原子力発電のここが危険 ブレーキを踏み続けなければ暴走するシステム

地球温暖化対策としてCO2を排出しない原子力発電(以下「原発」)を再稼働させようという動きがある。原子力は確かに危険だが、安全が確保されれば再稼働してもよいという意見もある。ではどうすれば原子力の安全が確保できるのだろうか。

もちろん、原発は事故が起きたときの放射能汚染やメルトダウン、水素爆発という被害が甚大だという問題がもちろんある。福島第一原発のような事故は確かに悲惨ではあるが、でも事故さえ起きなければいいわけで、そうすれば問題はないはずである。

では原発は本当に安全に操業することができるのか。ここで述べるのは、原発が事故を起こした時の被害はさておき、原発は本当に安全対策を行えば安全なのかという点について、原発には、他のシステムには見られない特有の危険性があるということを議論したいと思う。

原発はブレーキを踏み続けなければ暴走する

普通、機械にはアクセルとブレーキがある。アクセルはその機械の動きを加速し、ブレーキはその動きを抑える。しかし、原子力はアクセルがなくてブレーキが二つあるという仕組みになっている。

アクセルがなくて、ブレーキだけなら安全そうに見える。しかもブレーキが二つもある。しかし、そうではなく原発はブレーキ踏まなければ、加速してしまうという特異なシステムになっている。つまりブレーキを踏み続けなければ暴走してしまうと言うことなのだ。

しかも二つあるブレーキの両方を踏み続けなければならない。どっちかのブレーキを緩めれば暴走してしまうのだ。うっかり気を緩めると暴走してしまう。これが原子力の安全性を妨げている一番の問題だと思う。

なぜ、原子炉はこのような仕組みになっているのだろうか。ちゃんとアクセルとブレーキを持った原子炉を作ればいいじゃないかと思われるかもしれない。それができない。それが原子炉の本質的な問題なのだ。

原子炉の仕組み

原発はウラン235という物質が核分裂を起こしたときに発生する崩壊熱を利用して発電する。天然のウランの大半は原子量が238であるが、これに少量の原子量235や234などの同位体があり、原発に使われるのは原子量235のウランである。原発に使われるのはこのウラン235を3~5%まで濃縮して、これをジルコニウム合金製の筒の中に入れて使っている。この筒の中にウラン235が入った状態のものを燃料棒と言っている。

原発はこのウラン235が原子炉の中で核分裂を起こすときに発生する熱を使って高圧水蒸気を発生させ、この高圧水蒸気でタービンを回して発電する。

ウラン235で核分裂を起こすためには、これに中性子をぶつけてやるのだが、中性子は核燃料自体が持っている。だから燃料棒の中では常に核分裂を起こっている。ウラン235が1回核分裂すると、2個から3個の中性子が出てくる。この中性子が別のウラン235に当たるとまた核分裂を起こし、さらに2個から3個の中性子が出てくる。このように一つの核分裂が契機となって核分裂を次々に誘発する。これが連鎖反応である。


連鎖反応では1回の核分裂で2個から3個の中性子が出てくるから、核分裂はネズミ算式に核分裂が増えていく。核分裂の数が増えると、どんどん熱が出てくるから、高熱になっていく。放っておくと燃料棒が融け、さらに原子炉自体が融けてしまう。これがメルトダウンと言われる現象である。

原発では、そうならないように、ふたつのブレーキが用意されている。
ひとつは制御棒と言われるもので、中性子を吸収する働きをする。この制御棒を燃料棒の中に突っ込めば、中性子が吸収されて数が減って核分裂が抑えられる。逆に引き抜けば、核分裂が増えることになる。ここで注意してほしいのは制御棒はアクセルではなくてブレーキだということである。

もう一つのブレーキは冷却水である。核燃料は核分裂によってどんどん熱を持ってくるから、冷却水はこれを冷やす働きをする。つまり、炉心の温度上昇を抑えるブレーキの働きをする。これによって、冷却水は加熱されて高圧水蒸気になるから、これを原子炉から外に取り出して、この高圧水蒸気でタービンを回して発電している。(沸騰水型軽水炉の例)


つまり、原子炉は放っておくとどんどん核分裂が進んで、最後には手が付けられなくなるほど加熱されてしまうので、制御棒で核分裂を抑え、冷却水で発生した熱を外部に持ち出しているというわけである。この二つの仕組みがブレーキである。アクセルはない。アクセルがなくても勝手に核分裂は進んでしまうからである。

原子炉の安全対策

では、制御棒が故障したら、あるいは冷却水が止まったらどうなるのだろうか。
制御棒は電動モーターで動かしているから、もしこの電動モーターが故障したら。あるいは停電になったらどうするのか。このときは制御棒は電気ではなく水圧や重力によって燃料棒の中に入って行って核分裂を抑える方向に進む。といっても核分裂が完全に止まってしまうわけではないから、相変わらず冷却は必要となる。

次に、冷却水が止まったらどうなるのか。冷却水はポンプによって送られているが、ポンプが故障した場合、予備のポンプが働いて冷却水を供給し続ける。停電したらどうするのか。そのときは非常用のディーゼル発電機があって、これが自動的に働いて電気を供給しつづける。

では、万が一、非常用発電機が故障したらどうするのか。そのときは非常用炉心冷却装置(ECCS)によって炉心に冷却水を注入して一時的に冷却するという仕組みになっている。また、非常用のバッテリーがあって、これで一時的ではあるが、電力が供給される。

ただし、ECCSの冷却水の量は限られているし、バッテリーの電力も限られているから、この二つで時間を稼いで、その間に電源を回復させなければならない。

つまり、原発はブレーキを踏み続けなければ大事故になってしまうという基本的な問題を抱えている。そのために、ブレーキが効かなくなったときのために、幾重にも予備の仕組みが設置されているわけである。

このように原発のブレーキシステムについては、万全を期して計画されているから、一見事故は起こらないように思える。原発の設計者もそう思ったであろう。では、なぜ福島第一原発の事故は起こったのだろうか。

福島第一原発事故

2011年3月11日、東北地方太平洋沖で巨大な地震が発生し、東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」)付近は震度6強の揺れを観測した。当時、福島第一原発は6基ある原子炉のうち、1~3号機が運転中で、4~6号機は定期検査中だった。

地震発生とほぼ同時に、運転中の原子炉には、制御棒が自動的に挿入され、原子炉は停止した。つまりふたつのブレーキのうちのひとつのブレーキである制御棒は有効に作動したわけである。

しかし、もう一つのブレーキ。冷却水はそうではなかった。
福島第一原発に電力を供給していた送電線の鉄塔が地震によって倒壊したことが引き金になって、発電所内部の電力の供給が完全に停止した。そのため、予備のディーゼル発電機が起動して電力を供給し始めた。ここまでは、一応想定どおりであった。

しかし、地震発生の41分後、今度は巨大な津波が福島第一原発を襲うことになった。この津波は防波堤を越え、地下に設置されていたディーゼル発電機を水没させてしまったのである。このため、再び所内は停電状態となった。電力を失ったことから、冷却水循環系のポンプが停止し、非常用炉心冷却装置(ECCS)も動かせなくなってしまった。

最後のバックアップである非常用のバッテリーだけが作動したが、このバッテリーに蓄えられた電力もやがて使い果たした。この結果、発電所内の照明が消えて真っ暗になり、さらに原子炉の状態を示す各計器の値が表示されなくなり、通信機能も失われることになった。つまり、運転員にとっては原子炉で何が起こっているのかがほとんど分からない状態になったわけである。

この間にも、冷却水の供給を受けられなくなった炉心部分は温度が上昇し、水が蒸発して燃料棒がむき出しになって行った。燃料棒のジルコニウム合金は高温になると水蒸気を分解して水素を作り出す働きをする。このため原子炉建屋内に水素が溜まり、やがてこれに着火して水素爆発が起こって建屋を吹き飛ばした。これによって放射性物質がまき散らされた。

こうなるともうだれも原子炉には近づけない。やがて燃料棒が高温で融け始め、さらに圧力容器自体も熱で融け、溶融した核燃料がどろどろの状態になって格納容器の床に落下。さらに一部の核燃料は格納容器にも穴をあけ、一部は格納容器の外にまで広がっていった。

このように、原子炉には二つのブレーキがあり、そのブレーキが作動しなくなったときのため、様々なバックアップシステムが用意されていたが、そのバックアップシステムが次々と突破されていったのである。

他の発電システムはどうなっているのか

では、他の発電方式ではどうなっているだろうか。
例えば天然ガス火力発電設備では、天然ガスがボイラーで燃やされて、その熱で高圧蒸気を作ってタービンを回して発電する。アクセルはボイラーへの天然ガスの供給弁であり、この弁の開度を大きくすれば燃焼が加速される。逆に開度を下げれば燃焼は抑えられる。つまりブレーキである。この場合、天然ガスの供給弁がアクセルとブレーキの両方を担っていることになる。

この弁は空気圧や電動で自動制御されている。もしこの空気圧が途切れたり、電気が止まったりした場合はどうなるのか。その場合、弁は自然に閉じるように設計されている。つまり自然にブレーキがかかる。もし、弁自体が壊れて閉じなくなったらどうするのか。このときはこの弁とは別に緊急遮断弁があって、この弁が遠隔操作で閉じることになっている。

では緊急遮断弁も壊れたらどうするのか。その時は、天然ガスタンクの元弁を人力で閉じることになるだろう。さらに元弁まで壊れたら。あるいは火災になって元弁まで人がいけなくなったら。このときは天然ガスが燃え尽きるまで待つことになる。燃える物がなくなれば自然に鎮火する。

太陽光発電についてはアクセルもブレーキもない。発電量は日照によって左右される。緊急事態が発生したら、回路を開けばいい。風力発電についてもアクセルはないが、羽根の角度によって発電量にブレーキをかけることができる。これも緊急時には回路を開くことになる。どちらも最悪壊れれば送電は自然に止まる。

風力発電の出力は羽根の角度で調整され、一定以上の風速になれば発電が停止される
Philipp Beiter, Walt Musial, Patrick Duffy, Aubryn Cooperman, Matt Shields, Donna Heimiller, and Mike Optis “The Cost of Floating Offshore Wind Energy in California Between 2019 and 2032”, NREL Technical Report (2020)

結局、発電設備に限らず、原子力発電のようにブレーキをかけ続けなければ暴走するというシステムは特異的であり、他にこのようなシステムはほとんど見当たらない。

原発は大規模事故と隣り合わせ

何か故障が起きた場合に、自然に被害が少ない方向に進んでいくことをフェイルセーフという。多くの機器ではフェイルセーフシステムが取り入れられているのに、原発では、異常が起きたときに安全方向に行くというシステムにはなってはいない。逆にどんどん悪い方向に行ってしまうことになる。これは原子力という特性上の問題である。

そのため、原発はブレーキを二つ持ち、そのブレーキが作動しない事態に備えて、いくつものバックアップを備えることで対応している。このようなシステムをフォールトトレランスと言っている。

しかし、如何に多くのバックアップシステムを構築したとしても、それは事故の確率を減らしているに過ぎない。福島第一原発がその例であるが、バックアップシステムが役に立たないことはありうる。それに比べれば、火力発電の場合はどんなに最悪の事態が発生しても、燃える物が無くなれば最終的には収束する。

これに対して、原発は事故が起こるととどまるところがない。結局、福島第一原発は、まだ解決しているわけではなく、事故はまだ進行中なのである。これはチェルノブイリでも同じで、いまだに放射線が出つづけている。

どんな発電方法でも事故は必ず起こる。しかし、起っても原発ほど被害は甚大にはならないし、最終的には自然に収束する。原発はブレーキを踏み続けなければ暴走するようなシステムになっているから、どんなにバックアップをたくさん作っても確率の問題で事故は起こる。

最終的には原発に依存しない社会にしなければいけないのだろう。

2021年11月9日

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