レギュラーとハイオクは混ぜてはいけない?日本のオクタン価が低いのは燃費を悪くするため?(オクタン価をめぐる誤解 その4)

誤解7 レギュラーとハイオクではブレンドする基材が全く違う?

「オクタン価をめぐる誤解 その3」で見ててきたように、ガソリンはいくつかのガソリン基材をブレンドして作っているんだ。

直留ガソリン             原油から蒸留によって取り出した基材
改質ガソリン               直留ガソリンを改質してオクタン価を高めた基材
分解ガソリン               重油留分を分解して得られた基材
アルキレート                LPG留分を重合して得られた基材
ブタン                         原油を蒸留あるいは、重油を分解して得られる炭素数4の基材
その他                        コーカーガソリン、ETBEなど

これらのガソリン基材はそれぞれオクタン価が違うし、その他の性状も少しずつ違っている。これらの基材のうち、特にオクタン価が高く、その他の性状も自動車燃料用として適している基材の割合を増やして作ったのが、ハイオク。残りがレギュラーというわけ。

つまり、ガソリン基材のいいとこだけをつまみ出したのがハイオクっていう感じ。だから、レギュラーもハイオクもブレンドする基材の種類は同じで、その配合が違うだけなんだ。ただし、配合の仕方はそれぞれの石油会社でノウハウがあるし、季節によっても配合の仕方を変えている。

また、ハイオクには清浄剤などが添加されていて、シリンダーバルブの汚れを防ぐ働きもある。これもレギュラーよりハイオクの方が高級となっているわけ。

誤解8 ハイオクとレギュラーは混ぜてはいけない?

このように、レギュラーもハイオクも同じ基材をブレンドして作っていて、違うのはそのブレンド基材の配合割合だけ。だから混ぜても全然問題ない。

以前はガソリンにはオクタン価を上げるための四エチル鉛という物質が混ぜられていたんだけど、この物質が実はシリンダーバルブの固着を防ぐ働きをしていたんだ。ところが、公害対策として四エチル鉛を添加しないようにしたときに、このバルブが固着するんじゃないか問題が起こった。

それで、ハイオクにはしばらく四エチル鉛を入れ続けた時期があった。バルブの固着が心配な人はハイオクを入れてくださいってことだね。そのときはハイオクとレギュラーは混ぜてはいけないということが言われたんだ。

でも、いまはハイオクにも四エチル鉛は入れていないから、ハイオクとレギュラーは混ぜてもかまわない。

例えば、オクタン価90のレギュラーとオクタン価100※のハイオクを1対1で混ぜると、オクタン価はだいたい95になる。

欧州車はオクタン価95のガソリンを推奨していることが多いので、ガソリンスタンドで、レギュラーを10リットル、ハイオクを10リットル給油すればオクタン価95位になるよ。

※最近、日本の石油会社はハイオクのオクタン価を公表していないので、必ずしもハイオクのオクタン価が100とは限りません。

ただし、車のタンク内でガソリンが混ざらないと、最悪オクタン価90のガソリンがエンジンに行くことになる。それでもエンジンが壊れることはないと思うけど、その辺は自己責任でお願いします。(欧州車のディーラーに聞けば、やめてくれというだろうけどね)

誤解9 日本のオクタン価が欧州より5低いのは燃費を悪くするため?

日本ではレギュラーはオクタン価90なのに対して欧州のガソリンは95。欧州のガソリンは、日本のレギュラーガソリンよりも確かにオクタン価が5高い。

欧州のオクタン価は国によっても違うけど、だいたい92、95、98の3本建てだったんだ。ところが、今は95が主流になっているという経緯がある。(※コメント参照)

一方、日本はオクタン価89以上と96以上の2種類がJISで決められている。レギュラーは、だいたい90以上だ。

ちなみに、アメリカはそれぞれの州によって公害規制が違っていたり、農業州はエタノール入りを推奨したりするから、ガソリン品質も州によって少しずつ違っている。そもそもオクタン価の測定方法も日本とアメリカはでは違うしね。

日本でもオクタン価を95にするという話があった

ちなみに、日本でもレギュラーガソリンのオクタン価を95まで上げたらどうかという話が過去にはあったんだ。その方が性能の良いエンジンが作れて、CO2排出量が削減され、地球温暖化防止に貢献するというのが理由だった。

もちろん、日本でもオクタン価を95まで上げることはできないわけじゃない。しかし、オクタン価を上げるためには、改質装置をフル稼働させてオクタン価の高い改質ガソリンをたくさん作ることになる。

改質反応は吸熱反応といって、実はとってもたくさんの熱が必要な反応なんだ。その熱を確保するために、製油所では大量の燃料ガスを燃やしている。燃料ガスを燃やせばCO2が出てくる。だから、オクタン価を上げようとすると、製油所で発生するCO2の量も増えるってことになる。

高性能エンジンでCO2の発生量を減らしても、改質ガソリンを作るときにCO2が大量発生して、帳消しにしてしまうから日本全体ではCO2削減にならない。ということで、オクタン価95計画は立ち消えになった。というわけ。

オクタン価が上がると基材のバランスが崩れる?

でもネット上では、日本のオクタン価が欧州よりも5低いことについて、いろいろな理由を挙げる人がいるようだね。日本ではオクタン価を95にすると基材バランスが壊れてしまうので、余ったガソリン基材を捨てなければいけないという話がある。

基材バランスが崩れるという話は、多分改質反応が吸熱反応だというところが理解されずに、石油は連産品だから基材バランスの調整ができないという説明になっているんだと思う。

(石油の話はなんでも「連産品だから・・・」と説明される傾向があるけど、実は、石油の製品バランスはかなり自由に調整できる  「 原油から作られる石油製品の割合は決まっている? 連産品という誤解 」 参照)

実際にはガソリン基材のバランスの問題じゃなくて、改質装置でCO2が発生することが問題なんだ。もちろん余った基材を捨てるなんてことはあり得ない。

オクタン価が上がるとガソリンが売れなくなる?

オクタン価が高くなると燃費が良くなって、ガソリンが売れなくなるから石油会社が圧力をかけてオクタン価を上げないようにしていると言う人もいる。

なるほど、もっともらしい説明には聞こえるね。

ただ、オクタン価のような技術的な問題は石油業界と自動車業界の技術者が意見を出し合って決めているんだ。一方、ガソリンの販売量が増える増えないの話は営業屋さんの仕事だね。

石油業界では、技術屋さんと営業屋さんは、ほとんど情報交換をしない(しても互いに意味がわからない(笑))ので、オクタン価を決める技術屋さんが、ガソリンの販売量が増えるとか減るとか、そういう営業屋さん的な発想はしないと思うよ。

むしろ営業屋さんの発想では、ガソリンのオクタン価が上がるとアピールポイントが増えてガソリンを売りやすくなると考えるんじゃないかな。むかし、丸善石油がオクタン価を100まで上げた時がそうだったようにね。

※この記事を読んでいただいた、ある敬愛する先輩からコメントをいただきました。欧州でもCO2削減を考慮してオクタン価を95に決めたとのこと。情報提供ありがとうございました。日本とは違う結果がでたようですが、その理由はわかりません。

ちなみに、日本でもエタノールやETBEのようなバイオ燃料を使えば、改質装置で出てくるCO2を増やさずにオクタン価を上げることができます。これからバイオ燃料が増えて行いくなら、再びオクタン価を95に上げる検討をしたらどうだろうかと思います。

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