バイオエタノールガソリン(E10ガソリン)についての批判は誤解だらけ ヤフーコメントから

2024年10月、政府はE10ガソリン(バイオエタノールを10%含むガソリン)を2030年度から販売を開始することを決めた。このことから、E10ガソリンについての関心が高まりつつある。しかしながら、このE10 ガソリンについては様々な誤解を持っている人が多いようだ。

例えば、5月19日付 Yahooニュースでは2028年度から一部地域でE10 ガソリンが先行販売されることが決まったと報じられたが、この記事に対するコメント(いわゆるヤフコメ)が450件近くも寄せられている。

ただ、このコメントを読むとバイオエタノールあるいはE10ガソリンについての誤解や思い違い、偏見などが多く、これほどまでにE10ガソリンは理解されていないのかと驚かされる。以下に、誤解の内容をまとめてみたい。

ガイアックスとの混同

コメントの中で最も多いのがガイアックスとの混同である。ガイアックスというのは今から25年ほど前、関東地方のいくつかのガソリンスタンドで販売された自動車用燃料であるが、この燃料を入れた車両でトラブルが相次いだことから現在では販売が禁止されている。

ガイアックスはガソリンにアルコール類やエーテル類のような石油化学系溶剤を50%以上混合したもので、ガソリン分は全体の半分以下であるからガソリン税はかからず、このため安く販売されていたものである。

もともと、ガイアックスは韓国から輸入され、主に九州地方で販売されていた高濃度アルコール燃料の一種で、九州地方で販売されていたころから既に一部車両でトラブルが多発していたものである。

これを関東地方で販売するときに、どういう事情があったのか、ある在京のテレビ局が「画期的な新燃料、環境にも優しく、現行の自動車でも問題なく使える」と明らかに間違った報道キャンペーンを繰り広げたことから誤解が広がっていった。いまでもこの報道を信じている人がいるようだ。

ガイアックスには50%以上のアルコールやエーテルが含まれているが、当時の車両はこのような高濃度のアルコールについて耐性のない部品が使われていたため、部品が膨潤したり、腐食したりしてトラブルに至ったのである。

また、ガイアックスに使われるアルコール類は石油や天然ガスから作られるからCO2削減効果はなく、また排気ガスからは大量の窒素酸化物が排出されていた。このガイアックス事件を契機として、わが国で販売されるガソリンに含まれるエタノールは3%以下に制限されることになった。

その後、カーメーカーもエタノール耐性のある部品を採用し、排ガス触媒も改良したことから、現在ではエタノール濃度10%、つまりE10ガソリンに対応した車両も増えてきている。そのため、このような対応車両についてはE10ガソリンを入れてもガイアックスのようなトラブルは発生しない。

しかし、ヤフコメではバイオエタノールに対する警戒心が強く、E10ガソリンを使うと車にトラブル発生が発生するとか、ガイアックスを政府が潰しておいて再び復活するのはどういうわけだ、などと非難するものが多数見受けられた。

本当にCO2削減効果があるのか

バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビから作られるが、これらの作物が成長するときにCO2を吸収しているので、CO2削減効果があるとされる。ただ、植物がCO2を吸収することは知っているが、植物のCO2吸収とバイオエタノールを燃やした時に出るCO2は関係がない。単なるこじつけだという意見がある。

バイオエタノールには炭素(つまりC)が含まれているから、これを燃やした時にはCO2が発生する。しかし、バイオエタノールに含まれる炭素分はもともと空気中から吸収されたもので、それ以外はない。当然、バイオエタノールを燃やしたときに発生するCO2は、原料作物が空気から吸収したCO2と同じ量になる。

また、バイオエタノールを製造したり、輸送したりするときに石油が使われるので、その分を考えれば、CO2削減効果はなく、かえってCO2排出量は増えるというコメントもあった。

確かに、かつてはその通りであったが、現在はバイオエタノールの製造時に使用する化石燃料使用量を減らす努力がされているため、製造時に発生するCO2は大きく減ってきている。

経済産業省の試算によると、ガソリン使用時に比べて米国産のバイオエタノールで約60%、ブラジル産で約70%、CO2排出量が削減されるという結果がでている。

税金とコスト

バイオエタノールはガソリン税がかからないとか、バイオエタノール自体が非常に高価であるかという誤解も多い。

例えば、E10ガソリンが普及すると、国の税収が減るため財務省が潰しにかかるとか、新たな税金が作られるとかいうコメントがあった。また、そもそもバイオエタノールは生産コストがかかりすぎるので、このような高い物を輸入して普及させるために多額の税金を使うのかといった批判もあった。

まず、バイオエタノールの価格であるが、時期によって上下する市況商品であり、米国市場ではその取引価格がリアルタイムで表示されている。それをみると、バイオエタノール価格はガソリンに比べてむしろ安い。ただ、バイオエタノールの発熱量はガソリンの6割程度しかないから、その分、補正しなければならないが、それでも日本のガソリン価格より安いことが多い。

さらに日本に運ぶときには運送コストがかかるが、それを考慮してもガソリンに比べて法外に高いということはないだろう。つまり、バイオエタノールは価格が上下するので一概には言えないが、高騰が続くガソリン価格に比べてほぼトントンではないだろうか。

税金についてはバイオエタノールに税金はかからないと思っている人が多いようである。バイオエタノール単体ではもちろんガソリン税はかからない。しかし、ガソリンと混ぜた場合は、バイオエタノール部分についても通常のガソリンと同様にガソリン税が課されることになる。

ガイアックスはアルコール類を50%以上混合して、これはもはやガソリンではないからガソリン税を支払わないと主張したわけであるが、E10ガソリンには通常のガソリンと同等のガソリンが課されることになる。

食糧問題

トウモロコシやサトウキビのような食料を燃料として使うのは、食料不足を助長する。あるいは食料価格を上げて発展途上国の食料事情を悪化させるという意見がある。

まず、実際に世界は食料不足なのだろうか。日本がバイオエタノールを輸入しようとしている米国やブラジルでは食料不足どころか大量に生産が可能で、むしろ余っているから燃料にしているのである。

このような国々では、今まで作っていた食料に上乗せする形で栽培された作物を原料にしてバイオエタノールが作られているのであり、食料として出荷されるものを犠牲にしてバイオエタノールが作られているわけではない。

もしバイオエタノールの生産を禁止したら、米国のトウモロコシ農家はトウモロコシの生産を止めてしまうだろう。だから、バイオエタノールを止めても食料の増産には結びつかない。食料として売れる量は限られているからだ。

また、世界的にみれば、一時的な農作物の不作や地域紛争によって食料の流通が止まってしまうということが食料不足になることはありうるが、基本的には飢えの原因は食料不足ではなく貧困である。国連の報告でも世界の人口増加は緩和しつつあり、一時期いわれた人口爆発は収束に向かっている。

また、バイオエタノールが農作物の価格を引き上げてしまう懸念についてであるが、2012年頃、米国のトウモロコシ価格が上昇して、その原因がバイオ燃料であると言われたことがある。しかし、それ以降もバイオエタノールの生産は増え続けているにもかかわらず、トウモロコシ価格は下がっている。

食料価格が高騰には注意しなければならないが、バイオエタノールの生産が食料価格を上昇させるとは言い切れない。

他の燃料との関係

天ぷら油の廃油を使うとエンジン不良を起こしたことがあるとか、すでに建設業界では使われているとか、そういうコメントもあったが、これはバイオエタノールではなく軽油の代替として使われるバイオディーゼルと混同したものだろう。

また、バイオエタノールよりe-fuelを使うべきだというコメントもあった。e-fuelへの期待が大きいのだろう。政府は、将来的にはバイオエタノールとe-fuelを混合して使用する計画だが、e-fuelはまだ価格が高く、原料となる水素を作るときに大量のCO2を排出するので、今のところバイオエタノールを使用する方が安価であるし、CO2の削減効果は大きい。

ヤフコメをすべて読んでみたわけではないが、これほどE10ガソリンについての誤解が多いとは思わなかった。一部ではE10ガソリンに期待するコメントや、海外在住者から「E10ガソリンは普通に売られている、日本は遅れている」との指摘もあったが、残念ながらヤフコメのほとんどがE10ガソリンを批判する内容であり、しかもその批判の理由は誤解や思い込み、偏見によるものがほとんどであった。

今後、政府や石油業界はE10ガソリンの販売を推進していくことになるが、このような誤解の解消に努めていく必要があるだろう。

2025年5月25日

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バイオエタノールガソリン(E10ガソリン)についての批判は誤解だらけ ヤフーコメントから」への2件のフィードバック

  1. 今年QC検定受ける32歳のおじさん

    ガソリンに含むエタノール10%に対応した車が増えてきているということは、逆を返せば製造しているほうは規格の緩和に繋がるのではと思っています。そうなるとバイオエタノール以外にも入れれるものが増えて様々な混合ができて、他のエネルギーとなるものからもガソリンができ、新たに製造する市場ができそうな気がします。素人目線で申し訳ないですが、こういった考えは難しいでしょうか?

    返信
    1. takarabe 投稿作成者

      今年QC検定受ける32歳のおじさん さん コメントありがとうございます。
      バイオエタノール10%対応車は、基本的にはエタノール対応だけで、それ以外のものをガソリンに混ぜることは想定していないと思います。エタノール以外にものを現行の自動車に入れた時、トラブルが起こっても自動車会社は責任持たないというでしょう。
      ただ、ちょっと話題になっているのはメタノール(エタノールではなくて)です。メタノールとエタノールは性質が似ているので、自動車会社でメタノールを使って実験してみて、大丈夫だというお墨付きがもらえれば、メタノールが新しい燃料として登場する可能性はあります。(プロパノールやブタノールも考えられます)
      なお、私もQC検定2級を持っています。結構難しいですが、頑張ってください。

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