八つぁん「この前の話のつづきなんだがよ。やっぱ二酸化炭素CO2ってやつがよ、地球を暑くしているっていうじゃねえか。」
熊さん 「お前もノーテンキな奴だな。CO2って俺たちがいくら出したって、そんなもんたかが知れてんだよ」
八つぁん「だって、自動車や発電所でCO2をどんどん出してるだろう。そりゃあ空気の中のCO2も増えてくると言われりゃあ、そうだと思うぜ。」
熊さん 「じゃあ、聞くがCO2って空気の中にどれくらいあるか知ってるか」
八つぁん「う~んと。分かんねえけど10パーセントくらいになってんじゃないのか」
熊さん 「だからお前はばかだってぇの。いいか、空気の中のCO2てのぁ。聞いて驚けよ。たったの400ppmしかないだぜ」
八つぁん「そのppmってのはなんだ」
熊さん 「おれも知らねえけどな。とにかく鼻くそくらいに少ない量なんだぜ。そんなもんで地球の温度が上がるかよ」
八つぁん「そうかなぁ」
八つぁんが言うように、空気中のCO2の量はどんどん増え続けており、産業革命前は300ppm以下だったものが、最近では400ppmを超えるようになっています。といっても400ppmという数字はとっても小さな量に過ぎません。そんなわずかな量で本当に地球の温度を変えるような働きがあるのでしょうか。この記事ではCO2がどのように地球の温度に影響するのかを簡単にまとめてみました。
ppmってどのくらいの量?
本題に入る前に、熊さんが答えられなかったppmについて。
ppmというのはパート・パー・ミリオン(part per million)の略で、100万分の1という意味です。ちなみに100分の1はパーセント。これは本当はパート・パー・セントというべきかもしれません。セントは100という意味です。
例えば、ゴルフボールが100個あったとして、その中の1個だけがオレンジ色。そのほかは全て白だったとします。そうするとオレンジ色のゴルフボールは100個分の1個ですから1パーセントということになります。では1ppmは?この場合は100万個ゴルフボールがあって、その中で1個だけがオレンジ色のボールということになります。本当にごく少ない量です。でも化学の世界では結構、よく使われる単位なんです。
なお、ppbという単位はパート・パー・ビリオン。10億分の1という意味です。ここまで少ない量となるとあまり使われることはありませんが、例えば毒性物質として知られるダイオキシンの空気中濃度などがppbで示されることがあります。
では、空気中のCO2の濃度ですが、これは先に述べたように400ppmくらい。パーセントでいうと0.04%です。これに対して空気の中で一番多いのが窒素の78%、次いで多いのが酸素で21%、それからアルゴンの0.93%ですから、CO2の濃度がいかに少ないかが分かると思います。
そんなわずかな量が気候にそれほど大きな影響を与えるのでしょうか。確かにちょっと常識とはギャップがあるように思えます。「たった400ppmのCO2で温暖化が起こるわけがない」と言い切る人もいます(笑)。でも、単に量が少ないからといって影響はないと言い切れないのです。
400ppmってどのくらい?
では、400ppmとはどのくらいの量なのでしょうか。例えば1ℓの水に墨汁を1滴いれたとき、墨汁1滴はだいたい0.04mℓです。1ℓの水は1,000mℓですから、墨汁1滴は0.004%になります。ppmで表すと40ppmですから、墨汁を10滴入れれば、空気中のCO2濃度と同じ400ppmくらいになるでしょう。
では墨汁を10滴入れた水はどうなるでしょう。もう透明な水ではありませんね。かなり黒く濁った水になるでしょう。確かに400ppmというのはごく少量に過ぎませんが、目でみて濁りが分かるくらいの量で、単純に少量だから影響がないとは言えない量なのです。
CO2は空気の中に400ppm含まれていますが、特に空気が濁っているように見えないのはCO2が透明だからです。もし、CO2に墨汁のような色がついていれば空気はかなり濁って見えるはずです。ここ100年ほどの間にCO2濃度が高くなってきているので、その濁りがどんどん濃くなっている。そういう風に見えるはずです。
墨汁は目に見えるけど、CO2は透明で目に見えないのはどうしてでしょう。それは、墨汁が光を吸収したり、反射したりして光を遮っているのに対して、CO2は目に見える光を透過してしまうからです。
しかしです。実はCO2は赤外線という目に見えない光は吸収してしまうという性質があるのです。だからもし、赤外線が目に見えるなら、空気は濁って見えるはずなのです。そして、この赤外線を吸収するという性質が、地球温暖化の大きな原因となっています。
温室効果のメカニズム
地球は太陽から降り注ぐ光のエネルギーによって温められています。一方で温められた地球の表面は赤外線を放出して冷えていきます。放出される赤外線の量は温度の4乗に比例して大きくなるので、地球の温度が高くなればなるほど赤外線もたくさん出て、地表は冷えていきます。そして、太陽から降り注ぐ光のエネルギーと、地表から出ていく赤外線のエネルギーが一致するときの温度が地球表面の温度ということになります。
ところがCO2は目に見える光は吸収しませんが、赤外線は吸収してしまうので、太陽から受けるエネルギーは変わらず、地球から出ていくエネルギーは減ってしまいます。そのため、地球の温度が高くなっていきます。
地球の温度が高くなれば、赤外線の量も増えるので、やがて地球に入るエネルギーと、出ていくエネルギーが新しい温度でバランスすることになりますが、その時の温度は、CO2がないときよりも高い温度になります。このようにCO2が赤外線を吸収することによって地球の温度が上がる現象が温室効果というわけです。
地球表面の温度はだいたい14℃程度ですが、もし、空気中にCO2がぜんぜんなければ、地球の温度はマイナス19℃まで下がってしまうそうです。温室効果もわれわれが生活するためには必要だということでしょう。
なぜCO2は赤外線を吸収するのか
ちょっと詳しく言うと、光は電磁波という波の一種です。電磁波は波ですから波の長さ、つまり波長というものがあります。電磁波は波長の短い方からガンマ線、エックス線、光、マイクロ波、電波とよばれます。
このうち光は波長が10nmから1000nmのもの。そして、その中で380nmから800nmの間のわずかな範囲の光だけを私たち人間は目で見ることができ、これを可視光といいます。
可視光より波長の短い光が紫外線で、波長の長い光が赤外線ですが、われわれ人間の目ではどちらも見ることができません。だから、世の中にある物質で人間の目には透明に見えるものも、実は赤外線や紫外線で見れば透明ではない、ということは普通にあることなのです。
ではなぜ、CO2は赤外線を吸収するのでしょうか。
CO2は炭素(C)1個と酸素(O)2個が O―C―O のようにつながった形をしています。CO2に赤外線が当たると、赤外線は電磁の波、つまり振動なのでCとOのつながった部分を一緒に振動させます。その結果、赤外線はエネルギーを失って消滅してしまいます。これが赤外線が吸収されたということです。そして赤外線が消滅する一方で、CO2のCとOの間のつながりが振動を始めることになります。
ただし、赤外線がすべてCO2に吸収されるわけではありません。CとOの結合の固有振動数に応じた特定の波長の赤外線だけが吸収されます。
ちなみに、CO2だけが赤外線を吸収するわけではありません。多くの物質が赤外線を吸収します。特に地球環境への影響が大きい空気中の物質を温室効果ガスと言い、メタンや一酸化二窒素、フロン類が挙げられています。(水蒸気も赤外線を吸収するので温室効果ガスですが、人間活動による影響をほとんど受けないので規制から除外されています)
余談ですが、物質の種類によって吸収する赤外線の波長が違います。逆に赤外線を当ててみて、その物質が吸収する赤外線の波長を調べれば、その物質が何かが分かります。これは赤外線吸光分析と言われて昔から行われている化学分析方法のひとつです。
実は、地球温暖化が問題視される前から、CO2や様々な物質が赤外線を吸収することは科学者たちには既にわかっていたことなのです。
400ppmしかないCO2の赤外線吸収がなぜ重要なのか
ではなぜ400ppmしかないCO2がそれほど地球温暖化に影響するのでしょうか。
赤外線を吸収したCO2は熱を持ちます。CO2は赤外線を吸収して振動を始めると言いましたが、この振動が実は熱の正体なのです。熱というのは、熱という物があるわけではなく、様々な物質の振動や運動のことなのです。だから、CO2は赤外線を吸収すると温度が上がります。
しかし、CO2の温度が上がったとしても、その濃度はたったの400ppmしかありません。空気のほとんど、つまり99.9%以上が赤外線を吸収しない窒素と酸素ですから、CO2の温度が上がったとしても、ほとんど影響がないように見えます。
しかし、赤外線を受けて振動し始めたCO2は窒素や酸素にぶつかります。そして、振動のエネルギーが窒素や酸素に伝えられることになります。またCO2自体が赤外線を出します。その赤外線は上向きだけでなく横にも下にも伝わるので、その赤外線の一部はまた地面に戻ってきて、地球が温められることになります。
一方、振動エネルギーを窒素や酸素に伝えたり、赤外線を出したりしたCO2は、エネルギーを失い、赤外線を受ける前の状態にもどります。そして再び赤外線を受けると振動をはじめます。
つまり、CO2は赤外線を受けて温度が上がる。それだけでおしまい。ではなくて、その熱を空気中の窒素や酸素に伝えたり、赤外線にして再び地面に戻したりして再び赤外線を吸収できる状態にもどります。これを繰り返すので、ごく少量でも地球を温暖化する効果があります。量が少ないからといって馬鹿にしてはいけないということなのです。
八つぁん「そうか、CO2ってのは赤外線をため込むだけじゃなくって、そのエネルギーをどんどん伝えて行ってしまうってこったな。つまり、SNSやブログで情報を広めるやつがるだろう。何ってたかな。そう!インフルエンサーみたいなやつってことだ。広めるのは情報じゃなくて熱だけど。それで量が少なくっても影響が大きいってわけだ」
2023年1月8日
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酸素と窒素とCO2の比熱の差は10%くらいなので、400ppmの熱容量の影響を比較するなら40ppmに換算する必要があります。
ナカジマリュウイチさん、記事を読んでいただき、ありがとうございます。
ちょっと比熱を調べてみました。酸素=917、窒素=1043、CO2=829(いずれも0℃、単位はJ/kg・℃)。確かにCO2は比熱が小さいです。参考になりました。ただ、その差はおっしゃるとおり10%くらいで、10分の1ではありませんから、なぜ40ppmに換算する必要があるのか分かりません。
また、CO2は赤外線を吸収して熱に変えますが、すぐにその熱を酸素や窒素に伝えますし、温度が上がればステファン・ボルツマンの法則に従って赤外線を放出して自身の温度が下がります。つまり、CO2は赤外線を熱に変えて、その熱を酸素や窒素に伝達する役割をしています。そしてそれを何度も繰り返すわけですから、CO2自身の熱容量はあまり関係ないと思います。