最近、高騰が続いているのでガソリン価格について、世間の関心が高いが、これは原油の値段が上昇していることと、円安の影響によるものである。一般に物の値段は需要と供給で決まるが、ガソリンの場合は原料、つまり原油の価格変動をまともに受ける商品である。
一方で、EV(電気自動車)が日本でもジワジワと普及し始めている。原油価格と円安による直近のガソリン価格変動とは別に、もっと将来の話。ガソリン車に代わってEVが普及した時に、ガソリン価格はどうなるかについて考察してみたい。(ただし、原油価格の値上がり、値下がりの影響は考えずに、EV普及の影響のみを考慮する)
EVが普及してくれば、当然ガソリンは売れなくなる。ガソリンが売れなくなれば需要と供給の関係でガソリンは安くなる。あるいは、ガソリンスタンドの数が減っていって、スタンド間の競争が少なくなるから高くなる。あるいは販売量が減った分、利益を確保するため、ガソリン価格が上昇する。などいろいろな予測があるようだ。
EV導入のスケジュール
実は、すでにガソリン販売量は2004年をピークに減り始めている。この減少はEVの影響ではない。ハイブリッド車のような燃費のいい車が増えてきた事や、少子高齢化、若者の自動車離れなどが原因だ。このガソリン販売量の減少に伴って、全国のガソリンスタンドの軒数も確実に減ってきている。今後予想されるEVの普及は、このガソリン販売量の減少に追い打ちをかけることになるだろう。
第6次エネルギー基本計画では、乗用車の新規販売については2035年までに電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講ずると記載されている。平たく言えばガソリン車は販売禁止ということだ。欧州や米国でも2035年を目途にガソリン車の販売を禁止すると同様の方針を打ち出している。このとおりいけば、2035年頃からEVは急速に普及し始めることになるだろう。
なぜ政府がこのようなEV導入政策を取っているかというと、その根底には2050年までにカーボンニュートラルを目指すという、政府が打ち出した国際公約にある。つまり。2050年以降、わが国では石炭や石油、天然ガスといった化石燃料は基本的に使えなくなるのだ。
電力については化石燃料を使わなくても、再生可能エネルギーや原子力で作ることができる。しかし、自動車が現在のままガソリンや軽油を燃料としていたのでは、2050年のカーボンニュートラル目標は達成できない。だから、自動車も電動化が必要ということになる。
車の寿命は15年ほどあるから、2035年にガソリン車の販売を禁止しておけば、その15年後の2050年にはガソリン車が姿を消し、カーボンニュートラル目標を達成できるという計算になる。そういうスケジュール感である。
ではそれまでの間、つまりEVとガソリン車が混在する期間、ガソリンの値段はどうなるのだろう。これについては、さまざまな要因が考えられる。
繰り返しになるが、例えばEVが普及すれば当然ガソリンが売れなくなるから石油会社やガソリンスタンドは利益を確保するために値段を上げる。あるいはガソリンスタンドの数が減ってスタンド間の競争が減ってガソリン価格が上昇する。逆にガソリンが売れなくなれば、需要と供給の関係でガソリンの大安売りが始まる。などなど
いくつかの誤解
EVの導入についてはいくつか誤解している人もいるようだ。2035年におそらくガソリン車の販売が禁止されることになるだろうが、これは新車の販売禁止であって、ガソリン車の使用が禁止されるわけではない。路上を走っているガソリン車が突然なくなってすべてEVに代わってしまうわけではない。少しずつ買い替えが進んで、2050年頃にはガソリン車がフェードアウトしていくというイメージである。
もう一つは、EVの普及によって石油製品のうち、ガソリンの販売量だけが減ってしまうという誤解である。石油製品は連産品だからガソリンの需要が減っても、ほかの石油製品と一緒にガソリンが生産されてしまう。余剰となったガソリンが廃棄されてしまうのでかえって環境に悪いと主張する人もいる。しかし、これは間違い。
EVを導入する目的は化石燃料の使用をなくしてカーボンニュートラルを達成するための一つの手段だ。だから、当然ながら灯油や軽油、ジェット燃料といったガソリン以外の石油製品の消費もできるだけゼロにしなければならない。そうしなければ目標は達成できない。
したがって、ガソリン車の販売だけが禁止されるわけではなく、灯油ストーブも、軽油を燃料とする車もいつかは販売が禁止されることになる。灯油ストーブはエアコンに代わり、軽油車も電動車になるか、水素かバイオ燃料専用車に代わるだろう。ジェット機については、SAFとよばれるバイオ燃料系に代わって行くことになる。
いずれにしろ、石油から作られる燃料のうち、ガソリンだけが余剰となるわけではなく、石油製品全体の消費が減って行き、2050年頃にはほぼゼロとなってしまうことになる。
ガソリンの値段はどうなるのか
では、EVの普及に伴ってガソリンの価格はどうなるのか。おそらく大きな変化は起こらないだろうと筆者は予想している。それは、市場原理というより、ガソリン価格の大幅な変動が起きないように、政府や石油業界がうまくコントロールするからだ。
2035年ころにガソリン車の新規販売が禁止されると、ガソリン需要は毎年、ほぼ一定の割合で減って行くことになる。つまり、ガソリン需要の減少はかなり正確に予想できるのだ。だから、石油会社はこの需要減を考慮して計画的にガソリンの生産量を減らしていくことになる。
ガソリンの生産能力は、製油所がそれぞれ一律に減らしていくのではなく、製油所の数を減らすことによって階段状に減っていくことになる。現在(2023年9月時点)、製油所は全国に21か所あるが、今年中に1か所、来年さらに1か所が閉鎖されることが決まっている。
そして、これからも1年から2年に1か所のペースで製油所は閉鎖されていくことになるだろう。製油所の数が減ってくると、製油所から需要地までの輸送距離が長くなってしまうから、できるだけ地理的に製油所が混みあったところから順に閉鎖されていくことになる。
北海道、東北、四国、九州はそれぞれ、製油所が1か所しかないから、これらの製油所の閉鎖は後回しになり。東京湾沿岸や中京地区、大阪湾から瀬戸内にかけての製油所密集地から、なるべく配送上の混乱を起こさないように注意しながら計画的に閉鎖されていくことになるだろう。
ガソリンスタンドも都会の密集地帯から順次閉鎖されていくことになり、2050年ころには製油所もガソリンスタンドもほとんど日本から姿を消してしまっていることだろう。このようにして、需要に合わせて供給が調整されていくので、EVが普及したとしても急激な需給ギャップが起きてガソリン価格が大きく変動するということはないと予想される。
なお、この調整は石油業界と日本の優秀な官僚たちがうまくやってくれるだろう。石油会社は従前のように十数社が乱立しているわけではない。現在は、ENEOS、出光、コスモの実質3社によって支配されているから、その調整はそれほど困難ではないであろう。
ただし、カーボンニュートラル目標は2050年であるが、ガソリンスタンドの数が減って行けば、ガソリン車はどんどん使い勝手が悪くなってしまう。その結果、2045年頃から買い替えが一気に進み、EV化が加速されるだろう。
最終的には一部の愛好家が趣味でガソリン車を所有し、そのためのガソリンがわずかな量だけ、かなり高い価格で販売されるということになるかもしれない。
まとめ
2035年からガソリン車の新規販売が禁止されると、路上を走るガソリン車の台数はほぼ一定の割合で減少していき、そのガソリン車の数に比例してガソリン販売量は減少していくから、その量はかなり正確に予測できる。それに伴って、製油所やガソリンスタンドが計画的に閉鎖されていくことになるだろう。
これがうまく行けば、急激な需給ギャップによってガソリン価格が大幅に上昇あるいは下落することもなく、ソフトランディングしていくことになる。このあたりは政府や石油業界がうまく調整してくれると期待している。
ただし、2050年近くになるとガソリンスタンドの数がかなり減り、製油所からの輸送コストも大きくなることからガソリン価格も上昇してくる。これによってガソリン車は使い勝手が悪くなってくるから、EVへの買い替えが一気に進むことになる。
といっても、そのころにはガソリン車からEVへの買い替えがかなり進んでおり、EVユーザーにとっては、ガソリン価格がどうなろうと、全然関係ないということになるわけだ。
2023年9月16日