どうするか。だったら余剰となる重油でガソリンを作ればいいということになる。それがFCCの役割である。重油からガソリンを作るなんて初めて聞いたという方もおられるかもしれない。まだ試験段階だとか、ごく一部で使われているだけだという話ではない。

実は、ENEOSや出光といったお近くのガソリンスタンドで一般に市販されているガソリンの50~60%くらいはFCCを使って重油から作られたガソリンなのだ。実際そうしなければ、石油精製という産業は成り立たない。FCCはそれくらい重要な役割を果たしている装置である。

加熱によって分解する

では、どうやって重油からガソリンをつくるのか。
石油というものは、炭素と水素からできていて、その他の成分、例えば酸素や硫黄や窒素という成分はごくわずかに過ぎない。炭素は互いにくっつきあって分子を作っている。ガソリンと重油の違いは、それぞれの分子に含まれる炭素の数である。

ガソリンは5個から12個ほどの炭素がつながった比較的小さな分子であるのに対して、重油は炭素が20個から70個ほどもくっつきあった巨大な分子である。

だから、重油に含まれる炭素と炭素のつながりを切って、より小さな分子にしてやれば、ガソリンができてくる。これを分解といっている。要するに、重油は分子が大きいので、炭素のつながりを切って、分子を小さくすればガソリンになるという寸法である。

ではどうやって炭素と炭素のつながりを切って行くか。これは意外と簡単で、単に500℃程度まで加熱してやればいいのだ。これを熱分解という。

ただし、この方法で確かにガソリンはできてくるのだが、一方で、炭素同士の新たな結合ができてくる。この新たな結合ができることを重縮合という。その結果、分解した部分はガソリンになるが、縮合した部分はコークスとよばれるさらに大きな分子となってしまう。コークスというのは、炭のかたまりをイメージしてもらえばいいと思う。

触媒を使う

そこで分解を行うときに触媒という固体の物質が使われる。触媒は分解を促進し、重縮合を抑制するために、コークスができにくくなる。このように重油を加熱するだけでなく、触媒を使って反応をコントロールして分解する方法を接触分解といっている。ちなみにFCCに使われる触媒はシリカアルミナやゼオライトといった、比較的安価なもので大丈夫である。

ただし、接触分解にも問題がある。それは少ないとはいえ、やはりコークスができてしまうことである。このコークスは最も反応が起こるところ、つまり触媒の表面で生成する。触媒表面にコークスができてしまうと、触媒自体がコークスで覆われてすぐに活性を失って役に立たなくなるのだ。

触媒を再生する

触媒が役に立たなくなったらどうするか。そのときは、ちょっと乱暴だが、触媒を燃やしてやるという方法がある。触媒自体は燃えないが、表面を覆っているコークスは燃えるから活性を失った触媒を燃やしてやれば、コークスが燃えて、再び活性が取り戻される。FCCの面白いところは、その触媒再生を運転中に行うのである。

FCCの触媒は細かな粒、というより細かな砂状になっている。そのため、触媒にスチームをいれてやると液体のように流動し始める。これを流動床という。この流動状態となった触媒の一部を運転中に取り出し、別の設備で焼却して再生して、再び反応器に戻すという方法が行われる。この方法なら触媒の活性を回復させるために運転を止める必要はない。何年でも連続して運転を続けることができる。

FCCの仕組みを図で説明しよう。

FCCは5つの部分からなっている。ライザー、リアクター、再生器そして蒸留装置である。

ライザーは直径2m(処理能力によって違う)ほど、長さ数十メートルの鉄の筒である。この筒の下部から数100℃に加熱された砂状の触媒を入れ、さらにスチームを噴射させると触媒は流動してライザーの上部まで流れていく。ここに重油を加えてやると重油は加熱された触媒と接触しながらライザーの上部のリアクターまで登って行く。この時間はほんの数秒間に過ぎないが、この数秒間で重油は分解されてガソリンになるのだ。

リアクターに達すると生成したガソリンは蒸発して気体になっているからリアクターの上部から出ていく。触媒は重いのでガソリンから分離され、再生器に流れ込んでいく。再生器では、この触媒に空気を吹き込んで触媒の表面に付着したコークスを燃やしてやる。こうすることで触媒は再生される。さらにコークスが燃やされるため、熱が発生して触媒は700℃まで加熱される。加熱された再生触媒は再びライザーの下部から挿入されるという仕組みになっている。

一方、リアクターから分離して出てきたガソリンは蒸留装置に送られて、ここでLPGや軽油留分、未反応の重油が分離される。

FCCは優れた精製装置

FCCはとても優れた精製装置である。FCCが石油精製工場でよく使われているのは単に重油をガソリンにすることができるだけでなく、いろいろな利点があるからである。

まず燃料がいらないこと。触媒に付着したコークスを燃焼させることによって触媒が加熱され、その熱で重油を分解する。だからFCCの運転には燃料がいらない。

ガソリン収率が高いこと。原料とした重油のうち、60%くらいがガソリンになる。さらに30%くらいがLPGになる。(収率は原料や触媒の種類や運転モードによって違う)つまり、原料重油の90%くらいを分解してガソリンやLPGにすることができる。

オクタン価が高いこと。原油を蒸留して得られるガソリンはオクタン価が70くらいしかないので、改質という操作を行ってオクタン価を高める必要がある。FCCで作られるガソリンはオレフィン分が多いためオクタン価は92くらいある。そのままで十分レギュラーガソリンとして使うことができる。

動力を回収することができる。再生器から高圧の一酸化炭素(COガス)が出てくるので、この高圧ガスでタービンを回して発電したり、COガスをボイラーで燃やしてスチームを得たりすることができる。

運転中に触媒を変更することができる。古くなって活性がなくなった触媒を抜き取り、新しい触媒を入れることによって、常に高活性を維持することができるし、LPGが多くできる、ガソリンのオクタン価を高くするなど、特徴を持った触媒に交換することによって、その時の市場ニーズに合わせた運転変更ができる。

まとめと今後

皆さんがよく使われているガソリンは、さまざまなガソリン基材をブレンドして作られている。その基材のうち、かなりの部分が実は、FCCという装置を使って重油から作られているということはあまり知られていないのではないだろうか。

FCCは触媒を再生しながら運転するという特徴を持つ設備であり、ガソリンの収率が高いうえに、オクタン価も高く、高品質のガソリンが得られるという特徴がある。

FCCは非常に洗練された設備であるが、さらに開発が進められている。もともと重油を分解してガソリンを作ることを目的としていたわけであるが、もっと過酷な運転をすれば、エチレンやプロピレンといったもっと小さな分子を作ることができる。このエチレンやプロピレンはプラスチックや合成繊維など石油化学の原料となる。

将来、自動車の電動化の流れを受けてガソリンの需要が減ってきたときには、重油を原料としてガソリンではなく、プラスチックを作る。そんな技術も将来は実用化されていくかもしれない。

2023年9月10日

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